倒壊エリア、そこでは緑谷と麗日が雄英に侵入したヴィラン達と対峙していた。
「ワン・フォー・オール ペネトレイト…!!」
「どっせぇぇいっ!!」
お互いに背中を合わせ、二人を囲むヴィラン共をなぎ倒していく。
「な、なんだこいつら!?本当に学生なのかよ!?」
「ふざけんなっ…!ガキが相手だからこの話に乗ったのにっ!話が違うぞっ!」
ヴィラン共が聞いていた話では、まだ一年の新米も新米と、そう聞いていた。
「そんな覚悟で雄英に来たのか!そのせいで逢魔君は…!」
身勝手なその言葉に怒りを滲ませた緑谷の拳が、ヴィランの顔面を打ち抜く。そのまま避けることもなく吹き飛ばされたヴィランを見て、やはりと確信を得た。
「このヴィラン達、本当に大したことがない…!これなら…!麗日さ──────」
そう言って倒したヴィランを見下ろしたあと、背中を任せた麗日に振り返った先には、地獄が広がっていた。
「うわぁぁぁっ!!?誰かあいつを止めろぉ!!」
「ぎゃあぁぁっ!!もうやめてくれっ!ごめんなさいごめんなさっ」
「おっしゃぁぁぁっ!!」
無重力にしたヴィランの足首をつかみ、そのまま棍棒のように振り回してヴィランをなぎ倒して行く麗日は、ヴィランからすれば鬼神か何かに見えた事だろう。
大暴れしていた麗日は、振り回していたヴィランを地面に叩き付け、次の獲物を射抜いた。
「えっ、なんでこっちに、えっちょ、ま─────」
「おんどりゃぁぁぁっ!」
「あっ、待て待てぇ!待って、たすけっ」
「噴ッ!!!解除ォ!!」
麗日に無重力状態にされ、空中を舞ったヴィランに対し、地が揺れる程の踏み込みと共に掌打が叩き込まれ、ヴィランの意識と体が吹き飛ぶ。オマケに超高速で吹き飛ばされている中で無重力状態を解除し、自重と加速をプラス。
高速で瓦礫に叩きつけられる衝撃がヴィランを襲った。
「コハァァァァァッ……!」
「な、なんだこの女子!?」
「やべぇ、やべぇよ…!なんか蒸気出てるぞ!?」
その様子を見ていた緑谷は、片手間でヴィランをぶん殴りながら、冷や汗を流していた。
(う、麗日さんもはや別人……逢魔君に渡我さん…!やりすぎだよ…!!)
反省の色すらない笑顔を浮かべる被身子と、いつも通りの詠斗の顔が脳裏を過ぎった。
麗日を含め、直接戦闘に関係がない個性を持つクラスメイトの指導は緑谷から見ても過激だった。
確かに、戦闘能力に直結しない個性ならば対人格闘能力を鍛えるのは急務とも言えた。
加えて、あの二人の指導は合理と効率に優れるものだったが故に、A組の金の卵たちはそのまま吸収。そのせいか、数人が覚醒。そのうちの一人が麗日だった。
「デク君!このヴィラン達大したことない!速く倒しちゃお!」
「えッ、あ、はい!!その通りです!」
「なんで敬語なん?」
「えっと、それはその…!アッ、来るよ麗日さん!」
「なんか、釈然とせん……」
こてん、と首を可愛らしく傾げた麗日は緑谷の挙動不審さに疑問を覚えつつ、背中合わせに構えた。
「とにかくこいつらは二人だ!数で押し切れ!攻めろ攻めろ!!」
二人を囲むヴィランが数で押してくる戦術に切り替え、複数人で一斉に二人にとびかかる。
しかし、二人は動じることなく、目の前の敵に集中する。
(戦闘訓練の感覚が生きてる……!!)
(ペアの戦闘訓練役に立ったぁ~…!)
幸いにも、ペアを組んだ事のある緑谷と麗日は性格も、個性も相性がよく、息を合わせるのはそう難しくなかった。
『僕も被身子も、君たちを鍛えている訳じゃない。君たちが元々持つ物を出せるように矯正しているに過ぎないんだ。』
授業中に零した詠斗の言葉は、正しかった。故に、各々の実力がある程度まで矯正されれば、難しくは無い。
(元々みんなの素質はトップレベル…1週間、たったそれだけでこうまで変わるなんて…!!)
麗日は群がるヴィランに掌打を打ち込みながら、個性を使い敵を投げ飛ばす。しかし、それを上からねじ伏せるような影が、麗日を覆った。
「いくら技に長けていようが!圧倒的な力の前には無意味なんだよ!!」
麗日の倍はあろうかという上背を持った異形型のヴィランが襲い掛かるも、麗日は冷静に背後の緑谷に叫んだ。
「デク君!」
(力で勝てない相手とわざわざ戦う必要は無い…!ヒミコちゃんも言っとった…!)
その声に反応し、緑谷が目の前の敵を殴り飛ばした瞬間、足にエネルギーを集中。眼前の敵を無視し、一蹴りで麗日の前に躍り出る。
「なんっ!?」
「スマァッシュッ!!」
頭上から叩きつけるように拳を振り抜いて、巨漢のヴィランを地面に叩きつけ、一撃で意識を刈り取る。
交差するように緑谷と位置を入れ替えた麗日は、緑谷に向けて放たれていた攻撃をスレスレで回避、顔面ど真ん中に重い掌打を見舞い、地面に叩き付ける。
「フンッ!!」
「ちょっ、それはずるガブバッ!!?」
立て続けに意識を刈り取られるヴィランが山のように積み重なった時、漸く一帯のヴィランを掃討したらしく、新たな敵の姿は見えなくなった。
暫く構えを解かずに耳を澄まし、敵の動きが無いことがわかった2人は、漸く構えを解く。
「終わったみたいだね……」
「うん……数多かったけど、何とかなったね!」
「この感じなら、みんなの方も問題ないと思うけど…少し心配だね。」
どうにか一息ついた2人は、敵に発見されないように、倒壊したビルの中で息を潜めていた。
「それで……デク君、これからどうしようか……?」
「合流ができるなら、みんなと合流して出口に向かうのがいいと思う…でも、問題は…」
「逢魔君が気にしてた……核…?」
麗日の指摘に首肯した緑谷は、過去に類を見ない程に調子に乗っていた。辛勝ではなく、無傷でこれだけの量のヴィランを倒すことが出来たのだから、それに対する感動は誰よりも強かっただろう。
「……あの程度なら僕たちでも倒せる…可能なら、相澤先生の負担を少しでもなくせれば…広場に合流して、加勢できそうならしたい…どう、かな…?」
「うーん……少し、不安やけど、わかった!でも!手に負えないって思ったら!」
「そのまま避難、だね!」
頷いた2人は、今も戦場となっている広場に向かった。その道が最悪につながっているとも知らずに。
学校内に転移した詠斗は気を失った被身子を抱えながら廊下に飛び出し、人の気配を感じる部屋になだれ込む。
「おや?ノックもなしに…逢魔少年!!?」
「逢魔君!」
「校長に、八木さんか…」
被身子を庇いながら倒れ込んだ詠斗を咄嗟に支えたのは、八木と根津。しかし、彼の損傷を目にして目の色を変える。
「逢魔少年!わかるか!何があった!腕が…渡我少女もひどい熱だ…!」
「八木、先生……僕はどうでも、いい…それより、彼女をベットに……USJ内にヴィランが…敵は、ワープ系の個性を使って侵入、先週のバリア崩壊犯と同一人物のように、思います。敵の数は目視の限りでは50以上……ヒーローを集めて、USJへ……」
「わかったもういいのさ、リカバリーガールをすぐに呼んでくる。ここで待っていなさい。」
「僕は、いい……被身子を…」
「動くな逢魔少年!傷口に障る!血も流しすぎているだろう!」
「先、生…敵に、個性が複数ある敵が、いる。あれは、相澤先生、でも無理、だ。」
「個性が……!」
なんとか被身子の傍にと立ち上がるが、思いのほか血を流しすぎた詠斗は、ふらりと倒れてしまい八木に支えられる。
(久しぶりにここまで血を流した…思考が回らない…何か、炉心に焚べないと動けないなこれ。)
「言わんこっちゃない!」
「八木君、君は至急USJ施設へ!私は全校連絡後大至急でヒーローを引き連れて向かう!」
「わかりました!!」
【緊急事態!USJにヴィラン侵入!直ちに動けるヒーローは集合し向かってくれ!】
駆けて行った八木の背中を見ながら、詠斗は壁にもたれ掛かる。
「校長…僕のポッケから、レーションを取ってください…何かを、炉心に焚べれば、そこから自力でどうにかできる…」
「レーションだね、んー…これだね!ハイどうぞ!リカバリーガールは呼んでいる、君たち二人はここにいるんだよ、いいね。」
そう言葉を残して出て行った根津をぼうっと眺めた後、受け取ったレーションに噛り付く。高カロリーの食物を摂取し、それを燃料にして一時的に炉心の生み出すエネルギー量を増やすことで、なんとか失った血を体内で作り出す。
ゴウンゴウンという独特な音が、正常になるまで数秒。なんとか最低限まで回復させた詠斗は、一つ溜息を吐き出す。
「……被身、子……」
ヨロヨロと立ち上がった詠斗は、被身子の眠るベット迄行き、被身子の手を握る。
魘される彼女も、反射なのか手を強く握り返した。被身子の心臓に耳を当てれば、少し不規則なリズムが聞こえるが、これも熱のせいだろう。下がれば元に戻るはずだ。
(……百への説明は、どうするべきだろう……USJはどうなってる…みんなは、無事かな。)
ぼやける視界の中、あの時に見た脳が剥き出しのヴィランを思い返す。
アレには、恐らく皆では勝てない。轟、爆豪、緑谷、芦戸が殺す気を起こせば刺し違える事は出来るかもしれない。しかし、彼らはきっとアレを人間として見てしまうだろうから、それ以上の行動はできないだろう。
(アレは死体だって言うべきだった……僕も結構焦っていたんだな、反省しないと。)
再び被身子の手を握った詠斗は、握り返される力に被身子が目を覚ました事を悟る。
「起きたかい、被身子。」
「えい、と…くん……」
「無理はしない…45度以上の熱が出ている。個性抑制の反動だ、今は動いてはダメだよ。君でなければ既に耐えられないんだか、ら……───────」
朦朧とした意識の中、瞳を詠斗に向けていた。詠斗を見る瞳は、いつか見た不安を宿す、悲しい目だった。
「……大丈夫、傍にいる…だから安心して。」
「みん、な、は……?」
その言葉に、詠斗は少し言葉を詰まらせる。
「……校長に、動くなと言われたから、現状はわからない。だが、既に救援は向かった。安心していい。八木先生なら数分も掛からずに到着するはずだ。」
正直、詠斗としては
その言葉を聞いてか、被身子の手を握る力が強くなった。
「…私、この、1週間が、ほんとうにたのし、かったの……」
「………あぁ、わかるよ。」
家に帰れば、今日はどんな事があったと、詠斗もその場にいたのに、楽しそうに報告してきていた。
彼女がこの1週間を楽しんでいたのは、家族の詠斗だからこそ、1番に理解っていた事だった。
「ミナ、ちゃんと……オチャコちゃんと、モモちゃんと……みんなと…たくさん…おしゃべりして……沢山訓練して…イズク、君と楽しく…登校、して…」
寝そべっていた彼女が、振り絞るように詠斗の手を、弱々しく握った。
「はじ、めてだったの……学校…が、楽しかったの……っ」
被身子にとって、学校とは独りでいる場所だった。小学校の低学年から中学校の卒業、そして、高校の入学まで。
「気づいて、たの……私、みんなに、ずっと…無視、されてた…から……エイトくん、だけだったの……ずっと、私のそばに、いてくれ、たの……!」
彼女は気がついていた。詠斗がずっと、異端の自分を守ってくれていた事。相澤も、詠斗も口にはしないクラスメイトの除名理由も。
だから、今のクラスメイトにだって、期待していなかったのに。
「でも、みんなは、違ったの…!」
「ヒミコちゃんって、笑顔で、話しかけてくれて…!」
「ご飯も、一緒にっ……食べて、くれてっ…!」
「エイト君と、一緒にいる時くらい、寂しくっ、無くなったの……!」
聞いた事のなかった、彼女の本音。彼には詠斗がいた。それでも、必然的に訪れる寂しい瞬間を、独りで拭うことが出来なかった。
こんな自分の傍に居てくれる詠斗に負い目を感じながら、隠し続けた感情。被身子も、何より詠斗自身も理解ができないと、無意識のうちに諦めてしまっていた物が発露した。
「見られた…っから、もう……私は、みんなといれない、けど…っ!
みんなを……助けてっ……お願い、エイト……君……────」
気を失うように眠った被身子の額を撫でて、汗で張り付いた髪の毛を払う。
詠斗は何を言うでもなく、ただ彼女の言葉を反芻した。
咀嚼して、咀嚼して、飲み込む。それでも、いつの間にか湧いて出た腹を揺するように煮えたぎる熱が消えない。
立ち上がった詠斗の、
遅くなって申し訳ない。転職してすぐだったので時間がなかった…これからはちゃんと月イチ、乗れば何本かあげれるようにします。
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