――Side 氷室直哉
学園生活3日目。
セシリアや路藤原、簪やのほほんさんとメル友になったり、のほほんさんが休み時間や昼休みに簪ちゃんの様子見たり、千冬先生ガードで一夏たちの鍛錬要請を回避したり、簪からもう少し時間あればお姉ちゃんとなんとか会話できそうと言質取ったりできたので一安心――してたところだったのだが。
「うん?」
IS基礎の授業中、ポケットのスマホ端末が小さく震えたのでそっと確認する。
差出人は簪ちゃん。内容は――。
「……先生!」
オレが立ち上がりながらそう言うと山田先生がビクッと軽く飛ぶ。
「どどどどうしました?」
「ちょいとのっぴきならないことが起きたので早退します。ついでにのほほんさん持っていきますね」
「はえ?」
「のっぴきならない事情とは?」
千冬先生が聞いてくる。
理由によっては通さないと言わんばかりに。
「……初動しくじると今の学園最強が犯罪に走りかねんとだけ」
「!?」
オレは自分の鞄を片腕に提げ、のほほんさんの鞄を反対の腕に提げ、のほほんをお姫様抱っこしてそのまま千冬先生の仁王立ちの股下スライディングからの全力ダッシュを敢行。
ヴァカめ!
そんな仁王立ちしてたら下からくぐり抜けてくださいと言ってるようなものだぞ!
ちなみに下着の色は見えたけど何も言わない。
自称自由人の極みな男はクールに去るもんだ。
――Side セシリア・オルコット
千冬さん相手に平然としてたあの人が血相を変えるのほどの何か……布仏さんを連れて行ったあたり関係あると……。
「ふええ……朧が布仏さんに寝取られた……!?」
!???
「どういうことですの!?」
女姿の織斑さんが泣き出しながら言った言葉に教室がざわつく。
「ハッ、これは織斑さんと氷室君、布仏さんの三角関係!?」「次の同人のネタは決まりましたねぇ」「寝取られたと言ったが寝てないだろ一夏!せめて寝てから言え!」「あれ?違うの」「いや~でもー?」
誰が妄想逞しい仮説を零したら色々なものが燃え上がり始めたと思ったら、篠ノ之箒さんが胸倉掴んでツッコミ入れたのでなんか方向性が迷子に……。
「――不純異性交遊に違いない!織斑先生!奴を捕まえて今すぐ研究所に送るべきです!盛りのついた獣など日本にふさわしくない!」
なんか天上院さんが自己顕示欲とトンチキ思考からとんでもない事を大声で言い始めました。
山田先生が涙目であわあわするばかり。
コレが……学級崩壊というものでしょうか。
「――静まりなさい!」
突然突風が吹き荒れたように路藤原さんの一喝が私たちの空気を押し流しました。
「……私たちは事情を知らないのよ。ソレをあーだこーだー喚き立てるのは違うと思うの。……そうじゃない?」
無言。
天上院さえ路藤原さんの覇気のようなもので声がでてない様です。
「――こういうときは憶測を垂れ流して暴走を加速させるんじゃなくて、裏付けのある情報を集めつつ、本人に接触可能なら接触する。できないなら情報を知ってそうな人を洗い出して接触試みる。それもダメなら協力を申し出て事情を聴いてみるか開き直って待ちの姿勢を取る。少なくとも彼は私たちを巻き込むべきではないと判断したようだし、静観できるのもいい女に必要なことよ♡」
「……えっと、では授業の続きと行きましょうか。織斑さんは授業出来なさそうなら保健室で休むということで――」
なんだかんだで元に戻った授業。
空白となった2つの席に皆さんが目を向けたり、天上院さんが聞こえるか聞こえないかの音で舌打ちをしていましたが、もはや誤差でしょう。
……休み時間に返事がもらえるよう、今こっそりメールで事情聞いてみるのもいいかもですわね。
――Side 氷室直哉
いつもの整備室にたどり着くと、涙目をポロポロと溢している簪ちゃんがいた。
「メールの件、本当なのか!」
「う、うん……これ……」
差し出された端末に『倉持研』と『日本政府』からそれぞれ『ISコア回収連絡』と『代表候補生の解任のお知らせ』が来ていた。
「……どういうことなの、なおなお。かんちゃんなにも悪いことしてないのに、どうしてこんな仕打ちされるの??」
笑顔なのに笑っていないのほほんさんが低い声で問いかけてきた。
「――ISコア数と男の操縦者が出現したことが原因だろうな」
篠ノ之博士が作ったと言われるISコアは467個(ココ重要)。
それは世界全体にある数といえる。
限られた数しかないのに、珍しい男操縦者のデータを取るために枠を設定したら――誰が割を食うことになる。
つまりは、そういうことだ。
「っ!」
「……だがメールの内容に虚偽がある」
オレの黒い宝石が埋め込まれたブレスレットが光を反射して少し光る。
「――倉持研の回収理由には『氷室直哉の分のISコアがたりないから』とあるが――オレは既に持っている。そして織斑には先月のゴタゴタで引っ張り出された白式があり、路藤原は有澤重工が現在機体を開発中で、フレームの骨格だけつけられたコア付きのISを既に持っている」
「つまりあと一人のためにかんちゃんのISコア寄越せってこと?」
「――事実を除けていってあり得る答えを導き出すとしたらそうだな。ちなみにこれがオレのやつ」
起動するとどこぞのコジマ粒子が蔓延る世界でホルスの目をエンブレムにしていた機体コンセプトに割と近い黒い機体が現れる。
「……抵抗したら?」
涙目で喋る余力のない簪に代わり、沸々と怒りが湧き上がってるのほほんさんが問いかける。
「まず日本政府が簪ちゃんをコア強奪した指名手配扱いして、国連にもそこあたり言い出す。簪ちゃんを引き入れるメリットがデカい国と、コア強奪して本人が無くしたといけしゃあしゃあと言う国と、面子守るために奪還に血眼になる日本+その同陣営という三つ巴が簪ちゃんを狙うね。楯無当たりは簪ちゃんのためにお家とか溝に捨ててでも味方してくれるだろうけど……」
「……私が、諦めれば、丸く収まる……?」
泣きじゃくりながら問いかける簪。
「楯無さんが日本に対して面従腹背になるとかあるかもだが、一番被害は小さいな」
「なおなお!そんなひどいこと言うなんて!」
「――話変わるんだけどオレのISコアの番号、469Nなんだ」
「「え?」」
人というのは会話から逸脱した内容を会話にぶっこむことにより、相手の思考が一瞬止まる。
「腐れ兎に借りを作ることになるのでちょいと気が乗らないが、オレのひも付きになるならコアを新しく用意できる。それならそのコア返しても専用機を作れるな。ということで3つ目の選択肢提示するけど簪ちゃんはどうしたい?」
そこに悪魔のような提案を持ちかける。
オレはやはり悪人なのかもしれない。
「私は――」
――Side 倉持研
時間は午後三時、人によってはおやつ時。
そんな時間に倉持研は蜂の巣をつついたような大騒ぎが起きていた。
理由は――
「何故3人目の男操縦者が同席を?」
「なぜって――オレが理由で更識簪が使ってた枠が無くなったって言うんだから関係者としてコア受け渡しに立ち会うべきかなって」
――3人目の男操縦者の氷室直哉が同席し、
「では――ロシア代表候補生が同席してる理由は?」
「あら――妹の後見として同席してるだけですけど?日本代表でもなくなりましたしね?」
――更識簪の姉であり、ロシア代表候補生の更識楯無も同席しており――
「ではそちらの2人は?」
「布仏虚とお申します。今回は楯無様の秘書として同行しているだけですが何か?」
「私はかんちゃん……こほん、更識簪さんの付き人なので同席したまでですよ」
更識家の従者である布仏家の人間が同席するという、想定外すぎる布陣を率いて更識簪がコア返還にやってきたからである。
担当者を名乗る女は口を開く。
「なにもこんな大勢でやってくることはないのでは?」
「アポイントメント取った時、人数指定されませんでしたよね?もっと大勢……マスメディアさんに連絡入れて大勢立ち会いの元、やってもよかったんですよ?」
更識簪が憂さ晴らしとばかりに殴り返す。
「さっさと受け渡しの書類にサインして、コア返還終わらせて帰りましょう?」
明らかに敵意を向けた更識楯無の言葉に、ロシアとの外交問題の可能性を感じた担当者は、上司を呼ぶことに。
お飾りの女上司と倉持研の第二研究所所長の篝火ヒカルノがすっ飛んでくる。
「どうやら担当者の手違いで氷室さんの名前を記載したようです。本当は天上院のか夫さんでした」
「え?ちょっと?先輩の命令通りに――」
なにやらトカゲの尻尾切りが行われているが、所長のヒカルノはソレを無視して頭を下げた。
「上の圧に屈して申し訳ない!それと白式の開発再開の一件で簪さんの後回しになったこともだ!」
「!?」
あれ?と更識簪たちが困惑する。
「――私が頭下げたところで溜飲は下がらんだろうし、何の代替案も提示できない!無力極まりないがそれでも筋を通さんのは違うだろうからな!」
接触ができない環境だったからこうして直接顔を合わせる時を待っていたと告げるヒカルノに氷室は口を開く。
「――筋を通したこの人は一先ずおいておくのが良いと思うが、どうする、簪」
「私は『もうどうでもいい』。日本代表候補生からも外されたし。とりあえずさっさと受け取りのこの書類にサインして、初期化されたコア引き取って」
冷え切った簪の声から、もうダメだなと察したヒカルノは顔を上げ、簪が出した書類に目を通す。
コア返還を以て倉持研と更識簪の関係は終了すること
コアに関して篠ノ之束が初期化および不備がないことの確認を行っており、確認の映像もコアと共に提出するものとする。
存在していないが、もしもコアに不備がある場合は篠ノ之束に連絡すること
どうしても無理なら氷室直哉が窓口対応する。連絡先については以下に記載。当情報は社外秘として扱い、流出時は相応の損害賠償を請け負うものとする。
などなど書かれている。
「……個人的にそちらさんと仲良くなりたいんですかね?」
「少なくとも今倉持研所属というだけでかなり印象マイナスのため、提案されても拒否します。悪しからず」
ヒカルノの提案をバッサリ切り捨てる氷室。
ダメかぁ……とこぼしながらヒカルノがサインをする。
裏にカーボン紙が挟まっていたのか複写されたモノがあり、ソレがヒカルノに渡された。
「こちら控えですので無くさないよう、お願いしますね」
と複写の方を楯無がヒカルノに渡すと、用が済んだとばかりに更識簪たちが立ち上がる。
「お待ち下さい! 色々聞きたいことが――」
担当者がそう言うが
「――もう俺達は無関係だ。だから関わるな」
と氷室が告げる。
その目は殺意も見えたことだろう。
泡を吹いて担当者が倒れ、上司が慌てふためき、ヒカルノが立ち上がって無言で頭を下げているのを無視し、彼女たちは去っていく。
後に倉持研騒動と呼ばれ、氷室という男のバックに篠ノ之博士がいるのでは?と囁かれるようになったとか――。
倉持研と日本政府からの通達があり、簪が第三の選択肢を選んだあとから倉持研へ向かうまで、そして倉持研の一件を片付けたあとに起きた一幕が今明かされる。
次回 インフィニット・ストラトス+3-1
第六話『倉持研騒動と更識家・布仏家と氷室with天災(裏)』
※予告内容は変更される場合もあります。
次回もお楽しみに!