総力戦編 第22話です、お楽しみください
「サージタウスは?」
「汚染されたパーツは全て破棄しました、予備パーツを全て使って修復しましたが…
正直ただのハリボテです、戦力にはできないでしょう」
「分かりました、報告ご苦労様です」
急遽サージタウス格納庫を即席の会議室へと仕立て、そこに集められたミレニアム生+ゲヘナ風紀委員会。そしてゲルニック率いるシャーレ所属の生徒達とバルボロス
当たり前ではあるがみな顔色はよくない、横槍があったとはいえこれだけ派手に失敗したのだから当然ではあるのだが
『…さっきのはメラゾーマだった、撃った奴は…?』
「ん?あー、今私の直下部隊であるFOX小隊が追跡中ですよ
痕跡は残しているのでいずれ捕まるかと」
まったく白々しいですね、撃ったのはあなたの上司でしょうに…
…おや?バルボロスも色彩から侵食を受けていたハズですがもう治ってますね、ヘイローというか神秘を持たぬ生物には効かないんでしょうか?
「あ!アウルさん!さっきは何があったの!?アリスに当たったのって、アウルさんが前使ってたメラゾーマと同じやつだよね!?
なんでこんなことに…!ねぇ、あれは誰がやったの!?」
「騒ぎたい気持ちは分かりますが今は抑えてくださいモモイさん。
…さてお集まりいただきありがとうございますみなさん
時間がないので手短にお話ししますが先の戦闘でユズさんがペロロジラの中に潜む正体不明の敵、色彩の侵食を受けて倒れました
引き離しはしましたが依然侵食は止まらず、解析の結果残り1時間…正確に言えばあと54分と22秒で彼女は花岡ユズではない『何か』に変質し、2度と元には戻りません」
「え…!?あ、あるよね?ユズを治す方法あるんだよね!?」
「はいはい後で説明しますから。まずこれからワタクシらに何ができるかの話をさせてください」
モモイだけでなくその場にいた全員が騒ぎ出すのを強引に諌め、端的に事実を告げていく
「差し迫った脅威はテラー化が進んでいる花岡ユズと今ここに向けて侵攻中のペロロジラです。
この2つをなんとかしなければキヴォトスは滅びます」
「ほろっ…!?」
「花岡ユズのテラー化を止めるには大元のペロロジラを侵食が終わる前に撃滅し、根源を断つ必要がある
…しかしペロロジラを1時間以内で確実に排除する方法はワタクシには思いつきませんでした
故にみなさんにお聞きしたい、残る僅かな時間でペロロジラを倒す策を持っている方がいればこの場で発言を」
反応はまちまちだった。
ただ慌てる者、顎に指を当て考える者、隣の人間と何かを話し合う者、そして──既に手段はあるだろう?と羊のような瞳で見つめてくる者。
返ってこないと分かりきっている質問をしてから20秒ほど経ったところで次の段階へ。
…できればやりたくないんですがねぇ、強行するにはワタクシはまだ生徒達を掌握しきれていないというのに。
「無いようなのでシャーレとしての作戦を通達。
…花岡ユズを切り捨ててペロロジラの囮に使います」
『「「──────は?」」』
唖然として静まり返る大多数の中で2人と1匹の反応は短いにも関わらずよく響いた
まー、そうなりますよねぇ…
「まって、アウルさん?いま、なんて言ったの?」
瞳の奥を真っ黒にしてにじり寄ってくるミドリ。
だから言いたくなかったんですよもう
「ペロロジラを確実に仕留めるには時間が足りません。幸いアレが花岡ユズを目指して移動しているのは明らか。
ですので新しい準備が整うまで移動可能かつ隔離ができる乗り物に彼女を移し、ペロロジラの進行方向を人間のいない方向へ誘導して──」
ドガッ…
真横から振り抜かれた小さな拳が頬を打つ
見ればそこには怒りとも悲しみとも取れる表情の少女が…
「………モモイさん」
「ふざけ、ないでよ…」
「ふざけていません、我々にできることを今「それが…ふざけてるって言ってるの!!
切り捨てる?囮に使う?バカなこと言わないで!ユズは怖いのも辛いのも我慢してパイロットになってくれたのにこんなのあんまりだよ!!」
「でしたらアナタには何かいい作戦があるとでも言うんですか?残り50分でペロロジラを撃破し、ユズさんのテラー化を阻止する方法が?」
「──果実を使う」
………!
一瞬顔を逸らすとほんの僅かにニヤけた防衛室長と目が合った
さては告げ口しましたね?ああまったく、本当うざったい小物ですねぇ…
「キ、報告にあった願いを叶える果実か?」
「そうだよ!あれを使えば…!」
「却下です。危険すぎる、制御の方法もロクに分かっていないのですよ?
制御できたとして、仮に失敗でもして色彩に果実を奪われるようなことがあれば取り返しが付かなくなる」
元々邪心というピースが発生しないように創られた天使か、もしくはそもそも思考を持たぬ無機物…
それほど極端な者でなければカンタンに邪悪化してしまうことは知っている
魔物はもちろん、ギュメイ将軍が言うにはダーマ神官すら魔物化したというのならあの果実を制御できる人間など存在しない
…だからこそガナサダイはシャーレに実験をさせようとしているのだろうが。
「アリスからもお願いです…今度は上手くやります、だから…もう一度、チャンスを…」
「ダメです、失敗のリスクが高すぎる」
女神の果実を使わせるわけにはいかない、未だ未知の力であるというのもそうだが1番の理由は陛下である。
仮にここで出し渋ったとしてもガナサダイのあの口ぶりから彼は色彩を撃滅する手段を持っているはず。
十中八九グレイナルのマダンテでしょうが今のところマダンテ唯一の対抗手段である『マジャスティス』は未完成…
正直ここはある程度モタついたところをグレイナルと色彩に潰しあって貰った方が今後の展開は良くなる
信頼は失うでしょうがこの先『不意打ちでマダンテを受けるリスク』と天秤に掛ければどちらに傾くかは言うまでも無い
「だからユズを見捨てるって言うの!?」
「もし倒し損ねれば今度はこの世界の人間全てがユズさんのようになるのかもしれないのですよ?
…ギュメイ先生とユメさんが不在の今、ワタクシはシャーレのトップとしてキヴォトスを守る責任がある」
「ギュメイ先生もユメさんもこんなの望むはずないよ!」
「でしょうね、おそらくワタクシは1人の生徒を見殺しにした人でなしとしてキヴォトス中から糾弾されるでしょう
…ですが全てまとめて滅ぶよりはいくらかいい」
これでワタクシの計画は大きく後退するでしょうが果実を使うよりはマシです
果実を温存し、グレイナルの戦力を削る…ええ、グレイナルです。アレさえ殺せればあとはどうとでもなる
「ちょっと待ってちょうだい」
…ん?
それまでほとんど無口──というかゲーム開発部以外ほぼ口を開くことのなかった静かな格納庫でリオがアウルを呼び止めた
「リオさん、何か考えが?」
「いいえ、私の考えはないわ。…ただモモイの意見に賛成すると、そう言いたいだけ」
「! リオ先輩…!」
「────おやおや」
誰かしらモモイの案に乗ってくるとは思っていた、だがよりにもよって調月リオ、彼女が…
「…言っている意味が分かっているんですか?今度失敗したら世界が滅ぶかもしれないのですよ」
「分かっているわ。だからここから先あなたが責任を取る必要はない」
っ?…うん?つまりあなたは──
「私、調月リオはゲーム開発部部員、才羽モモイの考案した作戦を強く推薦するわ
この先何があろうとその作戦の責任はすべてこの私が取る。
果実を使わせてちょうだい、鳥山アウル」
「リオ…」
──今日1日で1番驚きました、どういう心境の変化でしょうか?流石に声を大にして賛同するとは思ってませんでしたが反対されるとは…
「世界滅亡の責任をアナタ1人が取ると?笑わせないでください
数万、数十万の人間が死に至った責任を子供1人に取れるものですか
だいたいセミナー会長という責任から逃げ出したアナタにそんな言葉を言う資格ありませんよ」
「……………」
「ええその通りですアウルさん、逃げた彼女に責任だのなんだの言う資格はありません」
と、ここでヒマリさんからの援護射撃。ああよかった、流石にあなたまでおかしなことを言い出したらどうしようかと「ですのでこの作戦の責任は特異現象捜査部部長を務める超天才清楚系病弱美少女ハッカーの明星ヒマリが持ちましょう」
・・・はい?
「いやどういう「C&Cもその作戦に賛成だ」
「ですから「ゴホッゴホッ…エンジニア部も賛成だよ、ヴェリタスのみんなも乗るかい?」
「…うん、賛成」
ヒマリを皮切りに次々と声を上げてゆく生徒達を前に、これまで睡眠時以外一切止めることがなかった元帝国将校の思考が止まった
果実使用に賛同する人間が1人もいないとは思っていなかった。だがこれだけ煽った上で集まっているミレニアム生全員が『是』と返すとはまったく予想していなかった
「常軌を逸しています。色彩を確実に葬るには果実を使わずにもう一度電力を集めてギガスラッシュを撃つしかない!
これで失敗したらアナタ達は!その瞬間から死んでいくキヴォトスの人間達になんと説明するつもりですか!?」
「──これはミレニアム上層部の総意よ。ユズが全てを賭けて私たちを守ったなら私たちも全てを賭けて彼女を助ける」
手先の震えを必死に抑えながらセミナー代表として早瀬ユウカもそう宣言する
怖くないはずがない、自分の選択で世界を滅ぼすかもしれないのだ
──それでも彼女は、彼女たちは選んだ
「聞きなさい鳥山アウル。ミレニアムサイエンススクールは、たとえ世界滅亡のリスクがあっても仲間を見捨てるようなことはしないわ
それこそかわいい後輩を見捨てるなんて世界を滅ぼすことより怖いことなの!
満場一致よ、果実を使わせなさい!!」
「っ………」
──なんなのですかこれは
「キキ、お前の負けだな?鳥山アウル」
「ッチ、ちょっと黙っててくれます?」
シャーレは超法規的組織ではあるが独裁権を持っているわけではない
あくまでここエリドゥはミレニアム自治区内。自治区内で発生した問題においてミレニアム上層部がそうだと決めればシャーレは口出しできないのだ
これ以上反対意見を言ったところで無駄に悪印象を与えるだけですね、まったく…どうしてこんなことになったんでしょうか
倒すにせよ失敗するにせよ、果実を使わせないという選択はもう取れない
ここはこちらが折れるしかないでしょう
「………分かりました、シャーレとして許可します
ほらアリスさんお望みの果実です、好きに使いなさい」ポイ
「え、わっ、わわっ…」ポト
キーである果実を渡したことで一気に活気が戻る格納庫内。
シャーレ側──というか鳥山アウルだけは対極の反応だったが。
──この場の誰も分かっていない。
ただ目の前で人が死に滅ぶことと、自分の選択の結果人が死に滅ぶことには天と地の差がある
仮に身の回りで10人の人間が死んだとして、その記憶は不快な記憶としてしばらくは残る
その人生で10人分の死を何度も思い出すことだろう
だがふとした拍子に忘れることもできる、いずれ思い出すとしてもその瞬間は逃れられる
しかし自分の選択の結果、人が死んだとあれば話は別だ
何があろうとその10人のことは一瞬たりとも忘れることはできないし、10人はその選択を忘れない
寝ても覚めても命の責任がのしかかる。死にゆく者達にとって顔すら知らない相手が勝手に自分の命を脅かしているのだ、必ずそこに憎悪は発生し続ける
「………ナギサさん」
「なんでしょう」
「トリニティの砲撃部隊を呼べるだけ呼んでください
作戦の失敗が確定したと同時にトリニティの全火力とワタクシが持つ最強の呪文『メドローア』をもって色彩をエリドゥごと爆撃します」
おそらくこれでも色彩を葬るには火力が足りない、だが足止めできれば充分。あとはグレイナルがやるはずです
エリドゥに残っている人間は残らず蒸発するでしょうが…躊躇っている余裕は無いしそもそも躊躇わない
「ホホホ…仮にこれで勝つようならもう天晴れとしか言いようがありませんねぇ」
他人の命をなんとも思っていない冷酷無慈悲な軍略家たるゲルニックを書けて割と満足している作者のルルザムートです、ハイ。
ユメ√との落差が、落差が凄い…
プロット(というか普通に1話分の話)を読み返すとユメとミレニアム生徒達は全く摩擦のないままユズを助けるために戦いに行っていたのですがゲルニックの場合そうは行きません
どこまで行っても彼女は野望を捨てられない無慈悲で『悪』な軍略家であり、彼女の天秤は情に流されず物を比べるのでこういう衝突は起こるだろうなと思いながら書いていました
それではまた明日…