〈坂柳有栖side〉
何時からでしょうか?
他人を駒としか認識出来なくなったのは。
全ての人間が私より格下と思ってしまったのは。
何時からでしょうか?
私と並び立てるのは、あのホワイトルームの愛を知らない瞳の彼だけであると思ってしまったのは。
全ての人間が私より格下……その認識は誤りでした。
気まぐれに出場したチェスのアマチュア大会。
そこで、私は本当の孤独を見ました。
私は負けました。
瞳に悍ましいほどの憎悪と孤独を写す少年に。
少年と私は、根本的に見ているものが違うと思いました。
少年からすれば、私はその他の凡人の1人でしかないと、そう理解しました。
それが、少し気に食わなかったのです。
その少年の瞳に私は写っていなかったから。
決勝戦で少年が負けた時、その不快感は更に増しました。
少年の瞳には、優勝した少女しか写っていなかったから。
私は理解しました。
私は、私をを見て欲しかったのだと。
自分よりも格上な少年に、自分を認識して欲しかった。
だから、また戦って、次は勝って、私を認識させてやると意気込んで、家を尋ねました。
孤児院に住んでいると知り、私はすぐにお父様に少年と少女を養子として引き取って欲しいと頼見ました。
そうすれば、私を認識させる機会が増えるから。
そして、お父様は2人を引き取ることを了承してくれました。
その後、私は何度も少年に挑みました。
そして、負け続けました。
少年の瞳は、少女と話す時以外に笑顔がなく、そして、いつもどこか寂しそうでした。
だから、聞いてしまったのです。
「なんで……そんな寂しそうな顔をするのですか?」
と。
その時の少年の顔を私は今でも忘れません。
「お前には関係ない」
私を瞳に写さずに、少年はそう答えました。
踏み込みすぎたと理解しました。
すぐに謝罪し、ふと疑問に思ったのです。
何故、私に興味がない筈なのに、私と勝負してくれるのだろうかと。
好奇心が勝り、それを聞きました。
「あいつらを思い出すから……」
少年は、悲しそうに笑って言いました。
やはり、少年……三上悟の瞳には、私は写っていませんでした。
でも、今はその事実は受け入れましょう。
しかし、いつか必ず三上悟の瞳に私を写してみせる。
そう、固く誓いました。
〈三上悟(リムル)side〉
「なんで、そんなに寂しそうな顔をするのですか?」
それは、ただの疑問から出た問いだったのだろう。
ただ気になったから、世間話程度に聞いただけ。
でも、それを俺は突き放した。
まだ、話したいと思わなかったから。
すると、坂柳有栖は、俺に聞いて来た。
「では何故、私と勝負をしてくれるのですか?」
と。
答える気はなかった。
なのに、気付いたら口にしてしまっていた。
「
元々シズさんの教え子で、俺が救った子供達。
血に濡れた俺の手で触れてはいけないと思って、会うことすらしなかった子供達。
勝負をしようとせがんでくる坂柳有栖を見ると、いつも俺に今度こそ勝つと勝負を挑んできたあの子達を思い出してしまうから。
なんとなく、坂柳有栖の挑戦を俺は拒めなかった。
俺の答えに坂柳有栖は、表情を曇らせた。
「やはり、貴方の目には、私は写っていないのですね……」
坂柳有栖は、続けて言う。
「覚悟してください。私は必ず、貴方の瞳に私を写します」
悲壮を隠すように、強気に笑う。
その瞳は、ただ純粋に光を宿していた。
その時、俺は初めて、坂柳有栖という人間を認識した。
子供達を思い出すからだけではなく、坂柳有栖本人を見た。
俺は、坂柳有栖本人を見ていなかった。
子供達と重ねてしか見ていなかった。
こんなの……あの子達に怒られるだろうに。
気付くと俺は、坂柳有栖に問いかけていた。
「なんで……お前は俺から離れて行かない?俺の瞳がお前を写していないことに気付いていたなら、俺が他者に関心すら持たないって知ってるだろう?なんで恐れない?なんで……」
すると、坂柳有栖は、小さく微笑み、
「貴方の瞳は、冷たくて、温かいのです」
「……………」
「貴方の瞳は、何かを強く、心の底から憎み、そして、何かを心の底から慈しむ……そんな、怖くも優しい瞳なのです。そんな瞳を何故恐れる必要があるでしょうか?」
……………
ああ、もう……分かったよ。
俺の負けだ。
俺は、もうすでに坂柳有栖という人間を仲間の1人としてカウントしてしまったのだろう。
坂柳有栖は、俺の本質を見抜いている。
その上で、俺から離れて行かない。
こんな人間を俺は突き放せない。
俺を信じて着いた来たくれた仲間たちに似ているから。
あいつらの中には、シズさんの死で俺が泣いていたのを見ている奴だっている。
だから、あいつらも俺の心の弱さを理解してなお、着いて来てくれていたのだろう。
ああ、本当に……甘くなったものだ。
「それに、私にとっては、貴方と勝負し、打ち勝つことこそ重要なのです。怖いだとか、そんなもの関係ありませんよ」
そう言って笑う坂柳有栖を見て、
「そうか」
気付けば、俺は、笑ってそう言っていた。
「なんだ。意外と早く達成できましたね」
有栖は、そう言って嬉しそうに笑う。
人間の笑顔で心が安らぐ……そんなの何時ぶりだろうか?
有栖は、仲間だ。
ならば、その仲間が先天性の病気で苦しんでいるのをただ見ているだけなのは、俺の主義に反する。
シエルに頼み、誰も不思議に思わない程度に少しずつ、有栖の病気を治して貰うことにした。
それを頼んだ時、シエルは意外そうに目を見開き、そして
「やっと、少しだけ瞳に光が戻りましたね」
嬉しそうに、そう笑った。
俺は、今までそんな酷い瞳をしていたのだろうか?
まあ、シエルが喜ぶ程度回復したのなら、別にいいか。
こうして、俺に仲間が増えた。
守るべき、仲間が。
今世では、みんなの言葉通り、自分のために生きる。
でも、守るべき仲間がいても、別にいいだろ?
というわけで、こんな経緯でリムルは坂柳有栖を仲間と認識しました。
まおりゅうで、『
なので、子供であれば、教え子たちと重ねて勝負相手をしてくれて、その内に情も湧くのでは無いかと解釈しました。
坂柳有栖と子供の頃に会わせたのもこれが理由です。多分、高校生辺りまで成長していたら、教え子たちと重ねることがなく、相手にもしないと思いますし。
ちなみに、今作でのリムルは、多少なりとも認めた相手以外は全員フルネームで呼びます。