『宿屋の地下室』編 第7話です、お楽しみください
「それで?盗られたものは?」
「美術品が数点…現金やその他貴金属は無事でした」
「………ふむ」
警報の鳴った金庫に駆けつけたはいいが盗られたのは美術品だけ…予告は確認してましたし七囚人の1人、慈愛の怪盗の仕業と見て良いでしょう
まったく目障りな…こんなことなら美術品の類いはカジノの外に放り出しておくべきでしたね
最奥の女神の果実は…触れられていない、なんなら近付かれてもいない
下手に近付けばワタクシの仕掛けたメラゾーマトラップが姑息者を焼き払っているはず。こちらには食いつきませんでしたか。
「それと…オーナーが預けていた卵が破壊されていました」
「卵が?」
「はい、こちらです」
………
「…ここで爆発はありましたか?」
「閃光弾は確認しておりますが…爆発は無かったかと」
「【かと】?」
「ひっ、いえありません!閃光弾だけです!」
「………」チラ
外側に対して卵内部にほとんど殻の破片が入っていない、壊されたと言うより孵化したと見るべきでしょう
肝心の中身が居ませんが…慈愛の怪盗が予告に無いもの、ましてや生き物を持って行くとは考え難い
「…フクロウ様?」
「今一度現場検証を、野良猫以外にも潜り込んだネズミがいます。逃してもいいですが特定はしなさい、いいですね?」
「ハッ!」
監視カメラまで下げたのは失策でしたか、ひとまず観戦に戻りましょう
▽▲▽▲▽
「オラオラオラオラァ!どうした社長!?さっきの挑発はお飾りかぁ!?」
「っ…!」
「アル様っ!?この、アル様から離れろ!」
「ハルカだめ!下がって──くぅ…!」
距離を取りたいアルとそうはさせないネル。
しつこく追いかけるネルをカヨコとムツキで挟撃するが全く速度が落ちない
これがミレニアム最強の強さ…!?風紀委員長と大して変わらないじゃない!
しかもかなり手加減されているのが分かる。何故分かるか?
…さっきから美甘ネルは全く銃を撃っていない、ただの両手に持った銃の打撃だけでカヨコとムツキの攻撃を防ぎ切って追ってきている!
「さっきはズイブンとコケにしてくれやがって、たっぷりお返ししてやらぁ!」
「っ、社長…!」
分かってるわよカヨコ…!
さっきから後方で動かない天童アリスの様子が気になる。ハルカが見張ってるはずだけどレールガンのチャージをしているとすれば彼女1人では止められない
『ああーっと!便利屋社長、得意の狙撃戦に持ち込みたいがミレニアム最強が許さない!
息も付かせぬ連撃に全く距離が取れません!
これは相手が悪かったかーっ!?』
「だとよ?戦う相手を間違えたなァ、社長!!」
「うぐ…!」
「──このあともう1戦控えてる、そろそろ終わりにしてやるぜ」
…!攻撃が更に速く──
「っ、社長!もう止められない!」
「ええ、分かってる」
5人目の社員であり、便利屋の切り札…できれば呼びたくなかったけど下手に拘って負けたら意味が無い
「ハルカっ!」
「!!」
「
「っ!はいっ!!」パク
「っ?笛…!?」
ピイィィィ…
『便利屋社員、伊草ハルカ!なにやら笛を吹き鳴らして…?
おおっ、あれはなんだ!まさか、あれが便利屋68の切り札なのか!?』
「ッチ、アリス!チャージはもう終わってるだろ?コイツらを吹き飛ばせ!」
「カヨコちゃん!」
「うん、邪魔はさせない…!」
遠くから聞こえてくる地鳴りに注意を削がれたネル、その隙を突いたカヨコの銃撃とムツキの爆弾の援護でネルとアリスの狙いが逸れ、なんとかアルは距離を離せた
…レールガンの一撃が頬を掠った一瞬だけは、便利屋社員がよく知る顔になってしまったが。
『実はわたくし、試合前に便利屋社長から切り札についてチョッピリ聞いていまして。
その代わり【彼】の登場時にカッコよく紹介してくれと頼まれたのでその約束を果たしましょう!』
この2人とまともにやり合っても勝てない
なら!私たち
『その牙は鉄筋ビルをも噛み砕き、その足は戦車だろうと踏み潰す!
ひとたび尻尾を振れば家は消し飛び、ひとたび吠えれば空気が轢き潰れる!
極悪!凶悪!手のつけられない暴れん坊!
彼がリードを差し出す相手は便利屋社長、陸八魔アルただ1人!
便利屋の番犬であり、社長の愛犬!
ギャングアニマルが駆け付けたぁーっ!』
『ギャオオオオッ!!!』
怪獣の如く吠える一方、つぶらな瞳で『大丈夫?ねぇ大丈夫?』とこちらを見つめながら横に並び立つ彼の頭を撫でる
うう、やっぱり良い子…!
撫でるのを通り越してもふもふしたいところだがグッと堪えて美甘ネルに向き直る
「………!」
「フッ、何か言いたそうね美甘ネル」
「こ、こ…!」
…こ?
「これのどこが犬だァ!?」
▽▲▽▲▽
「ヘルジャッカル…!アル、なぜお前が…?」
「ギュメイ先生、あの怪物に見覚えが?」
「ああ」
ずんぐりとした短い足に山のように蹶起した胴体から続く尻尾。敵対者を容易く噛み砕ける牙。あれは我の世界にもいた魔物、ヘルジャッカルだ
「我やゲルニックと同じ世界の住人だ。名前は『ヘルジャッカル』…凶暴で捕まえることも難しく殺すしか無い化け物、のはずだが」
「…便利屋社長には付き従っているように見えますね」
「うむ…」
映像の向こうではアルを庇うようにネルへ立ちはだかっており、ネルも未知の怪物を目の前にしてどうするか考えあぐねている様子。
というか我もいざ人に懐くヘルジャッカルを目の前にしたらどうしたらいいか分からん、ゲルニックではないがあれを味方に付けられる秘密があるのならぜひ知りたいところだ。
「…」ガタ…
「ギュメイ先生、どちらに?」
「直接見に行く。アレがいきなり暴走しないとも限らん、その時は斬る」
「できれば殺さずにお願いします、我々にとっては未知の生物ですので。できれば生け捕りにしたい」
「悪いが生徒が第一だ。保証はしない」
カジノに来てから予想外の連続だ、ゲルニックもこれを見ているのだろうか…?
▽▲▽▲▽
「アニ!【スケートリンク】よ!」
『がうっ!…ぶわわっ!』
「おいマジかよ!?」
「うわー!?冷気攻撃です!」
いったいどういう身体構造をしているのか、口から猛吹雪を吐き出してくる怪獣に自分もアリスも距離を取らざるおえない
『これはーっ!?ギャングアニマルのアニ、口から凍える吹雪を吐き出したーっ!
砂漠のど真ん中で吹き荒ぶ吹雪にチームモモイ、手も足も出ません!』
「ぐ…!ネル先輩!」
「っ、いつまでも続くワケねぇ、反撃の隙を逃すな!」
…!吹雪が弱まってきた、まずはあのバケモンを叩き潰す!
ツルッ
「あっ?のわっ」
駆け出そうと足に力を込めたが走れない、それどころか転んでしまった
「いてっ!」
「地面が凍っちゃいました!」
ロクに動けねぇ、狙いはこれか!
「クソッ、すぐに外に出ろ!的にされるぞ!」
まともに戦えば便利屋は敵じゃないがこんな状態では戦うことすら難しい
「遅いわ。カヨコ、ムツキ!」
「了解」「りょーかーい」
距離を取った便利屋2人が戻ってきた
いや大丈夫だ、こいつらもカンタンには近付けない。こっちの残弾が尽きる前に全員撃ち落とせば──
「行くよ」シャキ
「くふ、覚悟はいーい?」シャキン
「あれは…」
──スケート靴?
「攻撃開始!」
社長の号令と共に便利屋の猛攻が始まった
アニの作った氷の舞台をカヨコとムツキがスケートで駆ける
不安定な氷の土台に対し、スケート靴を使うことで逆に機動力を上げながら鉛の雨をネル達に浴びせてきた!
「わああっ!?」
「っの…!」
なんとか反撃しようにもこうも頻繁に背後に回られてはそれもできない
自由の効かない氷の上では振り向くことすら難しいとネルは初めて実感した
「調子に、乗ってんじゃ…!」
ダァンッ
「ぐわ!?」
先読みして銃を向けた先、あと一歩で1人仕留められたはずのそれをアルの狙撃が妨害。
ネルの手元から銃が弾き飛ばされ、滑り飛んでいく
「大ピンチです!どうしましょう!?」
「もう何発か喰らうのは諦めて氷の外に脱出することだけに集中しろ!」
なだらかな氷の地面にある僅かな凹凸を探し、なんとか移動する
その間も便利屋の攻撃は続くが外にさえ出れば──
「ハルカちゃん!」
「は…はい!アニ、もう一回です…!」
『がう!ぶわわわっ!』
後少しのところで再び怪獣の吹雪が安全地帯を凍らせてしまい、そこにカヨコとムツキの連携が襲いかかる!
ぐ!しつっけぇな…!
「こうなったら…!アリスが壊します!
はああっ!」
力任せに光の剣で足元の氷を叩き割ろうとするアリス
だがこれも裏目に出る
「待ってたよ」
『がうっ!』
「! 罠だ、剣引っ込めろ!」
「え?あっ!?」
氷ごと地面を抉り取ろうとしたその瞬間を狙われてしまった。めり込んだ光の剣目掛けてアニの吹雪が迫る!
「ああっ!?」
「っ…!」
やられた、レールガンは地面に突き刺さったまま氷漬けになってしまい、ちょっとやそっとでは抜けそうにない
アリスのパワーなら引き抜けるかもしれないが…
「じゃああっち行ってようね〜」ポイポイッ
爆弾…!
もちろん黙って見ているわけがない、ムツキが投擲した爆弾でネルもアリスも吹き飛ばされてしまった
ぐ、爆風使って外に出れないかと思ったがあのバケモン頭も回るのか?飛んだ先がすでに凍らされてやがる
…いや、指示を出してるのは背中に乗ってるハルカってやつか
「アリスの勇者の剣が!」
「く…まともにぶつかりさえすりゃあ…!」
ザザッ
『──ここまでね、もう降参しなさい
丸腰の相手に鉛玉を叩き込むのは私も嫌なのよ』
近くを飛んでるドローンから勝ち誇った社長の声が聞こえる
「ハッ、まだ一丁残ってるぞ」
『無いのと同じよ、さぁどうする?』
せめてC&Cでここに来ていれば、と思うが無いものねだりをしても仕方ない
だがこれでは本当に打つ手が…
「──待ってください社長」
『あら?何かしら天童アリス』
凍った地面にふらつきながらもアリスが立ち上がる
アリス…?
「そっちの…ええとアニ?の途中参加はルールとして許されるんですか?」
『ええ、動物は武器として扱われるみたいだから参加人数には含まれないの
私は彼も人数に含めたかったけど…それがどうしたの?』
「──そうですか」
その瞬間、アリスが笑ったのはあたしは見た
何する気…いや、まさかお前…
「
「ええもちろん!アリスは勇者ですが、それと同時に…!」
アリスの想いに呼応するかのように彼女の身体が鎧に包まれる
どうやって着てるのか見たこと無かったが持ち運ぶ必要も無いのか
『っ?なに、そのカッコいい姿は…』
「今こそあなたを呼びます、どうかアリス達と共に戦ってください」
瞬間、ぞわりとした威圧感が空を覆う
『おおっとこれは…!?何かが、巨大な何かが近付いてきます!あれは鳥か、飛行機か、違う!キヴォトスにあんな生き物はいない、いやいなかった!』
「っ…!社長!!」
『仕方ないわ!トドメよ!トドメを刺して!』
空からの介入者を感じ取ったのか便利屋達が猛攻を仕掛けてくる、が。
「っ!?ムツキ下がって!」
「うわわっ!あちちちっ!」
それより早く割って入った黒い炎が攻撃を阻止。敵対者しか焼かない聖なる闇の炎が凍ったアビドスの大地を溶かしてゆく
「アリス、お前…」
「これでようやく対等です、用意はいいですかネル先輩」ポイ
さっき吹っ飛ばされたあたしの銃を投げ渡したアリスがクールに問いかける
「ハッ、言うようになったじゃねぇか
…あの怪獣は任せるぜ?」パシ
「分かりました。
すぅ…──来たれ!闇竜バルボロスよ!」
溶けた氷の下から光の剣を拾い上げたアリスが剣を掲げてそう叫ぶと同時に、闇竜がその場に降り立った!
「っし!」
反撃開始だ!
本来凶暴すぎて手のつけられない怪物が何故か人に懐いてる概念が好きな作者のルルザムートです、ハイ。
物語中で描写することができなかったのでギャングアニマルの『アニ』と便利屋の関係性を軽くここに書いておきます
まずアニ→便利屋に対する心情から
アルに対して
自分を拾ってくれたとっても優しい人!貰った愛情に応えるため、全力で彼女を守る!
…ちなみに『スケートリンク作戦』の話が出た時は綺麗なリンクを作るためにたくさん練習した
カヨコに対して
怪獣の自分に対して物怖じせず接してくれる人、嬉しいけどちょっとだけ不思議
ムツキに対して
カヨコと同じく怖がらないけどちょっと距離が近すぎてうっかり怪我させないか心配。起きている時はいいが寝ている時に背中に登るのは(怪我させるのが怖いから)やめて欲しい
ハルカに対して
忠義の塊みたいなすごい人、でも1人で突っ走って危ない目に遭うこともあり、危険な空気を感じ取ったらアルやカヨコを連れてくるようにしている
便利屋→アニに対して
アル
犬だと思ってたら犬じゃなかったけど中身は犬だった
吹雪を吐き出した時は流石に驚いて声も出なかったが、それを差し引いても可愛くてたまらない大事な仲間。できることなら荒事に巻き込みたくないが『仲間外れはもっと可哀想だよ』というムツキの言葉を受け、本当に自分たちだけでは手に負えなくなった時に呼んでいる
カヨコ
怪獣ではあるが普段気分屋の猫と接していることの多い彼女にとってアニは思考が分かりやすいので接しやすい
ただ彼の匂いが強く付いていると猫が怯えたり警戒したりするので匂いに気を配るようにはなった
ムツキ
便利屋社員の中で唯一、吹雪ブレスに驚かなかった(大笑いはしていたが)
背中に乗ったり抱きついたりすると子犬みたいにプルプルするので可愛くて面白い
『スケートリンク作戦』を思いついたのも彼女であり、本来は便利屋4人全員でスケート靴を履く予定だったがアルの練習が追いつかず、またハルカの爆弾でリンクが頻繁に壊れるため2人に絞った
ハルカ
便利屋4人の中で誰よりも多く散歩に行っていた
ハルカにとって初めて出来た後輩で不器用なりに『自分が守らなくては』と思っている
またアニがまだ子犬の時うっかり逸れてしまったことがあり、気を病んだハルカのために笛の音でアニが駆けつけてくるように便利屋全員でアニをトレーニング。1つの笛でしか訓練しなかったため彼を呼べる笛はアルがハルカに渡した1つだけだがハルカもアニもこれを大切にしている
それではまた明日…
レッドウィンター編でユメとアウル、どちらを連れて行くか
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ユメ
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アウル