――Side 氷室直哉
「それで、何の用だ。イギリス代表候補生、セシリア・オルコット」
次の休み時間にそう問いかけるとこちらにやってきた彼女は片眉を器用に上げる。
「あら、私のことご存知ですのね」
「入学にあたり、接触しそうな人物として関係者から軽く教えられている」
「道理をわきまえていらっしゃるようで安心しましたわ。用件はほんの挨拶です。」
「挨拶か。それと何をもって道理と言うか分からんが勝手に納得してくれたならなによりだ。――それはそれとして老婆心として忠告しておく」
「?」
首をかしげるセシリア。
「――代表とは国の顔だ。その振る舞い一つで外交問題になり得るし、それで戦争が始まってもおかしくない」
「何を当たり前のことをおっしゃるので?」
訳が分からないという反応を見せた。
……無自覚か……。
「すまない、オレの気の所為だったようだ。余計なことを言ったな」
「……??? まあ良いですわ。 貴方とは友人くらいにはなれそうですし、細かいことに目くじらを立てるほど、小さな器ではありませんから」
それでは、と去っていくセシリア。
「なおなおセッシーみたいなコが好み?」
ひょこっと机の反対側から顔をだすのほほんさん。
「見た目はアリ、中身見て最終判断したいところだ」
「ほうほう……それはそれとして鼈甲飴おかわり」
「太るぞ?」
「脂肪は全部おっぱいに付くからヘーキヘーキ」
「……」
オレは呆れつつも彼女に鼈甲飴を渡す。
「ありがと~。これお礼のパインアメね」
と2つほどポケットからパインアメの個別包装のものを渡された。
「……オレよりエリートな天上院や、織斑とは交流しなくて良いのか?」
「のか夫君は人気すぎて話しかけられないし〜、おりむーはしののんが近寄らないで〜してるからね。ろとさんは入学前に関わってるから、優先度低いし〜何より……カミンコ博士のところでたっちゃん先輩のIS作成に携わったことあるなおなおに、少しお願いしたいこともあるし――」
最後の言葉で点と点の記憶が繋がり、線になった気がした。
「最近倉持研がファーストの専用機云々と日本候補生専用機開発の凍結云々でゴタゴタしてると耳にしてたが、それと関係あると?」
「情報通だねぇ。……そんななおなおには本当に申し訳ないんだけど――」
なにやらお願いを言いかけたが、チャイムが鳴り、中断された。
IS基礎というオレとしては復習の授業がある程度進んだところで
「――ココまでで何か分からないことはありますか?」
授業担当の山田先生が問いかける。
すると織斑(今は男の姿)がビシッと手を挙げた。
「織斑君、どこがわかりませんか?」
「――全部です」
その言葉にどよめく面々。
まあIS学園に入学した男4名はともかく、受験した者たちや代表候補生は入試、あるいは候補生になるにあたり、その辺の知識を一通り詰め込まれるからだ。
それ差し引いても、入学前に参考書が渡されているはず。
読んでないのだろうか。
「一夏、参考書はどうした」
サブ教員をしてる千冬先生がジト目で問いかけてきた。
「えっ?参考書……?もしかしてあの電話帳みたいなの?詐欺の教材とかと思って捨てたぐえっ!」
出席簿を弟に容赦なく振り下ろす千冬先生。
「馬鹿者、すぐに用意するから1週間で覚えろ」
「1週間!? 分厚さ的にどう頑張っても覚えられるページ数じゃ」
言論封殺と言わんばかりの出席簿アタックが繰り出される。
「返事はハイかイエスだ。しっかりやるように」
おっかないなぁ。
路藤原も廃棄未遂してたのか、ホッとしてる。
「とりあえず、わからないところは別途教えますからね。……天上院君、氷室君、路藤原さんは大丈夫ですか?」
「ええ、問題ないです」
「一度目を通したあとなのでなんとか」
「4箇所ほど質問あるけど、たぶん本筋から脱線したり時間とっちゃう内容になるからあとで別途質問させてもらうわん」
「路藤原さんには授業後……いえ、昼休みに別途質問対応しますね」
そんなこんなで昼休み
「――一夏や前のオレのこと思い出した箒は撒いたし……さっさと済ませるかね」
ゼリー系10秒飯をジュッと吸って懐にゴミを仕舞うと、アリーナにある『第4整備室』の戸をノックする。
しばらくすると水色のミディアムヘアのメガネをかけた娘が顔を出した。
「……誰?」
「氷室直哉っていう、更識楯無がISの組み立てやプログラミングするときにカミンコ博士の助手兼システムのシミュレートによるデバッグ作業を担当した作業者で――お前のトコののほほんさんに土下座外交で重い腰上げたただの3人目の男操縦者だ」
「!?」
目を丸くする彼女の隙をついて部屋に入る。
「あ、ちょっと!?」
「コイツか……」
基本的なフレーム以外ほぼ未完成なソレを見てオレは言葉を零す。
現在日本で主流と言われてるISは2つ。
何れも第二世代で、片方が日本の企業が開発した『打鉄』。もう一つはフランスのデュノア社が開発した『ラファール・リヴァイヴ』。
そして目の前にあるフレームや武器は前者の意匠や設計思想が垣間見えるモノと言える。
「ねぇ……ねえってば……!」
「ん?」
「私は1人で完成させる……! 手伝いなんて要らない……!」
「……」
オレは画面のつきっぱなしのノートパソコンを見つけ、軽く中に目を通す。
ISのシステムのプログラミングデータがそこにあった。
「辞めてっては……!」
ノートパソコンを閉じてこちらを睨む。
「……まっさらな状態から1ヶ月にしては上出来だが、この調子では年単位で時間をかけることになる。ソレで本当に良いのか?」
「貴方に何が分かるの!」
「――4年ほど前に更識楯無のISを作るのを手伝った。そして今年、かつてのノウハウなどを総動員し1ヶ月で自作のISのシステムを構築した経験者の見解だ。業腹だがISの生みの親の篠ノ之束やIS開発企業の開発チームも同じような答えをだすだろうよ」
「……っ!」
「――まあ、オレの言葉なんか信じられんだろうから、今日は――」
ノートパソコンにUSBメモリを差し込む。
「コイツらだけ押し付けて退散させてもらう」
オレはそう言うとそそくさと部屋を後にした。
――Side 更識簪
訳が分からない。
あの男は嵐のように現れ、お姉ちゃんがISを単独で製作したのが嘘だと暗に告げ、私の今のペースだと完成までに何年もかかると宣い、ノートパソコンにUSBを差し込んで去っていった。
「……」
何かをインストールしてる。
無理やり引っこ抜けば止まるだろうが、パソコンや下手したら接続してるISにも影響しかねない。
せめてもの抵抗としてメモリの中身がなにか、ウイルス対策ソフトにかけることにした。
「……ウイルス……じゃない……ISデータのシミュレートソフトと……何体かの打鉄の稼働データ……?」
対策ソフトからウイルスではないらしいと判断されたので中身を直接見ると、READMEには丁寧に使い方が書いてあった。
「……」
あの男の言う通りなら……お姉ちゃんは1人で組み上げたという話は嘘になる。
しかしソレなら――
私の気持ちは溢れんばかりのお姉ちゃんへの怒りや疑惑、異物のように混入したとあの男への困惑に一欠片の期待で……感情が暴走しそうだった――。
――Side 氷室直哉
「クラス代表を決めてもらう。自薦他薦どちらも問わない。ああ、氷室は学園の総意で却下対象だ。打鉄装備とは言え、本気の私と打鉄装備で互角に渡り合い、生身で打鉄装備の私を撃墜した規格外を代表に据えるなど、パワーバランスもへったくれもないからな」
「「「「「えええええ!?」」」」」
なんか唐突な晒し上げが始まったんじゃが……?
しばらく本人登場予定がないキャラ紹介
カミンコ博士
氷室直哉の書類上の養父。
とある一族の分家筋の出奔者にして、近所の人からは失敗品の発明王と呼ばれてる。
今年還暦らしい。 本名は更識御言。
チョビンというあだ名の現場猫案件頻発させるやべー助手がいる。