「さて……全員揃ったようで何よりだ。渡我…もう平気なんだな。」
「……はい、もう大丈夫です。」
放課後のホームルーム、都合により朝のホームルームを行えなかった相澤が、2人に問いかける。問いかけに答えた2人の目をしっかりと見て小さくはぁ、とため息を吐き出す。
「……何かあれば頼れ。お前は確かに実力は俺たちと同等以上…それでも、まだ子供だ。覚えとけ。お前は、まだ守られる立場だ。」
「……初めて先生をいい人だと思いました!」
「もう1年留年したいか?」
「なんでもありません!!」
「逢魔、お前もだぞ。」
「えぇ、頼らせて貰いますよ。ちなみに、義手の材料費出してくれるのホントですか。」
「ホントだ。お前の好きな素材で作れ。因みに、今考えるので幾らだ。」
「ツテを総動員してだいたい800万です。端数についてはこっちで払うので必要ありません。ごめん、百。後で創造してもらいたいものがあるんだけどいいかな。構造式とか分子構造は後で教えるから。」
「えぇ、勿論ですわ!」
「富豪やないかい!!」
「麗日さん?」
「そんなもんか、問題ない。領収書か契約書だけ忘れんな……念の為聞くが、作る義手はどの程度のレベルだ。」
「日常生活から戦闘まで、マルチに活躍出来るものです。やろうと思えば痛覚、触覚まで再現しましょう。日常生活を送るだけなら、10万以下でできます。」
「……お前しか使えないよな。」
「まさか、僕が調整する、という制限付きですが、遺伝疾患で手足がなかろうと─────」
「はい、この話やめます。」
((((先生が諦めた!?))))
オーパーツを気軽に作らないでもらってね。と話をぶった切った相澤は、話を続ける。
「体育祭は例年より少し後にずらす。理由は言わずもがな、こんな状態の逢魔もいるし、警備体制の強化もある。図らずしも、君達には約1ヶ月の猶予が与えられたわけだ、どう使うかは…任せよう。」
以上、と切り上げた相澤がそそくさと帰っていく。それを見送ったクラスメイトは、いつものように詠斗と被身子を囲む。
「よし!病み上がりでわりぃけど、ビシバシ頼むぜ!ヒミコちゃん!逢魔!」
「俺も、ビシバシ頼むぜ!」
「任せて!エージローくん、リキドーくん!」
「あたしもー!体育祭は色んな人が見るでしょ!?気合い入れないと!」
「そうやね!ウチも…頑張らんとッ!!」
「麗日さんの気合いがすごい…!!かく言う僕も、気合い入れないと…!」
各々が気合を入れて、体育祭に向ける意気込みを語る中、淡々と帰り支度をする詠斗が、じゃっ、と手を挙げた。
「僕は帰りまーす、みんな頑張ってねぇ〜。」
『待て待て待て!』
そそくさと出ていこうとした詠斗の首根っこを全員で鷲掴んで教室に引き戻す。
「逢魔ァ!何で帰っちゃうの!?放課後訓練忘れちゃった!?面倒見てよ!」
「芦戸の言う通りだぜ!教えてよ!いつもみたいに淡々と俺たちをボコボコにしてよ!!」
「ハードなドMの発言になってるよ、上鳴くん。」
やいのやいのと群がられた詠斗は、まったく野蛮だな、と埃を払う。
「義手を作りたいんだよ。流石に毎度魔力固めて手を作るの面倒なんだよ。」
『あ、そっか。』
「最低でも1ヶ月かかるから……というか、君たち僕が片腕になった事を忘れてたな。」
『ギクッ!』
「はぁ…まぁいい、それに今日は客が来る。」
「えっ、聞いてない!もしかして、ゲンコツジジイ帰ってきてるの……?」
「いや、別件だよ。真さんと和歩、あと珠緒さんは体育祭に来るって言ってたよ。とにかく、ここ1ヶ月は確実に無理だから。被身子、頼んだよ。B組の方もね。」
ならしょうがないかぁ、と皆が残念そうにする様に、ひとつため息を吐き出して、指を立てた。
「じゃあ、ヒントだ。君たちの体術は、付け焼き刃とはいえ実践レベルで使えることがわかっただろう。ここまではいいね。」
「たしかに!USJでもチンピラ程度じゃ相手になんなかったし!」
「俺は1人で多人数相手に囲まれたけど、相当戦いやすくなったからね…」
「尾白くんそんなヤバい感じだったの!?」
「うん、葉隠は轟のところに飛ばされたんだっけ……っとごめん、脱線しかけた。」
雑談に広がりそうだった所を軌道修正、詠斗が続ける。
「今日からは個性の訓練と体術を並行してやるといい。ただ、個性の訓練は、今は出力を上げようと考えないこと。君達の個性に、向き合ってみるといい。」
「なんでだ、普通出力あげることに注目するだろ。」
「いい質問だ、焦凍。」
当然の疑問だ。個性を扱う上で威力は最重要事項だ。それもこれもオールマイトという、火力の頂点がいるからにほかならないのだが。
「そうだね、出久君のお母様を例にだそう。」
「え、なんで?」
いいからいいから、と不服顔の緑谷をそのままに話を続ける。
「出久君、君のお母様の個性は「物体を引き寄せる」だね。では、これの出力を上げるにはどういう訓練を行う必要があるかな。」
「えっと……重いものを引き寄せ続けるとかかな。個性だって、身体機能の一部だから、酷使し続ければ強くなるはずだよ。」
「正解だ。では、さらに深く個性と向き合ってみよう。」
黒板に「緑谷母」と「物」を書くと、そこに線を引いていく。
「引き寄せる個性。この時、引き寄せる対象から見て、何に引き寄せられていると思う、電気。」
「え?そりゃ、緑谷の母ちゃんだろ?」
「当然、そうだ。ここで考えをこう変えてみよう。引き寄せる……つまりは『引力の操作』が個性の本質と考えた場合に、その対象はどうなる。」
「…引力の操作……あっ…そうか…!」
「…なるほど、逢魔さんがよく言う『個性の本質』と言う言葉はそういうことだったのですね。」
気がついた八百万と緑谷に、流石と指を鳴らした詠斗は、答えてくれと2人を指名する。
「引き寄せる、が強すぎて盲点だったけど……自分に対する方向に引力を操作できるなら、その逆も…!」
「つまりは、引力の発生源…もしくは、引き寄せるベクトルの操作が出来る可能性がある…ということですわね?」
「その通り、こんな感じに、使い方によって強力になる個性も存在する。ま、できるかは話が別だけどね、覚醒を経た個性なら…と言ったところかな。」
いい機会だ、と黒板に新たな文字を書き込みながら、説明を続ける。
「覚醒点と言うのは読んで字のごとく、個性の覚醒を意味する。個性が単一の使い方ではなく、より広い意味で拡張性が生まれたり、出力が大幅に上がったりする。一種の進化だと思ってもらっていい。」
覚醒現象と呼ばれる、個性が持つ可能性。個性によって様々な変化が起こり、威力の急上昇、拡張性が生まれる多角的な使用方法が可能になる現象の事だ。
未だ未知の部分が多い個性について、因子のエネルギーすらも感知できる詠斗は、個性というモノについては専門家レベルだ。
「そんなものがあるんだ……!」
「個性の酷使、著しい感情の昂り、所謂ゾーンに入る等で特定のホルモンが過剰分泌される事で、個性因子の破壊と再構築を起こし、個性因子が変形、変質する……個性暴走の亜種と考えている。ただの個性暴走ではなく、著しい拡張性や、出力の大幅な上昇が起きる、好転反応だ。でも、コレは正直トリガーが何かも定かじゃない。人によって個別に用意されている物の可能性もある。」
「やべぇ…何言ってんのか全くわかんねぇ。」
「個性因子の破壊と再構築…?聞いたことありませんわ、どこの論文に載っている研究でしょうか…?」
「公開されてる論文には載っていないよ。僕が実例を1人だけ目撃してね、その時観測した状況と、目視した個性の変質を元にした推測に過ぎない。本格的に覚醒後のあの人とは僕も戦いたくない。仮想のエネルギーを持ち出してぶん殴るとか意味わかんない。」
「実例が…!それは凄いな……しかし、逢魔君が戦いたくないという程の人が…」
「エイト君は個性因子の変化が起きる瞬間を直接見れるからそういう分野にはめっぽう強いの!!特に、人体の中でしか起きないような物は!」
「っと、大きく脱線した、覚醒点の話なんてするつもりじゃなくて…個性は使い方次第でどうにでもできることが多い、よく考えて、向き合ってみるといい。」
ヒントは終わりだ、頑張ってね。と立ち上がろうとした瞬間、失った手がまだあると錯覚した詠斗は、手を着こうとしてバランスを崩す。
いの一番に反応しようとした被身子よりも早く支えられた詠斗は、右側にいた人物に礼を言った。
「おっと……どうもバランスが取りづらくて…すまないね───────優雅。」
「気にしないで欲しいな☆」
「……感謝するよ。」
いつも通りな青山をジッと見つめた詠斗は、そのまま感謝を述べる。その様子に、クラスの皆がヒヤリとしたのか、また騒がしくなった。
「おいおい!おうまぁ!お前、気ぃつけろよ!?」
「一応けが人なんだしさ〜。」
「一応ってなんだ、普通に怪我人だ。」
「も、もう…エイト君!気をつけて!」
「ごめんね、被身子。それじゃあ、みんなをよろしく……あ、あと今年の体育祭、最終戦はコスチュームとサポートアイテム全員有りだから、そこは承知しといてね。サポートアイテムとかも、考えておくといいよ。作りたいなら、サポート科の発目明を尋ねるといい。パワーローダー先生にも話は通してるから。」
『へぇ〜ぇぇぇぇええッ!?』
ひとつ被身子の頭を撫でて謝った詠斗は今度こそ騒がしくなった教室を出た。夕暮れ時の校門前で立ち止まった詠斗は、少し驚いた後に目を閉じて、らしくないじゃないかと声を漏らす。
「心配……という訳じゃなさそうだね、勝己。」
「ケッ、オメェにんなの必要ねぇだろが。」
校門の物陰で待っていたのか、爆豪が詠斗に向けてガンをたれながら、これまたいつも通りに語気強めに口を開く。
「体育祭出れんだろうな、能面野郎。」
「当然だとも……これでも、みんなと戦える事は楽しみにしている。」
「…全力も出せねぇテメェなんぞに勝ったところで、俺は嬉しくもなんともねぇ…!!俺が目指すのは完膚無きまでの1位だっ…!」
その言葉を聞いた詠斗はなるほどね、と目を細めた次の瞬間、爆豪の目の前から消失する。
「なっ!?」
気がつけば、爆豪の背後に立つ詠斗が、爆豪の項に指先を突きつけていた。
「……っ!!?」
「驚いた、初動だけ追っていたね。しかし、言っておくが、今のは純粋な技術と僕の素の筋力だけの移動だ。今のを目で追うのが精一杯だった君の程度はそんなもんってこと。」
「っざけんな……!個性も使わずに、んな事出来るわけっ…!」
「信じる信じないは勝手だが…被身子なら余裕で対処しただろうね。あの日から、変わらず君は蛙なんだよ。」
ギリっと奥歯を噛み締めた爆豪を見て、踵を返して平然と帰っていく。
「……弱者には強くなる手段も選べないし、選ぶ権利すらない。なんでも使って強くなって、初めて選択肢が与えられるんだよ。プライドで固めて、我武者羅に一人で足掻くことが、本当に『強さ』なのかい。」
「…!」
「孤独に、孤高に生きる事はできるだろう。だが、人は結局、本当の意味で『一人』では生きれない……僕ですらね。」
「君が進む道に求められる物くらいは、はっきりその目で見なきゃダメだよ。」
じゃね、とヒラヒラ手を振った詠斗に振り返ることすらも出来ず、拳だけを握りしめた爆豪は、しかし獰猛に笑っていた。
弱者、明確にお前は弱いと突きつけられた。A組の実力分布は、あの二人が突出しているだけで、他に大した差はない。その中でも、おおよそ上位に居るとはいえ、だからこそ実力差を痛感してしまう。
だからこそ、燃え上がる。
「上等だ……!」
口車に乗せられていることなどわかっている。だが、爆豪は燃えたぎる闘志で、その事実を飲み込む。
そうだ、その通りだ。もうわかっている、プライドだけでは、今の自分では到底2人には届かない事など。
「のせられてやるよ…テメェに…!!」
校門に向いていた足を反対に、教室に向ける。プライドも今は全部、全部捨てて足掻いて、漸く届く頂点。
体育祭まで、残り1ヶ月。各々が、それぞれの形で己と向き合い、個性と向き合い、頂点に座る2人に喰らいつかんと、足掻き藻掻く。
「おら始めんぞこらァッ!!どいつから俺にぶっ殺されてぇんだアァッ!?団子頭ぁ!相手しろやッ!!」
「イヤです、こっち来ないでください!顔がかあいく無いです!」
「新参のくせに顔デカすぎんだろこいつ!?」
「顔面東京ドームだな。」
「誰が顔面敷地面積代表例だコラァ!!!」
「なぁ渡我。お前、自分の個性を見つめ直すって、どうやった。」
「ショート君!えっとえっと…私の時は、自分の出来ることを一旦書き出して、片っ端から試したかな?でも、ショート君の場合は、出力の調整に目を向けた方がいいかも…?」
「それは、なんでだ?」
「単純な個性は拡張性が低い代わりに出力の調整で色んなことができるよ!だから、ショート君は継戦能力とか、氷の硬度とかに目を置くといいかも!」
「デク君っ、うち、今こんなサポートアイテム考えとるんやけど……どう思う?」
「えっ、あっ、凄い、麗日さん、これもう戦うためにしか使えない気が…で、でもっ物凄く麗日さん向きの武器……アイテムだと思うよ!」
「なんで言い直したん?」
「私の場合は、純粋に創造の速度を上げる訓練をした方が良さそうですわね。」
「八百万君の個性は複雑に見えて単純だから、そこを伸ばすのが正解な気はするな!」
「飯田さんの個性も、単純故に出力上げが正解な気がしまわ。」
「私はどーしようかなぁ…正味、私ってパッとしない個性だからさ……サポートアイテムは考えないと…心音をもっと強く出せるような……心音を、強く……?」
「私もだよ耳郎〜…!逢魔の言う使い方っていうのも、少し考えつかないんだよねぇ〜。」
「難しいよねぇ…私なんて透明になるだけだし………あれ?私って、透明になってるのかな……?」
各々が自分の個性に向き合い、閉じこもっていた黄金の殻を叩き、孵化の時を今か今かと待っていた。
トガちゃんのUFOキャッチャーのプライズが完成度高くて震えてる。最近のってすごいのね…
次回は体育祭初戦まで書きます。