フヘンの愛   作:イベリ

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オリ展開が思ったよりも好評でちょっと驚いた。
好評なので頑張ります。

ごめんなさい、本戦は次からです。

そして、お ま た せ ♡

と が ヒ ミ コ


それぞれの事情

控え室から会場まで続く連絡通路、轟に呼び出された被身子と緑谷は、困惑しながら彼の後を着いてここまで来ていた。

 

「……渡我、逢魔どこにいるか知ってるか。」

 

「えっ、えっと……なんか、用があるってどっか行っちゃったけど………」

 

「……そうか。まぁ、いい。あいつには、少し前に話してたことだ。」

 

そして、沈黙。潜在的根暗の被身子は、轟のこの空気が苦手だった。普段はこうじゃないのに、なんとも言えない表情のままこちらを見る彼が苦手だった。

 

(な、なんなんだろう…?なんか、こう、ポジティブな話じゃないような…い、イズク君…!どうにかしてよ!)

 

(何その視線!?む、無茶振りしないでよ…!)

 

目で会話する2人に気付いているのかいないのか、轟はそのまま話し始める。

 

「今回の体育祭…正直驚いた。チーム戦が最終戦になるなんてな。」

 

「あ、えっと、それはねっ、私もエイトくんもそうだけど…人には限界があって、オールマイトには誰もなれないから、強い1を見出すんじゃなくて、強いチームを作るべきって私たちの方針というか……」

 

「あぁ、なるほどな……お前たち以外って注釈はつくだろうが。」

 

「うぐっ」

 

少し刺々しい彼の言葉が胸に突き刺さる。それにしても、一体何が言いたいんだろうかと、被身子は身構えてしまう。

 

「……俺の成績……正直、俺はみんなを舐めてた…自分の力を過大評価して……その結果がコレだ。最後のトップ争いにすら、俺は入れなかった。使わねぇと、決めたはずの左が……これが俺の限界だと囁いてる……」

低く、暗い声音。被身子は知っている、この感情を。どろりと身体中に纏わりつき、離してくれない。暗い暗い、負の感情。

 

「俺の親が、エンデヴァーなのは知ってるよな。」

 

「えっ?う、うん…さすがに知ってるよ……ねぇ、渡我さん。」

 

「ごめんなさい知りませんでした。」

 

「嘘でしょ?」

 

轟の事は、学校ではとてつもなく有名だった。何せNo.2の息子だ。それは話題になる。しかし、この女。いい意味でも悪い意味でも、他人の家庭事情や噂話は右から左に流れていた。

 

唯一、緑谷と八百万だけは家庭を知っているが、友達の家庭など態々知ろうとしないだろう。

 

ポカンとした轟は、すぐに戻り話を続ける。

 

「……そうか。まぁ、いい。俺はエンデヴァーの息子なんだ………エンデヴァーは知ってる、よな?」

 

「さ、流石に知ってる!」

 

「それなら、いい。万年No.2のヒーロー……親父は極めて上昇志向の強い奴だ。ヒーローとして破竹の勢いで名を馳せた…だからこそ生ける伝説、オールマイトが目障りで仕方なかった……らしい。」

 

空気が、氷点下に変わる。隣の緑谷を見れば、彼は轟の気配に気圧されてしまっていた。

 

「親父はオールマイトを超えようとしたが、自分ではオールマイトを超えられねぇと気付いて、次の策に出た。」

 

「自分では越えられない……ショート君に、託した…ってこと…?」

 

「あぁ……個性婚。知ってるよな。」

 

2人は、同時に目を見開いた。

 

『個性婚』超常黎明期から世代が進んだ、第二・第三世代と呼ばれる層で生じた社会問題。簡潔に言えば、産んだ子供に強い個性が発現するように、配偶者を選ぶことだ。

 

被身子自身、人の事情に深く関わる質でも無いため、どういう形であれお互いが納得した末の結論であるのなら、それも構わないと思っている。

 

だが、社会問題になる程度には横行し、納得できぬままに配偶者を決められた男女がいたのは確かだ。

 

「実績と金だけはある男だ……親父は母の親族を丸め込み、母の個性を手に入れた。俺をオールマイト以上のヒーローに育て上げることで自身の欲求を満たす……そんな屑の道具には、俺はならねぇ。」

 

どこか痛みを抑えるように、轟は左側に痛々しく残る火傷跡を撫でる。

 

「記憶の中の母は……母さんはいつも泣いてた………そして、限界が来たんだろうな……『お前の左側が醜い』と母は俺に煮え湯を浴びせ、そのまま隔離……親父はヒーローだが、俺達のヒーローじゃなかった。」

 

「…………っ…!」

 

『人間じゃない子、産んじゃったッ……!!』

 

被身子の脳裏に、過去の記憶が蘇る。あの言葉が、きっと被身子にとってのそれだったのだろう。

 

ギュッと袖を握りながら、轟も同じなんだと、ほんの少しだけ安堵した。

 

理由は違えど、個性によって狂った人生。普通だと思っていた彼も、境遇は似ていて、普通になれなかったのだろうか。

 

「…ざっと話したが、俺が左を頑なに使わねぇ理由だ。俺は、右の…母さんの個性でトップになって、親父を否定する……お前の力なんて、必要ないと……!」

 

なるほど、と被身子はひとり納得した。訓練をしていても、彼は頑なに右の制御に拘っていた。炎を使えることは知っていたが、左の火傷跡から、過去に暴走させてしまい使わないようにしているのかと思っていたが、随分と重い話だった。

 

「……お前と逢魔に挑戦するって、朝言ったのも、それだ。」

 

「そう、なんだね……」

 

「……緑谷お前もだ。個性も似てるし、お前オールマイトに目掛けてもらってるよな。お前の上にも、俺は行くぞ。」

 

矛先が緑谷に向いたが、緑谷は目を瞑った後に、しっかりと前を見た。

 

「……君の過去も、想いも僕には重すぎる…僕は恵まれ過ぎているから……君のようにこの大会にかける想いも、高尚なものじゃない……それでも僕は、言うよ。全力を…ありったけを出さない君に、負ける訳には行かない。」

 

強い視線で言う緑谷に、被身子は彼の成長を感じ取った。

 

緑谷の言葉を煩わしそうに、顔を歪めた轟は踵を返した。そんな轟に、被身子が声をかけた。

 

「ショートくん。」

 

「……なんだ。」

 

「私は、貴方の意志を尊重する。ワタシとエイトくんのどっちと戦うのかは、くじになるから分からないけど……どっちにしろ、今ある全部を私達にぶつけて。」

 

慰めの言葉も、同情の言葉すら、欲しくない。それは分かってる。何よりも知っている。だから、ありのままを彼にぶつける。

 

「でも、ひとつだけ約束して。」

 

「………」

 

「誰かの命を助ける時に必要なら、必ず右を使って。」

 

被身子の否と言わせぬ空気に、轟は振り返らずにただ聞いていた。

 

「貴方の意地と、誰かの命を天秤にかけないで。それを約束してくれるなら、ワタシも……きっと、誰も何も言わないから。」

 

言い終わった被身子は、そのまま去っていく轟の背中を見つめながら、はぁっとため息を吐いた。

 

「……不思議だね。イズクくんママとか、モモちゃんのパパとママみたいな人もいれば、ショートくんのパパとママみたいな人もいる。」

 

「………うん。正直、僕は想像ができない……エンデヴァーの気持ちは……」

 

少しの沈黙、被身子は再び溜息を吐き、ボソッとこぼした。

 

「一緒にいても……幸せって訳じゃ、ないんだね………」

 

その呟きが聞こえた緑谷は、何も言えなかった。彼女にかける言葉がなかった、彼女の生い立ちを知っているが故に、投げつけられた言葉を知っているが故に。

 

ご飯いこっか、と笑った彼女は、ずっと儚く見えた。

 

 

 

「───────あぁ、焦凍の話聞いたんだ。」

 

詠斗と合流した被身子は、世話になった知人達に挨拶を終えたあと、二人でレクリエーションを眺めていた。

 

自分の中で抱えるのも少しモヤモヤとするものだから、意を決して打ち明けたら、なんともアッサリとした返答を返されるだけだった。

 

「……それだけぇ?」

 

「いや、聞いた時は驚いたよ。エンデヴァーがまさかあんなくだらないチャートを気にしているとは思ってなかったから。」

 

「んまぁ、それは確かに?」

 

「エンデヴァーはここ5年、事件解決率なら既にオールマイトを超えてる。加えてチームアップの精度、後進育成能力の高さ。焦凍を見れば十分わかる。この2つに関しては明確にオールマイトが持てないものだ。エンデヴァーの精密な個性の操作は人間が到達するひとつの頂点。オールマイトは出力と現場IQが異次元なだけ。」

 

今後のヒーローが目指すべきモデルケースはエンデヴァーだ。となんでもなく口にした詠斗は、チョコバナナを貪った。

 

「あむっ……ふぅ……それに、戦闘能力も、火力面であればオールマイトが過剰なだけで、エンデヴァーレベルなら必要十分以上だ。機動力くらいかな、流石にあの個性じゃ高速移動はできないし。」

 

「でも、個性制御にしてはやりすぎじゃないかなぁって……あー、でも炎熱系とかって確か……」

 

「あぁ、思ってる通りだと思うよ。炎熱系だったり氷結系は個性事故が起きやすい。年間で見ても…確か120件だったかな。それだけの数の子供が個性によって死傷している。身体で覚えさせることは非合理・非情に見えて、最も効率がよく安全なんだ。」

 

それに、問題は別だと詠斗は指を立てた。

 

「問題は母親の方だ。」

 

「え?話聞く限りだと、結構被害者な気がするけど…?」

 

「あぁ、そこは間違いない……恐らく実家かな。被身子、焦凍の右の因子のエネルギー性質見てないのかい?」

 

「え?うん、そこまでは見てないかなぁ、制御にも問題ないから深く見てないし……でも、第5世代にしては出力がすごいなとは思ってたけど…」

 

轟の個性は、同世代の個性としては規格外であり、範囲や出力も第5世代に収まらないことは被身子も理解できる。

 

「気になってね、見させてもらったんだけど、世代自体は出久達と変わらないんだが、因子の強度は計算と推測でしかないが、おおよそ9世代並ってところかな。」

 

詠斗の言葉にほんの少しだけ間を開けて、被身子は驚愕に声を張り上げる。

 

「9世代!?まだ生まれてすら…………待って…異様に複雑な個性因子……私たちと世代自体は変わらないなら……血筋…血が濃い……?……もし、かして…」

 

「流石だ。気づいたかな?」

 

被身子は馬鹿では無い。伊達に勉強に割く時間が多いだけではなく、医学に関しては個性の都合上覚えざるを得なかった事と、詠斗が遺伝学や個性学に詳しい影響で、被身子も知見を蓄えていたが為に、最悪の真相に辿り着く。

 

「インブリード*1……人間でやるなんて、正気じゃない…!」

 

「ああ、正気じゃない。アレは近代…少なくとも50~60年近く掛け合わせが意図的に行われている。ハプスブルク*2の様に劣勢を引き続ければどこかでガタが来るはずなんだけどね……だが、焦凍には目立った障害や特性は見られない……ということは、僕の推測も強ち間違っていないのかも……ま、とにかく、前例があるんだ。血筋主義の思想だったんだろう。」

 

怖いねぇ、人の業は。と首を振った詠斗に、被身子は頭を預けながら自分を振り返った。

 

「……ワタシ、今まで自分よりも苦しい人はあんまりいないと思ってたけど……意外とマシかも。」

 

「ははは、そう思えるようになったのは成長かな。だが、不幸比べは不毛なだけだ。不幸の味は人によって様々だ、君には君の、焦凍には焦凍の味がある。どれだけ苦しいかも、等しく比べられるものじゃない。」

 

「それは、わかってるつもりなんだけどぉ……やっぱり比べちゃうのっ……エイトくんは違うかもだけど。」

 

「僕は己を不幸だとか思った事がないからね。父も母も、僕がここにいるのだから、いるのは間違いがないが、いなくて良かったとすら思っている。君たちの話を聞いてると、居てもいなくても面倒だし。」

 

なんだこいつ無敵か?と内心で呆れながら、会場を見回していると、何故かチアガールコスのA,B組の女子たちが見えた。

 

「…………なんか、みんながチアガールコスしてる!……あ、モモちゃんから連絡入ってた…!」

 

「んー?なるほ、発端は電気と実か、100嘘だね。」

 

信用がない二人の言葉を何故八百万は信じたのかと疑問を浮かべたが、1人だけ仲間はずれは面白くない。それを察したのか、詠斗は彼女の背中を押す。

 

「行きなよ。僕も君のチアガール見たいし。」

 

「えー、エイトくんは?」

 

「僕に着ろって?別にいいけど。誰よりも似合っちゃうから、みんなから敵視されちゃいs」

 

「よし行こ!すぐ行こ!」

 

「ふふ、食い気味。」

 

皆に合流した二人は、レクリエーションを楽しんだ。

 

そして、あっという間に時間が過ぎ、ついに本戦の時が来る。

 

プレゼントマイクがいつもの数倍気合を入れて、この体育祭を盛り上げる。

 

『Everybody お待ちかね!待ったろ!?観客!待ったよなぁ!ヒーロー科ァ!!最終戦は異例も異例!問題児、ただし最強の2人が体育祭をジャァァック!最強として!魔王として!立ちはだかるこの高い山を超える勇者は、現れるのかぁ!?という事で!早速抽選!!初戦Aブロック、魔王トガヒミコの領地に、初めに足を踏み入れるのは〜……!!こいつらだぁぁっ!!』

 

ボックスの中から引かれたのは『欠片』の文字。被身子と戦う勇者が決まった。

 

『最初に挑む勇者は!取陰切奈が率いる、欠片の勇者パーティー!さぁ!両雄共!特設ステージへGO!!』

 

セメントスが設置した特設ステージに立った被身子は、歓声に包まれる不思議な感覚を感じながら、ヒーロースーツに身を包む、目の前の友達を真っ直ぐに見つめた。

 

「ニッヒッヒっ……覚悟はいいかなぁ、ヒミコちゃぁん!」

 

「あれもいい…やっぱりあれも外せない…!迷う〜!」

 

「ケロ……2人ともテンション高いわ。私もお願いしようかしら。」

 

「Oh!ジャパニーズギャルはデントー!meもギャルしたいデース!!」

 

そんな被身子とは裏腹に、どこか浮ついたような、テンションがおかしくなっている取陰と芦戸は、ニヤリと被身子を見ていた。

 

「な、なんかテンション高くない……?」

 

『えー、では、勇者には戦いの前に口上を言ってもらいます。』

 

「はぁ!?聞いてないんだけど逢魔!アンタ毎回ライブ感で物事進めんのやめてくんない!?」

 

『聞こえねぇ〜。さ、どうぞ。』

 

「あはは……」

 

被身子も聞いていなかった余興に、仕方なしと切奈がビシッと被身子に指を突きつけた。

 

「ヒミコちゃん!私たちを鍛えてくれた事、すっごい感謝してる!私も、みんなも一気に強くなった!でも、それはそれ、これはコレ!初っ端だけどゴメンね!倒すわヒミコちゃん!」

 

その言葉に、柄にもなくワクワクしてしまった被身子は、指を鳴らし、一瞬でヒーロースーツに変身する。

 

「ワタシ、ワクワクしてるの……ねぇ、セツナちゃん…楽しませてね?」

 

ニヤリと笑った被身子に、切奈と三奈が同じような表情を返す。

 

「勝ったらウチら好みに着せ替え楽しみだねぇ〜!」

 

「………ん?」

 

「ヒミコちゃんギャル化計画の許可を得たから!」

 

「許可してないよ!?」

 

『僕がした。勝っても負けてもギャルにしてください。金に糸目つけない。』

 

「エイトくんっ!?」

 

「太っ腹ぁ〜!んじゃ、始めようかぁ!?」

 

「調子狂うなぁ!もうっ!」

 

両者が構えたと同時に、審判を務めるミッドナイトが火蓋を切る。

 

 

『さぁ!準備はOK!?では、第1試合、開始ッ!!!』

*1
家畜や愛玩動物の近親交配の事。あえて血を濃くすることで、優れた能力を引き継がせることが出来る。しかし、実態は劣性遺伝を引くことが多く、隠れた病因を発症することもあるため、奇形、虚弱体質などのリスクが伴う。

*2
近親交配を何代にも渡って行っていた影響でとんでもねぇアゴになったヨーロッパの王家




「ふっ、さすが僕。何を着ても似合うね。」

「アッハッハッハッハッ!!顔面と身体が乖離しすぎ〜!!」

「ぶっふぉ、ふひっ……ッ…カハッ……!!」

「キョーカちゃんがエイトくんのチアコスで死にかけてる!?」

「ざっけ、ムキムキ過ぎんだよ!ツインテールもやめろ!いいもん見れたと思ってたのにお前のせいで台無しだよ!!変なもん見せんなよ!!」

「ふれー、ふれー、み・の・る♡(裏声)」

「クソがァっ!!!オイラの身長的に全部見えるんだよ!!」

「ばっふぉッ!!───────……………」

「キョーカちゃん!?起きて!キョーカちゃぁぁぁぁん!?」

「最っ低ですわ……」

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