それではサブストーリー編 最終話。お楽しみください…
「ふむ、ここがレッドウィンターですか。この肌寒さ…エルシオン学院を思い出しますよ」
吹雪…と呼ぶほどではないがそこそこの降雪の中、ゲルニックはとある人物に会うため事務局を目指していた
実を言えば逃げるビナーをジバルンバで足止めし、2人にトドメを刺させることもできた
──だが割に合わない
グレイナルは生きてますし、防衛室長に匿われたガナサダイが何をしでかすか分からない以上、あれ以上魔力を消耗してまでビナーを追うのは採算に合いません。
いずれ正体を突き止める必要はありそうですが何も今でなくていい、まずはこちらです。
ビナー戦の後始末には付き合わず、鳥山アウルとしてレッドウィンターに降り立ったゲルニック
幸い喧しい馬鹿(ゴレオン)は栗浜アケミと共にゆっくりレッドウィンターへ戻ると言っていたため邪魔をされる心配は──おっと。
「とまれっ!なにものだ!」
建て直されたばかりの事務局が見えてきたとほぼ同時、4人の部下を引き連れた小さな少女──連河チェリノが立ち塞がった
また面倒そうなのが…そう思いつつも顔には出さず、代わりにシャーレ身分証を取り出す
「連邦捜査部シャーレ所属、トリニティ生徒の鳥山アウルです。
レッドウィンター書記長に要件があり参りました。」
「ぬ?おいらに?」
「いえ、アナタではなく書記長にですね…」
「ついさっきおいらは書記長になったんだぞ!書記長に用があるというのならおいらに話を──」
ああ、もうめんどくさい…!
「・・・【バギ】」
「えっ?あ!おいらのヒゲが!?」
極小のバギでチェリノのヒゲを吹き飛ばし、そのままさようなら。
遊んでいるほど暇ではないというのに…さて、彼はどこでしょうか
「………私の友人をあまりいじめないで欲しいな」
風に乗って飛んでいくチェリノのヒゲをキャッチしながら現れたのはここに来た目的の人物だった
ふむ、思ったより早く見つかってよかったですね
チェリノ達に帰るよう促しながらこっちに歩いてくる彼を満面の笑顔で出迎える
「これはこれはガンベクセンさん、噂通りの「前置きはいい、お前はゲルニックだな?」
「────」
相変わらずあらゆる過程を吹っ飛ばして結論を真っ先に言うスタイルに思わず面食らう
…モシャスに狂いなし。にも関わらずこんな1発で──ああ、思い出してきました。こういう人でしたねぇ…
「………まったく、相変わらず気持ち悪い方ですね」
「何の用だ」
これでもかつては彼直々に王国軍総司令に任命されたこともあったというのにひどい警戒具合ですね。
まぁ当時ガナサダイとギュメイさんを屍人に襲わせた張本人であるとなぜか知っていた上での任命だったのでその時点で倫理観とかがトチ狂っていたのでしょうが。
だがゲルニックは知っていた。この合理性の王が、王の仮面を被っただけの凡人であることを。
──だからここにワタクシはここに来たんです
「率直に申し上げましょう。…キヴォトスでガナサダイ陛下の存在を確認しました」
▽▲▽▲▽
「おーい、おーいガンベクセン!夕ごはんの時間だぞ!」
「────うん…?あ、ああ、すぐに行く」
チェリノに呼ばれ、部屋を出る。
訪問してきたゲルニックとの会合からすでに半日以上が過ぎていたが、彼の心はここにあらずといった様子で半日前からほとんど動いていなかった
「厨房を見たがなんにもできてないじゃないか!おいら今日はカレーが食べたいって言ったのに!」
「………すまない、少し居眠りをしていてね。下準備はできているからもう少し待ってくれ」
プリプリ起こるチェリノを引き連れ、廊下を歩く
普段ならどんな料理を作ろうか、どうやってチェリノの機嫌を元に戻すか考えるところだが昼間の、あの一件が頭から離れない
『ガナサダイが…キヴォトスにいるのか?』
『ええ。ご丁寧に連邦生徒会の生徒を部下にして。』
「あ!ガンベクセンさん!こんばんは!」
「…ああ、こんばんは」
「ガンベクセンさん!やっぱり書記長はチェリノじゃなくあなたがやったほうがいいと思うんですが!」
「レッドウィンターの生徒達が投票で決めたのだ、私を評価してくれることは嬉しいがまずはチェリノに任せてみなさい」
「そうだそうだー!というかなに本人の前で言ってるんだ!粛清するぞ!」
「チェリノ。私との約束を忘れたか?無闇やたらに粛清をするな」
「うぐっ…わ、分かってる!今思い出した!」
チェリノを食堂に待たせ、自身は厨房へ。あとは白米に盛り付けるだけのカレーを注ぐためにチェリノの皿を探す
「………あ」ツルッ
バリン!…と、嫌な音が響いた
手元が狂い、うっかりチェリノ専用の皿を割ってしまった。普段ならこんなことは無いというのに…
「………」
分かっている。目の前の出来事に集中できない。できるわけがないからだ。
『ご子息は近い未来ギュメイさんに接触し、彼が集めた女神の果実を奪い去るつもりです
…いえ、ご子息が一言【渡せ】と言えば彼は差し出すでしょう。そうなればキヴォトスに未来はない』
「おい今の音はなんだ…あ、あ!?おいらのお皿が割れちゃってるじゃないか!」
「す、すまないチェリノ…あとで直しておく…」
「おいらだけのお皿はこれだけなのに!居眠りに続いてこんな──ガンベクセン?大丈夫か?顔色がすごく悪いぞ」
「大丈夫だ。大丈夫だから待っていなさい」
「………どう見ても大丈夫に見えないぞ…
…よし!書記長として命令する!休めガンベクセン!あとはおいらがやる!」
「いや大丈夫だから「ええいうるさい!黙って休んでいればいいんだ!」
彼女に追いやられるようにして廊下へと出たガンベクセン。
窓に映るその顔は確かに【大丈夫】と言えるものではなかった
「……………」
──ゲルニックがその事実を伝えに来た理由は分かりきっている。彼女にとって私もガナサダイも邪魔なのだ、だからわざわざ直接来てまでその事実を伝えに来た
彼女は、私とガナサダイを潰し合わせ、自分だけの利を手に入れるつもりなのだろう
もちろんキヴォトスのことを考えればガナサダイを止めない選択肢はないが…仮にそうでは無かったとしても──
「おいっガンベクセン!食欲はあるか?熱はないか?トモエがよそってくれたから一緒に食べるぞ!」
「──うん、そうだね」
▽▲▽▲▽
そして翌日。
▽▲▽▲▽
「むっふっふっふ…よく聞けガンベクセン!お前のために極上プリンを用意したぞ!!」
早朝。部屋で荷造りをしているとノックも無しに飛び込んできたチェリノが高らかに宣言。…そして遅れてガンベクセンの行動に気付いた
「・・・?どこか出かけるのか?」
「──ああ。少し用事だね」
「体調が悪いのにか?」
「いや悪くはないよ、昨日のはすっかり良くなったからね」
「…こんな朝から行かないとだめなのか?」
「うん。どうしても行かないといけない」
せっかく作ったレッドウィンター史上最高質のプリン。口では強気な態度のチェリノであったがそれを食べて喜んでもらいたい彼女はどうにか引き留められないかと言葉を探す
…しかし思いつくはずもなく、やがてガンベクセンは荷造りを終えてしまう
「せっかく徹夜で作らせたのに…」
「気持ちだけ受け取る。どれくらい量があるかは分からないが私の分だけではないのだろう?私のことは気にしなくていいからその極上のプリンはみんなで食べなさい」
駄々をこねそうになる少女の頭を、かつての王は優しく撫でる
「──そうだ、これを持っておきなさい」
「??? これはお前が持ち歩いてるマントじゃないか、おいらにくれるのか?」
「私はもう王ではないからね、書記長…レッドウィンターの王様であるチェリノが持っておきなさい」
復活時、王者のマントもこの身についていた時は天も皮肉を言うのかと頭を抱えたものだが──きっとそれは【自分の意思で王を降りる】という、このために必要だったのかもしれないな。
「むー…ガンベクセン!」
「チェリノ?」
「おいらはガンベクセンと一緒に食べたいんだ!だから待ってる!
いいかガンベクセン、極上のプリンと言ったがショーミキゲンまで極上とはいかない。だからなるべく早く帰ってくるんだぞ、いいな?これはレッドウィンター書記長としての命令だぞ!」
「──ああ、分かったよ。それじゃあ行ってくる」
すれ違いで栗浜アケミと共に帰ってきたゴレオンと一言二言言葉をかわし、着いてこようとしたチェリノを彼に任せてガンベクセンはレッドウィンターを出る。
…雪道を踏みしめ、向かう先はひとつだけ。
「────」
裏切り。…他にこれを表す言葉はない。
男は、レッドウィンターの子供達に返しきれない恩がある。
王でも父親でも、人間でもない男は彼女達のおかげでかろうじて人間に戻ることができた。
そして男自身、それに深く感謝をしていた。だからこそレッドウィンターに危機が迫った時はどんな無茶でもためらわなかったし、彼女達を救うためなら自分の持つあらゆるものを差し出せた。その心に偽りはない。
──だがそれでも、もっと大きいものがある。
「……………」
ここにいるのはマントと共に【王】を捨てた男。だがこれまで蔑ろにしてしまった上で、それでも【父親】を捨てきれなかった男。
捨てきれない故に全てを裏切り、切り捨て、見放して…歩いていくのである。
【父親】としてできる、最初で最後の責務を果たすために──
サブストーリー最終話までなんとか書ききり、一安心している作者のルルザムートです、ハイ。
露骨に立てまくってますが見ての通りです、2人の確執とその精算はどうしても書きたいのでね、仕方ない。
さて次回はカルバノグ。一応時系列的には1章と2章の間に最終編が挟まっているみたいなんですがカヤにはなんとしてもクーデターを起こしてもらうためちょっと弄ります
今度こそは書きおわってから投稿致しますのでなにとぞ…!
それではまた次回…!