ここらで少し場面は変わりゲルニック視点へ。
基本的に一人称は『ワタクシ』、相手を呼ぶ時は『アナタ』な彼女ですが本当に気を許した相手には『私』『貴女』を使って欲しいと思っている
サブストーリー編 第22話です、お楽しみください…
──人間は、自分が持ち得ないものを持っている人間に憧憬と嫉妬を抱く生物である
持たない人間は【それさえあれば】と考え続け、やがてその穴を埋めるため己の欲望を増大させる
持つものから奪ったり、あるいは全く別のものでそれを埋めようとしたり…
だが自分はそのようなことをしなかったし、する必要性も無かった。そう考えれば自分は自分が恵まれている人間であると断言できる
自分という人間は誰にも憧れていないし、誰のことも羨んでいない。…そう思っていた
別にかつての生き方に不満があるわけではない。細かい場面でああすればよかった…こうしていればもしや…そういう考え自体は確かにあるものの、あれは全てを持ち得た自分にできた全てのことをやった人生である。それで失敗したというのなら悔いはない
悔いはない、嫌悪もない、その上で考えてしまう。
【サクラコさんのようになれていたら…】と
非人間だの、悪魔だのと敵はもちろん味方にも蔑まれていたが結局のところ。自分にも人間らしい憧憬が残っていたことに最近気付いて驚いた。
──とはいえやることは変わらない。
ワタクシは鳥山アウルであり、元帝国将校ゲルニック。過去の【もしも】に立ち止まっているほど、ワタクシの欲望は浅くは無いのですから…
▽▲▽▲▽
「…………」
コツコツと石造りの床に足音を響かせながら約束の場所へと向かう
場所はトリニティ、シスターフッド本部。
夜も更け、既に日付は変わっていたものの、眩しいほどの月明かりのおかげで足元は明るかった
やがて時刻ピッタリに指定の場所に辿り着き、そこにいた少女と挨拶を交わす
「こんばんは、サクラコさん」
「はい、こんばんはゲルニックさん。」
歌住サクラコ。トリニティ総合学園、シスターフッドの長を務める3年生の生徒であり、ゲルニックが己を偽らず、手放しで【友人】と呼ぶことのできるただ1人の人間…
今回この場を用意したのはそのサクラコであった。
「遅い時間にも関わらず応じてくださったこと、本当にありがとうございます」
「構いませんよ、組織の長というものは一挙手一投足注目されるものです
長に相応しい判断を下せる貴女をワタクシは賞賛します」
そうして通されたのは談話室だった。
清掃が行き届いてはいたものの、ここ最近に使われた形跡が無い。
木製のテーブル1つに、それを挟むように置かれたイス2つ…
おそらくは自分を出迎えるために用意してくれた部屋なのだろう
「どうぞお掛けください」
指し示された木製のイスに座り、サクラコもそれに続いて対面の椅子に座る
少し緊張していた様子の彼女だが即座にそれらを押し留めたようで話を切り出した
「実は今回お呼びしたのは私個人の用事…私の、想いを打ち明ける場になるかと思います
いつもは他の方の秘密をお聞きして、共に祈りを捧げるのが私の務めですが──」
再び彼女の言葉が詰まる、緊張がぶり返したのだろう。
「大丈夫です。私は元帝国将であり、シャーレ所属の生徒でありますが同時に貴女の友人です。何があろうと私は出来うる限り貴女の助けになりたい…もちろんご迷惑でなければ、ですが」
嘘偽りない本心。物心ついた時から嘘と疑心の渦中にいたゲルニックの本音である。
なぜサクラコだけに心を許すのか、それは誰も知らない。
ゲルニック以外は。
「ありがとうございます、ゲルニックさん
今日は──ゲルニックさんに、私の秘密を聞いていただきたくて…
聡明な貴女であれば予想はついているかもしれませんが…正直なところ、まだ迷いがあります」
「迷い?」
「はい、ゲルニックさんは私の大切な友人ですが…故にご迷惑をかけてしまうかもしれないと考えると本当に話してもいいのか、と…」
──相変わらず貴女は優しいですね
「いいですよ」
「そう言っていただけるのは大変嬉しいのですが…しかし口にするだけでご迷惑になる可能性も「ええ、いいですよ。貴女にならどんな迷惑をかけられても、私はそれを迷惑だと思いませんから」
「しかし…」
「他者を気遣うその姿勢は貴女の美徳です、ですがここにいるのは互いに友人と認める人間2人…友人というのは時に互いに迷惑をかけ合い、時に助け合う関係だと、少なくとも私はそう思っています。
無理にとは言いませんが、よければ話していただけませんか?サクラコさん」
「──本当にお優しいですね、ふふ…勇気を出して良かったです」
腰掛けたばかりですが、と先日ゲルニックが渡した風の帽子を持ってサクラコが立ち上がる
「少し、外で風に当たりませんか?」
▽▲▽▲▽
トリニティ自治区の外れ、かろうじて道路があったと分かる以外は何もないその場所は他学園の生徒はもちろん、トリニティ生徒すら寄り付かない郊外だ
風の帽子を使って飛んできた2人はどこを目指すわけでもなく、ひび割れ色褪せた道路に沿って歩いていた
「実は私も、シスターフッドの皆様も…この学園に纏わる様々な事を知っており、日々対応しております
一般的な事から──口に出すのも憚られることまで。」
「……………」
「シスターフッドは歴史の深い組織です、表に出せない秘密の1つや2つ、あったとしても不思議ではないでしょう?
…そしてその秘密は、組織である以上必要な秘密でもある」
「………他に知っている方は?」
「いません。…いえ、経典の知識として理解している方はいらっしゃるかもしれませんが…
それがどのような向き、形であれ、切実な理由があったとしても──言葉にするのはとても難しいのです
私の悩みの大半はそういったもので…」
そこで彼女の言葉は途切れてしまった。
コツコツ、コツコツ、二重に重なった足音がその沈黙をより強調していく…
「その、申し訳ありません。お話ししたいと言ったのは私なのに具体的な内容に触れられず…」
「いえ充分です。サクラコさんが誰にも言えない悩みを抱えて苦しんでいると分かりました。
悩みそのものを解消することはできませんが一時それを忘れさせることくらいはできるでしょう。…メラ」
メラよりさらに小さな火の玉を空に打ち上げ、小さく炸裂させる
真夜中の空でも見落としてしまえるほど小さな花火だったがそれを見つけた1羽の動物が静かにサクラコの肩に止まった
「わわっ…あなたはたしか、フラッグ、さん?」
「ホー…」
「悩みの解決方法は大きく2つです、根本を紐解き解決するか…もしくは悩みを忘れるぐらい楽しい何かを見つけるか。
…いえ、2つ目は逃避…解決とは呼べませんね
しかしサクラコさんの気持ちを楽にするくらいはできると思います」
話は分かっていないながらも1人悩むサクラコの様子は感じ取ったのか、肩に止まったフクロウが静かに少女の頬に頭をすり寄せる…
「ゲルニックさん…」
「立場上、スケジュールを確保することは難しいでしょうが…もし空きができたら教えていただけませんか?ケーキの美味しい店を見つけたんです。貴女がよければ、一緒に行きましょう?」
「っ…!はいっ、すぐには難しいですが、必ず…!」
結局サクラコはゲルニックに打ち明ける事こそしなかったものの、その表情は相談前と比べてとても晴れやかになっており、後日それを見たマリーやヒナタからも『何かいい事があったのか』と聞かれるほどだった
2人と1羽しか知らない秘密の会談はそうして幕を閉じる
陰謀も計略も何もない、友人同士の相談会…別れ際のその時、歌住サクラコは彼女に対する疑問を投げかけた
「ゲルニックさん、貴女はどうして…ここまでしてくれるのですか?」
「──そうですね、キヴォトスに来たばかりで居場所の無い私を助けてくれたというのもありますが、それが大元ではありません」
「? では…?」
「それは──
メンフクロウ、ミミズク、シロフクロウ、どんな梟をゲルニックの肩に止まらせようかと散々悩んでシロフクロウにした作者のルルザムートです、ハイ。
ギュメイ視点ことアビドスから急に飛びましたが今章以降、寄り道回り道、一切やる余裕は無いのでやりたいサブストーリーは全部ブチ込みます
…あとアビドスから帰るだけの描写に必要性を感じなかっry
・・・まぁそんなわけでまた明日…