『宿屋の地下室』編 第12話です、お楽しみください
「むにゃ…?あれ…あ!ご、ごめんなさい…!うっかり眠ってしまって…」
『構いませんよ』
自身の背中で羽毛に埋もれて微睡んでいた子供、花岡ユズが起きたらしい
人が集まる環境はこの子にとってストレスだったらしく、知らないうちに無理をさせてしまっていたようだ
『今の私にできることなどほとんどありません、せめてこれが助けになるのならゆっくり休んでください』
よく眠れるようにラリホーを唱え、なるべく揺らさないように座り直す
『…不思議ですね』
なぜか彼女たちを見ていると昔を思い出す
かつて精霊ルビスと共に天界から降り立った時、主はミッドガルドの海に楽園『ムウ』を作った。
しかしその世界が悪しき者の手に落ちると知った私たちは新たな国…アレフガルドを作り出してムウの民をそこへ移住させて守った
私の命はそこで一度途絶えてしまったけれど、悪しき者がアレフガルドに手を伸ばそうとした時、その命が蘇った
その世界、その時代の勇者の手によって。
既に別世界に旅立ったルビス様の願いを受け止め勇者に助力し、世界が救われたのを見届けた私はルビス様と同じように違う世界へと旅立ち、今度は暗黒神に狙われた世界にたどり着く
そこで7人の賢者と力を合わせて暗黒神の魂を杖に閉じ込め、肉体を女神像に封印することに成功した
長い年月の後にその封印も解かれてしまうのだがなんの因果か、その時代に居合わせた4人の勇者によって暗黒神は完全に打ち滅ぼされ、かつてのアレフガルドのように世界は救われた
──だからこそ不思議なのだ
花岡ユズ、才羽モモイ、才羽ミドリ、そして天童アリス…
私の見た彼らと特にどこか似ているようなところは無いはずなのに、彼女たちを見ていると思い出すのだ
大魔王ゾーマを討った英雄達を。暗黒神ラプソーンに立ち向かった勇者達を。
もしかしたら彼女達もまたこの世界と時代に居合わせた未来の勇者たちなのかもしれない
それなら自分がこのキヴォトスに流れ着いた理由も分かる
──しかし、だとすると…
『あなたがたはいったい誰と戦って…何からキヴォトスを救うのでしょう…?』
▽▲▽▲▽
「『まじん』…!」
「『魔神』…!」
勢いに任せ、空をカッ飛びながら勇者は剣を振りかぶる
迎え撃つは異世界から降り立ったキヴォトス最強の剣士。
『ぎり!!』『斬り!!』
勇者の力が光の剣に、魔神の力が魔剣士の刀にそれぞれ宿り激しくぶつかり合う
それだけで陶器やガラスが割れてしまいそうな音を打ち鳴らしながら勇者と剣士は互いに退かない
戦況は最終局面、ユメやヒナ、司会者に観客の注目が一点に集まる最後の攻防。
だがアリスにもギュメイにも、もはや外の声など聞こえておらず、存在すら頭に無かった
「はああああっ!」
「ぬああああ…!」
あるのはただ目の前の相手に勝つことのみ
勇者として勝利し、仲間を救うこと。
剣士として勝利し、敬意を払うこと。
(これで最後です!)
(これで最後だ…!)
周囲にとってはほんの一瞬、当人たちにとってとてつもなく長い時間が流れた鍔迫り合いはやがて終わりへと向かえる
「くっ、う、うわ…!」
「っ…!があっ!!」
──魔剣士の刀が、勇者の剣を弾き飛ばした
▽▲▽▲▽
『決着ッ!!バトルトーナメントエキシビジョンマッチ勝者、チームシャーレ!
さすがはキヴォトス最高戦力!奇策を正面から討ち破りその力を示したーっ!』
なんとか成立させたアリスとギュメイの一騎討ちだったがアリスが押し負けた時点で打開策が無いと判断したユメとネルによりチームモモイがギブアップ。
急遽用意されたエキシビジョンマッチの勝者はアウルオーナー率いるチームシャーレに決定したのである
「ふー」
刀を収め、気絶したアリスを抱きかかえる
光の剣は…バルボロスに運んでもらおう
「流石よ、ギュメイ先生」
「…条件が対等ならどうなっていたか分からん」
「うへ?………あー、足元?」
「そうだ」
アリスの膂力と我の魔神斬りに差は無かった、決め手になったのは足の踏ん張りだ
地上にいた分、空中にいたお前より我の方が刀に力を込めやすかった。
まさか賭けに賭けを重ねた策でここまでやるとは…
「…怪我人を運ぶ。ホシノとヒナはユメと協力してワカモとネルを。バルボロスは光の剣を回収だ」
それにしても…生徒相手にうっかり刃を向けてしまった。子供相手に命を賭けた果し合いなどどうかしていた、反省せねば
「──少し熱くなりすぎたな」
▽▲▽▲▽
「うわぁん!負けてしまいました!」
「『だから仕方ない』なんて言うつもりはねぇがそれでもあの4人相手によく戦ったとあたしは思うぞ、あまり引きずるな」
ネル先輩はそう言ってくれていますがそもそもこのバトルトーナメントに参加した理由は優勝賞金でモモイの借金を返して助けること。負けてしまっては意味がありません
「ね、ネル先輩の言う通りだよ!元々悪いのは私だしアリスたちが気にすることは…」
「ホッホ、失礼しますよ」
「「!!」」
アウルさん…?
短いノックと共に医務室に入ってきたのは鳥山アウルだった
やけに機嫌が良いように見えますが…
「鳥山アウル?何か用か?」
「ええ、まずモモイさん。あなたの借金ですがこちらで返しておきました」
「えっ、ホント!?」
「本当ですよ、結果的に果実の回収はできましたし、興味深いものも見れた」
さらりと500万円以上の借金を返したと言うアウル、一瞬疑ったアリスたちだったが突き出された返済証明書が疑いを晴らしてくれた
「さて問題が片付いたところでアリスさん」
「? はい」
「戦闘中、鳥に変身していましたね?あれはどうやって?」
「あれですか?あれは──ええと…」
「ミレニアムの発明だよ、試作品だから一瞬しか変身できねーがな」
返答に困っているとネル先輩が助け船を出してくれた
卵は助けられなかったけどレティスの存在を話していいかと言われれば微妙なところですし…
「・・・まぁそういうことにしておきましょう」
「あ、待ってくださいアウルさん!」
そういえばこちらにも彼女に用があったのを思い出した
「はい?どうしまし「これ!ギュメイ先生に渡しておいてください!」
懐へ大切にしまっておいた光り輝く黄金の果実をアウルさんへ差し出す
この果実のおかげで自分の望む道を知る事ができた、ここから先は自分自身と仲間で決めればいい
「ギュメイ先生が果実を集めている話は聞いています。持っていってください!」
「…もういらないのですか?」
「果実が無くとも、アリスには仲間がいます!」
「分かりました、責任を持ってギュメイ先生に渡しておきましょう」
果実を受け取ったアウルは今度こそ医務室を後に。
その後は同部屋の便利屋社員たちとお喋りしながら2時間ほど医務室で休息を取り、迎えに来たギュメイ先生と一緒にカジノを去って「モ〜モ〜イ〜?」
「げぇっ!?この声まさか!」
がし!
「ぎょワァァァ!?太ももオバケに捕まったぁ!?」
突如現れたユウカ!…見ればモモイと一緒にトキさんも捕まっています!
「か、か、カジノに来たことは謝るよ!稼いだお金も部費には使わない!だから「『エリドゥ』」
「「!!」」
「『最上階』『仮眠室』…ずいぶん楽しんでたみたいね?あなたたち…」
「んあ?なんの話を…」
「「………」」ドキドキダラダラ
結局、リオを見逃す代わりに仮眠室のことを喋ってしまったトキの密告により、エリドゥにあるゲーム開発部の理想郷は見事に砕け散った。
未払いだった出前などの代金はトリニティ産高級ベッドを始めとした部屋の備品をミレニアムバザーで売却することで捻出し、足りない分はユウカのポケットマネーから支払われることに。
ゲーム開発部に元からあるゲーム機や再来月以降の部費には手をつけなかったあたりユウカの優しさが垣間見えるが相変わらず当のモモイは気付かないまま仲間と共に元の部室へと帰っていくのだった…
個人的に現時点での登場人物での膂力の順位はゴレオン>アケミ>アリス>ミカだと思っている作者のルルザムートです、ハイ。
というわけでエキシビジョンマッチ決着!圧倒的武力を持つ『チームシャーレ』に対してネルの粘り強さとアリスとバルボロスと子レティスの連携、ユメの戦闘指揮、全てを合わせて食らいついていく展開は自分でもけっこうお気に入りです
次回、『宿屋の地下室』編 最終回!お楽しみに!
レッドウィンター編でユメとアウル、どちらを連れて行くか
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ユメ
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アウル