今章を全て投稿し終わった時点でのアンケート結果を見てレッドウィンター編を本格的に書いていきます
さて『宿屋の地下室』編 第10話です、お楽しみください
『では今日は格上との戦い方について教えます』
『はいっ、よろしくお願いしますっ』
いつかのシャーレ、エリドゥで重傷を負って立ち上がれなくなったギュメイに代わってシャーレの仕事をこなしていたユメとアウル。
もちろんこなすのは仕事だけではない、この勉強も同じくらい大切なものだ
『格上と言っても色々ありますが今回の場合、相性は考えず単純な能力差で上回っていることを想定してお話しします
…前提として1対1、軍対軍どちらも関係なく格上に勝つのは基本的に不可能です
弱い方が勝てる戦いなどありはしない』
しかし、と自分自身で言葉を遮ったアウルはその大きな翼をはためかせながら2本の指を立てる
『対面状態から格上に勝つ方法が無いわけではありません、主に2つの方法がありますが…さてその方法とは?』
『え?えっと…見つかる前にやっつける、とか?』
『対面状態からだと言いませんでした?確かに言ったハズですが。
不正解です、話くらいまともに聞きなさい』
『ひぃん…』
『1つは援軍を呼ぶ事です。格上の生存を脅かす者が味方にいれば例え倒すことはできずとも撃退、もしくは降伏させることは可能です
さてこれはその場にいない第三者頼りの戦法、ならばそれを頼れない場合は?』
先端に紫の玉が付いた変な杖をぴしりと床に打ち鳴らし『さぁ答えなさい』と言わんばかりにアウルがこちらを見る
えっと…
『あ、相手の思いもよらない作戦で裏をかいて一発逆転を狙います!』
思いもよらない作戦、というものはまったく思いつかないが正面から戦っても勝てないなら逆転勝利を狙うしかない!…と思う、たぶん…
『ふむ…』
『………』ドキドキ
やたら言葉を溜めるアウルにドキドキしつつも本当にこの答えが合っているか考える
そして多分合っているだろうという結論を出したと同時に彼女が口を開いた
『ホッホ、正解ですよ。流石にいつまでも鈍臭いままでは無いですねぇ』
『ひぃん…』
合ってても落とされた!
『そもそも戦力差のある戦いなど始まることは稀です、大抵は降伏するか退くかなので
それでもやるとすれば弱者側に退けない理由があるとか逃げ場のない場所で不意打ちを食らったとか…
まぁ戦う理由はこの場合関係ありません
ではここでもう少し深く行きましょう
ユメさんが
『戦法?…それはどんな状況で、ですか?』
『なんでもいいですよ、深く考えず自分より明らかに弱い相手と戦う時です』
弱い相手と戦う時…なるべく味方に怪我させないように──いやそういうことを言ってるんじゃない
さっきの話を考えて…
『──油断しないようにします、逆転されないように』
『その通り、正解です。戦力差があるにも関わらず弱者が戦いを挑んできている時点で勝つ算段がある、もしくは戦い自体に弱者側のメリットがあることになります
つまり強者側が気を付けねばならないことは弱者の誘いや策に乗らず、戦場の主導権を渡さないことです
一発逆転屋にとって堅実な兵士・軍は最も苦手とする相手であり、確実に負ける最悪の敵なので』
『…じゃあ、格上と会ったら逃げるしかない?』
『力量差に任せて雑に戦う相手なら策次第で勝てるでしょうが堅実な戦法を取る格上相手では逃げるしかありません
──それでも、退けない理由があると言うのなら』
…うん?
『一瞬で構いません、相手を油断させなさい。相手の想像を超える博打のような戦術を操り、戦場の主導権を一瞬だけ奪い取るんです
堅実な相手は博打を嫌います、つまりどんなに優れた相手でも賭けの思考までは回らない』
『・・・それ戦術なんですか?』
『いえまったく。文字通りの博打ですよ
そもそも堅実な格上と遭遇した時点で戦うこと自体が下策なんですから【退けない理由がある場合】に限った選択肢の1つというだけです』
『うーん…アウルさんならその博打ってどんな作戦にするんですか?』
『はぁ?そんなバカなことをこのワタクシがするわけないでしょう
対面前に敵将を暗殺するとか有利な環境に誘い出して有無を言わせず叩き殺すとかで終わらせます。下策だと分かっていてワタクシがそんなことをするとでも?全く…』
『ひぃん、アウルさん怖い…』
『ワタクシ自らの戦術指導を受けておいて何を情けないこと言ってるんですか
…まぁいいでしょう、今日の授業はこれで終わりです』
『! はいっ、ありがとうございました!』
(………)
今の状況は、まさにその堅実な格上との戦いだ。これに勝つためには──
▽▲▽▲▽
「ハァ!?ギュメイ先生に接近戦を仕掛けろだと!?」
「うん」
開口一番ユメから放たれたとんでもない無茶振り思わず怒鳴る
「フザけんな!1対1ならともかくゲヘナ風紀委員長と暁のホルスを相手取りながらギュメイ先生をどうやって止めろってんだ!?」
ネル自身、自分の戦闘能力にはミレニアム最強の自負があるし、多少格上だろうと退くつもりは無い
が、流石に勇気と無謀の違いは分かっているつもりだ
「ヒナちゃんは私が止めるよ」
「そういう問題じゃねぇ!止められる前提で話すな!」
「止められるよ」
こいつ何を根拠に…!
「──ホシノちゃんの持ってる武器はショットガン。確かに近距離では強い銃だけど欠点がある
…一点だけの狙い撃ちが不可能なんだ」
「あ…?」
「剣と銃が打ち合う距離まで近付けば、多分ホシノちゃんはネルちゃんを攻撃できなくなる。少なくとも散弾では」
…たしかに、下手すればギュメイ先生を撃っちまう危険があるからか
「いや待て、それだとお前が小鳥遊ホシノに狙われたらたまったもんじゃねぇぞ
あたしに攻撃できないとわかれば標的を変えることは充分ありえる」
「それも大丈夫、優しさにつけ込むようで悪いけど…多分ホシノちゃんは私を標的にはしない」
コイツ見かけに反して意外と悪どいな…鳥山アウルの影響か?
「…そうか、だとしても簡単じゃねぇぞ」
「いつまでも止めてられないのは分かってる、だから私とネルちゃんはひたすら耐える!
そうすれば必ず──」
▽▲▽▲▽
「いた!いました!ワカモさんですっ!」
『追いつくぞ、構えろアリス!』
アリスちゃんとバルボロスがワカモさんを捕まえる!
戦闘開始と共に姿を現したワカモへ全力で距離を詰める
奴の狙撃さえ無くなれば…!
こちらの意図を察したのか凄まじい速度で逃げ出していくワカモだがここまで来て逃がしてなるものか
『闇の炎よ…!』
逃げ道になり得そうな場所を片っ端から焼き尽くして退路を塞ぐ
それでも街を駆け、時には屋上から屋上へ飛びながら逃げまくっているワカモだったが確かに速度が落ちている
追いつける!
『グオオオッ!!!』
ついに射程距離内に捉え、ぐるりと回転を加えた尻尾を叩き付けビルごとワカモを吹き飛ばす
「おやおや…今のは危なかったですね」
外したか…だがこれだけ近付けば!
『アリスっ、頼む!』
「はいっ!」
大柄な自分では逃げ足の速い彼女との相性は悪い、だがアリスは既に彼女と同じ七囚人と戦っている。まともに当たりさえすれば──
「勝てるとでも?」
「うわぁっ!?」
表通りで追いつき、そのままアリスが振り抜いた光の剣。それをゆうゆうと回避し、反撃のライフルを叩き込むワカモ
く、確かにパワーは勝っているが──
「ギュメイ先生からいただいた指示があります、1つは戦闘時以外は身を潜めること。
そしてもう1つ、もし狙われたら可能な限り引き付けて戦力を分散させること。
こうしている間にもギュメイ先生とそのオマケ達があなたたちの仲間を押し潰します
わたくしを追い詰めたと思っているようですが…追い詰められているのはあなた方のほうですよ?」
予想外の力の差にバルボロスは冷や汗をかく
アリスがやられてしまっては意味がない、どうする?私が戦おうにも延々と逃げられ続けて時間稼ぎをされるだけ…
アリスを連れて戻るか?だが狙撃手が残ったままでは「バルボロス、お願いがあります」
と、この大ピンチにも関わらずアリスが自分に笑いかけた
それはさながら、勝利を確信している顔で。
『なんだ?』
「アビドス全域に響くぐらい大きく、吠えてください!」
▽▲▽▲▽
「ゲヘナ風紀委員長…うん、すごく強いね
ギュメイ先生が来るまでずっと1人でゲヘナの治安を守ってきたの?」
「…ええそうよ」
小さな身体に静かな言葉、そしてそれを覆す苛烈な攻撃をなんとか盾で凌ぐ
「羨ましいなぁ、私もあなたやホシノちゃんみたいに強かったらって、思う、よっ…!」
マシンガンを下からカチ上げ、ショットガンで攻撃。多少吹き飛ばしはしたがほとんどダメージが無い
いや構うな、攻撃し続けるんだ。話し続けるんだ、とにかく集中と戦意を少しでも削いで時間を稼ぐ!
「っ、ギュメイ先生離れてっ」
「分かっている、分かっているが…」
「そう簡単に逃がすかぁッ!!」
背後からネルちゃんの怒号が聞こえるがこっちも手一杯で気にする余裕がない
アリスちゃん急いで…!
▽▲▽▲▽
「ゼェッ、ゼェッ、ゼェッ!うおおおおっ!」
「『火炎斬り』!」
「熱っ、くねぇ!オラァ!!」
「ぐぅ…!」
「キミ本当にしつこいな!?」
初めは手加減していたギュメイ先生もしつこく食らいつき続けたせいかマヒャド斬り以外の剣技も繰り出してきた
本気ではないだろうがそれにしてもこの圧は…!
「『しんくう斬り』」
! ヤバい──
風の力が自身の身体を吹き飛ばし、ギュメイ先生との距離が離れてしまう
「ホシノ」
「分かってる!」
ボゥンッ
「!! ぎっ…!」
しんくう斬りの余波でそのままカッ飛んできたホシノが至近距離から撃ち出した散弾が余すとこなく身体に直撃、ダメージと衝撃に変換され重くのしかかる、が。
「これしきでっ、怯むかぁ!!」
ホシノ自身には目もくれず、再びギュメイ先生へ接近戦を仕掛ける
弾丸を撃つ余裕なんてない、暴発するのも構わずひたすら銃打撃を放つ
「あくまでも我を討つ、と」
「ゼェッ、ああそうだ!!」
だが今の1発は重すぎた、もう止められない
「いい、加減にしろ…!」
いい加減まだなのか!アリスっ!
グオオオオオッ!!!
「「!」」
「っ?今のはバルボロスの…?」
限界を感じ始めたその時、待ちに待った合図が来た
「遅ぇよ…!おいユメ!」
「うん!」
即座に戦線を離脱し、バルボロスの声が聞こえた方向へ全力で逃走。ホシノとギュメイに加えてユメと相対していたヒナもこちらを攻撃目標にしたらしいが──
へっ、アイツから目を離したのは、マズかったと思うぜ?
ユメはキメラのつばさを放り投げた!
▽▲▽▲▽
「────」
おそらくアリスちゃん達が追いついてもワカモさんは倒せない。ネルちゃん以外が彼女を倒すには思いもよらない方法で不意打ちをする必要がある
無くしたと思っていたキメラのつばさ、服の内側に入り込んでいたそれを使って私がアリスちゃんのところに行く
そして──見えた
「あら…?なっ!?」
「捉えたよ、ワカモさんっ!でえいやぁ!」
落下のエネルギーと自身の全力を込めて叩き付けた盾の一撃がワカモの頭にクリーンヒット!
その場にいなかった3人目の攻撃に身構えることすらできずワカモは地面に倒れ伏した!
「やっ、た。倒した…!」
「まだだよ…!さぁバルボロスに乗ってアリスちゃん!」
まだ終わりじゃない、というか大ピンチだ。こうでもしなければ彼女は倒せなかったが今向こうは──
▽▲▽▲▽
「先生!ユメ先輩が、その、信じられないかもしれないけど空に…」
「………今のは」
一瞬ユメが羽のようなものを投げたのが見えた…キメラのつばさか?飛んだとしてどこに?そもそもどこであれを…
『おおーっ!?いったいどんな手を使ったのか梔子ユメ!なんと強引に天童アリスの元へ飛び立ち、空から強襲!狐坂ワカモを撃破!こんな戦い方は見たことがありません!』
…!ワカモがやられた?
確かにキメラのつばさは知っている土地や仲間の元に一瞬で飛び立てるが…
落下地点は着陸するその瞬間まで明確に分からない、強襲できる距離にワカモがいなければ失敗していたはず
こんな危険をゲルニックは冒さん、とすれば
「実用性があるかは別として、ユメは軍略家として想像以上に強くなっている」
「そうなの?」
「ああ、間違いない」
ゲルニックから教わった策や戦闘指揮に加え、独自に自分だけの戦略を作り始めている。
強くなったな、ユメ
──だが分かっているのだろうな?お前が離脱すれば
「ネルを封殺する!ホシノとヒナでネルを全力で叩け!逃走路は我が潰す、ユメ達が合流してくる前になんとしても彼女を落とせ!」
「ええ」
「了解っ」
我ら3人の刃が全てネルに向かうぞ!
ゲルニックの授業のシーンももっと増やせないかな…?と思っている作者のルルザムートです、ハイ。
前回に引き続き回想シーンを入れたのはちょっと反省、テンポ悪くなってしまった…
カジノ編ですがあと2.3個投稿すれば終わりになります、カジノ単体でもそこまで短くはならなかったかな…?
それではまた明日…
レッドウィンター編でユメとアウル、どちらを連れて行くか
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ユメ
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アウル