ヒミコの留年と同時に決まった、詠斗の推薦。
中学の担任に報告すると
『お前もう別に来なくていいぞ!出席してたことにしてやる!あ!テストは受けろよ!あとこの日とこの日だけ学校こい!それ以外は免除!渡我と訓練してろ!よっしゃー!これで俺も雄英推薦入学者の担任になれたぜー!!給料up間違いなし!』
とご満悦の様子。あの担任は義務教育をなんだと思っているのだろうか。まぁ、学校も推薦、しかもスカウトという形のおかげで特に言うつもりもないらしい。そうして自由に使える時間が爆増し、ヒミコの訓練も捗る捗る。まだ1ヶ月しか経っていないが、被身子のやる気は留まるところを知らず、今のところ被身子改造計画は2週間の余裕が出来ている。
入学時点で既に彼女の実力は頭1つ抜けていたのだ。効率的に鍛えればまぁこうなる。
残りはゆっくりのんびりやっていくことにした二人は、最近お気に入りの早朝散歩に出かける。
「エイト君!今日は海に行こうよ!」
「まだ4時だけど。最近早くに起きる必要ないから昼夜逆転しちゃったね。」
「1年間公認夏休み!最高ー!」
「これちゃんと戻れるかな。」
若干心配な詠斗は、全く気にする素振りもない被身子の手を握って、駆け出そうとする彼女の手綱を握らなければ普通にあっちこっちに行ってしまう。
ほら、と手を握ればテレテレと顔をほんのりと赤く染めて体を寄せてくる。小型犬の様にヤンチャにじゃれてくる彼女は非常にキュートだ。
「ここからの近場だと……多古場海浜公園かな?たしか、桟橋の先に展望デッキあったし。」
「じゃあそこ!そこがいい!早く行こ!」
「いや待ってここから10キロくらい離れてるけど……まぁ、その程度なら平気か。1時間ってところかな。」
「ごー!!」
「はははは、引っ張らないでね。」
大型犬に引き回される飼い主の気分を味わった詠斗は、そのまま5キロ近く引き摺られたまま海に向かった。
約一時間の散歩の末、海岸までたどり着いた二人は愕然とした。
それは海の美しさに、ではなく圧倒的ゴミの量についてだった。
視界の端から端までゴミだらけ。スマホで調べれば海流やら何やらで元々ゴミが大量に漂着する場所らしい。さらに悪い事にそれに便乗し不法投棄する輩までいるらしい。見ればトラックやら、冷蔵庫等の流れるわけが無いゴミが散乱しているわけだ。
ハイテンションだった被身子はすっかり落ち込んでしまい、しょんぼり気味。
少し悩んだが、詠斗は良いことを思いつく。
「……被身子、とっておき。行こう。」
「えっ?エイト君、そっち柵!わわわわわっ!!?」
彼女の手を引いて走り出し、隙を見て横抱きにしながら柵から飛び上がる。
空中に躍り出た瞬間、詠斗の体が淡く発光する。
そのまま重力を無視しふわりと浮かんだ詠斗は、グングンと高度を上げて行く。
「とっ、飛んでる!?私たち飛んでる!!」
「新しく開発したものでね。お披露目はいつにしようかと思っていたんだ。」
「凄い…!私も飛びたいのです!と〜び〜た〜い〜!!」
「あぁ、勿論。家に帰ったら教えるよ。今は、これで良いだろう?」
モゾモゾと腕の中で動く被身子は、嬉しそうに詠斗の首にしがみつき眩しいほどの笑顔を見せてくれる。
これだけで、来た価値はあっただろう。
日の出に照らされ、水面が不規則に反射させる光に、眩しそうに目元を覆っていると、真下でガサゴソと動く影を見つける。
もしや不法投棄をしているのか。と考え、良くない事だとその場まで高度を下げる。すると
「ほら!走れ走れ!!10ヶ月なんてすぐだぞ!!」
「ハァッ…!ハァッ…!!」
教師見習いの八木が檄を飛ばし、モサモサ頭の少年にごみを運ばせ走らせている。
「あれ、八木先生だ。」
「と、誰なのです?見たことありません…」
ふよふよと浮きながら、その場まで飛んで行くと、2人に気がついた八木が驚愕し吐血。
「とっ、とととっ渡我少女に逢魔少年ッ!?」
「わっ、大丈夫です?」
被身子が駆け寄ると汗をダラダラと流す八木は、内心焦りまくりだった。
(Shit!!!?なんでここにおふたりさんが!?あ、でもギリギリ耐えた!まだ
なんとか真相の露呈はせずに済んだ。しかし、この場を見られたのは割とピンチ。
何せ一生徒に肩入れしているのだ。これは割とまずい。
色々と考えていると傍までよってきた被身子が、揶揄う様にひょこひょこと周囲を回りながらイイ笑顔を見せた。
「あれあれ〜?雄英の教師見習いの八木先生が1人の生徒に肩入れしてるみたいですけどぉ〜…いいんですか?」
「あわわわわわ…っ!とっ、渡我少女!この話は、な、内密にぃっ!」
「それはぁ〜、誠意ってありますよねぇ〜?」
「ぐぬぬぬぬッ……ええい!駅前のケーキ!それで手を打ってくれ!」
「やった!エイト君!今日はデザートにケーキなのです!」
「こら、先生を脅しちゃいけません。すみません、八木先生。」
「い、いやいや……そうだね、君たちここからそう遠くないもんね。私が迂闊だったよ。」
「そうですね。八木先生が迂闊でした。ケーキご馳走様です。」
「やっぱり君意外と愉快な性格してるなっ!?」
そう話していると、さっき海浜公園の外に駆けていった緑髪の少年が走ってきた。
「オールマイトォ!!」
『オールマイト?』
「ゴハぁッ!!?緑谷少年!リピートアフターミー!!『言い間違えました!!』」
「いっ、言い間違えました!!?」
血を吐きながらダッシュで駆け寄った
『す、済まない緑谷少年……ちょっとこの姿しか知らない関係者に遭遇してしまった…!』
『えぇ!?大丈夫なんですか!?』
『ぎ、ギリギリ!!でも、そうだね……あの二人は有望な同級生になる!笑顔が素敵な渡我少女は去年の受験成績トップ!逢魔少年に関しては彼の為に特別推薦制度が作られた程の逸材!仲良くなっておいて損は無いよ!』
驚きの経歴に目を見開いた緑谷は、大声を出しそうになり、慌てて口を閉ざす。
『成績トップに、特別推薦!?な、なんでそんなすごい人達が揃ってこんな所に!?』
『あ、朝のお散歩らしい。あの二人とっても仲良しだから、常に一緒にいるんだよね……いやまぁ、彼らは家庭環境というか…いや、これは忘れてくれ!とにかく、彼らの前では私のことは八木と呼んでくれ!いいね、緑谷少年!』
『は、はい!』
「何話してるんでしょう?」
「さぁ。2人は師弟関係の様だし、秘密の話だろう。」
「ケーキは何がいいかなぁ?カァイイケーキがいいのです!2段重ねの!」
「もしかしてホールで買わせようとしてる?」
なんだか家族がどんどん強かで欲深くなっている気がしてきた詠斗。しかし、彼女が満点の笑顔なのでなんでもいいかなとそのまま話していると、ふたりがこちらに戻ってきた。
「済まない2人とも。こちら、私の弟子!緑谷出久少年だ!緑谷少年!こちら、君の未来の同級生!渡我被身子少女と逢魔詠斗少年だ!」
「よ、よろしくお願いします!えっと、渡我さんに逢魔君!雄英の合格目指してます!緑谷出久です!」
「なら、来年は同級生か。逢魔詠斗、好きに呼んで。ほら、被身子も。」
「トガです!来年は一緒に頑張ってヒーローになろうね!イズク君!」
「わぁっ、あっはい!?はっ!?ご、ごめんなさい!僕、早くココ一帯を片付けないと!」
急激に距離を詰める被身子に困惑しつつも、緑谷は思い出したかのようにゴミを運び始めた。
「エイト君エイト君。手伝った方がいいかな?」
「ゴミを運んで体を鍛えているようだから、僕らが手伝うのはお門違いだね。」
「おぉ、よくわかったね!その通り!!彼は今、目指せ雄英合格!アメリカンドリームプラン!というプログラムを実行中でね!ぶっちゃけだいぶ無茶なことをやらせてるよ。」
それを聞いてはえ〜と感心する被身子とは裏腹に、詠斗は少し目を細めて八木を見つめていた。
「…先生は彼を
「いいや?まさか!彼は必ず合格する!させてみせるさ!」
八木の言葉から嘘は感じない。どうも本気で彼を鍛えているようだ。それにしては、随分と"無駄"な事をしている。
しかし、ふと思い出した。『人は無駄を好む』と本で読んだことがある。なるほど、そういう事かと納得した詠斗は、そのまま激励の言葉を送る。
「……そうですか。では、期待しています。実力はともかく、彼の心根は善良なようだ。必要があれば言ってください。お手伝いくらいはします。怪我、疲労の治癒くらいならできますので。」
「ありがとう!気持ちだけでも嬉しい!……しかし、君は私が誰かに肩入れすることは何も言わないんだね。」
「おかしなことを聞きますね。貴方は教師である前に人です。であるのなら、人に対する好き嫌いも当然あります。人は、感情の生き物とも呼ばれる。教師であれ、特に目をかける生徒がいようと特に問題はありません。露骨な贔屓があるなら別ですが。」
「あっ!イズク君!雄英の受験内容はロボの破壊です!アイテムは1個くらい持って行って平気なはずなので武器を用意しておくとバッチリです!」
「えっ!?あ、ありがとうございます!!」
最後に被身子から受験内容のネタバレを食らって面食らった緑谷を置き去りに、詠斗が地面に手を当てる。そのまま手を翳しながら上にあげて行くと、青白い光を放つ扉が現れる。
「では、僕たちはこれで。試験、頑張ってね。出久君。」
「…あっ、ありがとう!絶対、受かってみせるよ!」
「では先生!また、学校で会いましょう!その時にケーキ買ってください!」
「あぁ、はい。忘れてなかったね。わかったよ!楽しみにして置いてくれよ、渡我少女!」
それだけ聞き届け、2人は扉の奥に消えていった。
扉が閉じた瞬間、淡く青白い光の粒子になって消えていく。
その場には何も残らず、ただ静寂だけが残った。
「…き、消えた…ワープ…?扉を出すだけで場所と場所を繋げられるのか…!すごい希少な個性だ…!でも、最初飛んでいるようにみえたし移動に特化した能力…?でも、それだけで特別推薦なんて措置をあの雄英が作るとは…─────」
ああ、始まったわ。と八木の呆れが混じった笑いのあと、ハッ!と気づいた緑谷は、すみません!と勢いよく頭を下げる。
分析と考察。彼のいい所でもあり、伸ばせばきっと何よりの武器になる。しかし、今回に限って……あの二人に限っては、あまり触れるべきではないのかもしれない。
「……緑谷少年。」
「はい?」
「君は"個性がない"事で周囲に色々言われた事だろう。しかし、彼らは逆だった。」
「逆……?」
「そうとも、あまり吹聴するのは良くないんだけどね……彼らは、生まれ持った個性によって全てを失った。文字通り、全てだ。」
その言葉に、呆然とした後、そんなまさかと緑谷は声を上げた。
「そんな…あ、あんなにすごい個性を…それに、実力だって相当な物のはずです!なのに、どうして…!」
「私もそう思う。しかし、世の中と言うのは残酷だ。あの二人には、お互いしか家族と……最愛と呼べる存在がいない。」
「そん、な……」
「余計な詮索は、彼らの非常にパーソナルな場所にズケズケ土足で踏み込む事にほかならない。」
緑谷にとっては想像もできなかったのだろう。あれだけの強い個性だ。きっと将来だって期待されて当然のはず。それなのに、なぜ彼等は全てを失ったのだろうか。
自分は、そういう人達にどのように声をかければ良いのだろうか。
持たざる自分では、持つ者の苦悩など想像ができないから。
八木はそうして思い悩み俯いた緑谷の頭に、ポンと手を置く。
「そういっても。君は……彼らが心のどこかで助けを求めていたのなら、踏み込んでしまうのだろうね。だから、私は君を後継に選んだ。」
「オールマイト……」
悲しそうに呟いた少年の頭をワシワシと撫で回し、力強く拳を握り、
「私は1人だった。だから救う手が足りない。こぼれ落ちた命も、心もあった。だから、君は強い仲間を作り、手を取りあって、人々を救う新たな形の"象徴"となって欲しい!」
「……はい!オールマイト!」
「いい返事だ!さぁ!合格に向かって、ゴミ掃除再開だ!」
「ハイッ!!」
そうしてトレーニングを再開した緑谷が2人と再会したのは受験当日。一坪しかなかった海岸線だった。
「やあ、出久君。久しいね────まずはお疲れ様。」
「おぉ〜!イズク君、よく頑張ったね!途中で折れちゃうかと思ってたのです!」
「逢魔君に、渡我さん……?」
2人はなんでもないように、手を振りながらそこにいた。
トガちゃんはあの終わり方が至上なのはわかってる。けど、もっと青春出来る人生を歩んで欲しかった。