フヘンの愛   作:イベリ

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とが、ヒミコちゃん


デモンストレーション

スタートの合図が流れ、デモンストレーションがスタート。屋内戦は屋外戦のように自由に、とは行かない。

 

目標の確保を優先とする場合、敵の確保を優先する場合で、動き方も変わる。そして、相手の目標とする物が異なる場合でも行動を変えなければならない。

 

「さて、ではまず状況を整理しよう。敵はこのビルの中のどこかに核を保有、そして敵は爆発までの時間稼ぎを行っている。このことからわかるのは、この状況設定はヒーローが不利。主導権が常に向こうにある事。となると、こっちが取る行動は実質一択。何かわかるかな…じゃあ、勝己。」

 

とりあえず今年の入試1位を指名して、今後の方針として正しいと思うものを考えさせてみる。

 

「あぁ?んなもん真正面から敵をぶっ飛ばす一択だろうが!」

 

「落第。君はこの場合多くの人間を巻き込み死ぬ事になる。」

 

「なっ!?」

 

あまりにも感情的なその行動に、詠斗は落第を叩きつける。

 

「目標は核と言っているが、実質人質の確保に近い。この状況設定なら、こうも考えられる。敵は核の輸送中に見つかり、ここに核ごと逃げ込んだ、もしくは何かしらの要求を求めて立て篭もっている。おおよそこの2パターンに別れるだろう。この時、最も気をつけなければならないのは、相手を自暴自棄にさせてはならないこと。百、答えてみてくれ。」

 

何故だろう、そう問いかけると八百万がなるほど、と口を開いた。

 

「自暴自棄になった場合、即核を爆発させる可能性があるから…でしょうか。」

 

「正解。そして取れる行動の択も狭く、前提条件も難しい。何故かな、踏陰。」

 

「……突入に気付かれ即爆発というパターンも考えれば、影に潜む隠密行動以外ほぼ選択肢は無い…ということだな?」

 

「つまり……?」

 

「ヒーロー側はまず前提条件が多い!どこにあるのか分からない核を見つけ、尚且つ相手より先に奇襲をかける!この前提条件を全てクリアしなければ、相手を追い詰め最悪の行動を取らせてしまう事になる!逢魔少年の行動はそこを加味してのものだろうね!」

 

そう、ヒーロー側でこの状況はとてつもなく不利なのだ。核がいつ爆発するのか、相手が爆発の権限を保有しているのか、という副次的かつ不明瞭な要素が入り込んでくる。

 

「オールマイト、もしくはミルコ、ホークスなどのスピードに特化したヒーローならば、真正面から突入も悪い策ではない。」

 

ただ、今の状況設定では話が変わってくる。

 

「さっき、被身子は時間稼ぎをすることが目的と言っていた。この場合、突発的な籠城でない可能性もある。」

 

裏口から潜入した詠斗は、隠密行動をしながら核を探し、同時に解説をこなす。

 

「そして突発的な籠城でない場合、警戒する事は二つ、まず罠の注意。個性でできる人もいると思う、それも敵側の策としてありうる。」

 

コソコソと移動しつつ、一つ一つの部屋を見ていく。そして、ひとつの広間に出かかった時

 

「そして2つ目、それは───────」

 

「ヴィランからの奇襲!!」

 

真上から、エネルギーで作成した短剣で襲いかかる被身子の奇襲を躱し、戦闘体勢にお互いが入る。

 

「奇襲!確かに、理にかなっている!」

 

「でも避けたよ!逢魔も流石!」

 

「さて、接敵だ。ここでようやく、ヒーロー側は戦う前提条件が整った。」

 

「ここからは私の解説も入ります!まず、私が奇襲を仕掛けた事から、ある情報が推測できます!なんでしょーか!みんなで考えて!」

 

「んー、自暴自棄にはなってないよね!」

 

「漢らしく決闘したいとか!?」

 

「それは無いだろう。ヒミコちゃん君は奇襲をかけた、つまり……」

 

適当な人間を当てることをせず、自由に発言させる事で、沢山会話をして、答えに導かせようとする被身子。

 

ここだけでも2人の教育方針の違いがわかる。

 

詠斗は一人一人に焦点を当てて、的確に授業を進め。被身子はみんなの力で協力させて、答えを引き出させるタイプ。

 

(この短時間で、とても多くのことが学べる…くぅ〜ッ!先生よりも先生してるぞ、君たち…!!)

 

教師として情けないことに、指導力に関しては圧倒的に二人が上だ。オールマイトは悔しく思いながらも、現状彼らの解説にはほとんど欠点はないため、補足だけしつつ2人から指導者の力を学ぶことにした。

 

「……敵側にもうひとりいる可能性があることか。」

 

「加えて言えば、敵側にすぐさま爆弾を爆発させる気は無いこと……これだけの情報を一瞬で推測する必要があるのか…!」

 

「正解です!ショート君!イズク君!付け加えますが、相手に爆弾を爆発させる手段がないことも考えられます!」

 

「そっか!敵が入ってきて要求が通らないとかなら、すぐにヤケを起こしても不思議じゃないもんね!」

 

「はい!そこまで考えられたミナちゃんにははなまるをあげます!」

 

「わーい!はなまる貰っちゃった!」

 

そして、ついに戦闘開始というところで、詠斗が3つ指を立てる。

 

「被身子は武器を持っている。しかし、こちらは無手の増強型。不利なように見えるが、無手のヒーローは意外と多い。何故だろうか、力道。答えてみて。」

 

利点をひとつ答えてもらおうと、砂糖を指名。すると、砂糖は数秒考える素振りを見せて口を開く。

 

「ん〜…1点はやっぱり動かしやすさっつーか、余計なこと考えねぇで操作ができることかな?」

 

「うん、正しい。複雑な操作や精密な制御なく振るえる力として、無手は理にかなっている。じゃあ2つ目。猿夫、答えてみて。」

 

「お、俺か……そうだな、やっぱり殺傷力の低さかな。」

 

「うん、正解だね。ヒーローにおいて、殺傷力の高い武器を持つことはリスクを背負うことと同義だ。その点、銃や剣を使うヒーローは、技術が熟達した者ばかり。武器を持っているヒーローは、逆にその道に精通しているとも言えるね。」

 

「有名なのはスナイプ先生とか、ヨロイムシャだね!確かに、あの二人は達人と言えるヒーロー達だ!」

 

「解説ありがとう、出久君。では、戦闘に入ろうか。意識することは2つ。相手の全体を見て、構えをコンパクトに。パンチの理想は最短の距離から最高の威力を出すこと。足運びは直線的にする事で初動をわかりにくくできる。これ豆ね。」

 

そう告げた瞬間、被身子が詠斗の視界から消える。真下から来る刺突を避け、腕を掴んで捕縛に入ろうとするが、被身子は猫のようにスルリと拘束を抜け出し、詠斗の胴を蹴って跳躍。距離をとる。

 

「コンパクトに構えて最低限の動きを意識することで、次の動きがより速くなる。」

 

(詰めてくるよね!エイト君なら!)

 

しかし、空中の被身子の着地点を即座に予測し駆けていた詠斗の渾身の右ストレートを両腕でガードし防ぐ。

 

「あはっ!強化してなかったら両腕へし折れてたのです!」

 

「流石に強化してるかしてないかは見てるよ。」

 

インパクトの瞬間に襲い来る衝撃に体が耐えきれず、後ろに吹き飛ばされるが、軽業で体勢を整えて即座に構える。しかし

 

(いない…!!)

 

視界から消えた詠斗を追う間もなく、背後から迫る拳に本能が警鐘を鳴らす

 

高速で顔面と胴に向けられた2連撃を回避。

 

「ッ…!!い、今のちょっと本気だったでしょ!」

 

「流石、躱されるとは。」

 

そこから続く怒涛の拳の雨を回避しながら、魔法陣を構築。接近戦と遠距離攻撃を組み合わせた理想の万能型として振る舞う。

 

「『ララグ(極光)イム(星辰)』!」

 

詠斗の真上に展開された無数の魔法陣から、威力を調整した極光が放たれる。殺到した光を躱し距離をとった瞬間、追加と言わんばかりに再び光が瞬く。しかし、射出され続ける極光を最小限の動きで回避しながら、被身子に肉薄。超接近戦の格闘を演じながら、魔法すらも回避、弾き、被身子をも相手にする。

 

「うん、ここまでの接近戦をしながら、陣の維持から展開をほぼ同時にこなせるようになっている。成長していてとても嬉しいよ。」

 

「むむむっ…!これでも追い詰められないとか、エイト君やっぱり強すぎます!とわぁっ!?」

 

「はい、気を抜いたね。悪い癖だ。」

 

気を抜いた瞬間に被身子の短剣を絡み付き奪い、投げ捨てる。

 

しかし、流石と言うべきか、詠斗が追撃を行う寸前に攻撃範囲から離脱。集中が散漫になったため、アレだけの陣を再び展開するには、集中を高め詠斗の隙をつかなければならない。

再度エネルギーで短剣を作り、距離を取った2人は、再び振り出しに戻った。

 

「今のを気を抜いた判定するのはエイト君だけです!」

 

「訓練とはいえ実践。コンマ1秒も気を抜かないの。」

 

「わかってます!」

 

ここで、それを見守っていたクラスメイトから歓声が上がる。

 

「すっ、すっげぇぇぇぇっ!!?」

 

「2人ともつっよぉ……!?」

 

「いや、もう正直何がなんだか…」

 

「あれできるようになれって言ってんの?」

 

「強いとは聞いていたけど……これほどだなんて…!」

 

「……っ……こんな、こんな事…ある筈がねぇ…!!」

 

実力に興奮する者、驚愕・戦慄する者、実力差を理解し拳を握る者。様々な反応を示すクラスメイトだったが、真に2人の実力を評価できる人物は、オールマイトだけだろう。

 

(相変わらずの圧倒的戦闘力…!彼らの実力は、とっくのとうにプロ!しかも戦闘手段を縛った状態でこれか…!!技術、駆け引きその全てが完成されている!)

 

この戦闘記録は、近接専門、近中距離職のヒーローのお手本としても使える程の資料になる。その確信があるほど、レベルの高い戦いだった。

 

「では、ここでおさらい。戦闘の基本になるけど、戦いってのは如何に自分の得意を相手に押し付けるか。オールマイト先生みたいな圧倒的パワーがない場合、これの押し付け合いになる。」

 

「その通り!とは言っても、私にも得手不得手はある!だからまぁ、それをゴリ押しで自分の得意分野に持っていくんだけどね私は!特に、近接戦主体の個性になると、よりこの有利の押しつけ合いが激しくなる!」

 

「だけど、今の被身子と僕の間合いは被身子が圧倒的に有利。かつ、時間も残り少ない。それを覆すには─────振り出しに戻る、が有効だと僕は考える。」

 

「この場合、ヒーロー側は自分に有利になるように振り出しに戻さなければなりません!その場合の最適解は───────」

 

瞬時に肉薄した詠斗が、被身子をガラスに向かって投げ飛ばす。

被身子は抵抗すること無く、ガシャン!とガラスを突き抜けて、空中に放り出される。

 

「ヒミコちゃん!?」

 

「逢魔!やり過ぎだよ!?そこ4階でしょ!!?」

 

「落ちたら死ぬでしょ!?」

 

悲鳴が上がるモニタールームだったが

 

「大丈夫だよ!!」

 

『生きてる!!?』

 

窓からひょこっと顔を出した被身子が、笑顔で解説を付け加える。

 

「こんな感じに、篭城している場所から放り出すのもひとつの手です!被害の度合いを考えれば、核の方が確保の優先度は高いので!それに、こういう篭城している場合、外にはほかのヒーローがいます!そこを想定しているのなら、弾き出しちゃうのが1番手っ取り早いです!」

 

「いやいや!それよりどうやってそこにいんの!?」

 

「飛んでます!」

 

『飛んでます!!』

 

あまりにもアッサリと告げられた言葉に、はぇ〜と驚くのも疲れた様子で口を開きながら、皆が感心していた。

 

「とと、それは良くて!」

 

「実際、こうして被身子や僕のように飛べる個性は希少だ。相手を放り出したらほぼ勝ち。」

 

「後はもう1人に警戒しながら核を探せばいいだけですから、それに〜……見て!」

 

ヒラヒラと振った詠斗の腕には、確保証明のテープが巻かれていた。

 

「うん、やられたね。」

 

「すげぇ!いつの間に!」

 

「投げられる時に抵抗からテープを巻くことに注力しました。肉を切らせて骨を断つ!です!」

 

「というわけで!敵チームWIN!!さぁ、お二人さん!モニタールームで構評のお時間だ!」

 

『はーい』

 

モニタールームに戻った2人はクラスメイトにもみくちゃにされながら、講評に入った。

 

「はい!では見てもらったけどね!ぶっちゃけ、デモンストレーションの意味合いが強かったから、評価点は君たちの解説について、にしようかな。と言っても、正直文句なし!完璧とも言える解説だった!まぁね、みんなの時もやるから、今回のMVPを考えるなら、どっちかなぁ…わかる人!」

 

「じ、じゃあ!はい!先生!」

 

「おっ、緑谷少年!では行ってみよう!」

 

手を挙げた緑谷を指名したオールマイトは、弟子があの戦いから何を学んでくれたのかを若干楽しみにしていた。

 

「えっと、MVPに関しては正直微妙なところだけど、僕は逢魔君だと思いました…!」

 

「ほうほう、その心は?」

 

「渡我さんは逢魔君を倒す為に比較的大規模な攻撃を仕掛けてて、その点逢魔君は周囲への被害を意識してか、部屋を破壊することもなかったから……です!」

 

「うんうん、良い着眼点だ!その点で見れば、確かに逢魔少年がMVPで間違いないだろう!では、緑谷少年はどこでMVPを悩んだかな?」

 

「え、えっと……それでいえば渡我さんも、敵として…設定上爆発を気にしない敵、という点で言えば状況設定に合っていたから……です!」

 

「うん!概ね正解!くぅ〜ッ!だいたい言われちゃったぞ!」

 

今回の状況設定的に、MVPは選びにくい点と、あくまでデモンストレーション。数分の戦闘以外はほぼ2人の演習ということもあり判断が難しい場面だったが、正確に見抜いてくれていた。

 

弟子の分析力に若干嬉しくなったオールマイトは、贔屓は良くないよね、と内心で思いながらも、成長に感涙しかけていた。

 

「では!デモンストレーションも終わった事だ!みんなの本番と行こう!」

 

「えぇ…今の見て、すっげぇやりにくいんだけど……」

 

「そう気負う必要はないよ上鳴少年!逢魔少年と渡我少女の戦闘力は、戦闘方法を縛った状態でアレだ!1度全力のふたりと戦ったことがあるんだけどね……次も負ける気はないが正直もう2人揃った状態で戦いたくない!」

 

「私達も二度と戦いたくありませーん!手加減下手くそなんです!」

 

「暴力教師〜、手加減の概念はどこいった〜。」

 

「お二人さんブーメランだよそれ!?君達が吹き飛ばした演習場修理に億単位かかってるからね!」

 

ブーブーとブーイングを飛ばす2人を冷ややかに見ながら、『もう戦ったことあるんだ…』とクラスメイトは戦慄する。あのオールマイトに、もう戦いたくないと言わしめたその実力はいかほどなのだろうかと考えてしまった。

 

「おっと、こんなことが言いたい訳ではなくてね…私が言いたいのは、彼らは君らよりも1年速く戦闘技術をより濃密に磨いている。彼らのそれ以前の鍛錬を加えれば、相当な差があるんだ!今の君たちに求めるのは、自分で考え、実行し、省みることができるか!君たちの評価点はまた別という事!」

 

「それに、戦闘技術をみんなが褒めてくれていることはわかったので、それは放課後の自主練でみんなに教えられます!」

 

「みんながすごいと思ってそれを学びたいと思ったのなら、それを教えられるってこと。」

 

「なので、みんなの全力を見せてください!私たちはそれに合わせてみんなを強くするお手伝いができます!」

 

「特に……電気、響香、透はここを全力で叩き込む。実は回避主体かな。」

 

「うむ!というわけで、放課後の自主練に参加する少年少女達は、ここで全力を出して2人に現状の全力を見せてあげてくれ!という訳で、最初の対戦チームは……Aチーム対Dチーム!Aが敵側、Dがヒーロー側で対戦だ!」

 

オールマイトが引いたボールには、AとDが書かれていた。

どうやら次は、緑谷、麗日ペアと爆豪、飯田ペアの対戦らしい。

 

よく見ていると、緑谷と爆豪が何やら睨み合っている。

 

「イズク君とあの爆発くん、なんかあるみたいです。」

 

「みたいだね。」

 

正直自分たち以外の幼馴染と言うものを先輩の例しか知らないが、基本仲がいいものと思っていたところに、温厚な緑谷を何故か扱き下ろす爆豪。

 

(ま、勝己側に問題がありそうだね……焦り、劣等感…それともプライドの問題かな。)

 

自分にはまったくない感情を秘めている勝己を一瞥しながら、緑谷達に二人で声をかけた。

 

「ファイト、出久君、天哉。勝己は……別にいいか。」

 

「ファイト!オチャコちゃん!」

 

「逢魔君…うん!ありがとう!」

 

「ありがとう逢魔君!ヒミコちゃん君の様に立派に敵としての役を全うする!」

 

「ど〜いう意味だてめこの能面野郎ッ!!」

 

「ありがと〜!ヒミコちゃんみたいにできるか分からへんけど、ウチもデク君と頑張る!」

 

「はいはい!すぐに行動するんだぞ少年少女!怪我を恐れず、思いっきりやりなさい!」

 

「怪我は私とエイト君が治すからね!」

 

ほんじゃ、行ってらっしゃい〜!と見送られた4人がそれぞれ配置に着いた。




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