リリカルなのは 英雄と呼ばれた神器使い(リメイク) 作:レイハさん
「アアアァァ………」
静かな悲鳴を上げ、鮮血が飛び散っている地面に、真紅の体色をした〈アラガミ〉
〈ハンニバル変異種〉、〈オーディン〉は力尽きた四肢を投げ出し倒れ込む。
コアの破壊によってオラクル細胞の統率がとれなくなり、オーディンの体を形成しているオラクル細胞がゆっくりと地面に吸い込まれている
「はぁ……はぁ……やっと…終わりましたね」
アラガミを倒したというのに、〈ゴッドイーター(俗に言うアラガミを殺し、喰らう者)〉である18、19歳位の女性〈アリサ・イリーニチナ・アミエーラ〉の顔色は優れず、それどころか涙を流している。
「ああ………そうだな……ちくしょう…」
同じくゴッドイーターである19、20歳位の白髪の青年〈ソーマ・シックザール〉もアリサと同様に顔色は優れず、その瞳は心なしか悲しそうにしている。
「…………」
次に黒髪の25、26歳か、いやもう少し若そうな青年〈雨宮 リンドウ〉は何も発する事はなく、ただ悔しそうに〈神機(アラガミを唯一倒せる武器)〉を握りしめている
「なんでだよ………どうしてこうなっちまったんだよ!!」
最後にオレンジ色に多少茶色が混ざったような髪色をしている、17、18歳位のまだ子供っぽい顔立ちをしている青年は力無く崩れていくアラガミを見て、そう悲痛な叫びを上げる。
「……っづは!?」
オーディンの体を形成していたオラクル細胞が、完全に地面に溶けきった時、オーディンのいた所に、赤髪、赤目の19、20歳位の青年が、血反吐を吐きながら倒れ込む
「「「「シンヤ!!」」」」
その倒れた青年に4人全員が神機を放って駆け出す
「シンヤ!しっかりしてください!」
「ふざけんなよ!ここで死なれたら俺が困るんだよ!!」
「シンヤ!まだバガラリー見る約束守ってもらってねぇぞ!!」
「絶対に!生きることから逃げるな!」
シンヤと呼ばれた青年はアリサに抱かれながら、周りで泣きそうな顔をしている4人を見て、優しく微笑み
「ありがとう……」
そう呟いた
「何がありがとうだ!? 礼を言うならアナグラに戻ってからいいやがれ!!」
その呟きに、ソーマはふざけるなと言うようにシンヤを睨みつけ、涙声でそう叫ぶ
「ふふっ……ソーマ……俺は帰れそうにない……ゲボッ!」
諦めたようにそう言い、また血反吐を吐く。
血反吐を吐き、体からはおびただしい程に血が流れているというのにシンヤはまだ笑っていた。
もう、十分生きたと言わんばかりに
「嫌です!帰ってきてください!! 私は……私はシンヤに帰ってきてほしいんです!」
「アリサ……」
シンヤは困ったような表情を浮かべ、アリサの綺麗な銀髪をなでる、その仕草はまるで親が子供に言い聞かせるかのように、ごめんねというような……そんな仕草だった。
「…どうして……どうしてですか………!」
アリサとてこの傷や出血量からしてシンヤが助からない事などわかっているのだろう。でも、心は納得しない……だからこそアリサは子供のようにポロポロと涙を流す、頬を伝う涙は零れ落ち、シンヤの血に染まった頬を濡らす
「シンヤ……!お前は俺と約束したじゃんか……!」
「コウタ……」
コウタのその言葉に、シンヤは負い目を感じているのか、バツの悪そうな顔をして許してくれと手を前にだす。
ゴッドイーターになったばかりのとき、コウタとバガラリーというアニメを一緒に見るという約束をしていた。まあ、結局こうなってしまい守ることは出来ないが…
「ごめん…コウタ……約束…守れないわ……」
シンヤはごめんと笑いかけ、目を瞑る。
できることなら守りたかった。その約束を……それでもシンヤは仕方ないと言うのだろう、自分が弱かったから、アラガミに負けてしまったから……力が足りなかったからと………
「認めねぇ………約束破って死ぬなんて、絶対認めねぇ!!」
「コウタ…」
シンヤだって約束を破ったまま、死にたくはない。
でも体が言うことをきいてくれないのだと、もう間に合わないのだとコウタに言い聞かせるようにそう言う
「ふざけるな………!」
そこで、何も言わなかったリンドウさんがそう口を開く
「リンドウ……さん」
「俺は助けたかった! 支部長の策略でどうしようもなかった時のように……俺も…お前みたいに救ってやりたかった!! でも……でも何でこうなるんだよ……どうして俺は後輩一人救えないんだよ! ふざけるな!! クソッ! クソォォ!!」
リンドウさんも思うところがたくさんあるのだろう、守るべきはずの後輩救って貰い、次は自分が救う番の筈だというのに、今の自分はただ死にゆく後輩の姿を見ることしかできない。
それがどうしようもなく悔しくて、悲しくて、ただどうにもならない理不尽に対して怒りの声を上げる。
リンドウさんは気づいてないのかもしれないが、強く握りすぎた手のひらに爪が食い込み血が流れている。
「リンドウさん」
シンヤは悲しそうな顔をして、その血が流れているリンドウさんの手を、弱々しく掴む。
その手はリンドウさんの手に触れ、もういいんだと、苦しむなと、そう言っているかのように優しく触れた
「シンヤ……俺は!」
リンドウさんはシンヤの顔を見る。シンヤの表情はもう死ぬだろうというのに、泣きもせず、叫びもせず、ただ小さく微笑む
「俺は………守れなかった!」
視界が涙で滲む、リンドウさんは子供のようにポロポロと涙を流し、鼻水を垂らす。
言葉にならない思いが、嗚咽と泣き声で吐き出される、それをみてシンヤは口を開き─
「──いつかきっと届くはず」
──歌が聞こえた
「っ!」
「これは……!」
「ああ……」
「この歌は……!」
その歌詞を聴いた4人は全員目を見開く
「─その思いを、わがままを」
シンヤは目を瞑り、空に向けて歌を歌う。
まるで何かに問いかけるように、まるで何かに祈るように、ただ歌う
「─ただ、一度だけ」
シンヤはもうすぐ死ぬとわかっていた、だから、アリサ達と一度だけ歌った時にもう一度歌うと約束した……最後にその約束を守ろうとしているのだ
「─世界がどんなに理不尽でも」
歌が続く
「─世界がどんなに悲しくても、世界がどんなに残酷でも」
歌っている最中、シンヤの目尻から涙が零れ落ちる
「─それでもここには希望がある、たった一つの思いがある」
「っつ!」
もう、4人全員涙を抑える事は出来なかった。
全員が口を押さえ、泣き叫びそうになる声を必死に抑えていた。
せめて……この歌が終わるまでは
「─それを胸に秘めて歩いていこう、世界が優しくあるために」
シンヤのこの歌は、きっとこの世界の事を歌っているのだろう。
とても理不尽なアラガミ、残酷に殺されていく人々、守れなかったと悲しむゴッドイーター達
「─光よ世界に満ちて、悲しむ声を聞きたくないから」
シンヤは最後まで戦った……この歌と同じ思いで、人々の悲しむ声を聞きたくないと……
「─ほらみて、世界は美しい」
……そして、歌が終わった
「ゲボッ!!」
オーディンから出てきたときから、シンヤの体はボロボロで、腹に穴が空いていたり、胸元に大きな切り傷があったりと、そんな状態で歌を歌う事自体が自殺行為だ。シンヤは耐えきれず口から吐血した。
「「「「シンヤ!!?」」」」
それをみた4人はシンヤの体を心配し、駆けつける
「はは……最後に……約束…守った…」
シンヤは一番に駆けつけたアリサに抱かれながら、4人全員を見て苦しそうにそう笑う
「シンヤ……!」
流石にアリサでも、もう助かる可能性は無いと納得するしかなかったのだろう、苦しそうに笑うシンヤをみて涙を流し強く抱きしめた。
「アリサ……」
「行かないで……!いや!」
そう納得するしかなくても、やはり心は納得してくれない、アリサはだだをこねる子供のように泣く
「お前がいなくなったら……アナグラの奴らにどう説明すればいいんだよ! あいつらは……お前は帰ってくるって、ずっと待ってるんだよ……!」
ソーマはいつも強気で涙を流す所なんて見たことは一度しかない、でも、今のソーマは膝をつき、シンヤの手を取り、涙を流す。
ソーマもシンヤに帰ってきて欲しかったのだ。仲間として、友達として
「ソーマ……ごめん……」
シンヤは動かない右腕の代わりに左手をソーマの顔へもっていき、頬をなでる
「くそ……!」
ソーマはシンヤの手を取り、その手に額をつける、ソーマも悔しいのだろう、死神と呼ばれていた自分を受け入れてくれて、救ってくれた。
でも、ソーマはシンヤを救う事なくこのままシンヤが死ぬのを見ていなければならない、リンドウさんと同様に
「みんな……ホント…あり…がと………な」
ソーマの握っていたシンヤの腕から力が無くなった。
体温は無くなり冷たい……つまり、シンヤは死んだということだ
「シンヤ………嘘だろ…?」
「シン……ヤ?」
ソーマとアリサは体を揺らしシンヤを起こそうとするが、力無く投げ出された四肢がゆらゆらと揺れるだけだ
「死んじまった……のか……」
「シンヤ……まだ……俺の約束は……」
何も答えることのないシンヤを見てリンドウさんとコウタは力無く崩れ落ちる……
そして、全員理解した……本当にシンヤは死んでしまったのだ…もう笑ってくれることはない、歌を聴かせてくれることもない、一緒にコーヒーを飲むこともできないし、喋ることもできない……
「「「「シンヤァァァァァ!!!」」」」
それを理解したとき、全員空を見上げ泣き叫ぶ。
アリサはシンヤを抱きしめたまま
ソーマはシンヤの目の前で顔を抑えて
リンドウさんは神機を投げ捨て
コウタは神機を抱えたまま
ゴッドイーター達は泣いた……世界の理不尽によって殺されてしまった英雄の名前を呼びながら……
英雄と呼ばれた神機使いは仲間に見守られ、悲しまれこの世界から笑って去っていった……