フヘンの愛   作:イベリ

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とっが、ひ み こ


力の限界②

散り散りに飛ばされたA組は、皆が策を弄しながらヴィランを薙ぎ倒していた。

 

土砂と倒木が溢れるここは、山岳エリア。八百万、上鳴、耳郎が転移させられていた。

 

しかし当の三人は、呑気に腰掛けながら、自身達の下を指さした。

 

「なぁ、八百万に耳郎さぁ……なーんか、こいつら大したことなくね?」

 

「そうですわね……いったいこの実力でどうして雄英に侵入しようとしたのかが謎ですわ…」

 

「んー…まぁ、ウチらが強くなってるってことで片が付くでしょ。」

 

三人はヴィラン共と転移と共に戦闘開始。数分の戦闘の後殲滅。山積みにした上に上鳴が腰かけながら、今も気絶するヴィランを突いて、気だるげにつぶやいた。

 

八百万、上鳴は現状のA組でトップの対人格闘成績を誇り、特に上鳴は無手同士の場合現状負け無しだ。

 

「いっちゃんマシだった奴も、別にそこまでだったし……何がしたいんだこいつら。」

 

「うん……格闘戦ならこの中で一番下のウチ以下の連中しかいなかったし……コイツらも、運が無かったよね。寄りによってアンタたち2人がいるところに飛ばされるなんてさっ。」

 

ゲシッと、起き上がろうとしていたヴィランの意識を刈り取った耳郎は、戯けたように2人を見つめた。

 

「まぁな!これでも格闘戦なら負け無しだし!!……逢魔とヒミコちゃん以外……」

 

「あの二人をカウントするのは違くない?」

 

「……私は武器アリ、という状況のみですわ。攻撃力で言えば耳郎さんも上鳴さんとさして変わらないと思いますが……」

 

「そうかなぁ?」

 

可愛く首を傾げる耳郎だが、戦い方は鬼畜その物。攻撃を捌きながらプラグをヴィランに突き刺し、最大出力で個性を発動。動けなくなったところに金的から流れるように顔面を打ち抜き、確実にヴィランを封殺して行った。

 

「いやぁ〜、逢魔も言ってたじゃん?『明確な弱点があるなら狙わないのはバカのすること』ってさ。」

 

「殺意高過ぎるわ!?俺受けてねぇのにちょっと内股になっちまったし……」

 

雑談を終えた上鳴がヴィランの山から飛び降り、2人にこれからの行動を尋ねる。

 

「つーかよ、どーする俺たち。」

 

「そうですわね……」

 

顎に手を当てて考え込んだ八百万の頭は、既に答えを弾き出していた。

 

「……やはり、私達は出口へ向かうべきかと思います。私たちの力が通用するとはいえ、相澤先生の邪魔になる可能性は否めません。それに、向かうにしては私たちでは火力が足りていません。それに、少し考えがあります。上鳴さん、ご協力を。」

 

「ん、わかった!八百万の作戦なら大丈夫だろ、できることはやるぜ!したら、俺らはサクッと出口に向かおうぜ!」

 

「油断はいけませんわ、上鳴さん。何せ敵は逢魔さんを……それに、この程度でオールマイトを倒せると思い上がるほどヴィランは馬鹿でしょうか。このヴィラン達はただの寄せ集め…本命が別にいるとしたら……」

 

八百万の言葉に、その場が一瞬沈黙する。彼らにとって、たった一週間とはいえ、遥か格上が敗北するさまを見せられたのだ、心中穏やかにいることのほうが難しかった。

 

「……あの逢魔が一方的にやられるところを見せられるとは思わなかったよ…あいつ、油断も隙もありませんって顔してるし…」

 

「実際ねぇだろ。あいつ四人同時でも片手で返り討ちにすんだぞ?」

 

「それはヒミコさんもですわ。」

 

背中に目でもついてるのかと驚いたね、実際。と口を尖らせた上鳴は不服そうに肩を落とした。しょぼくれる彼に呆れながら、ハイハイと手を叩いた耳郎が、意識を切り替えさせた。

 

「途中でウチが索敵しながら、合流できそうな人達を探そう。」

 

「そうですわね。未だ戦闘中であれば加勢。そのまま出口へ行きましょう。」

 

そうして、索敵を開始した耳郎は地面に突き刺したプラグで音を聞き分けると、肩をピクリと揺らした。

 

「……4時の方角に大量に……いや、今氷が割れるみたいな音が聞こえた……これは、轟かな。」

 

感知した方角を向いて、ボソリと呟いた。

 

 

 

「───────情けねぇ……それでもヴィランかよ。」

 

銀の世界に包まれるその場で、轟焦凍は真っ白な息と共に怒りを吐き出した。

 

「うご、けねぇ……っ!?」

 

「こい、つ…転移と、同時に氷漬けに……!?」

 

「しかも、この氷…っ、割れねぇ…!!」

 

転移と同時に一瞬で周囲を氷漬けにした轟は、冷酷にヴィランたちに告げ、背後でそれを見守っていた存在に振り向いた。

 

「大丈夫か、葉隠。」

 

「うん!轟くんと一緒に飛ばされて安心したよ!私一人だと、捕まっちゃってたかも!」

 

「……そうか。」

 

多分それはないだろうと思ったが口に出すのはやめておいた。やけに賑やかな彼女は、若干目立っていないことを気にしているから。

 

空から降ってきた葉隠が「受け止めてぇ!!?」と叫んだことで存在に気がつけたが、知らなかったら普通に氷漬けにしていた。内心で危ねぇと呟きながら、彼女の賑やかさに少し感謝もした。

 

「そ、それにしても氷割れたりしない!?大丈夫かな!?」

 

「問題ねぇ。異形型には殊更厚くした。炎熱系の個性でもなきゃ溶かせもしねぇよ。」

 

1度だけ参加した放課後特訓にて詠斗に貰ったアドバイスを参考に伸ばした個性は、轟を新たなステージに押し上げていた。

 

『冷気を伸ばすのなら、生成する氷の構造から見直そう。君は基礎ができてるから、今日参加したら暫くは個性を伸ばしてみるといい…使ってないけど、左の制御を見る限り、君にこれ以上のアドバイスは無用だろう。炎熱系の個性は扱いが難しいからね。』

 

初めて、戦ってもいないのに鮮烈に格の違いを見せられた気がした轟は、割と彼の忠告やアドバイスは素直に聞いていた。

 

さて、と頭を切りかえた轟は、目の前の氷漬けにされたヴィラン達に手を翳す。

 

「お前ら、何を根拠に雄英(ココ)に来た。オールマイトを殺すなんざ無理に決まってんだろ。」

 

所詮チンピラの集まりの集団。先日参加した放課後特訓を見れば、クラスメイトの実力に遠く及ばない事は理解できる。

 

だからこそ。その核が知りたかった。

 

「そのままじゃ四肢の壊死はまぁ避けられねぇ…俺もヒーロー志望だし…んなことしたくねぇんだ……あぁ、でもお前ら逢魔の腕を奪ったよな。じゃあ、それも仕方ねぇかもしれねぇな。」

 

氷に囚われたヴィランたちを見下し、既に氷像と化したヴィランの右腕だけを溶かし、生身の腕を掴んで冷気の出力を上げる。

 

筋肉、細胞、骨の髄まで凍りついて行く恐怖が、ヴィランを襲った。

 

「ギャアァァァァっ!!?」

 

「細胞が壊死するのは、耐性がなきゃおよそ-20℃以下の極低温状態に長時間晒された場合。やろうと思えば出力あげるのはわけねぇんだ、そうなりゃ細胞が破壊されて、黒く変色する。それが10分も続けば切り落とすしかなくなる。前までならともかく、今の俺なら一瞬でその段階まで凍らせることもわけねぇぞ。」

 

「い、嫌だっ!嫌だァァっ!!?」

 

「……吐けよ、オールマイトを殺す策を…言っとくが、脅しだと思ってんなら生憎だったな。俺もクラスメイトやられて頭に来てんだ……!」

 

「いっ、言います!!言いますからぁ!!」

 

そうしてヴィランの口から語られた切り札の存在に、轟と葉隠は顔を見合せた。

 

「脳無…か……」

 

「もしかして、あの黒い肌の異形型…?そ、それにしてもすごい気迫だったね!ホントにしちゃうのかと思ったよ!」

 

「流石にしねぇ。まぁ、お前も騙せたなら上手く演技出来てたってことだろ。」

 

氷を溶かし、ヴィランを1箇所の氷のドームに閉じ込めた轟は、その名を反復しながら、犯罪者の名前に照らし合わせる。

 

(記憶にねぇな……名付きのヴィランで脳無なんざ聞いた事もない。敵の首魁の死柄木とかいう男も、全くの無名……不味いかもな。)

 

明らかな実力者である詠斗すら警戒を示していたことから、轟はヴィランの脅威度を1段階引き上げた。

 

敵の脅威度、切り札、敵から見える自信。それらを総合して、轟は次の行動に移った。

 

「葉隠、お前はこの事を皆に。出口に向かってくれ。」

 

「わかった!轟君は?」

 

その問いかけに、轟は踵を返して目的地に向いた。

 

「中央広場……相澤先生が危ねぇかもしれねぇ。」

 

その時、轟の後方で爆音が響いた。

 

 

 

「─────助かったぜ、バクゴぉ!お前が居なきゃ、俺と梅雨ちゃんだけじゃ火力がなくてよぉ…」

 

「そうね、爆豪ちゃんがいなかったら私達はもっと大変だったわ。」

 

「ケッ!ったりめぇだろ!!俺をその辺のナードと一緒にすんじゃねぇ!!」

 

イラつきを隠さない爆豪は、そのまま中央広場の方向を眺めた。

 

水難エリアに飛ばされた爆豪、蛙水、峰田の3人は、爆豪の最大爆破で水面に衝撃波を叩き付け、ヴィランを殲滅し、峰田と蛙水で拘束。なんとか窮地を脱していた。

 

「それにしても、逢魔ちゃんとヒミコちゃんは大丈夫かしら……心配だわ。」

 

「オイラ、ちゃんと見てねぇけど……あいつ、自分で腕を斬ったんだろ?正気を疑っちまうぜ……」

 

「そうね……逢魔ちゃんも油断していたのかしら。普段なら、あの程度避けそうなものだけれど。」

 

2人の会話を聞きながら、爆豪はずんずんと進んで行った。

 

「お、おい爆豪!どこ行くんだよ!」

 

「あぁ!?決まってんだろ!中央広場のあのクソモヤぶっ殺しに行くんだよ!」

 

「おめぇほんとにヒーロー志望かよ!?」

 

「間違ってもヒーローの発言じゃないわ。」

 

2人の発言も無視して進む爆豪は、心底イラついていた。

 

(色ボケ共がぁっ、俺を…俺を倒した癖に…!)

 

爆豪の頭の中は、3日前の詠斗との直接戦闘のシーンが繰り返されていた。

 

『気概は買う。センスもいいし、伸び代もある。個性も強いし、技も練っているね。でも、それだけ。』

 

日に日に伸びていく緑谷の背を見て、焦っていたのだろう。

 

そうして行き着いたのが、詠斗とのタイマン勝負。

 

個性有りと個性なしで組手を行った。

 

結果は惨敗。物の見事に、鮮やかに、美しいと拍手を送りたくなる程の完敗だった。

 

数秒も、詠斗の前で立っていることが出来なかった。

 

一歩も及ばなかった。掠り傷一つすらだ。

 

基礎能力、技術、戦術眼、爆豪が持ち得る物全てを賭しても、1歩も及ばなかった。

 

爆豪勝己という少年は、挫折を知らなかった。

 

なまじ人よりも何でもできるがために。この少年(カエル)は、大海を知らず、自分のちっぽけな井戸に閉じこもっているにすぎなかった。

 

けれど、彼がその辺のカエルと違ったのは、折れなかった事だ。

 

挫折を、聳える高い壁を前にしても、折れなかった。

 

持ち前のタフネスを出久に聞き及んでいた詠斗は、彼を徹底的にへし折りにかかった。

 

『君は、君が思うほど強くないよ。同年代では確かに抜きん出ているだろう、平均のヒーローよりも攻撃力は高いだろう。それなのに君は個性を使っていない僕に数秒で、こうされる。無意識の中にある過信、慢心、油断、なにより勝つことに執着し過ぎて他が見えてない。実戦なら僕と対峙した時点で4回は死んでる……戦いにおいて、勝利への執着すら雑念となる。』

 

『ぐっ…そぉ…ッ!!!』

 

抑え込まれた状態で、爆豪の上に乗る詠斗を睨みつければ、ふむ、と詠斗は目を逸らすことなく、なるほどねと見透かしたように呟いた。

 

『……君はそういう物とは無縁だと思ってたんだけどね。意外とおセンチなんだね君。』

 

『あぁ…!?なにいって、やがるッ…!能面野郎、がぁっ…!!』

 

『……なるほど無自覚か、致命的だね。まぁいい、時間なら多くある。』

 

訓練を受ける気がないなら帰りな、と爆豪の上から退いた詠斗は、興味なさげに他のクラスメイトの指導に入っていった。

 

屈辱的だった、歯牙にもかけられなかった。

 

(俺に…何が足りねぇ…っ…何がッ……!!)

 

あの日から考え続けても出ない答え。個性の使い方、出力を鍛え続け、常に詠斗をどう倒すのかをシミュレーションしてきた。だが、シミュレーションの中ですら、詠斗に一度も勝てなかった。

 

新たに考えた行動も、新たに考えた技も、その尽くが一手で封殺され、敗北する。

 

ギリリと音が鳴るほどに奥歯を噛み締めた爆豪は、2人に振り返った。

 

「おい、エロブドウ!カエル女!」

 

「梅雨ちゃんと呼んで。」

 

「峰田!実だ!!」

 

「うっせぇ!テメェらはとっとと出口向かえッ!」

 

「お、おい爆豪!?」

 

爆破を利用して戦場まで飛ぶ爆豪の心は、ただ壁を超えるために猛っていた。

 

その後ろ姿を眺めながら、場違いながらも感心してしまった。

 

「……さすが、逢魔ちゃんが鉄のようと言った男だけはあるわ…」

 

「アイツの自尊心ってどっから来るんだろうな…」

 

そんな爆豪を見ながら、二人はいつかの2人の数秒の戦いの後、詠斗が珍しく、ほんの少しだけ声を弾ませていた事を思い出していた。

 

『人間はああまでプライドを持つことが出来るだなんて。僕や被身子には余計な物だと思っていたけど、あそこまで至れば武器になるのかな。あれだけ言って折れなかったのは褒めるべきか。きっと彼は叩き折れば叩きおるだけ強くなるだろう。鍛え続けられる玉鋼の様な男だ。さて……次はどうやってへし折ってやろうかな。』

 

本当に数える程も見たことない、詠斗が薄く笑みを浮かべる姿に、あの場にいたクラスメイト達は震えていた。そんな事を思い出して、2人の背筋に冷たい物が走った。




ヒロアカ最終章始まったね……いきなりクライマックスだから、アツイシーンしかなくて嬉しい。

良ければ感想、好評よろしくお願いします。モチベーションにつながります。
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