フヘンの愛   作:イベリ

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体育祭予選①

「うぅぅ…!緊張するよぉ…!」

 

「仕方ないとはいえ、これだけ注目されるって分かればいやでもそうなっちまうよなぁ。」

 

「ま、とはいえ……できる限りの準備はしてきた、平気だろ。」

 

「うわっ…二人のイヤホン最新モデルじゃん…あれ6万くらいするのに……」

 

「富豪やないかい……!!」

 

浮き足立っているのか、皆がソワソワと体を揺らしたり、落ち着きの無い様子を見せていた。

 

体育祭当日の選手入場前。控え室にて、ヘッドホンで音楽を聴きながら目を瞑って肩を寄せる詠斗と被身子。そんな二人に、轟が歩み寄った。

 

前を遮った影に反応して、2人が目を開く。

 

「……なにか、僕たちに用かな。」

 

「ショート君…?」

 

轟が二人の目の前に立ち、拳を握って何かを言い淀むように目を伏せてから、真っ直ぐに見詰めた。

 

「………お前達には、感謝してる。俺の個性、明らかに前とは変わった。それは、お前達のおかげだ。」

 

彼の入学当初の雰囲気とはまた違う、どこか穏やかな気配と言葉に、クラスの全員がその空間を見つめていた。

 

「…私達は、少しみんなの個性への解釈を広げただけ。その力は、元々ショート君の力なんだよ。」

 

「そうとも、感謝は…まぁ、取り敢えず受け取っておくよ。」

 

「……はっきり言って……それでも、俺じゃお前達には勝てないと、思っちまってる。」

 

「お、おいおい轟!ネガティブになんなよ!確かにちょっと自信ねぇけど…!」

 

轟のネガティブな発言に切島が卑屈になるなと声をあげるが、それを轟が振り払う。

 

「切島も……お前たちも、わかってるだろ。今日の体育祭は出来レースだ……ただまぁ、言い分通りなら、そうならないように、お前達がした……そうだろ?」

 

「ネタばらしは避けるけど、そうだよ。」

 

「あっ、み、みんなをバカにしてるとか!下に見てるとかそういうことじゃなくて…!」

 

「今更そこは疑ってねぇよ……だからこそだ。勝つぞ、お前達に。」

 

ギラギラとした闘志。若干別の物も混じっているが、格上に挑む無謀を厭わないその瞳は、詠斗の気分を高揚させた。

 

そして、その言葉を聞いたクラスメイトも沸き立つ。

 

「……くぅ〜ッ!男だぜ轟!!俺も、逢魔、お前に挑戦する!」

 

「私も!ヒミコちゃん達にはお世話になったから!ここで成長を見せないと!」

 

「えぇ、そうですわね。今回はお2人に挑戦させていただきますわ!」

 

「ウチも、挑戦するよ。ヒミコちゃん、逢魔。」

 

「逢魔……今日こそ、届かせてもらう。貴様の深淵に…!」

 

「うむ!俺も、君達の指導の成果を見せよう!」

 

多くの人間に向けられる闘志。久しく感じていなかった、戦いへの期待。

 

ググッと上がった口角を吊り上げた詠斗に、皆が目を見開いた。

 

「……いいね、凄くいい。皆、僕好みの戦士の眼だ、だが今僕はそれに返す言葉がない……そうだね、宣誓にて君達の挑戦へ返答させてもらおう。」

 

「…うんっ!みんなの気持ち受け取ったよ!私も、宣誓で返すね!」

 

「逢魔君、ヒミコちゃん君…!君たちの宣誓!楽しみにしている!!さぁ、時間だ、みんな行こう!」

 

『オォーッ!!』

 

A組のメンバーは挑戦に1歩踏み出した。

 

控え室から会場までの通路、その時点で響く観客の歓声、熱気。会場に1歩踏み出せば、突き刺さる数え切れない視線の数々。

 

『雄英体育祭!ヒーローの卵達がシノギを削る年に一度の大バトル!!どうせてめーらアレだろこいつらだろ!!?敵の襲撃を受けたにも拘らず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!』

 

入場と共に聞こえる、とてつもなくやかましいプレゼントマイクの煽り。

 

注目が一点に集まる。気が引き締まる。だが、全員のその顔には笑みがあった。

 

「ヒーロー科!1年A組だろぉぉッ!?」

 

「おいおい…やり過ぎだろ…なぁ、爆豪?」

 

「いんだよこれぐらいで…ただただ上がるわッ…!!」

 

『B組に続いて普通科C・D・E組……!! サポート科F・G・H組も来たぞー! そして経営科……』

 

「明らかに差ァつけられてら…」

 

「はぁ……マジだる……」

 

A組に向いたヘイト。しかしそれでも、その敵意すら跳ね除けて、堂々と進む。

 

全員が並んだ頃、冗談でしょ?みたいな露出のヒーロースーツで現れたのは、ミッドナイトだった。

 

「うわー…今年あの人か……これ生放送だぞ。」

 

「なんでだよ逢魔ッ!お前はあのスーツの魅力が分かんねぇのか!?」

 

「いいかい、実。この世には2種類の(以下略」

 

「うるせぇお前ほんと、ほんとによォ!!」

 

「ふっ、持たざる者のなんと悲しき事かな……」

 

「コロスッ!!」

 

「エイトくん…いつもよりお喋り…っ!」

 

『そこっ!静かにしなさい!ほら、選手宣誓!代表、渡我被身子さん、逢魔詠斗君!』

 

「はい。」

 

「はい!」

 

「今年は逢魔とヒミコちゃんなんだな。」

 

「あぁ…本当はかっちゃんだったらしいけど…ほら…」

 

『あぁ…』

 

「んだクソ共、何が言いてぇ……!!」

 

『そう言うとこだよ。』

 

「ではお嬢様、お手を。」

 

「うぅ…ちょっと恥ずかしい……」

 

隣あった被身子に、詠斗はリードするように手を握ってフワリと台まで飛んだ2人は、着地後にそのまま、せーの、と声を合わせながら、定型文を叫ぶ。

 

「せんせー、僕たち〜」

 

「私達はぁ〜!」

 

『スポーツマンシップに則り、正々堂々と競い合います!』

 

パチパチパチとまばらに起こる拍手。定型文の宣誓なら、こんなものだろう。本番は、ここからだ。

 

「ミッドナイト先生!みんなから貰った挑戦状の返事をしたいの!少し時間をちょーだい!」

 

「……!いいわよ!」

 

好み!と小声で叫ぶという器用な芸当を披露したあと、マイクを被身子に渡す。

 

「…えっと、えっと……私!この1ヶ月!みんなの事を見てきた!いっぱい頑張って、誰にも負けないように特訓してたよ!A組、B組も!だからその成果を、私達に叩きつけて!」

 

少し拙い彼女の挑戦状への返答に、皆がホッコリとしながらも、次の瞬間にはA組、B組の雄叫びが響いた。

 

「任せろヒミコちゃん〜!!」

 

「叩きつけてやるからなぁ!覚悟しとけぇ!」

 

「アタシらB組も!あんた達に成果を叩きつけてやる!」

 

パァっと顔を晴らした被身子が、ぴょんぴょんとみんなに手を振る姿に、観客たちも拍手を送った。

 

笑顔のまま被身子が詠斗にマイクを渡すと、ほんの少しだけ口角の上がった詠斗の表情に、緑谷と被身子、そして八百万の勘が警鐘を鳴らす。

 

(((嫌な予感がする(しますわ)……!)))

 

「あーあー、被身子が素敵な返答をしてくれたから、僕からも、君達の挑戦状に応えよう。」

 

シンっ、と静まった会場、その場にいた人間全てが詠斗を見ていた。

 

「僕がこの学校に入って今まで……何を思っていたか、わかるかな。」

 

「『退屈』だ」

 

あぁ、退屈だった。被身子との家での地下室でやる模擬戦が、今までのささやかな楽しみであった。

 

「出される課題も、僕と被身子にとっては容易く越えられる物ばかり……あぁなに、君達の指導は嫌々やっていたわけではない。それでも、被身子以外と競争のない毎日に、退屈を感じていたのは事実だ。」

 

退屈が、今日覆るかもしれない。感じたことのない、腹に燻る熱が、詠斗の心を踊らせていた。

 

「君達の訓練の様子は、毎日被身子に聞いていた。内容や結果までは聞いていない、どんな様子だったかくらいさ。だから、君達がどう強くなり、どう変わったのか……被身子と同じになるが、僕に魅せて欲しい。」

 

「どうか、今までの時間が無駄であったなどという事を、僕に思わせないでくれたまえ。」

 

「君達の挑戦を、僕は真正面から受け止めよう───────逃げも、隠れもしない。」

 

ビタっと、緑谷と目が合った。

 

あぁ、本当に期待している。平和の象徴、その後継…今はまだ殻を破る前だが、どのように化けるのか、本当に楽しみだ。

 

「死力を尽くして、来るといい。」

 

以上、そう締めくくったその場は重い緊張、そして溢れる戦士たちの闘志に、燃え盛るように熱された。

 

そんな場に水を差すように、あっ言い忘れてた、と詠斗が付け足す。

 

「2つ、言い忘れていた。1つ、僕は片腕だが……君たち相手に両手も必要ないかな、と思ってね……やばいと思うまで、義手は使わない事にしたんだ。」

 

『は?』

 

「2つ目、普通科、サポート科に警告だ。今年の雄英体育祭は過去類を見ないほど苛烈な物になるだろう。自信が無い、或いは痛い想いをしたくないのなら……今のうちに棄権することをおすすめする。正直、次に進まれても邪魔なんだよね。被身子も、君たちの事なんか眼中に無いみたいだし。」

 

『は?』

 

「…………あっ、ちがっ、そっ、そういう意味じゃないよ!!?」

 

ほんとに以上、と締めた詠斗に、被身子は頭を抱えた。恐る恐るみんなの方を見れば、案の定だった。

 

『このッ、逢魔ァァァァッ!!!舐めんじゃねぇぇぇぇッ!!』

 

『ヒーロー科が調子乗ってんじゃねぇぇぇぇっ!!』

 

「ははは、口は達者だね。でも悲しいかな、実力が伴ってない畜生の遠吠えは、虚しく、小さく聞こえるものだ。」

 

「え、エイトくんっ!?なんでこんな荒らすの!?私のイメージも悪くなったんだけど!?」

 

「いいじゃないか、やり甲斐があるだろう?僕らに退路はない、目指すは、2人揃っての優勝だけさ。」

 

「うぅ〜……そうなんだけどさぁ…」

 

もっとこうさぁ!と隣で猛る被身子を俵抱きにして列に戻った。

 

波乱の開会式を迎えた雄英体育祭。熱気が高まる中、ミッドナイトが第1種目を発表する。

 

「今年の第1種目は……コレよ!」

 

バンッ、とスクリーンに映された競技は『障害物競走』。

 

「所謂予選よ!毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!!コースさえ守れば、何をしても構わないわ!」

 

位置に付きまくりなさい!というミッドナイトの宣言と共に、全員が位置に着く。

 

スタートまで残りおおよそ15秒。

 

計11クラスの人間全てがその時間を今か今かと待ちわびる中、低く、冷静な声が響く。

 

『逢魔、渡我…お前達に、課題を出す。』

 

「相澤センセー?」

 

「………あー、なるほどね。」

 

その言葉にザワつく会場を無視して、相澤はいつものように解説席から2人に課題を出す。

 

『格の違いを、見せつけろ。』

 

騒然とするそれを聞いていた全ての人のザワつきがより一層激しくなっても、いつものねと、当然のように納得し、顔を見合わせて相澤に親指を立てた。

 

『了解!』

 

ニヤリと笑った相澤の顔を確認したところで、ミッドナイトが手に持つ鞭が振り下ろされる。

 

その寸前、全員の足元が氷点下に叩き落とされる。

 

『スタートォォッ!!!』

 

ミッドナイトの宣言と共に、一斉にスタートする……はずだった生徒たちは、足をその場に縫いとめられた。

 

「…ッ!?うご、けねぇ!?」

 

「な、なんで……ッてか、寒っ!?」

 

「なんだこれ、蔓みてぇな氷が纏わりついてる!?」

 

「つか、硬ッ!?何だこの氷!?」

 

全ての生徒の足元に、蔓のように伸ばされた氷が絡み付いていた。

 

「【霧氷蔓縛】逢魔じゃねぇけど……雑魚は、邪魔だ。」

 

第1関門、そのずっと手前。スタート地点からふるいにかける。

 

この1ヶ月の訓練により会得した、詳細な出力調整により創り出された氷による捕縛技。氷の精度、硬度の全てがレベルアップしている。

 

しかし、轟は知っている。なにもこの1ヶ月間、何も自分の成長だけを見ていた訳じゃない。

 

「───────そうだよな、お前達(・・・)はこの程度じゃ拘束できねぇ。」

 

『当っ然!!』

 

A組、B組の全員がその攻撃を躱し、轟の背中を追っていた。

 

決して舐めていた訳では無かったが、この程度で脱落していては話にならない。

 

そう考えた矢先、轟の真隣を緑の影が通り抜けた。

 

「───────ッ!?」

 

「お先に、失礼するよ、轟くんッ!」

 

とてつもない速度で轟の真隣を抜けた緑谷が一気に先頭に躍り出た。

 

「緑谷ッ……!」

 

すぐさま氷を生み出そうと構えたが、既に射程外。切り替えてすぐさま緑谷に追いかけた。

 

『波乱の体育祭!初手から派手にブッパしてふるいにかけた轟の試練をものともせず!ちょっと地味目!ダークホースの緑谷出久が前に躍り出た!!実況はプレゼントマイクと、イレイザーヘッドでお送りするぜ!!』

 

『俺は渡我と逢魔に課題を伝えに来ただけだ。』

 

『おーっと!ぶっちぎり先頭の緑谷!既に第1関門に突入!!』

 

『さあ第一関門!!まずは手始め─────ロボ・インフェルノ!!!』

 

「っ!アレは入学試験の……!!」

 

目の前に聳える、苦い思い出達。あれ一体で数億はくだらないだろうに、いったいどこから資金を調達しているのだろうか。

 

閑話休題。

 

一瞬の躊躇の後、緑谷は眼前に立ち塞がったロボに躊躇なく突撃。

 

脚力の強化のうち右脚を一瞬で解除し、瞬時のうちに右手に移動させる。

 

「ワン フォー オール ペネトレイト…15%……!!」

 

『標的ハッケンッ!ブッコロ───────』

 

「───────スマッシュッ!!!」

 

ロボの顔面ど真ん中に渾身の右ストレートを叩き込み、頭部諸共吹き飛ばす。

 

『先頭緑谷!早速ロボを撃破!随分成長したんじゃねぇの!?なぁ!イレイザー!?』

 

『…まぁ、当然だろ。』

 

この1ヶ月間の特訓により、個性のエネルギー制御、瞬時のエネルギー移動を物にした緑谷は、ひと皮もふた皮も剥けていた。

 

(行けるッ!常時15%の強化部位を移動させながらのパルクールも随分慣れてきた!!)

 

元を辿ればオールマイトの力。15%でも人智を超えた力だ。異形型や増強系、防御特化でなければ容易く制圧できるだろう。

 

このまま、このまま、彼に、彼女に成長した自分を見せてやりたい。

 

再び脚に集中し走り出した瞬間、背後からとてつもない爆発の衝撃と、極寒の冷気が襲う。

 

「───────ッ……あぁそうだよ…くるよな、君達は……!!」

 

「待てや…ッ……クソデクァッ!!!」

 

「そのまんま行かせねぇよ、緑谷……!!」

 

詠斗、被身子を除いたA組上位層が、緑谷の背後まで迫っていた。

 

『開始五分でデッドヒートォォォッ!いつも白熱はするがここまでのは見た事ねぇ〜!!あれ?つか、逢魔、渡我リスナーはどこいった?』

 

『あそこでたこ焼きとチョコバナナ食ってるぞ。』

 

「チョコバナナが美味しい!あっ、見てみて!イズク君強くなったでしょ?」

 

「確かにね、見違えたよ。たこ焼きも美味しいよ、ほら、あーん。」

 

「ちょっ、まってっ、エイトくんっ、アっツい!!!今日テンション高いねっ!?」

 

『仲良く軽食ゥゥゥッ!?何してんだあいつら!?』

 

『格の違い、見せてんだろ。』

 

レジャーシートを地面に敷いて体育祭会場の外で買ってきた軽食を仲良く食べていた。カメラに気がついた2人は、カメラに揃ってピースサインを向けた。

 

今も白熱するレースを眺めながら、詠斗はこの後の時間に思いを馳せる。ごうん、ごうんと炉心の強い拍動が耳に響く。

 

走っていく教え子達を見つめる目は、被身子から見ても、いつもよりずっと力を感じた。

 

「早く……この退屈を、覆してくれよ……なぁ、出久。」

 

「……………」




「そういえばさ、事故みたいなもんなんだけど次元渡航の術式ができちゃったんだよね。」

「………え?」

「向こうで友達もできたからさ、今度被身子も一緒に行こうね。アンカーはもう渡してるし、いつでも行ける。とても今の世界に近い場所だったから、それほどギャップはないよ。」

「ちょ、ちょっとエイトくん…!?」

「あと、全員…というか、ものすごく少数らしいいんだけど、個性じゃない特殊な異能を操る人達がいてさ……



『呪術師』って言うんだって。そのせいか変な化け物もいるけど。」

「サラッととんでもないこと言わないで!?」



呪術廻戦とのコラボ、書きたいね、いつか。
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