カルバノグ編 第9話です、お楽しみください
SRT特殊学園はその性質上、隊員達のための訓練場がいくつか存在する
射撃精度を上げるための【射撃場】。
密林などでの任務を想定した【山間訓練場】。
市街地での任務を想定した【市街地訓練場】。
銃火器や爆弾の組み立てや解体、または格闘技などの演習をするための【屋内訓練場】。
およそ特殊隊員達が伸ばしたいと思える能力の数だけSRTの訓練場はあり、今ミヤコ達がいるのは数ある内の1つ【屋内訓練場】である。
「こ、この…! ばしん! ぐっ!」
回し蹴りと間違えそうになる威力の足払いをモロに受け、コンクリートの床に薙ぎ倒されるミヤコ
咄嗟にナイフを出すもそれより早く──
ぴと
ひたりと首筋に突きつけられた刃で動きを止められた
「──月雪ミヤコ死亡、Rabbit小隊生存者無し…これで7回目だ。動きが雑になってきている、5回目の方が見込みがあった」
「っ…はい」
市街地訓練場などと違い、余計な障害物など一切無い…窓すら無い殺風景な演習場でRabbit小隊はギュメイという教官からダメ出しをくらっていた
とんでもなく強いことは分かりきっていたことですがそれにしたってここまで手も足も出ないなんて…!
「…集中力が落ちている。少し休憩をとれ」
「………分かりました」
言葉に流されるまま休憩室へと戻るRabbit小隊。
最近までガンベクセンによる【SRTに代わる学園の再建】で希望を見出していたとは思えないほど小隊内の空気は消沈。特に前線を張るミヤコとサキの落ち込み具合は酷かった。
「いやぁ笑えるくらいボコボコだね、私たちってホントにSRTの生徒だっけ???」
「笑ってる場合か!…4対1でかかってこれとか、あいつホントになんなんだよ…」
「で、でもこんなに強いならFOX小隊を倒したって言うのは嘘じゃないのかも…」
ここまでくると訓練云々の前にプライドと自信が粉砕されかねない
というかサキとモエはそれが狙いなのではと思い始めるくらいだった
「で?どうするミヤコ、このまま続けてもボコボコにされるだけだぞ」
「…いえ、次は勝ちます」
「まだ言ってるよ…どうしたらいいか分かりませんってカオに出るほど落ち込んでるのに…」
シャーレの先生【ギュメイ】、理不尽とも言える戦闘能力の前に消沈しながらも諦めようとしないミヤコ
勝機など一切見えずとも、SRTの正義を守るためには膝をつく選択肢など彼女にはあり得なかった
…思い起こされるのは先のガンベクセンの言葉。
『もしギュメイが敵だったら?』
「………」
これが訓練ではなく、実戦だったら?仮に今もSRTは健在で、ギュメイ先生が敵で、立ち向かえるのがRabbit小隊しかいなかったら?
…SRTは治安を守る特殊部隊、それが【勝ち目が無いから】という理由で──いやいかなる理由があろうと逃げることは許されない
彼のような理不尽な存在から市民を守るのが自分たちの役目なのに、それを放棄してはSRTの再建などできるはずもない。
小隊長として、どうすればいいのか考えなければ。
戦っても勝てないなら勝つ方法を探せ、見つからなくとも探し続けろ。
私たちは、SRTの生徒なんだから──
「発想を変えないと…」
相手は剣士、銃社会であるキヴォトスでは異端と呼べる存在…当然、対剣士の教本など持ってないしそもそも存在しない
なら作るほかない。誰に教わるでもなく、自分が手本になるしか…
ガンベクセンはSRT再建のあと、FOX小隊が戻らなかった時のことも考えておくようにと言いました。できれば考えたくありませんがもしそうなったら新生SRTを率いるのは私──
「お、おいミヤコ?お前本当にどうしたんだ、顔が少し…」
「大丈夫です。次で勝ちますから…」
予報によれば雨が上がるまであと30分、どちらにせよ次が最後のチャンス…
「──休憩は終わりです、もう一度ギュメイ先生に挑みます」
▽▲▽▲▽
「ぐふ!く、や、やっぱり…私まで前で戦うのは…おか、しい…」
「モエ!っ!?また消え──」
ダァンッ
ガァンッ
真下から抉り上げた峰の一撃がサキのヘルメットを吹き飛ばす
間一髪避けた、というより…
「サキ、大丈夫ですか?」
「くそ!全く見えない!どんな手品使ってるんだ!?」
「なんでもいいです!サキは何がなんでもミユを守ってください!」
ミユの狙撃に邪魔され、ギュメイ先生の踏み込みが浅かった。あれがなければサキも倒されていたはず
サキは手品だと言ったが彼が小手先の小細工ができるような人間には見えない。あれは単純に私やサキが認識できないほど速く動いているだけだ。
事実距離を取っているミユはある程度ギュメイ先生の動きについていけている。
彼の姿が消えたように見えるのはその【速度】で瞬時に視覚外へ移動しているから…
「くそ!くそ!何もできな──うあ…!」
叩き伏せられ、死亡扱いの白旗を頭に立てられるサキ
8回目のRabbit小隊敗北が間近に迫った時、ここでようやくミヤコの中にあった策がカタチになった
「っ!」
銃を放棄し、ナイフを片手に突っ込む
「イテテ…っておい!玉砕する気か!?」
もちろんそんなつもりはない、というかもっと早く気付くべきだった
至近距離ならともかく、中距離から銃を撃ったところで彼に効かないのは何度も見ていた。彼に勝つには近距離に持ち込んで勝つしかない
横振りの一撃を屈んで避け、渾身の力で突きを放つ
その時、それまで刀を振るばかりで殆ど回避をしなかったギュメイが初めて距離を取った
「………判断は間違っていない。あのまま銃で戦い続けていればRabbit小隊は8回目の全滅に遭っていた」
「部外者のくせにいつまで教官気取りですか…!ミユ!援護をお願いします!」
再び突っ込み、ひたすら近接戦を挑むミヤコ
ギュメイ相手にそれは自殺行為だろうと、既に脱落したモエとサキは評したが予想に反し…
「あれ…?割と戦えてる…?」
──思った通り
長い腕にナイフなど比較にならないほど刃渡りの長い刃物…さらにこのリーチに加えてあの異常な速度の前ではいくら距離を取ったところで関係ない。それなら逆に間合いの内側に入れば…!
ユキノら先輩に習った通りにナイフを振るう
キヴォトス外から来たギュメイはミヤコ達と比べてダメージへの耐性がない。
斬撃はともかく刺突が当たれば致命傷になり得るし、当たりどころが悪ければ殺してしまう可能性もある。
しかしミヤコはとうにそんな考えを忘れていた。
──勝ちたい
動きを見れば分かる。ギュメイという人間はキヴォトスに来る前、きっと自分たちと似た…特殊部隊、もしくは軍属の人間だったのだろう
そんな人間からRabbit小隊に未来が無いと言われ、政治に強いであろうガンベクセンも諌めはしたが否定はしなかった。
だからこそ勝たないと。
「ミヤコのやつギュメイ先生と互角…というか押し始めてないか…!?」
「・・・アレ殺す気でやってない?」
勝って認めさせたい、自分の選択と正義を。
自分たちを否定したあの言葉を撤回させたい。
当たり前だが今のミヤコの戦い方は教本には載っていない、強いて言えばほんの一部近接格闘術の応用を交え即興で繰り出した対剣士用の戦術だった。
地道に鍛錬して得た技術ではないただの付け焼き刃だったが、それまで型通りの戦い方しかしなかったミヤコだからこそ、彼女の動きはギュメイの予測の上をいった。
「っ、ミユ!!」
「っ!」
後退しようとしたギュメイの動きを読んだミユが指示より早く発砲。同時にミヤコも全力で床を蹴って距離を詰める。
ミユの狙撃とミヤコのナイフ。いくら剣の達人だとしても剣が1本しか無い以上、前面と背面同時に防御するなど普通は不可能だ。
「──【隼斬り】」
え?
前と後、
そのあり得ない動きへの疑問に身体の動きが鈍った瞬間をギュメイは逃さない。丸腰になったミヤコの腕を掴んでミユ目掛けて投げ付け、起き上がる隙すら与えることなく刀を突きつけて制圧。
「月雪ミヤコ、霞沢ミユ、死亡。…発想は悪くない、我も隼斬りを出す事になるとは思わなかった。…だが道筋が良くないな
我に勝とうとするあまり、1人で焦ってこの戦法を仲間に共有しなかったか?」
「っ…!」
「教本に載っていないやり方では反発されると思ったか、正規軍によく見る失敗だ。
これは訓練だ、今はそれでいい。…ユメ、彼女達の手当てを頼む」
「ふえ?あ、はーい!」
掴みかけたと思っていた勝利はただの幻想だった。彼は最初から殆ど本気を出していなかった。──しかしそれを理解してなお、ミヤコは前を向く
いつか必ず、彼を超えると。
冷静に考えてC&Cってクソ強くない…?と思っている作者のルルザムートです、ハイ。
FOX小隊やRabbit小隊のシーンを書くに当たって似た立ち位置のC&Cのシーンも見返したりするんですが…やっぱC&C強すぎじゃない…?
そしてストックが大ピンチでやばい
ひとまずまた明日…