ギュメイ将軍のキヴォトス放浪記   作:ルルザムート

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Ⅸ本編だと関所からちょっと歩いただけでゲームの仕様上すぐに街にたどり着けるけど、しっかりと国らしい広さを想定して書いているのでイメージがずれてしまうかもしれない

サブストーリー編 第31話です、お楽しみください


絶望と憎悪の瞳

ガンベクセンが定めた期限が来た。

 

彼はそこでようやく飢饉による戦争が起こることを国民全員に通達。

 

結局なぜ飢饉が予測できたかの説明は一切無かったが【少なくとも人為的なものでないこと】の裏付け、そしてこれを見越し【年数をかけて国内外より大量の備蓄をしていた王の手腕】により、飢饉の中でもガナンは潤っていた。

 

 

 

当然それを知ったセントシュタインやルディアノも最初は穏便な交渉の席を作ろうとしていたが、他国の国民全員に行き渡らせる分の備蓄は無いという理由でガンベクセンが完全拒否した。

 

──これに対し最も強く反発したのは他国の人間でも自国民でもなく、ガナサダイであった

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

「父上!どうかご再考を…!何も最後まで保証する必要は無いのです!

飢饉を乗り越えるその時まで!少し、ほんの少し手を取り合いましょう!

あんな、米粒1つすら渡さないとも取れる発言をしては…!!」

 

「確かにお前の言うとおり、ガナンの備蓄は約半年分…この国と別にもう1カ国を補えるだけの余裕を持たせるつもりで集めてある」

「であれば…!」

 

「だが1カ国だけだ。それに多めに拵えたのは他国を救うためでは無い。予測が外れ、想定より飢饉が長引いた時のための、あくまでこの国ための蓄えだ。

それを怠った他国の尻拭いを、この国がやる必要は無い。…近衛兵、ガナサダイを部屋に。」

 

「…は。……王子、こちらに」

「離せっ!!父上にもう一度…!父上っ!どうかご再考を…!」

「ガナサダイ、お前に政治は早い。部屋に戻って頭を冷やせ」

 

 

 

「父上ェッ!!!」

 

 

 

「────再考は、無い。」

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

ガンベクセンの徹底した拒否の姿勢、それでも交渉の場を作ろうとしていた2国であったものの結局飢えに勝つことはできず、当時のセントシュタイン国王とルディアノ王が【飢饉はガナンの独占だ】という扇動を自国民に流し、戦争を勃発。

 

セントシュタイン軍とルディアノ軍の同盟軍によりガナン領土への侵攻が開始。

 

 

 

これにより【同盟軍】対【王国軍】の戦いが始まる…敵味方問わず誰もがそう思っていたがガンベクセンのやり方は徹底していた

 

ルディアノ、セントシュタイン両国の軍はガナン王国軍と戦うより先に──自国の兵と戦うことになるのである

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

「南の森に張っていた部隊は全員投降しました」

「部隊長以上の身柄は回収と手当てを。それ以外は武器を取り上げて解放しろ」

 

「報告。ルディアノ軍右翼の将がこちらにつきました」

「2日分の食料を与え、天幕で休ませたのちに先日入ったルディアノ軍の精鋭一千を率いさせ戦わせよ」

 

「ゲルニック総司令より報告。セントシュタインに動きあり。合同軍五千が関所を通ってこちらに向かってくるとの報告。」

「それには誰も手を出すな、半分渡ったところで私が関所ごと爆破する。こちら側に残った残兵は()セントシュタインの兵を集めて迎撃させよ。千もいれば充分だ」

 

 

 

まずガンベクセンはそれまで医者兼カウンセラーでしかなかったゲルニックの位を大幅に引き上げ、この戦争中に限りガナン王国軍総司令の地位を与えた

 

次にゲルニックとガンベクセン自身がそれぞれルディアノとセントシュタインに潜入。

ガナン領土をギュメイとゴレオンが守る間、両国から人材の引き抜きを行った

 

 

 

対価は単純。【生きることになんの不自由もない食糧の提供】これだけである

 

 

 

国全体が貧しく、将校すらその日何で食い繋ぐかに四苦八苦する中、ガンベクセンらが出した提案は抗い難い誘惑であった

 

この引き抜きの対象となる戦力は精鋭、部隊長や将軍といった、軍になくてはならない存在を狙うのは当然のこと、2人はさらに()()()()()()()()を中心に行った

もちろん、配偶者ごと囲い込み、説得をしやすくするためである

 

 

 

両国の人材はみな空腹に耐えかねており、そこへそれを解決する手が差し伸べられれば──人は動く。

 

そして飢饉と引き抜きの掛け算により、両国の軍事力は加速度的に弱体化していき、戦争1年目が終わるころ、ガナン王国軍として戦う兵士の7割強が元セントシュタイン・元ルディアノの兵士たちで構成されており、両国は知らず知らずのうちに自国民同士で戦い続けていたのである。

 

 

 

そして3年目、王国軍の損害が完全にゼロになって丸1年が経とうとしていたこの時、最後の決戦だと両国王室か銘打った国境の戦いが始まった。…いや、戦いと呼ぶには──

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

「ドルァアア!!

っし、開いたぞギュメイ!」

「ああ。」

 

 

 

兵糧が無く、また軍の中枢であった実力者達は既にガナンに寝返ったことで合同軍に残ったのは何も知らない弱兵ばかり

 

士気も体力も抜け切った兵士たちの防衛線は前方を固めていたゴレオンの強部隊が彼を筆頭に木っ端微塵に粉砕。

 

初戦からこれまで殆ど戦場に出ていなかった王国軍最強の攻撃力を持つゴレオンの兵団の爆発力は凄まじく、ドリルでスポンジを削り取るように道を開いた

 

そして剣士は、彼らが作った隙間を縫うように駆け抜け、あっという間に敵本陣へ──

 

 

 

「まずい…!将軍を逃がせ!ギュメイが来

【しっぷう突き】

 

 

 

──結論を言うと、2カ国同盟軍対ガナン王国軍の勝敗はガナン王国軍の圧勝であった。

 

同盟軍が飢饉と引き抜きにより激しい弱体化が続いていたこともあるが、それ以上にガンベクセンが認めたギュメイとゴレオン、この2人の強さが異常だったのだ。

 

ゴレオン率いる超重量級部隊を前に同盟軍の兵士達にはなす術が無く、士気を上げようと前線に出てきた将軍や部隊長はことごとくギュメイによって討ち取られた。

 

ただでさえ国が貧しい中で無理に始めた戦争により2カ国は国を保てるかどうかの瀬戸際まで弱り切り、それでも後がない同盟軍はガナンに戦いを挑み続けたが──

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

「国王陛下、セントシュタインより使者が来ております」

「聞いている。通せ」

 

 

 

謁見の間が開け放たれ、若者とも老人とも取れる痩せこけた男がフラフラと入ってきた

ところどころ骨の形が見える身体にボロボロの大使服を纏った男は懐から書状を取り出し、掠れた声で言葉を紡ぐ

 

 

 

「ゴホッ、セントシュタイン国王よりガナン王国国王陛下、ガンベクセン王に…」

「前置きはいらぬ、倒れる前に結論を話せ」

 

「ぎっ…!く、王に代わり宣言致す。我が国、セントシュタインは──ガナンに降伏する」

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

同盟軍としてではなく、セントシュタインがルディアノの是非を問わず独断で降伏を宣言したのである。

 

これによりセントシュタイン軍は完全に機能停止、取り残されたルディアノ軍も完全に崩壊し、3年間の戦争──いやただの一方的な蹂躙は幕を閉じたのである

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

「…ガナサダイ王子、戦争が終わりました」

 

 

 

部屋に入れば──変わり果てた姿の主がそこにいた。

まるで外界との接触を拒絶するかのように頭を抱え、テーブルに向かって塞ぎ込むガナサダイ王子。

 

ただでさえ戦争状態による【他国民の無意味な死】によって精神をすり減らしていたガナサダイは、戦争中に母親が亡くなり、あまつさえ葬式すら行わせられなかったことで完全に塞ぎ込んでしまった。

 

今彼とまともに会話ができるのは5年、真摯に付き添い続けたギュメイだけである。

 

 

 

「………そう、らしいな。……それで、この3年間でこの国の兵士は何人死んだ?」

 

「………142人です」

「──ハハ…数千対数千、あるいは万対万の戦争で3年も殺し合って、142人か。2カ国は子供すら徴兵していたというのにな」

 

「ガンベクセン王の指示が的確だったからです、あれが無ければ──」

 

 

 

「なにが的確だっっ!!」

 

 

 

これまで聞いたことのないような悲痛な叫びが部屋に響く。

怒り、悲しみ、絶望、あらゆる負の感情が混ざった王子の叫びを前に、声が出ない

 

 

 

「お、王子…」

「ガンベクセン…!あの化物の狼藉が無ければ!死ななくて済んだ命がいくつあった!?あの男が引き起こした飢饉のせいで何千の人間が死に、何万の人間が苦しんだ!?」

 

 

 

っ?今──

 

 

 

「今、なんとおっしゃったのですか?ガンベクセン王が飢饉を引き起こしたと…?」

「そうだ…!ゲルニックが全て調べてくれた!あの男はこの国を潤すため、飢饉を引き起こし、それに乗じ他国の人材を奪い、軍事力を叩き尽くした!」

 

「ま、待ってください!ガンベクセン王が優れた魔法使いであることは存じておりますが人間1人の力で飢饉を引き起こすなど…!それに飢饉の原因は人為的なものではないと2カ国に証明されたはずでは!?」

「上級以上のヒャド系呪文、もしくはハリケーンやコーラルレインといった天候操作の呪文が使えれば不可能ではないし、あの男ならやりかねない…!証明だって予め息のかかった人間を潜り込ませておけばいくらでも捏造できる!」

 

 

 

そん、な…ではこの3年は本当に何のために…

 

 

 

「一度始めた戦争の落とし所を決めねばならないだと…!?お前自身が焚き付けたくだらぬ行いのせいで人が何人死んだ!?何人苦しんだ!?これが人を導く王族のやることか…!?これが人間のやることなのか!!どうなんだ!これでもまだ奴を王と呼べるのか!?答えろっ!ギュメイっ!!」

 

 

 

それまで、ずっと気丈に振る舞っていた。

自分よりずっと幼いはずなのに、王族というだけでそれを忘れていた

 

彼は子供だった。王族に生まれただけの普通の子供。

しかし不運なことに、彼の父親は──誰の目から見ても普通では無かった

 

 

 

「………供をします、少し歩きましょう。」

「………」

 

 

 

王子の涙と鼻水を拭い、外へ連れ出す。

今までもこうして何度が連れ出してはいるが…今のところ彼が日中1人で外に出ることはほとんどない

夜中にふらっと1人で出るだけだ

 

 

 

「ガナサダイ」

「!」びくっ

 

 

 

声を聞いた時、反射で庇うようにガナサダイの前に立つギュメイ。

世間に疎かったギュメイですら、かの王の行動はそうさせるに充分だった

 

 

 

「ガナサダイよ、話がある。王位についてだが

「ギュメイ、この男を追い払え」

 

 

 

言われるがまま、ギュメイは剣を抜いていた。側近とはいえ、自分のような立場の人間が王族に剣を向けるなど死罪に等しい、それでも抜かずにはいられなかった

 

死にかけた小動物のように怯える主の目が、そんな当たり前の常識を忘れさせていた

 

 

 

「……………」

 

 

 

しかしガンベクセンはギュメイを咎めることも再度ガナサダイを呼ぶこともせず、そのまま背を向けて王室へと戻っていった

 

 

 

「…大丈夫ですか、ガナサダ「決めたぞギュメイ」

 

 

 

壊れた。それまで【王族らしくあろうとする普通の子供】だったガナサダイの中で、絶対に壊れてはいけないものが音を立てて砕け割れた

 

本当に音が聞こえたわけではない。だがギュメイの感覚は、まるで強固な城壁が崩れ落ちるような音を、確かに目の前の主から聞き取っていた

 

 

 

『余はガンベクセンを殺す』

 

 

 

──絶望と憎悪しかない19歳の少年の瞳は、今でも鮮明に剣士の記憶に残り続けている




実は飢饉は本当に人為的なものでは無く、ガンベクセンが引き起こしたと言うのはガンベクセン失脚を狙うゲルニックの悪辣な嘘だったということをこの後書きで書いておいた作者のルルザムートです、ハイ。

ええと過去回想、王国→帝国への変貌後の話のことをすっかり忘れており、あと1話分多くなります、スミマセン…

それではまた明日…
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