カルバノグ編 第8話です、お楽しみください
「また大人が増えた…誰なんだあいつ?」
「んー?あれ?待って、あの人ネットで見たことがあるよ、確か2週間前までレッドウィンターの事務局長だった人だ」
「私も有名になってるのかな?うん、その通り。
レッドウィンターの時と違い王者のマントは無く、代わりにレッドウィンターの装いに近い赤と白のトレンチコートと紺色のパンツを身につけたガンベクセン。
コートは雪国仕様のものを改造したのか防寒用のファーなどが残らず取り外され、色を除けば地味な服装になっている。色を除けば。
ガンベクセン様がなぜここに…?彼自らがここにくる理由があったのか?
王笏で叩かれた頭をさすりながら思考を回すギュメイだったがそうして黙っているうちにガンベクセンが話を続けていく
「さて問題は色々あるが早急に解決すべきは食料だね。これについては単純に働いて、その賃金で何かしらの食料を買おう
とはいえ今は賃金が入るまで待ってられない、最初の1回は別の手段で…」
「っ?お、おい待て!誰だか知らないがいきなり現れて仕切り出すな!Rabbit小隊のことは私たちRabbit小隊の人間が決める!」
予想通り反発するサキ達、しかしガンベクセンはそれを否定するどころか肯定の意を示した
「もちろんだよ、得た賃金は君達のものだ。当然使い道を決めるのも君達。そもそも働きに出るかどうかも私に決める権利は無い、当然シャーレにもね。
──しかし君達はSRTという組織に戻りたいんだろう?そちらの彼女の言っていた通り私はレッドウィンターの事務局長を勤めていたことがある。組織を率いていた者として力になれるかもしれない
強制はできないがもし許してもらえるのなら少しだけ私の話を聞いてくれないかい?
信用に値するかどうか決めるのは、それまで待ってからでも遅くは無いと思うんだ」
「むぅ〜…」
サキを始めとしたRabbit小隊は唸って考え込んでいるが考え込んでいたのは彼女らだけではなかった
「……………」
…意図はなんだ?
てっきりガンベクセン様はレッドウィンターから出るつもりがないとばかり思っていた。
もちろん彼も人間だということはキヴォトスに来てようやく分かったがそれにしたってチェリノやトモエを連れず、1人だけでここに来ていきなりRabbit小隊に力を貸すのは奇妙だ
人となりが分かったとはいえ、素のガンベクセンと王たるガンベクセンを比較した場合、ギュメイにとって接した回数は王たる彼の方が圧倒的に多い。
合理性の王がこんなことを始めたのはきっと自分には分からぬ理由がある、ついついそう深読みしてしまう
どちらにせよ答えは出なかったが…
「………分かりました、話を聞きます
しかしまずは聞くだけです。そこから先をどうするかは私たちが決めます」
「充分だ、ありがとう。…では早速本題に入るが──ヴァルキューレの業務に参加してくれるかい?」
「…………」「…………」
「…………」「……ふぇ?」
「「「はぁ?」」」
▽▲▽▲▽
『ブツブツ…なんで私たちがこんなことを…』
『うう、人が、人が多すぎる…』
『我慢してくださいサキ、ミユ、どうせ今日一日だけです』
『仕事前に弁当が配られたのは良かったけどさ?ここ、お堅すぎる上に仕事もショボくてつまんないんだけど?
ヴァルキューレいる人ってなんのやり甲斐があってここにいるワケ?』
いったいいつの間に話をつけたのかガンベクセン様は既にカンナと話を進めていたらしく、1日だけの体験という前提条件のもとRabbit小隊を率いてヴァルキューレの業務にあたっていた
『やらず嫌いは良くない』、『体験してみれば考えも変わるかもしれない』、『変わらなかったとしても体験はマイナスにはならない』…など言葉を並べ、やっと彼女らを説得したまでは良かったがあの様子ではとてもヴァルキューレへ移籍する気にはなりそうにないな…
ちなみにギュメイやユメ、ワカモは同行せずカンナと共にヴァルキューレ事務局から無線やカメラで現地の様子を伺っている。
シャーレの介入はまだするなというのもガンベクセン様の指示だ。
「…ユメ、どう思う?ガンベクセン様は何をしようとしているのか分かるか?」
一緒にモニターを凝視しているユメに話を聞く。戦闘中や非常時ならともかく、こういった常時の状況判断能力ならとっくに我より上だ。
「ヴァルキューレの業務を体験してもらって説得しやすくするため──じゃないと思う、多分」
「ああ、我もそう思う」
体験とはいえ報酬の発生する仕事だ。給金は出せないが見返りに報酬としてある程度の食料とヴァルキューレ業務で消費した弾薬の補填を提示されたことで強い拒絶の意地を見せながらもRabbit小隊は臨時のヴァルキューレ生として勤勉に働いていることがよく分かる
1日だけ、と念を押したことからこの派遣勤務が食料問題の直接解決のためというわけでもないな
賃金の発生する仕事を体験させるためか?なら別にヴァルキューレでなくてもいい、むしろ現物支給ではなくきちんとした給金の発生する仕事の方がいい、閉校したとはいえ彼女達は元SRT。引く手は多いはずだ
何より奇妙なのはガンベクセン様自ら率先してヴァルキューレの勤務に打ち込んでいることだ。
ただの見張りなどではなく不良を鎮圧したり、市民を導いたり、書類作業をしたりと…
もちろん入ってすぐの新参者ができることなどたかが知れているがそれを加味したとしても彼は全力でヴァルキューレの仕事に取り組んでいた
「あの方は何を見ておられるのだろうか…?」
▽▲▽▲▽
連邦生徒会長捜索の件で人員を割かれていたのは連邦生徒会だけではなくヴァルキューレも同じだった。
更には先日のデモの影響により動ける人員はごく僅か…故にRabbit小隊に振られる仕事も途切れることがなく、派遣終了の17時になるまでRabbit小隊には1分の休みも無いままカンナ達に業務を引き継ぎ、彼女たちは公園へと戻ってきていた
「あ"〜…つかれた〜…」
「でも…もぐもぐ、今日1日だけでそれなりに、もぐ…食料は手に入ったよ、弾薬もまぁ…ないよりマシかな」
「やぁ、お疲れ様。ヴァルキューレの業務はどう感じたかな?」
「どうも何も考えは変わらないよ、強いていえば拒否の意思がより強くなったってことくらい」
「モエの言う通りです、やはり私たちの居場所はSRT以外にありません」
遅れて合流してきたガンベクセンにRabbit小隊の面々は口々に不満を返した
1日一緒に行動していたからか多少態度は軟化していたものの、相変わらず信用はされていないようだ
「うん、そうだね。私も参加してみて分かったがヴァルキューレ警察学校には治安維持組織としては看過できない問題点がいくつか見つかった。君たちが納得するにせよしないにせよ、ヴァルキューレ警察学校に移籍するのはおすすめできないね」
「っ?私たちの説得のために1日体験をさせたのではないのですか?」
「ヴァルキューレがSRTの代わりになり得る組織ならそうするつもりだったよ。
しかし君たちとヴァルキューレの構成員の能力差を見て考えが変わった。
キヴォトスにはSRT特殊学園が必要だ。」
まさか自分たちの思想に肯定を返されるとは思いもしなかったのだろう、初めて賛同してくれた部外者にミヤコ達の頬がほころぶ
それもそうだ。モエの情報共有によってガンベクセンが
それも彼の退任は自主的で、クーデターばかりの生徒達から酷く惜しまれていたことも既に認知されている。そんな政治に強い人物から肯定を返されたとあれば希望を見るのも無理はない。
「──まだ何も始まってないんだ、喜ぶのは早いよ。…本当はもう帰るつもりだったけどSRT再建についてもう少し話しておきたいことがある。あと少しだけ時間を貰ってもいいかい?」
「もちろんだ!なんなら朝までだって大丈夫だぞ!」
「それは私の方が保たないから遠慮しよう…
まずは情報の整理からだ」
上機嫌のサキに用意された椅子に腰掛け、【どうしたらSRTに戻れるか】をガンベクセンは話し始めた
「まず大前提としてSRT特殊学園の閉校はもう取り消せない」
「えっ!お、おい!さっきと言ってることがチグハグじゃないか!」
「待ってくださいサキ。…続きを。」
ヴァルキューレから受け取った戦闘糧食を頬張りながら騒ぎ立てるサキを制止し、続きを促すミヤコ。
それに小さく礼をいいながら言葉を続ける
「SRT特殊学園閉校の決定打は連邦生徒会長の失踪だ。一部保守派の生徒達が守ろうとしてくれているようだが会長が戻ってこない限り閉校を免れたとしても活動は不可能だろう。」
「今更そんな分かりきったことを言われてもねぇ?だから私たちも先の見えないデモとかやってたわけだし」
「それも、もう…無駄になっちゃいましたけど…」
「無駄じゃないよ、現にここにはSRT特殊学園の生徒だった4人とその学園で使われていた備品が多くある
SRTを復活させることはできないがSRTと同じ場所を作ることはできる」
「どういう──「月雪ミヤコ、君がSRTに戻りたい理由はなんだい?」
「その話ならヴァルキューレの業務体験の前にお伝えしたはずです」
「もう一度聞きたいんだ、君の言葉で。」
「………SRTにしかない正義を守るためです」
「そうだね、ならここにいる君は?君の持つ正義はなんなのかな?」
「ですから、私の中にあるのはSRTの正義です。それを守るために私はSRTに戻らなくてはいけないんです!」
ミユが少し萎縮するほどの声で宣言するミヤコ、それに対しガンベクセンは笑った。
『もう答えは出ているじゃないか』と
「つまりSRTに戻りたい理由は現状SRTでなければできないこと、かの学園が唯一無二で他に代替が無いからだ
──ならばもし代替があったとしたら?」
「…!?バカな、あるはずがない!だよなモエ?」
「無いよ、ゲヘナ風紀委員会あたりなら派手に撃ちまくれそうかと思って色々調べたけどSRTに代わるとこなんてなかったし」
「その通り、今は無い。──なら創ればいい」
「──え?」
あっけに取られるとはこのことだろう、スライムのような空気の抜けた顔をする彼女らに対し、さらに言葉を紡ぐ
「今あるSRTの復活は絶望的…というか不可能だ。ならSRTと同じ役割を持つ学校を創るほうがずっと簡単だろう」
「待て待て待て!…それはつまり、私たち4人で学校を建てるってことか?」
「そうだよ?」
「無茶言うなよ!根無し草の4人組でなにができると「私を入れて5人だよ。それに言ったじゃないか、【今日君たちの能力は見た】と
SRTに代わる新しい学校の設立…私は別に無茶とは思わないな」
多分ガンベクセンならやれてしまうのでは?と思っている作者のルルザムートです、ハイ。
ガンベクセン、Rabbit小隊側に付きました。ブルアカ原作と違い、ここからは合理性の王がガンガン手助けしていきます
それではまた明日…