貞操逆転世界に転移したら、彼女いない歴=年齢の俺が清楚系美男子としてモテだした   作:荒井竜馬

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第33話 girlsサイド:とある少女と使用済みの体操着

「ちょ、ちょっと水飲んでくる」

 

 伊勢くんはそう言うと、みんなのところを離れて水飲み場に向かった。

 

 女子たちは伊勢くんとハイタッチできたことを喜んできゃっきゃとしている。

 

「ああっ」

 

 私は走り去っていく伊勢くんに情けなく手を伸ばす。

 

 わ、私まだハイタッチしてもらってないんだけどっ。

 

 私は伊勢くんと合法的に触れある機会を逃したことを深く後悔する。しかし、すぐに供すべきミッションを思い出して私は持ってきたタオルをきゅっと握る。

 

 それから、私は伊勢くんのもとに小走りで向かっていった。

 

 本当ならハイタッチが終わってから汗を拭くようにタオルを手渡すはずだった。でも、伊勢くんが水飲み場に向かったのなら、タオルを渡すのもより自然になったはず。

 

 私はそう考えてタオルを胸に押し当てる。

 

 これから、わ、私のタオルが伊勢くんの匂い付きタオルになるんだ。

 

 そう考えるだけで胸がどきどきして、どうしようもなくなってしまっていた。

 

 それから、水場に着いた私は水を頭から浴びている伊勢くんに声をかける。

 

「伊勢くん、お疲れ様っ」

 

「う、宇都宮さん!」

 

 私が声をかけると、伊勢くんは驚いて顔を上げた。水が滴った伊勢くんはいつもよりもかっこよくて、私は魅入ってしまいそうになる。

 

それから、私は本来の目的を思い出して、伊勢くんにタオルを差し出した。

 

「ごめんね、驚かせちゃったかな? っ!」

 

「いやっ、俺が過剰に反応しちゃっただけだから気にしないで……宇都宮さん?」

 

 そして、私は気づいてしまった。

 

 急に顔を上げたせいで、伊勢くんの体操服が水をかぶって透けてしまっていることに。

 

 体育着が体のラインにピタッとくっついて、見えてはいけない肌色の部分が透けて見える。

 

 女の子と違う骨ばった体のラインをと胸板を前に、私は唾をのんでしまう。

 

 それから、私は伊勢くんの体を凝視してしまっていたことに気づいて、バッと手で顔を隠した。

 

「い、伊勢くん! 体操着透けちゃってるよ!」

 

「あっ、本当だ。まぁ、今日熱いし体育が終わるころには乾いてるんじゃないかな?」

 

 伊勢くんは何でもないかのようにそう言って、気にしていない様子だった。

 

 えええっ! 普段純情でピュアなのに、急に大胆過ぎない⁉

 

 私は驚きながら、指の隙間から伊勢くんの体育着が透けた姿を見ずにはいられなかった。

 

 いや、だって、こんなの見ないなんて無理でしょ! むしろ、清楚系美男子の伊勢くんのあられもない姿を前にして、手を出さない私を褒めて欲しい!

 

「いやいや、こんな姿で戻ったら体育どころじゃなくなるって! みんな伊勢くんの透けた体育着見て興奮して……とりあえず、髪だけでも拭いて!」

 

 私はそう言って、伊勢くんに髪と顔を拭かせてから、伊勢くんを連れて保健室に向かうことにした。

 

 

 

「失礼しますって、あれ?」

 

 私たちが保健室に向かうと、保健室にいるはずの先生がいなかった。

 

「職員室にでもいるのかな? 俺、先生聞いてくるよ」

 

「まってまって、伊勢くん待って。そんなに濡れた状態で職員室に行ったら、先生たちの視線を集め過ぎちゃうから」

 

 私は当たり前のように職員室に向かおうとしていた伊勢くんを止める。

 

 今朝も他県の先生が男子生徒を毒牙にかけてしまうというニュースを聞いたばかりだ。先生も女性なので、服の透けた無垢な生徒がいたらいけない気持ちにもなってしまうはずだ。

 

 だから、先生たちの性欲を煽るようなことはやめてほしい。

 

 ていうか伊勢くん、男の子としての危機感が足りなすぎるでしょ……やっぱり、私がちゃんと守らないと。

 

 私はそう考えて、保健室の引き出しを何個か開けて体操着を探す。すると、数着だけ畳まれた男子用の体操着を発見した。

 

「伊勢くん、あったよ。保険の先生ないみたいだから、これ借りちゃおうか」

 

「あ、ありがとう。宇都宮さん」

 

 私はそう言って男子用の体操着を伊勢くんに手渡す。それから、私はカーテンで仕切られているベッドのほうを指さした。

 

「カーテンあるから、そっち使って。あっ、あとタオルもらっちゃうね」

 

「そ、そうだった。これ借りたままだったね。明日洗って返すよ」

 

 伊勢くんは私から体操着を受け取ると、濡れた部分を隠していたタオルを手に取ってから、首にかけなおした。

 

「え゛! い、いや、そのままで全然いいよ」

 

「いやいや、結構使っちゃたし」

 

 逆だよ! 結構使っちゃったのなら、そのままがいいよ!

 

 私が食い下がろうとして、伊勢くんはさらっとそう言って私にタオルを渡そうとしなかった。

 

 なんとかそれっぽい理由を考えないとっ。

 

「そ、そうだ! こ、この後もトイレとか行った後に手を拭くから、ないと困る、かな」

 

「あっ、そっか。じゃあ、返した方がいいよね。多分、こっちの方はまだ濡れないと思うんだけど」

 

 伊勢くんはそう言って、タオルを私に返してくれた。

 

 私は伊勢くんの気が変わってしまわないうちに、さっとタオルを受け取る。

 

「ううん。全然気にしないで! ちょっと使うだけだから、本当に気にしないで!」

 

 私が何度もそう言うと、伊勢くんはカーテン付きのベッドのほうに入っていった。

 

 それから、私は心臓をどくどくとさせながら、伊勢くんから受け取ったタオルをぎゅうっと握って鼻に近づける。

 

 少しだけと思って匂いを嗅ぐと、私の中の何かがとろけていくような気がした。

 

 い、伊勢くんの匂い付きタオルだぁ。

 

「えへへっ」

 

 私は思わずもてしまった笑い声を手で押さえてから、カーテンの奥で着替える伊勢くんのほうをちらっと見る。

 

 ……今、伊勢くんがカーテンを一枚挟んだ先で着替えてるんだ。

 

 私はそんなことを考えてしまい、タオルから鼻を遠ざけて、衣擦れの音に集中しようと耳を澄ませる。

 

すると、すぐにシャッとカーテンが開いて、着替え終わった伊勢くんが出てきた。私は慌ててタオルをバッと後ろに隠す。

 

「い、伊勢くん⁉ 早くない⁉」

 

「え? まぁ、Tシャツ一枚着替えるだけだし、こんなものじゃない?」

 

 伊勢くんは首をかしげてそんなことを言っていた。そして、そんな伊勢くんの右手にはさっきまで伊勢くんが体育で着ていた体操着が。

 

 多分、あれさっきのタオル以上に濃い伊勢くんの香りがするはずだよね。

 

 私はその体操着を見て思わず唾を飲み込む。

 

 それから、私は名案を思い付いたかのようにぱちんっと両手を合わせた。

 

「……ねぇ、伊勢くん。その体操着ここで干しといてもらわない? 今の状態でカバンに入れると濡れちゃうでしょ?」

 

「あー、確かにそうかも」

 

「うん、絶対にそうした方がいいよ。絶対。私、それ含めて保健室の先生に報告してくるからさ、伊勢くん先に校庭戻ってて」

 

 私がお願いするようにそう言うと、伊勢くんは目をぱちくりとさせて手を横に振る。

 

「え? いや、自分のことだし俺が先生に言ってくるって」

 

「う、ううん、私に任せて欲しいな。伊勢くんのチームって次も試合でしょ? 早く戻ってあげた方がいいと思うな」

 

「あっ、そういえばそうだったかも」

 

 伊勢くんは私の言葉を聞いて思い出すように声を漏らした。

 

 私はあまり前のめりになり過ぎないように注意しながら口を開く。

 

「それに、あんまり男の子が返ってこないと、みんな心配するでしょ? 前にも言ったけど、もっと私を頼って欲しいな」

 

 私が眉根を下げてそう言うと、伊勢くんは申し訳なさそうに私に頭を下げる。

 

「そ、そう? ありがとうね、宇都宮さん」

 

 いえいえ、むしろこっちが悪いよ。

 

 私は心の中でそんな独り言を漏らしてから、伊勢くんの体操着に手を伸ばす。

 

「全然平気だよ。あとで先生からハンガーもらって乾かしておくから、体操着もらっていいかな?」

 

「えっと、じゃあお願いします」

 

 私が伊勢くんから体操着を受け取ると、伊勢くんは小走りで保健室を後にした。

 

 伊勢くんが保健室からいなくなって数十秒後、私は保健室の扉を開けて廊下に人がいないことを確認する。

 

 それから、私は再び保健室に戻ってさっき伊勢くんが着ていた体操着をぎゅうっと胸に抱きしめる。

 

「伊勢くんっ」

 

 私はそんなことを独り言を漏らしながら、伊勢くんの体操着に顔をうずめる。

 

「はぁ、すぅー……伊勢くん、伊勢くんっ」

 

 肺一杯に伊勢くんの香りを吸うと、体の中で伊勢くんと私が一つになっていくような錯覚を覚えた。

 

まだぬくもりのある体操着の温度がいやらしく、心音がうるさくなり、荒くなった吐息が口から漏れていく。

 

 体の中を心地よく溶かされていくようで、何かがとろんとしていくのが分かった。

 

 私はその場にぺたんと座り込んで、もう少しだけ伊勢くんの香りを堪能することにした。

 

 ……少しだけならいいよね。

 

 息が荒くなった私は、そんなことを考えてしまうのだった。

 

 

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