仮面ライダーハーメルンジェネレーションズ ムラサメ×ダイナスト 機械仕掛けの不夜星 作:正気山脈
地球に残った瑠璃羽は、才賀家の千種の自室の窓の前で、両手を組み俯いていた。
それはまるで、祈りを捧げるように。
しばらくの後に、彼女の元にシルキィが訪れる。
「ルリハ、どうしたんだい?」
「シルキィさん……」
「チグサが心配?」
「少しだけ。みんながいるなら、大丈夫だとは思うんですけど」
不安な気持ちはそれでも拭いきれない。
するとシルキィは、瑠璃羽の手の上にそっと自分の手を乗せた。
「ワタシたちには戦う力がないからね。今は、祈るしかない。気休めにしかならないかも知れないけど、傍にいてあげるよ」
「ううん……心強いです」
瑠璃羽はそんな彼女の肩に寄りかかって、再び祈りを込める。
――まだ暗くなっていない空に、ほんの一瞬、星が瞬いたのにも気付かずに。
※ ※ ※ ※ ※
「お父様! お父様! お願いがあります、話を聞いてください!」
それと時を同じくして、アルケーが牢獄の中で檻をガシャガシャと叩きながら騒ぎ出していた。
目的の人物、ヴラディスはすぐに現れ、自身の娘をギロリと睨めつける。
「何の用だ、自分の立ち場を分かった上での行動であろうな?」
「……ダイナストを、チグサたちを……みんなを助けて下さい」
「ほう」
「今、この国で何か悪いことが起きているのは私にも分かります。きっと、彼らが戦っているということも」
実際に、状況は既に動き始めている。それでもヴラディスは未だ静観しており、トーチワームも放置したまま戦いに参加していない。
彼らが勝つと信じているのか? それとも、敗北した後にギガヘクス諸共滅ぼすつもりなのか?
いずれにしてもその現状を危惧し、アルケーは彼に助けを求めているのだ。
「お願いします、お父様! この星も地球も滅びてしまったら、私は一体何のために生きて来たのですか!?」
「……」
「お父様……いえ、あなたが動かなくても良いのです。どうか彼らに、手助けを……!!」
涙を零しながら願う娘に対し、それでもヴラディスは沈黙を貫く。
やがて王はそのまま部屋を出て、窓から外を眺めた。
「む?」
ヴラディスは一瞬眉をしかめる。
霧に包まれ見えないはずの夜空で、星がひとつ光った、気がしたのだ。
だがすぐに見えなくなってしまったため、勘違いだろうと結論付け、再び歩みを進めた。
「よ、紫乃」
紫乃と千種がルスヴンを討ち果たし、他の者たちもそれぞれの戦いを終えた後。
感情抑制と反逆防止用のプログラムの無力化によって人格を取り戻した灰矢とソニアは、X-ROSS・LOTの連合軍との合流を果たしていた。
かつて生きていた頃と全く変わらないその様子に面食らいつつも、紫乃はフッと笑みをこぼす。
「そうか。浅黄が、やってくれたんだな」
「らしいぜ。ま、今の俺は
「たとえお前がギガヘクスの生み出したコピーだとしても、ヤツの意思が介在していないお前自身の言葉なら……それはきっと、弓立 灰矢本人の言葉なんだろう」
「……成長したな」
灰矢もまた笑みを返し、二人は拳を重ね合う。
そして紫乃はその後すぐに「ところで」と言って、視線を別の方に向けた。
灰矢から背を向ける形で離れてその場所で立っているのは、なぜか灰矢に全く声をかける様子のないアダンだ。
自分のすぐ隣にいるグレイに対して、紫乃は問いかける。
「アダンは一体どうしたんだ?」
「合わせる顔がないってさ、ロッソくんくらい素直になれば良いのにね」
「まったくだな」
肩を竦め、紫乃は溜め息を漏らす。
その一方で、千種はソニアを前にして小さく俯いていた。
「ソニア……すまねえ、俺はあの時アンタを……」
「そういうのは言いっこなしだ。あの時点で助からなかったのは分かってたし、心までバケモノになる前にあの太陽で逝けたのはむしろ感謝してるんだよ。黒騎士まで仲間になってるのはビックリだったけどな」
続いてソニアは自分を見つめ泣きじゃくっているミナの方に目を向ける。
「お姫さんも、元気そうで何よりだよ」
「ソニア……こうしてもう一度、あなたに会えるなんて……!」
「へへ。ソーマのことよろしくな」
すすり泣く彼女の頭を撫でながら、ソニアは唇を釣り上げた。
かつての友との再会に、それぞれが喜びと涙を見せるも、その最中に浅黄が声を上げる。
「みんな! まだ気を抜かないで、戦いは終わってないよ!」
言われて千種は首を傾げた後、すぐにハッと目を見開いた。
「そうか、二人がまだ無事に動いてるってことは」
「ギガヘクスは完全には死んでいない。つまり、オレたちの前に現れたアレは本体ではなかったということだな」
紫乃が補足し、ロゼたちも頷いて改めて一同は気を引き締める。
続いて手を挙げたのは、浅黄と行動を共にしていた晴明であった。
「本体の位置についてはもう突き止めてある。浅黄さんが戦っている間に、私とサンジェルマン様で調べておいた」
「彼女がヤツを引き付けておいててくれたお陰だな、ヤツの潜伏場所は……」
言いながら、サンジェルマンは霧のかかった空を指差す。
その指し示す先にあるのは、トーチワームを発射していたあの青い月だ。
「あそこに!?」
「最初から見えていたというワケか」
敵の本拠地はこの星の外。普通の手段で向かうことは、到底できない。
しかし、サンジェルマンに焦った様子はなかった。
「私一人では惑星間移動の蒸気のパスを繋ぐことは本来なら不可能……だが、浅黄くんのハッキングによって、正確な座標は特定できている。場所さえ分かっているなら、後は多少の時間はかかるが、私にもできる」
「じゃあ繋がり次第そこに向かって、本体を粉々にブッ壊してやれば――」
千種によって結論が出そうになった、その時。
「悪足掻きはそこまでだ、仮面ライダー」
頭上から声が響き、青い月からひとつの影が飛来した。
トーチワームの中でも見た、ギガヘクスだ。今までの丁寧な口調から一転して、高圧的になっている。
最初は驚いた紫乃たちだったが、その正体が分かると僅かながら余裕が生まれた。
「邪魔しに来たか、ギガヘクス・マーテル」
「焦って本体がおでましか? 手間が省けて……」
ドライバーを装着して千種が言い切ろうとした、その直前。
同じ姿をした無数のギガヘクスが、先程と同じように上空から降りて来る。
「なっ!?」
「分身の大群!?」
もしこのギガヘクスが、先程の分身体と同程度の戦闘能力を持つのだとしたら。
その想像を正解だと言わんばかりに、ギガヘクスたちは軍隊のように整列しつつ全く同じ姿勢で両腕を武器に変化させる。
「ギガヘクスは個にして全、全にして個。ひとつひとつは端末に過ぎない。このまま人類全てをギガヘクスに統合したいところだが……不夜星へは行かせないし、不穏分子は排除しなければならない」
言いながら、彼女は仮面ライダーたちの中の一人に目をつけた。
「絶対に許さん。必ず殺してやるぞ、羽塚野 浅黄」
「えっ!? ウチ名指し!?」
当たり前だろう。
口には出さなかったものの、晴明とサンジェルマンは同じ思いを共有する。
ともかく、紫乃たちは今度こそ決着をつけるべくドライバーを装着していく。
「いずれにしてもやることは同じだ」
「こいつらもブッ壊して、本体のいるあの星に辿り着く! 絶対にな!」
自我を取り戻した灰矢もまた、複製されたレリックドライバーを装着。
そしてその変身の直前で、ロッソが灰矢へとワイルドイーグルとバルバトスリキッドを手渡した。
「灰矢、これを! やっぱりあなたが持つべきものです!」
すると、灰矢の持つシンクロナイズウィングとベリアルリキッドが輝きを帯びると共に、ロッソの手元へと飛んでいく。
「どうやら
「はい!」
目尻の涙を振り切りつつ、ロッソは託されたそれを握り締める。
「姉さん!」
「おう!」
さらにソニアもソーマの隣でモナークドライバーを装着、メタリフェルギミックアンバーを起動。
一同はギガヘクスと対峙し、一斉にドライバーを操作した。
『変身!!』
ムラサメとダイナストを始めとする合計十三人もの戦士が揃い踏みとなり、晴明とサンジェルマンを守りながらの戦いが幕を開ける。
そしてその直後、両肩の後ろからキャノン砲が伸びる大きな漆黒のジェットパックを背負う、ロッソの仮面ライダーユーダリル・マーブルが立ち止まってしまう。
件のジェットパックそのものから、聞き慣れた声が耳に入ったのだ。
「え……あ、あれ? お兄様?」
「この声、ヴェールか!? なんでお前が!?」
「何か頭の中で声が聞こえた気がして、目を閉じたらいきなり」
それを聞いて、ロッソはハッと目を剥く。
ギガヘクスが言っていた、灰矢変身時のシンクロナイズベリアルの特性。自らの武装や機械と意識を繋いで、自在に強化・操作することができるというもの。
ロッソが変身したことによって、その特性がやや異なるものになったのだとすれば。シンクロナイズウィングによるテレパシーめいた力でヴェールの助けを呼んだのは、他でもないロッソなのだ。
加えて、双子であるならばその意識共有による強化・操作能力はさらに強固なものとなるはず。
「もしかして私の力が必要?」
「そうだね。久し振りに一緒に戦おうか、ヴェール!」
仮面の奥で嬉しそうに笑ってユーダリルが双銃を構え、ヴェールはキャノンの砲口を背後のギガヘクスに向けた。
そうして銃口から銃撃、キャノン砲からエネルギー弾が発射され、ギガヘクスを薙ぎ倒す。
味方がさらに多くの敵に囲まれれば、バックパックが分離して人の形を成し、援護しながら殲滅する。
ギガヘクスはまだ頭上から降り注いで来るが、それでも押し返せないほどではない。全員が勝利を確信しつつある、そんな時。
「図に乗るな、絶対に抗えない真の絶望を見せてやる」
ギガヘクスの言葉と共に、青い稲光と共にその場で空を覆うほどの巨大な何かが構築され始める。
灰矢やルスヴンたちを複製した時のように、入手したデータを利用して複製を生み出そうとしているのだ。
「なんだありゃ!?」
「あんな巨大なものまで作れるのか!?」
ダイナストとレギウスがそんな言葉を発する中、LOTの面々はまた違った反応を見せる。
その巨体に、蛇皮の翼と下半身から生える触手めいた無数の蛇に、燦然と燃え上がる橙色の瞳の怪物に見覚えがあるのだ。
「……テュポーン、だと……!?」
「クロノスが再現したものより精巧な、本来の姿の複製だ。貴様らにもう逆転のチャンスはない。奇跡は二度と起きない……いや、最初から奇跡などという不確実で曖昧な事象は起きていないのだ。今、このギガヘクスがここにいるのだからな」
かつてゼウスを一度は破った、災厄の蛇神の再来。
言葉通りの破滅と絶望が、今は仮面ライダーから青い月への侵略を阻むべく眼の前に立ち塞がっていた。
「では人類諸君、さようなら」
蛇神が右手で拳を作り、地上のライダーたちに向かって振り下ろそうとしている。
ただそれだけで星が滅びかねない一撃だ。ムラサメは一か八かサイキックの出力を全開にして念動力の壁で防ごうと、前に駆け出した。
すると。
その直前に、空から現れた
「なに!?」
真っ先に驚きの声を上げたのは、ギガヘクスではなくダイナストだ。
「あの龍は味方なのか?」
「いや、そんなはずは……」
ムラサメたちがテュポーンのことを知っているように、彼もまたその機械の龍の正体を知っている。
それが、本来ならば自分たちが倒すべき相手であることを。
ギガヘクスはその龍の頭の上に立つ人影に対し、叫び散らす。
「なぜだ!? ヴラディス・ド・ラクール!! なぜギガヘクスを阻む!?」
「彼らは余の客人だ、先約がある。招かれざる無礼者はむしろ貴様の方なのだ」
《
ヴラディスはマグナスドライバーに血を吸わせ、そのまま指輪をかざした。
《
「この客人たちに手を出すということは」
《
「ブラムストーク国王たる余に刃を向けるのと同義」
《
「覚悟しろ、不敬なる侵略者め。叩き斬ってくれる」
《
王の証たる夜煌剣ナイトメアローズを手に、龍王機艦デミトリを駆り、テュポーンを討つべく鬨の声を上げる。
「理解不能……理解不能!! 何の意味と理由とメリットがあってこの私に楯を突く!?」
「貴様如きに王たる者の信念は理解できぬ」
デミトリが再びテュポーンの右腕に喰らいつき、マグナスはそこから跳躍してナイトメアローズで一閃。
巨大な蛇神の左翼を断ち斬り、さらに縦横無尽に全身を駆け回って斬りつけ続けた。
そして地上にいるダイナストの背後へと着地すると、柄頭に付いている薔薇の装飾を回転させる。回す度に、ナイトメアローズの刀身は下から登るように段々と赤く染まっていく。
「失せろ」
《血華抜剣!! ナイトメアストラッシュ!!》
刃が完全に赤く染まった瞬間、トリガーを引いて剣を振り抜くと、赤い血の斬撃が仮面ライダーたちの前に立つギガヘクスたちを一気に討滅する。
それでもなお増え続けるが、彼と背中合わせになったダイナストは感謝の言葉を投げかけた。
「まさかアンタが俺たちを助けてくれるとはな、ありがとよ!」
「勘違いするなダイナスト。国の主が一度交わした取り決めを反故にするのは恥だ、故に戦いに出たに過ぎぬ。それに君を討つのは余でなくてはならない、決着の日が来るまで死ぬことは許さん」
そういうことにしといてやるよ、と返しながら、ダイナストもまたキングヘラクレシューターを使った銃撃で応戦。
マグナスはその間に再びテュポーンを食い止めるために飛んで行き、攻撃を避けながら何度も何度もナイトメアローズを突き立てる。
当然テュポーンは再生するものの、ギガヘクス・マーテルはこの状況を全く快く思わなかった。
「理解不能理解不能理解不能ォォォ!! 理解できないものは……全て敵!! 邪魔をするのなら滅んでしまえェェェッ!!」
先頃マグナスに倒された倍の数の増援の分身が空から降り注ぎ、ライダーたちを攻め立てる。
「クソッ、まだ来んのかよ!?」
「だがこの場を守り切ることさえできれば……!」
ダイナストとムラサメがそう言ったのも束の間、不夜星に座標に蒸気を送り込もうとしている晴明とサンジェルマンの方へ、戦場の間隙を縫うようにしてギガヘクスの分身数体が駆け抜けていく。
「しまった! 晴明!」
「逃げろサンジェルマン!」
ギガヘクスの腕のブレードが、銃口が、青く煌いて命を奪わんと迫り。
その寸前に、霧の中から飛び出したバイクに轢かれ、纏めて吹き飛んだ。
『ウガァッ!?』
地面を数度跳ね、損傷しながらも立ち上がるギガヘクス。
ゆっくりと顔を上げると、そこにはその場の誰も
「あー……どこだここ。まさか、
言いながらその長身の男はバイクから降りてヘルメットを外すと、周囲を見回して小さく首を傾げた。
年齢は20歳ほど。左右に分かれた黒と赤のツートーンカラーの髪色が特徴的で、無地の黒いシャツの上に地球のマークが背に刺繍された真っ赤なライダースジャケットを羽織り、黒いライディングパンツとバイクシューズを着用している。
それに加え、腰部には奇妙な形状のベルトが巻かれているのが分かった。
バックル右手側にボトルキャップに似た円筒形の金色のハンドルレバーがあり、反対側にはシロクマを模した戦士の横顔が描かれた四角いプレートが装着されている。
中央には何かを装填するための四角いスロットが備わり、天面には『PUSH』と書かれたスイッチが備わっているのが確認できた。
「え? マジで誰?」
「分からないが……あのマシン、それにベルトから見てもLOTの人間ではない。一体何者だ?」
当然ながら、この星に住むレギウスたちにも彼のことは分からない。
全員が警戒していると、青年の持つN-フォンに着信音が響く。
「
『こっちは何か変な霧が出てる! そのせいで
「フゥ、気が抜けるな……まぁ良いか。頼む」
男は気怠そうに返した後、マシンのシートに腰を預けて欠伸をし、その間にギガヘクスは彼に関するデータを解析し始めた。
しかし。
「バカな!? こいつの情報が、地球とこの惑星での収集データのどれにも該当しない……な、なぜだ!?」
「それにしても、何と言うか妙な風景だ。そこにいるのも
「貴様! 一体何者だァ!」
ギガヘクスは右腕のブレードを振り上げ、斬りかかる。
その瞬間、男はバイクハンドルの中央部にあるプルタブのようなパーツを倒し、サッと身をかわした。
するとバイクは一瞬の内に変形・縮小化し、表面に『
完全に虚を突かれたギガヘクスの攻撃はそのまま空振りとなり、派手な音を立てて地面に転んだ。
「あ!?」
「危ないだろうが」
「グッ!?」
そこへ間髪入れず、男が機械母神の腹にローキックを食らわせ、盛大に吹き飛ばす。
あまりにも鮮やかな手並みに一同が呆然としていると、男はダイナストたちを振り返って声をかける。
「君たち、仮面ライダーだろ? 手を貸した方がいいか?」
「え?」
「さっきバイクで走ってる時に声が聞こえたんだ、誰かの声が『助けて』って。それで霧の中を抜けたと思ったらここにいた」
言いながら、男はベルトの左腰側から下がっているホルダーから、一本の赤いボトル型のアイテム、ハンドリンクを手に取った。
「うん、決めた。元の場所に戻るまでの間だけ、力を貸そう」
「アンタは一体……?」
「俺の名は
赤と黒の髪の男、最星はそう言ってラベルに『
《
続いてキャップ型の金色のハンドルレバー、ハンドオープナーを握り、ゆっくりと回す。
直後、最星の足元で地面が小さく割れて赤いボトルキャップ型の
そうして三度目の回転の後、古代文明のトライバルタトゥーのような紋様が心臓を中心として最星の全身に巡り赤く光り、天面のスイッチも赤く点滅する。
まるで、鼓動のように。
「変身」
《
唇を吊り上げて左手の指を弾いた後、最星は拳でそのベルト――グラスプドライバーのスイッチを押し込んだ。
するとドライバーに装填されたハンドリンクのラベル部が展開し、赤い煌きと共に内側に仕込まれた『
さらに最星の全身がグレーのアンダースーツと薄い透き通ったプロテクターに包まれ、頭部にはシロクマを思わせる短い耳のヘルムで覆われ、周りをコーラのような液体が入った浮遊するボトルが取り囲む。
そして足元の台座のキャップの回転に合わせて周囲のボトル内の液が球状になって最星へと発射され、固形化して装甲へと変化していく。
《
音声の後に、白い十字星が描かれた赤色のキャップが心臓の位置にあるボトルネジのような部位に収まり、そこに
顕現する新たなる戦士。キャップの上でギガヘクスを見下ろし、半透明の黒い装甲と赤く輝くエネルギーラインを纏う、赤眼のシロクマの仮面。
その名は仮面ライダーポラリス ワンダーコーラフレーバー。
「さぁ、ハジケようか」
《
再び指を弾いて、ポラリスはキャップから降り素早く飛び出した。
「ポラリス!? バカな、そんなライダーのデータは存在しない、あり得ない!! お前は誰だ!?」
「……耳が悪いのか? 今名乗ったばかりだろ」
ボクシングスタイルの素速いフットワークで距離を詰め、左拳のフックをギガヘクスの顔面に叩き込む。
次に右拳に力を込めると、装甲内部が炭酸が弾けるように泡立ち、そこから放たれるストレートがギガヘクスの胸に大きな風穴を開けた。
痛烈な連撃に相手が怯めば、今度はバトルスタイルを変えて背後に回り込んで両腕で身体を抱え、持ち上げて思い切り後方へと投げ落とす。
プロレス技の、いわゆるスープレックスだ。
これで二体のギガヘクスを完全破壊するものの、今度は技の隙に別のギガヘクス数体に包囲されてしまう。
「甘い」
すると、次は逆立ちの要領で両足を上げ、襲いかかって来たギガヘクスを次々に蹴り倒す。
ブレイクダンスとカポエラを織り交ぜたような軽快でリズミカルな動きに、戦闘中のダイナストも思わず目を奪われてしまった。
「すっげ……」
「こんなに多様な技を使い分けるとは、本当に何者なんだ?」
ムラサメもまた、敵である分身を斬り伏せつつも首を傾げる。
そんな中、ギガヘクスはひとつの可能性に思い至っていた。
「ま、まさかこいつ……
ギガヘクスの生み出す霧は主に空久里・磐戸とブラムストーク王国に散布されており、途中で地球の方は範囲を広げたが別次元にまでは及んでいない。つまり、他の世界の仮面ライダーという線は消える。
だが、同じ宇宙の未来から来たのならあり得ないことではない。
かつて、ポラリスと同様に『助けを呼ぶ声』を聞き届けた仮面ライダーが次元の壁を突破して別世界へ移動したという事例は確認されている。それが時間すらも超え、発現したのだとすれば。
皮肉にもこの事態は、ギガヘクスの持つ力が
「こんなのもある」
《
ポラリスが右手を前に掲げると、やや湾曲した刀身のクリアな刃が付いた剣が握られる。
ギガヘクスの分身たちはすぐさま光の弾を放つが、その攻撃全てを軽やかなステップと斬撃によって防がれてしまう。
「刺激が足りない、気が抜ける相手だ」
「貴様ァ!!」
挑発めいた言葉に逆上し、機械の女神は声を荒げて飛びかかった。
瞬間、ポラリスは分身一体の喉に剣を突き入れた後に腕を掴みうつ伏せで倒れ込ませ、その背中の上に勢い良く座り込んだ。
「ぐあ!?」
「うーんん……欠伸が止まりそうにないな」
「くうううっ! 調子に、乗るなァ!」
「遅い」
目の前から襲いかかって来た他のギガヘクスに言うと、武器のブレード部が組み換わって再連結し、銃の形を取った。
《
そのまま銃口からビーム弾が発射され、攻撃しようとした分身ギガヘクスは仰向けに倒れる。
さらに尻に敷いてある機械女神の方の後頭部にも数度発砲して破壊すると、ポラリスは退屈そうに立ち上がった。
それと同時に、ポラリスの元に再び通信が届く。
『最星! ルートが確保できたわ、これで戻れるはずよ!』
「そうか。じゃあ、そろそろ」
ポラリスは再びハンドオープナーに手を伸ばして、三度回転させる。
「刺激的に決めるぞ」
《
続いて赤い光を放つ天面のスイッチを指で押し込むと、右脚の装甲がシュワシュワと泡立って激しく閃く赤い光を纏い、背後でコーラのような液体の詰まった巨大なボトルが出現した。
「ハッ!」
疾走・跳躍と同時にボトルも動いて浮かび上がり、ポラリスは右脚を突き出す。
するとボトルキャップが開いて中からコーラが噴き出して、シロクマの戦士の背を押しさらに加速。
地上のギガヘクスたちをことごとく吹き飛ばし、コーラ液が全身を包みこんでボトル型に変じて圧縮していく。
「グオオオオオッ……!?」
「フゥ。お前たちには、刺激が強すぎたか?」
そう言ったポラリスが指を弾くと、ギガヘクスを圧壊しようとしていたコーラが花火か噴水のように爆発。コーラの雨が、頭上から降り注ぐ。
晴明たちの周囲の敵は全滅し、それと同時にドライバーにセットされたワンダーコーラハンドリンクが色とラベルを失い、
ともあれ時間は十分に稼ぐことができ、晴明はムラサメとダイナストに声をかける。
「よし! 準備完了だ!」
「倒したらこれを使って戻って来てくれ」
サンジェルマンが投げ渡したのは、半分に割れた『恋人』のタロットカード。
彼自身の能力により、これを使えば片割れのカードの元まで転移することが可能になる。
僅かな時間での教頭であったが、ダイナストとムラサメは不夜星に繋がるパスに向かう前に、最星へと手を振った。
「最星と言ったな、礼を言う」
「お互い縁があったらまた会おうぜ!」
それだけ言って二人はそれぞれダイナストームとAストライカーを駆り、突き進む。
その様子を振り返って僅かに口元に笑みをこぼし、最星は先程の緑色の缶のプルタブを起こした。
すると缶は再びバイクの形状となり、彼の目の前で着地する。
《
「できれば外でな。
緑色のバイク、マシンスプライダーに跨って、最星は案内通りに蒸気のパスを抜けて脱出する。
そこで僅かに見えた風景には――
蒸気の中を潜り抜け、バイクで走り続けるムラサメ。その隣で駆け抜けるダイナスト。
「さぁ行くぞ、ギガヘクス・マーテルを倒す!」
「そんで地球もこの星も救ってやるぜ!」
二人は頷き合い、星械母神との最後の戦いへと赴くのであった。