※鬱展開、エログロ描写多めです。
「此処は『闇喰イサァカス団』。人々の心の闇を喰らい、宝石へと変えるサーカス団」
「そして、その団長を務めるのが、この私、アンジェリカ・ルビィ・キャビュレットよ」
演劇の振り付けのような動きでニッと笑いながら、その女、アンジェリカは言った。
「で、その何とかサーカス団の団長サマが、行き倒れてた俺を拾って何の用なんだ?」
俺がそう聞くと、アンジェリカは答えた。
「貴方のその、左目」
「!」
俺は身構えた。この女、琥珀病の俺を見世物にしようという魂胆なのだろう。
「そう身構えないで頂戴。別に貴方を見世物にするつもりはないわ。…まあ、貴方を見世物にしたらそれはそれでいいかもしれないわね」
「…じゃあどうするんだ?」
俺が聞くと、アンジェリカは答えた。
「まず、貴方に私達の公演、『パレード』を観てもらうわ」
そう言ったアンジェリカは、椅子から立ち上がり、つかつかと歩きながら、
「そこに着替えを置いてあるから、それを着て外に出なさい」
そう言って部屋を出た。
「とりあえず、着替えるか」
俺は用意された服に着替えた。上級国民が着るような礼服で、今までこのような服を着たことのない俺は、少しばかり緊張した。
部屋を出て、通路を進んでいくと、徐々に先ほどまでは聞こえなかった騒ぎ声が聞こえてきた。
さらに進んでいくと、その声が歓声であるとわかる。
そして、さらに進み、出口と思われるところまで進む。
まばゆい光に隠されたその先には…
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わあぁぁっ!!!
埋もれんばかりの観客が席を立ち、叫び声を上げながら舞台を見ている。
その視線の先では、アンジェリカを含む何人かが、ナイフ投げ、一輪車、ジャグリングなどの曲芸を披露している。
さらには、金髪の可憐な少女が歌を歌っている。
中々の美声な上に、騒がしい場内でもとても澄んでいて、どこまでも響き渡る。
その歌声にしばらく見惚れた後、俺はあることに気づいた。
歌姫の少女も、ナイフ投げをやっている男も、果ては影でうんうん頷きながら観ているお姉さんも。
ほとんど全員が琥珀病の患者だった。
やっぱり、見世物にするんじゃないか…?
俺の中で疑問が浮かんだが、それはすぐに消えた。
観客の眼には、奇形の病を嘲笑うような感情が浮かんでいないからだ。
この舞台の中の人々の心は一つ。
楽しい。
ただそれだけだった。
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「パレード」が終わり、観客の拍手や歓声も収まってきた頃。
「どうだったかしら?私たちの『パレード』は」
自信げな顔でアンジェリカが聞いてきた。
「感動したよ」
「当然ね」
アンジェリカは鼻をフンと鳴らして続けた。
「で、貴方を拾って『パレード』を観せた理由はね」
「貴方にも、この『闇喰イサァカス団』に入って欲しいからなの」
「は?」
アンジェリカは続ける。
「この『闇喰イサァカス団』の目的は、観客を愉しませることだけじゃない」
「貴方みたいな琥珀病の患者を保護するのも目的なの」
「琥珀病の進行を遅らせるためには、人の喜びの感情が必要というのが解っているの」
「つまり、貴方も『パレード』に参加すれば、喜びの感情を一身に受けて、琥珀病に対抗できるって訳」
なるほど、と思いつつ、俺はなぜ琥珀病の患者でもないのにそんな慈善活動をするのか、疑問が浮かぶと。
「…それは教えられないわね」
俺の心を見透かすかのようにアンジェリカが言った。
「ともかく、琥珀病の進行を抑えられる上に、仲間も沢山いる。付け足すと仕事はホワイトよ、工場の100倍ぐらいね」
「ここまで来て、断る訳ないわよね?」
アンジェリカが食い気味に言う。
「まあ、もし入らなかっとしてもこのまま野垂れ死にしそうだし、参加するよ」
「いい返事ね」
アンジェリカは子供のように嗤って、そして芝居がかった口調で言った。
「歓迎しましょう、これから貴方も、闇喰イサァカス団の一員よ」
こうして、俺のサーカス団生活が始まったのである。