えー、カルバノグ編 第10話です、お楽しみください
あれから台風も過ぎ去り、ミヤコ達は子ウサギ公園へと戻った
再開発計画があるらしく台風で荒れた公園の は修繕費用こそ降りなかったが、ガンベクセン様の指示で全ての物資の保護ができていたRabbit小隊は今もあの公園で野宿ができている
あの様子ならもうしばらくは大丈夫だろうがそれとは別に気になることがあり、今日我はそれを確かめるために連邦生徒会に足を運んでいた──
「月雪ミヤコを主軸とした新しい治安維持組織?」
珈琲の中の砂糖をスプーンで混ぜながら首を傾げるリン
やはりそういう反応になるだろうな
「正確にはSRTに代わる新しい特殊学園を作ろうとしているらしい
…リン、我より連邦生徒会で活動するお前の方がこの手の話は得意だろう。率直に聞かせてくれ、どう思う?」
「──はっきり言って無謀ですね、自滅を早めているようにしか思えません」
「…その核は?」
「新しい学校を作るだけなら可能かもしれませんがSRT特殊学園と同等の力を持つ学校を作るとなれば必然的に連邦生徒会長と同格の長が必要になります
彼女には悪いですが月雪ミヤコがその技量を持つとは到底思えません」
もっともだ。閉校撤回が無理なら同じ役割の学校を作ってしまえばいい…という思想は半ば屁理屈じみたもの。
悪事を暴かれた悪徳企業が名前を変えて会社を作り直したところでやり直しができないのと同じだ。
しかしRabbit小隊には今──
「…となれば例のレッドウィンターから来た男性の狙いがなんなのかを知るべきです
彼の技量は未知数ですが仮に再建できるとすればSRTだけではありません、キヴォトス全土がひっくり返ります
少なくとも連邦生徒会長に比肩するだけの力を持っているというわけですから」
「ガンベクセン様次第、か」
《これはミヤコ達のためではない》
ガンベクセン様は本気で新SRTを作ろうとしている、それは間違っていない…と思う
重要なのはその再建でガンベクセン様が何をしようとしているかだ
ベクセリア…旧ガナンでも彼は他人のあらゆる声を無視し、国と民が生き延びるのに最適な結果だけを選び続けていた。
(意図的に飢饉を引き起こしたのはやり過ぎだとは思うが。)
今回ミヤコ達に手を貸したのが【最適な結果】を呼び寄せるためだとしたら、SRTを再建しても彼の行動は終わらない。
SRTを新たな私兵にでもするつもりだろうか?かつてのセントシュタインやルディアノの兵のように。
もうそうだとしたらあの方はいったい何と戦うつもりなのだ?真っ先に思いつくのはレッドウィンターでも戦ったグレイナルだがそうなら我に何も言わない理由にならない
「ところでギュメイ先生、貴方とガンベクセンという男性は…ひょっとしてキヴォトスに来る前から…?」
「ああ」
「どういった人物か、お聞きしても?」
「………あの方は誰よりも優れた王であり、そして不器用だ。かつて持っていなかったものをキヴォトスに来たことで初めて手に入れている
Rabbit小隊を手助けした真意はよく分からないが…少なくとも誰かを傷付けるために行動するような人ではない」
ゲルニックとは別の方向で掴みどころのない人物ではあるが害意を振り撒く人間ではないという確信もあり、ギュメイは特に警戒等をしていなかった
実際ガンベクセン自身にそんな思惑は無かったのだが、不器用なかつての王は今──
▽▲▽▲▽
「お越しくださりありがとうございます、ガンベクセンさん」
「いやいいよ、私もカヤと話したいことがあったからね」
ギュメイとリンが会談していたのと同時刻、ヴァルキューレ事務局の一室にてもう1つ会談が行われていた
──さて、どう来ますかね?
陛下が言うには何を考えているかまるで読めない機械人形という話でしたが…ここ数日の様子を見る限りちょっと政治と魔法に強いだけなただの老人──老人と呼ぶには少し早いでしょうか?
いやいやそんなことはどうでもいいんです。大切なのはこの男に主導権を握らせないこと…
彼の狙いは閉校によって弾き出されたRabbit小隊を核にした全く新しい武装組織なのは明白。
「まずは訓練場の使用許可を出してくれたことを改めて感謝するよ
おかげで新SRT設立もそう遠くない」
「先日言った通り、お礼を言われるようなことは何も。…それよりその新SRTについてお話が。」
そんなものを作られては陛下は──ぶっちゃけあの老害がどう思おうがどうでも良いですが私にとっては都合の悪いことこの上ありません。
逆にその新SRTを私が使えるようになれればベスト。もうあの生意気ジジイの小間使いをする必要もなくなるでしょう。さて…
「ああ私の要件もそれだ。突然ですまないが不知火カヤ、君に新生SRTを率いて欲しい」
「はぁ、私に新生SRTを──」
──はい?
「呆気に取られる気持ちもわかる、こんな話を急にされてはね。
でも分かって欲しい、新生SRTを率いるのは「いやいやいやいや…!何ひとつ分かりませんよ!?」
どうやってその座から引き摺り下ろすか考えていたのに、あっさりと自分から降りられては肩透かしを通り越して恐怖である
常に余裕を張り付けていたその表情をあっさりと壊され狼狽えるカヤ。しかしガンベクセンは何食わぬ顔で話を続けてゆく
「君を始めとした一部の保守派がSRTを存続させようとしてくれているが連邦生徒会長が失踪した今、組織は保ててもSRTの活動をすることはできない
そして仮に戻ってきたとしても、何も告げずに消えた会長がそのままSRTに戻れるのかという疑問が残る
…ある日急に消えた人間を、もう一度責任ある立場に戻せるかい?」
「────」
「キヴォトスにはSRTと、それを率いることのできる生徒が必要なんだ
新生SRTの土台を作ることはなんとかできそうだが、私が率いるのは無理だ」
【貴方ならできるでしょうに】…ガナサダイからガンベクセンがどういった人間か聞いていた故に思わず口をついて出そうになってしまう言葉を抑える
恐らく陛下の存在はもう知られているでしょうが私とアレの繋がりはまだ知らない…はず、ですよね…?
きっとそうに違いありません、そうだったら私に新生SRTを譲るなんてことしないでしょうし。
「頼むカヤ、無茶を言っているのは充分分かっているが連邦生徒会長に比肩する生徒は他にいなかった
君に断られたらこれまでの全てが無駄になってしまう…キヴォトスのために、どうか首を縦に振ってほしい」
「…まさかそこまで買っていただけているとは」
せいぜい探りか揺さぶりだろうと結論付けて思考を戻す
…それにしてもまさか名指しですか
「そこまで期待されては無下にはできませんね、分かりました。お引き受けしましょう」
「カヤ…!ありがとう!」
「とはいえ今すぐは無理です。防衛室長としての業務もありますし…」
「分かっているよ、私は私で新SRTの土台作りに集中する
──SRTとキヴォトスを頼んだよ、カヤ」
5分前では想像もつかなかった内容の会談を終え、ガンベクセンを見送る
あの老害は彼のことを悪く言っていましたがとんでもない!見る目あるいたってフツーのオジーサンじゃないですか
「カンナさんの件といい、人に恵まれないと思ってましたが運が悪かっただけですねぇ」
「…役に立てていなかったら申し訳ない」
いつの間にか戻ってきていたのだろう、別の入口から帰ってきた生徒が申し訳なさそうに呟いた
「いえいえ、あなたのことではありませんよ!むしろあなたは私にとって最高のパートナーなので♡
それに今は貴女以外の人間にも恵まれたようですし問題ありませんよ」
当初の予想通りギュメイ先生とRabbit小隊の相性は最悪で、その内傷付けあって離れるだろうと、そう思っていました
しかし梔子ユメとかいうマヌケ顔のお人好しとガンベクセンが横から入ってきて一波乱。
どうなることかと思いましたがこれはこれでいい、というか最高です
「さてあとはこれをどうガナサダイ陛下にお伝えするかですが──「もう知っている」
うわ出た。この様子を見るにレムオルかきえさり草を使った上で別室に隠れてましたね…
にしても見れば見るほどガンベクセンさんソックリです
体付きも声も、髭までガンベクセンとソックリな男──ガナサダイ。ガナン帝国の皇帝陛下にして女神の果実というさらなるチカラを求める者。
女神の果実が欲しいガナサダイとキヴォトスの実権を握りたいカヤ、果実絡みの事件を解決するという互いの利害が一致した故の協力関係…
もっともカヤにとってグレイナルを操るガナサダイこそ1番の脅威であり、グレイナルを敵に回さないため付き従っているフリをしているに過ぎないのだが。
「これはこれは陛下、ちょうど報告にあがろうかと「前置きはいい!どういうことだ!なぜガンベクセンがここにいる…!?レッドウィンターで殺しておけと言ったはずだ!!!」
ガンベクセンそっくりの顔は怒りと恐怖に塗れ、口から唾を飛ばす勢いで怒号を放つ
そんなこと言われましてもねぇ…そもそもあの時のレッドウィンター担当は私じゃありませんし、そういうクレームはソッチと話して欲しいのですが。
「申し訳ありません陛下、しかしあの男が生きていたことは悪い事ばかりでもありません
新生SRT…ガンベクセンが作り出すという新しい武装組織、それを丸ごと私にくれるというのです。
もちろん指揮を取るのは陛下ですが…もし私と陛下の同盟を彼が気付いていればこんな選択は取らないはずです。彼は気付いていない。」
「………」
「それよりもなんとかして彼の元からギュメイ将軍を引き離す必要があります。
新SRT設立後、用済みとなった時横にギュメイ将軍がいれば妨害される危険性がある…」
最終的にガナサダイを排除する必要があるのは当然として、寝首をかくためにはもう少し信用を稼いでおく必要があります。正直ガンベクセンさんを排除する理由はさっきので完全に無くなってしまったのですが…
「………あの男を殺す手立てを考える。カヤ、お前はしばらく新SRTとガンベクセンの動向を追え。」
「分かりました。………ふー」
帰りましたか、あー疲れますねぇ
ほんの1分も満たない時間だったがガナサダイとは10秒だって一緒にはいたくない。
ようやくうるさいのがいなくなって清々しますよ。
…ああそうそう
「確かに常に着けておくように言いましたがいい加減息苦しいでしょう?
今は私しかいませんし…そうですね、兜くらいは取っていいですよ。ユキノ隊長」
とうとうストックが切れて焦ってる作者のルルザムートです、ハイ。
とりあえず1章分だけは気合いで投稿するつもりですがそこで一旦途切れますねコレは…
さて、新生SRTの舵取りをカヤに丸投げしたガンベクセンですがもちろん彼の出番はまだまだありますよぉ
それではひとまずまた明日…