※鬱展開、エログロ描写多めです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
教皇歴1620年、世界は闇に閉ざされた。
1610年頃から世界に蔓延した「琥珀病」は、体の一部が琥珀のように変化する初期症状から始まり、徐々に体全体に琥珀は侵食し、二、三年も経てば体が完全に琥珀に変化し死に至る病だ。
治療法は無く、侵食が止まった事例も確認されていない、まさに死の病である。
しかし、この病が生んだのは死だけでなく、琥珀病への恐れから来る迫害、魔女狩りの類だ。
琥珀病の患者は石を投げられ、定職に就くこともできず、あろうことか殺害されてしまう。
更には琥珀病患者の近親者まで同じような目にあってしまう事もあり、迫害から逃れる為に琥珀病患者を家系図から抹消することも多い。
人々の拠り所となるべき教会も、琥珀病の対策に心血を注いだ先代教皇エイリーンが琥珀病によって死亡してしまったことを受け、
琥珀病には基本的に関わらない姿勢になってしまっている。
こうして世界を闇に染め上げた琥珀病だが、それでもなお足掻き、
琥珀病の治療に奔走する「サァカス団」があった…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「誕生日、おめでとう」
息も絶え絶えな女性が、床に臥しながらも眼の前の少年に優しく声をかける。
「母さん…」
今にも泣き出しそうな声で、少年は言った。
母親は咳き込みながらも語りかける。
「最期に、お願いがあるんだ」
「…! 何だって聞くよ!」
その返答を聞いて、母親は急に顔を正し、至って真面目な口調で話し始めた。
「…生きなさい、何としてでも」
少年は突然顔を正した母親に驚くも、すぐに返事をする。
「…! 分かったよ!何があっても、絶対生き延びるから!」
「…ありがとう…」
その時、少年は母が既に目の輝きを失い冷たくなっていることに気が付いた。
子を想う母の執念が、意識を繋いでいたのである。
「っ……、ぅ……うわああああああっ…」
「うわああああっ!…ああ…」
またあの夢か、と少年は目を醒ました。
少年の名前はシルフィア・リディ・オーウェン。
齢15にして両親を失い、天涯孤独の身となった少年である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おい!手を動かすのがおせーぞ!」
「はい!すいません!」
俺は衣類工場で毎日重労働をしている。
給料は少ないが、お金を貰えるだけありがたい。
生き延びるためには、これしか無かった。
昼休憩の時、同僚の青年に話しかけられた。
「シルフィアって、何で眼帯を着けているんだ?」
「ちょっと前に転んで、傷つけちゃって」
「そうか、気をつけろよ」
本当は違う。
琥珀病で左目が石化していて、それを隠すために眼帯を着けている。
もし琥珀病であることがバレてしまえば、職を失うことはおろか、殺されてしまうかもしれない。
絶対に話すわけにはいかない。
午後の作業も終盤に差し掛かり、工場は多忙を極まっていく。
ふと、耳を澄ますと、楽しげな音が聴こえてきた。
サーカスか、昔、母さんと父さんに連れてもらったっけな。
空中ブランコにジャグリング、歌姫が合わさったその光景は、芸術とも言える程だった。
しかし両親を失い、天涯孤独の身となった今では、そんなことを考える暇すらない。
「おい!手を止めるな!」
見回りの男に怒鳴られ、殴り飛ばされる。
「ぐっ…すいませ…あ」
「おい、お前…」
しまった。
眼帯が外れ、琥珀の眼が白日の元に晒される。
「おい!こいつ琥珀病だぞ!離れろ!」
「てめえ!今まで隠してやがったな!」
まずい。
琥珀病であることがバレてしまった以上、ここで働くことは出来ない。
更には…
「こいつを殺せ!これ以上感染者が出る前に殺すんだ!」
俺に向かって投げられる石、棒の類。
「逃げろ!」
前にも何度かあった事だから、逃げるのは容易かった。
「おい!どこ行った!」
「あっちだ!探せ!」
路地裏の箱の裏に隠れる。
安堵と共にこれからどうするかの不安が漂う。
「あれ…体が、重たい…」
さっき殴られたのが相当効いたらしく、目眩がしてきた。
「少し、疲れたな…」
そのまま目を閉じる…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「………っ……うおっ!」
目が醒めると同時に飛び起きる。
「ここは…」
俺はベッドの上で横たわっていた。
少し揺れており、馬車か何かの中のようだ。
「…起きたようね」
横から声が聴こえた。
その方を向くと、俺は息を呑んだ。
燃えるように赤い髪に、蝶の髪飾り、自信に満ちた、
そして途轍もない美貌の女が、そこにいたのだ。
「ここは何処だ?お前は誰だ?」
戸惑いながらも俺は聞く。
「ふん、行き倒れていた貴方を私が拾ってあげたのに、中々生意気じゃない」
「まあいいわ、教えないと始まらないものね」
女は気怠そうに言った。
そして、自信げに続けた。
「此処は『闇喰イサァカス団』。人々の心の闇を喰らい、宝石へと変えるサーカス団」
「そして、その団長を務めるのが、この私、アンジェリカ・ルビィ・キャビュレットよ」