貞操逆転世界に転移したら、彼女いない歴=年齢の俺が清楚系美男子としてモテだした   作:荒井竜馬

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第5話 短すぎる下校イベント

 俺は教室を出て、足早に校門前へと向かうことにした。

 

 あんまり長い間、鈴鹿を待たせるわけにもいかないしな。

 

「伊勢くん!」

 

 すると、俺が教室を出て少ししたところで、俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。振り向くと、そこには小走りで俺のもとに駆けよってくる宇都宮さんの姿があった。

 

「宇都宮さん?」

 

「途中まででいいからさ、一緒に帰ろうよ」

 

 宇都宮さんは俺の前まで来ると、前髪を軽く整えてからニコッとした笑みを浮かべてそう言った。

 

 俺は嬉しい提案に頷きそうになる気持ちを抑えて頬を掻く。

 

「えっと、嬉しいんだけど途中までだと校門前で分かれることになりそうなんだ。ご、ごめんね」

 

 放課後の女子からのお誘いなのに、それを今日だけで二度も断ることになるとはっ。

 

 俺は他意はないと理解しつつも、悔しさで目をキュッと強くつむる。

 

 すると、宇都宮さんは何でもないかのように首を横に振る。

 

「それじゃあ、校門前まででいいからさ。それならいいよね?」

 

「う、うん。それなら、よろこんで」

 

 俺が頷くと、宇都宮さんは俺の隣を嬉しそうに歩き出した。

 

 まさか、この俺に放課後に女子と一緒に下校する日がこようとは! 校門前までの短い時間ではあるが、俺は初めての下校イベントというものに感動してしまっていた。

 

 すると、宇都宮さんは俺の顔を覗き込むようにして笑った。

 

「それにしても、伊勢くんも罪な男ですな」

 

「つ、罪な男?」

 

 俺は宇都宮さんのおどけるような言葉に首を傾げる。

 

 そんなモテ男が貰うような称号を俺が貰うなんてこと、あるはずがないんだが。

 

 俺がきょとんとしていると、宇都宮さんは笑みを深める。

 

「女子の誘いを断るのに謝ったり、フォローを入れたりする男子なんていないよ。奥羽さんのときもそうだし、私の時もそうだし。勘違いされちゃうかもよ」

 

「いやいやっ! さすがにそんなことはないでしょ」

 

「ふふっ。そう考えているのは、伊勢くんだけだよ」

 

 宇都宮さんはそう言ってから顔を正面に向けた。

 

おどけているようだが、さっきの発言が全て嘘のようには思えない。

 

 あれ? そういえば、貞操観念逆転モノでは、横柄な男たちが多いんだっけ?

 

 貞操観念逆転モノが好きでいくつか読んできたが、出てくる男子は横柄な男たちが多かった印象だ。

 

 だからこそ、誠実な主人公がモテるというのが、貞操観念逆転モノの定番だったはず。

 

 それなら、さっきの俺の対応で女子たちの好感度も上がったり……はしないよな。

 

 俺が知っている貞操観念逆転モノの主人公たちは、女子たちに謝るときもなんか爽やかに謝るからモテるのだ。

 

 きょどって女子とまともに話せない。そんな童貞感丸出しの謝り方でモテるはずがない。

 

 ちくしょう。もう少し前世で女子慣れしておけば、こんなことにはならなかったのに。いや、女子慣れしていたら、別に貞操観念逆転世界に来なくてもモテるのか。

 

 これ、なんてジレンマなんだろうか。

 

 俺がそんなことを考えていると、宇都宮さんは隣で小さく笑っていた。

 

「やっぱり、伊勢くんは伊勢くんだよね」

 

 俺はその言葉を聞いて、さっきの奥羽さんにも似たようなことを言われたことを思い出した。

 

 ……なんか伊勢くん=童貞みたいな使い方してないだろうな? さすがに、そうだとしたら少しショックなんだが。

 

 俺は複雑な気持ちで下駄箱で外履きに履き替えて、昇降口を出る。

 

すると、宇都宮さんが思い出したようにパッと俺に顔を向けた。

 

「そういえば、伊勢くんの用事ってなに? どこかに寄るなら一緒に行きたいな」

 

「いや、どこかに寄るとかじゃなくて、えっと、人を待たせてるんだ」

 

「人を? もしかして、それってーー」

 

「伴教くん!」

 

 すると、宇都宮さんの声を遮るようにして元気な声が俺を呼んだ。

 

 俺がちらっと声のする方を見ると、そこには俺の通っている高校とは違う制服を着た、おさげのようなカントリースタイルのツインテールの女の子の鈴鹿がいた。

 

 手を振る鈴鹿のもとに近づいていくと、待ちきれなくなった鈴鹿が駆け寄ってきて俺の両手を握ってきた。

 

 俺は鈴鹿の手の柔らかさになんとも言えない気持ちを抱いてしまう。

 

 しかし、鈴鹿はそんな俺の考えなど気にする素振りも見せずに、俺を見上げて続ける。

 

「遅いよ、伴教くん。メッセージ送ったのに全然反応ないし、何かあったのかと思っちゃったよ!」

 

「いや、さすがに学校の中で何かがあるってこともないだろ」

 

「そうとは言えないから心配してるんだよ?」

 

 鈴鹿は少しムッとして眉根を寄せていた。

 

 俺は鈴鹿の表情から発言が少し迂闊だったなと思い、視線をパッと逸らした。

 

「伴教、くん?」

 

 すると、俺たちのやり取りを見ていた宇都宮さんが目をぱちぱちとさせていた。

 

 放課後に待ち合わせをして、手を握り合い、名前で呼び合うような仲。そんな所を見られて、勘違いされない方が無理だろう。

 

「う、宇都宮さん。勘違いしないで欲しい」

 

「伊勢くん?」

 

 俺は目の前で折られる寸前になっているフラグの修復に計ろうと、鈴鹿に取られていた手をバッと離す。

 

 それから、俺は片手の手のひらを宇都宮さんの方にピシッと向けた。

 

「鈴鹿はただのーー」

 

「ただの大切な人だよね、伴教くん♪」

 

 そして、俺が大事なことを言おうとした瞬間、鈴鹿が俺の腕に抱きついてきた。その瞬間、俺は急に近くなった鈴鹿の距離に驚いて体をビクンッとさせて固まってしまった。

 

 ……彼女いない歴=年齢の男に対して、その行動は刺激が強すぎるっ。

 

「伴教くん?」

 

 それから、俺が何も言えずにいると鈴鹿は圧をかけるように俺を見上げてきた。

 

 そうだよな。鈴鹿にここまでして貰っているのに、ここで首を横に振ることなんかできないよな。

 

「……はい、大切な人です」

 

「うんうん、そうだよね。それじゃあ、いこっか。伴教くん」

 

 俺が頷いてそう言うと、鈴鹿はご機嫌そうに俺の手を取って歩き出した。傍から見れば、彼氏彼女に見えるであろう行動。

 

 いや、顔面偏差値が違うからそうは見えないって言うのは、置いておいてな。

 

 俺は未だに慣れない鈴鹿の手の感触に心臓の音をうるさくさせていた。

 

「う、宇都宮さん、また明日」

 

「……うん。またね、伊勢くん」

 

 俺が振り向いて宇都宮さんに手を振ると、鈴鹿に少し強く手を引かれた。

 

 校門前という目立つ場所で男女が手を繋いでいる。そんな光景は、当然多くの女子達の視線を集めるものだった。

 

 結構見られてるんだよなぁ。やっぱり、こういう目で見られるのも中々慣れない。

 

 俺は少しふらついてから、鈴鹿に周りに聞こえないくらい小さな声で話す。

 

「な、なぁ、別に手は繋がなくてもいいんじゃないか?」

 

「だめだよ。こうやって、少しでも学校の女の子たちをけん制しておかないと」

 

「いや、けん制って。俺、モテる要素ないし、そこまでしないでも平気だと思うんだが」

 

 俺がそう言うと、鈴鹿はピタッと足を止めて俺の方に振り向いてきた。

 

 それから、無言でただじっと俺を見つめてくる。

 

「……」

 

「な、なんだよ」

 

 俺は見つめられるのに耐えられなくなり、鈴鹿から視線を逸らす。

 

 こんな美少女と少しでも見つめ合うなんて、彼女いない歴=年齢の俺にはハードルが高すぎる。

 

「危機感がなさ過ぎるんだよ、お兄ちゃんは」

 

 俺の妹、伊勢鈴鹿(いせすずか)は小さくため息を吐いてから、不満げに眉尻を下げるのだった。

 

 

 

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