――Side 凰鈴音
一夏がクラス代表になったっていう祝賀会に顔を出して、仲直りしようと思ったけど、踏み出せなかった。
「……一夏……」
学校の中庭、その片隅で私は小さくなっていた。
ここまで頑張ってきた意味が、無かった気がして。
国家代表になって、一夏を婿取りするという大きな目標が、泡沫のように消えてしまって……突然見知らぬ土地、誰にも言葉が通じない場所にひとり放り出され、立ち竦んだような気持ちになって……。
悲しい、辛い、どうして、嫌だ――。
「あらあら、こんなところに迷える小さな巨人さんが見えにくいところで体育座りなんて……どうしたのかしらん?」
野太い声の方をみるとそこには筋肉ムキムキのスキンヘッドで、クネクネと動く四人目の男性操縦者がいた。
「……!?」
どうしよう、驚きのせいか声が出ない。
「……まーるで獣が裸足で逃げ出すような化け物に出会ったみたいな顔ねぇ。まあいいわ」
そう言うと何故か私の隣に体育座りをする。
「……なに、よ」
かすれた涙でにじんだような声。
その声にその人は告げる。
「私の初恋は、小学生の頃。教育実習生のイケメンお兄さんだったわぁ」
「……????」
いきなり何を言い出すのこの人は。
「――まあ彼はノーマルだし、私は当時横にデカくて陰でチョウジとか呼ばれるようなデブだったから、無論フラれたのだけど」
「そうなの……」
そもそもその人がノーマルだったからでは……?
いや、それより何が言いたいの???
「――そして今のところ彼女いた事はあっても、彼氏居無い暦は、年齢と同じなのよねぇ。ちなみにオトコのコへの告白戦歴は181戦0勝181敗ねん」
「……えっと???」
逆に彼女が居たことあるの??? 困惑が隠せないんだけど???
「――だから少しだけわかるのよ。振られた時の悲しみが」
「――!」
私を見る目が優しい気がしたけど、それは『憐れむ目』ではなく『同じ道を通ってきた相手を見てる目』だった……?
「――自分の軌跡が、彼へのアピールが、自分の努力が、否定されたようで、音を立てて崩れたようで、何も手につかなくて、辛かったわ」
「……同感。授業も全然頭に入らないし、ふとしたことでアイツの顔を思い出しちゃうし」
「星の数ほど男は居るのに、その人に向けてた想いやその人に惚れたきっかけの記憶が鮮烈にのこってるのよね。……ただ、先達としてアドバイスすると、それらはいつか色褪せるかもしれないし、思い出せなくなったり忘れてしまうほど他の記憶に埋もれてしまうかもしれない。」
そんな事、と言いかけて口が止まる。
「新しい恋を見つけるか、それなりの時間でその辛さを優しい思い出にできると思うわ。まあ1つ言えるのは――」
彼?はコチラを見る。
「あの時何か、一夏ちゃんに言い返し損ねたことあるんじゃない? その心残り吐き出しておかないと、古傷みたいに残るかもしれないってことだけ」
「……!」
心当たりはあった。
彼にーー『一夏』に助けてもらったこと、味方のいない孤独感から救い出してくれたこと、それに関する想いをまだ伝えられていない。(仲良くなったきっかけでもあり、一夏を通じて友達もできて、今でもとても感謝している)
たとえ一夏と添い遂げる未来が潰えたとしてもーーいや、その未来がつぶれるからこそ、
「ーー言いたいこと言ってアイツに私をフッた代償を背負わせてやるんだからーー!」
「私の想定してる斜め上のセリフが出てきてお姉さんびっくり。やりすぎはダメよん?」
一念発起した私の第一歩がダイナミックに空回りした気がした。
この人相手だと調子狂うわね…………!
そんな会話をしたのが1週間ほど前。
「鈴……」
目の前には白式に身を包んだ一夏の姿。
私は甲龍を身にまとって正対している。
当にクラス代表対抗戦、開始前の時間。
――ここしか無い。
「ねえ一夏」
「何?」
「――私ね、転校して直ぐ虐められてたの覚えてる? それでアンタに助けられて虐め止まったのも。……私を助けてくれたとき、私には白馬の王子様が来たのかと思った」
「……」
初恋は実らないとか言われてるけど、今ならそうかも知れないと思える。
「それから、いろんなアピール一生懸命にした。別れる時に約束もね」
「……そうね」
一夏がうなだれるけど、私が欲しいのはそうじゃない。
「だから――私をフッたんだから、絶対に幸せになりなさい。じゃないと許さないわよ」
「言われなくても……と言いたいけど、彼既に束さんと肉体関係あるし、4組の娘からご主人様って呼ばれてるし、生徒会長からも矢印向けられてるし、なんか目が本気だった千冬姉が争奪戦に参加しようとしたし、ぶっちゃけライバルが強すぎる……返事してくれるとは言ってくれたけど……たぶん……」
「――アンタのバカみたいな、どんな困難な壁でも乗り越えてやるっていう気迫は何処に行ったのよ!」
「!?」
「私の知る『織斑一夏』は! 鈍感で、自分への好意なんててんで気が付かない馬鹿で! 普通の人なら諦めることでも、何度でも挑んで何とかしちゃうすごいヤツなんだから――!」
同調と異端排斥が強い日本人なのに、それを乗り越えて私を助けてくれたあなたに憧れて、側に居たいと思って、一緒に人生歩めたらと思った。
そんな人が躊躇うなんて本当に無理なことかもしれない。
でも――まだ決着ついてないのに、諦めるなんてアンタらしくないから。
「……鈴……」
「――コレでも火がつかないみたいね。なら――この試合、私が勝ったら私も彼にアタックしようかしらね」
「!?」
「打鉄装備とは言え、ブリュンヒルデを生身で撃墜できる最強戦力、篠ノ之博士と独自のコネクションを持ってる。467個しか製造されてなかったISコアの第二世代試験運用に携わってる人物よ? ――各国の政府が欲してるに決まってるでしょ。私も隙が有るなら狙えって先日上から通達されたわ」
実際男性操縦者と既成事実作って自国に引きずり込めと言われているから嘘じゃないし。(一夏しか考えてなかったから半ば聞き流してたとは言えないケド)
「自由国籍の一夏が手を拱いてるなら――彼の隣を柵だらけの誰がに取られても文句言えないし、ソレが理由で一夏からまた離れてもおかしくないわよ?」
「――鈴! 貴女!」
――一夏の闘志に火が灯った。
それで良い。
「――私に負けるようなヘタレなら諦めたほうが幸せよ。男として学園の適当な子に既成事実作られて逃げられなくなるのが関の山ね。もし違うって言うなら――私くらい、倒してもらわないとね!」
「……絶対に、負けない!」
ブザーが鳴ると共に――アリーナの天井を突き破り、何かが現れたのだった――。
――Side 氷室直哉
「うわ、37.8℃……風邪だなこりゃ」
アリーナではクラス代表対抗戦が行われてるだろうが、オレはそれをぶっちしてのほほんさんと共にオレの部屋で看病していた。
「……身体、熱い。ご主人様、身体拭って」
「そこにいる生徒会の仕事放り投げてさっきから甲斐甲斐しく世話してる姉なるものか従者ののほほんさんに頼んでどうぞ」
オレがそう言うと2人が無言で自分がやると挙手するが――。
「私に首輪つけた人が面倒見るのが順当だと思う。飼い犬の世話を放棄するのに飼い主名乗る愛犬家は地獄に落ちれば良い」
「物騒なこと言ってるけど言いたいこと自体は正論なやつ!」
2人がしょんぼりしてしまう。
可哀想に(他人事感)
などと会話していたら、オレと楯無の電話が同時に鳴る。
『ひえーっ! 研究所に襲撃者が!』
カミンコ博士の助手にして、現場猫案件マシーンのチョビン(確か本名は千代田日与希)の声だ
「……数や特徴!」
『数は確認した限り5体! ISっぽいなんかです!』
「……わかった、直ぐ行く」
通話切ると楯無が口を開いた。
「今一年生がいるアリーナに謎のISが来たと言う情報が来たわ。しかもアリーナの出入り口が塞がれて出られないらしいの」
「こっちもカミンコ博士のところが襲われてる!」
「――っ! そっち先に行って、こっちにとんぼ返りしてちょうだい!私はアリーナの方行くわ!」
「わかった! のほほんさん簪ちゃんを頼んだ。 たぶん襲撃者の目的が俺の予想通りなら、
「わかった!」
「……無理しないで」
オレは瞬間的に飛雷神を発動し、カミンコ博士のマーキングの元へ飛んだのだった。
織斑一夏と凰鈴音は謎のIS?に襲撃を受ける。
一方直哉は保護者のカミンコ博士救援のため瞬間的に学園を離れることに。
何やら暗躍する生徒がいたり、複数人の思惑が交錯する。
襲撃がもたらす影響は――?
次回 インフィニット・ストラトス+3-1
第十二話『クラス代表対抗戦(後編)』
※内容は変更される場合もあります。
次回もお楽しみに!