どう?弱いでしょ、という詠斗の言葉に、ポカン、としたクラスメイト達はいやいや、と否定する。
「逢魔君……それ多分ものすごく強い部類なんじゃ…?」
「それ、なんか強くね?」
「なぁ…?無限に使えるわけだろ?それ最強じゃねぇか?」
「逢魔君!自分を卑下する必要ないのではないか?十分に有用な個性に聞こえる!はっ!すまない!自己紹介がまだだった!俺は私立聡明中学校から来た、飯田天哉だ!」
「よろしく、天哉」
そうもっともな疑問を出した緑谷、上鳴、砂藤、飯田の4人に、そう思うよね普通。と指を鳴らした。
「残念ながらそうはいかなかった。僕の魔法はエネルギーを命令通りに動かすことで、現象が初めて発生させられる。何も命令せずにエネルギーを放出すると威力も何もないゴミ。」
こんな風にね、と放出したエネルギーは本当に細い紐のようなもの。これでは確かに威力も何もあったものではない。
「そもそもがエネルギーという目に見えない、触れない、そんなものだから、多分こんな感じなんだと思う。」
「いや、これはさすがに…」
「本当にこれだけなんだよ。魔法を使えるようになったのは本当に偶然。」
アニメの中で説明される魔力とあまりにも性質が似ていたため、好奇心で試したら本当に威力が上がったのだ。そこから、あらゆる方法を試したのだと。
「個性訓練においては、思いついたものはなんでも試してみるべきだよ。」
「1%のひらめき…という事でしょうか。」
「概ね正解かな。」
取られちゃったな。と内心で思いつつ、次の質問を待つ。
「じゃあ、聞くが詠斗よ。」
「踏陰、なにかな。」
「お前の詠唱や魔法陣はどう産まれた?俺たちが見た魔法陣は決して適当な形ではなく、何かしらの理が見て取れた。あれ程の技術、誰に教わったんだ。」
あー、と詠斗と被身子が反応する。
「あれは完全にエイト君の独学です。アイデアは私がアニメ見てる時に魔法陣使えばできそうって言ったのがきっかけで……」
「そこから、興味本位で作った理論がまさかの僕の個性に合致してね。動きを命令した設計図に力を流し込むと、設計した動きをなぞって、設計書に記載した現象を引き起こす。陣を1回作れば詠唱より速いから世話になってるよ。」
「なるほど…プログラミングに近しいですわね。」
「そういえば、ヒミコちゃんが唱えてた呪文って何語なの?聞いたこと無かった!」
「あれは確か古代の言語をベースにエイト君が自己解釈を加えて作った言語です!元々はそれを口で命令する事で魔法を使ってました!」
「正しくはエノキアンね。」
「エノキアン…エノク語だったか。天使から天啓を得て記された、神秘的な言語とされていたものか。流石に言語体系までは全く知らないな。」
「16世紀頃に発見されたものですわね。今では人工言語というのが通説ですわ。」
「百に天哉もよく知ってるね。で、なんでこれを作ったか、なんだけどね。命令に使う言葉によって、出力の強弱が決まっていてね。大体条件は2つ。死語である事、不変である事。さらに言えば、神秘が宿っていると最高。これらの要素が強ければ強い程に出力が上がる。多分ね。」
「多分なの?」
条件面に関しては推測でしかないが、あらゆる言語で行った検証の末、恐らくこれだろうと言うのが先の条件だった。
詠唱をしても、意味がバレにくいという理由もある。
そうしていると、うーむ、と瀬呂が顎に手を当てながら、わからんなぁとつぶやいた。
「特性・性質の付与ってのも、ちっとよく分からねぇな。お前の個性だいぶ曖昧じゃね?」
「それは俺も思った!曖昧っつーよりも、抽象的っつうか…」
「あぁ、それに関しては……そうだね、その場で出しているエネルギーを変質させている、と言うよりも心臓が生成するエネルギーを変質させてるって感じかな。」
そうだな、と両手の平を見せながら注目してて、と口を開く。すると、左手に極小の稲妻が迸り、みんなが目を剥く。
「おまえ…本当にお前…何ができねぇの?」
「彼女もいてイケメンで強ぇとかオイラ達どうやって勝つんだよ!?」
「勝ち目ねぇ〜…」
何に勝とうとしてるんだろうかと首を傾げながら、関係の無いことだろうと話を続ける。
「左手に雷を発生させるとき、僕の体に流れるエネルギーは、雷を発生させる性質と特性を持っている。」
そして、右手に炎を出せば、もうみんなは驚くのも飽きたと言わんばかりの反応をした。
「と、よく見て。左手。」
「はぁ?……あれ、雷は?」
揺らめく炎が右手にある代わりに、先まで音を出しながら迸っていた雷が消えている。
「こんな感じに、特性を付与した物は共存ができない。同じ特性なら、作ろうと思えば無限に展開できるだろうけど。」
「飽和攻撃……なるほどな。」
「へー……つーことはヒミコちゃんもこれできんの?」
「属性系は無理です!概念系の方が何故か私は得意!」
「概念系……?」
「例えば、エネルギーの停滞とか、固定。空間、現象に直接作用する特性だね。置換、補填とかは被身子の方が上手だよ。ほら、出久君は覚えてると思うけど、君のぐちゃぐちゃになったのを治したやつも補填の応用、他人に使うなら被身子の方が得意かな。」
「あ、あぁ……いや、その節は本当にお世話になりました…」
「これは多分私の個性が関係しているんでしょうが……あと、その応用で転移もできます!転移に関しては私は展開が早いだけで、距離とかをひっくるめるとエイト君に軍配が上がりますけど。」
「転移!?そういうものもあるのか……しかし、そうなると予想よりもずっと難しい能力だな。」
「んな、想像だとこう複数の属性を同時に使う賢者みてぇな戦い方ができるのかなぁと思ってたけど。」
複数の属性を多重に展開できるとなればそれこそ、漫画の賢者のような立ち回りができるのかと思っていた男子達は、少し拍子抜けしてしまった。
「ところがどっこいそれを踏み倒しちゃうのがエイト君なのです!」
被身子の言葉に、男子たちの目に輝きが戻った。
「僕の体は特別製でね。あらゆる特性を混ぜ合わせて付与する事で2つまでなら同時に展開ができる。」
詠斗が指先に魔法陣を展開し、雷、炎の2つの属性を展開すれば、常闇を含む男子数名がおおっ!と声を上げる。
「これを瞬間的に切り替えることで、複数の特性を使う場合にラグが生まれないようにするのは少し苦労したかな。」
「エイト君の場合この切り替えが無意識でできるのでほとんどラグもありません!あらゆる属性、特性の攻撃がゲリラ豪雨みたいにノータイムで降り注いできます!だいぶ前に本気でやられたときは泣かされました!今は割と善戦できます!」
「と言っても、雷だの炎は殺傷力高すぎて使う機会ないけど。」
「雷を全力で撃ったら砂が硝子になったって言ってたしね、逢魔君……」
『えぇ……なにそれ…』
パッ、と陣を消した詠斗はそろそろいいかな、と皆を見回して頷く。
「質問はもう良さそうだね。さて、そろそろトレーニングの話をしよう。その辺は僕よりも適任がいる。トレーニングのメニューはお願いね、被身子先生。」
詠斗のバトンパスに、フフンっ!と胸を張って、いつの間にかかけていた眼鏡をくいっと上げる。
「どっから取り出したのそのメガネ?」
「なっ!?いつの間にか俺のメガネがない!?」
「うわ、テンヤ君のメガネキツっ……おっほん…任せて!考えてるの!明日の放課後にトレーニング施設借りるから!今いる人の申請もしておくので、明日は放課後予定空けておいてください!」
『おー!』
みんながやる気満々の様子を見て、ご満悦の被身子はムフー!と明日の特訓メニューは既に考え済み。幸い明日はヒーロー基礎学がある。先輩に教えてもらったカリキュラムに代わりがなければ戦闘訓練。その時にしっかりみて皆の個性と現在の戦闘スタイル、戦う力を見極めなければと、ふんす!と意気込む。
「ヒミコちゃん…ケロ、ハスハスしてるわ。」
「気合入ってるだけだから、あまり気にしないであげてくれ、梅雨。」
「梅雨ちゃんと呼んで、逢魔ちゃん。」
「わかった、梅雨ちゃん。」
「ヒミコちゃん君!眼鏡を返したまえ!」
「それ、言いにくくないの飯田君…?」
ごめんごめんとメガネを返し、さぁ帰ろう!とみんなで帰路を共にする。
「そーだ!今日時間あるやつファミレス行こうぜ!やっぱ交流も必要だろ!」
そんな上鳴の言葉に、被身子は目を輝かせた。
「行く!絶対いくよデンキ君!ね!エイト君も行こ!みんなも!!」
「はいはい。わかった、わかったからそんなゆらさないで肩外れる。」
「うわぁ…!帰りにファミレス…!これがリア充…ってやつなのかな…!?お母さんに電話しなきゃ…!」
「ち、違うんとちゃうかな、デク君…?」
「ファミレス…私、初めて行きますわ。それも学友の皆さんとだなんて…」
「嘘でしょ?八百万マジ?」
「ケロ、ヒミコちゃん、とっても楽しそうね、透ちゃん。」
「うんうん!親しみやすくて良かったよー!」
「やっぱ二人ってお似合いだよね〜!ねぇねぇ!どうやって2人は出会ったの?馴れ初めは?」
「ん〜っと、私が8歳の時に公園で一人でいたエイト君を引っ張り出したのがキッカケです!」
「あの時は、僕も被身子も友達が居なくてね。」
「えー?ヒミコちゃんに友達いないわけなくない?」
「まぁ、色々あって友達ができにくかったというか──────」
そうして、その日はファミレスで19人揃って2時間ほど駄弁って解散した。
帰宅した2人は、ソファの上でテレビを見ながら今日の出来事を振り返っていた。
「今日は楽しかったねぇ…!ふふふっ…みんなでご飯を食べて、仲良しになって…お友達も、沢山できたよ…!楽しかったねぇ、嬉しいねぇ!」
「そうだね。本当に、初めての経験かもしれない。」
詠斗と二人でのご飯も良いが、誰かと大勢で食べるご飯が、あんなにも楽しくて、別れる時に名残惜しいものだなんて思わなかった。
若干興奮気味の被身子は、少し荒い息を整えながら、ソファの上で膝を抱え、悩ましげに体を伸ばし、今日の事に思いを馳せて、また思い出して笑う。
家に帰って楽しそうに、今日の出来事を振り返る彼女を微笑ましげに見ながら、詠斗は冷めてしまった紅茶を飲み干す。
今日は味の濃い物が多かったからか、少し味覚が鈍い。そう考えていると、被身子が下から覗き込むように詠斗に声をかける。
「……エイト君、やっぱり"わからない"?」
彼女の言葉の意味は、明言せずともわかった。
「んー、別に僕にとってはこれが普通だったし…それほど気にすることでも無い。特定の物は感じるようになったしね。あの空間は好きだよ、多分。」
そのなんでもないような言い様に、被身子は唇をキュッと結んで、エイトの胸に飛び込んだ。
急な彼女の行動に、なにか間違えてしまったかと思案するも、その後にすぐ、彼女が何に心を痛めたのかを理解する。
「……なんで、エイト君ばっかり、こんな目にあわないといけないのかな。」
「別に僕ばかりではないさ。コレに君が胸を痛める必要はない。僕の問題で、誰も関与する余地がない。もちろん君も、誰でもだ。」
「………」
より強く抱きついた被身子に、すこし言葉を間違えたかなと頭を搔く。優しい彼女は、この体の機能について異様に気負ってしまっている。
彼女のせいでもなければ誰のせいでもない。強いていえば個性のせいだが、それを恨むというのも意味は無い。先生風に言えば、合理的ではないと言うやつだ。
彼女のおかげで随分マシになったとはいえ、彼女が求める普通には遠いのだろうか。
昔からそうだ。被身子は詠斗にどこか負い目があるように見えていた。それがなんなのかまでは分からないが、彼女はそうだった。
そうして、わからないながらもゆったりと頭を撫でる心地良さに、ギュッと締め付けられるような胸の痛みを感じながら、被身子はウトウトと眠ってしまった。
緑谷であれば、彼女の心に寄り添い、理解できたのだろうか。上鳴なら、八百万なら、麗日なら──────
真似事は、少し疲れた。
その感想が内心で漏れた時、口元を抑えながら、理解する。
「あぁ、本当に。そういう物も、僕は母の胎内に置いてきてしまったのかな。」
ファミレスのお話とか、日常回の方がヒロアカはなんかもっと見たかった…番外で短いヤツ書こうかな。