イワン・クパーラ編 第2話です、お楽しみください
「ぎゃあああ!助けてー!?」ぼふっ
「うわぁ!?」
どしーん!と身体にぶつかる衝撃で一気に意識が覚醒。
っ?私寝てたっけ???
辺りを見るとそこは薄暗い倉庫…に見えたが床から伝わる振動と人が乗ることを考えていないであろう肌寒さはそれが倉庫ではなく貨物車両──列車の中であることを教えてくれた
時間は…飛び乗ってから1時間とちょっとかな?
ひぃん寒い…たくさん着込んできてよかった…
「し、七囚人が来るなんて聞いてないんだけど!?」
「落ち着けノゾミ、我が呼んだ」
貨物車両の天窓をこじ開けて降りてきたのは以前カジノで戦った七囚人の狐坂ワカモ。
ギュメイ達と同じように飛び乗ってきたようだ
「よく来てくれたワカモ、済まないが力を借りるぞ」
「あなた様の望みとあらばどのようなことでも
…して、わたくしは何をすれば?」
そういえばレッドウィンターに行くとは言ったけど具体的に何しに行くのか聞いてない…
「もちろん話す。…ノゾミ、席を外してくれ」
「えー!ここまで来て秘密はないでしょ?密航者を見逃してあげてるんだしさぁ」
「無理だ、話せん。興味本位のまま聞かせて関係ない生徒を危険に巻き込むわけにはいかん」
「いーよいーよ、危険なんて気にしないから」
「しつこいですねこの方…・・・排除しますか?」
「え"!」
「よせ、力に訴えるな。…たのむノゾミ、この借りは必ず返す」
「うー…分かったよ」
渋々ながら前方の車両に戻っていくノゾミ
彼女が一瞬開けた扉からは雪の混じった強風が吹き込んでいた
もう学園が近いのかな…
「──さて、我らの目的についてだが主に2つ
1つは女神の果実の回収だ、これについては生徒会長の連河チェリノが保有している
できれば話し合いで解決したいが果実を使って独裁政治を行っているというのならほぼ間違いなく武力衝突が起こるだろう
チェリノがどんな生徒か知らないがせっかく手に入れた力をみすみす手放すとは思えん」
「女神の果実…あのカジノで宣伝されていた黄金の果実ですか、かしこまりました」
「もう1つは…?」
「人探しだ、レッドウィンターのどこかにガンベクセンという方が捕まっているはずだ
あの方を救出する。これが2つ目の目的だ
写真は無いが子供の通う学校という環境で初老の男性は目立つはず、問題はないだろう」
「分かりました、それでわたくしの役割は?
殲滅も強奪も、いかなるものであろうとこなしてみせます」
「斥候と偵察…情報収集を頼む。手に入れた情報は我の端末に送ってくれ」
「お任せください」
「先生、私は?」
「これまで通り我と共に動いてくれ。今回シャーレはなんの依頼も受けていない、独裁者が相手とはいえやっていることは領土侵犯だからな
ワカモにはああ言ったが単独行動は控えた方が良い」
「分かった…!」
「最後に1つ!…カジノで姿は見たと思うが鉄球を持った猪の獣人、ゴレオンを見かけたら近付かず我を呼べ
見つかったとしても奴とまともにぶつかるな」
ゴレオン…確かアリスちゃん達と戦ったレッドウィンター鎮圧軍将校…
『ねー、話は終わったー?そろそろ着くよー』
携帯電話からヒカリちゃんの声が聞こえた
いよいよ到着らしい
「ではレッドウィンターに入る、戦闘は可能な限り避けて果実とガンベクセン様を救出。
くれぐれも無茶はするな、危険を感じたら自分自身が助かることだけを考えて行動しろ」
「うん!」「はい!」
と、元気よく返事したはいいものの──
▽▲▽▲▽
「すごい吹雪…ほ、ほんとに飛び降りるの!?」
「目的地の倉庫は連河チェリノの配下が多すぎる、ここで降りるぞ」
「わたくしはひと足先に行きます、あなた様もどうかお気をつけて」
「お前も気をつけろワカモ。…ではユメ、しっかり掴まっていろ」
「ま、待って──ひゃああっ…!?」
ハイランダー鉄道学園から発車した物資搬入用の貨物車両は道中どこにも停まることなくまっすぐ目的地へ直行する
貨物の中身は様々だがその殆どは連河チェリノと彼女が選んだ『1%』のためだけの高価な嗜好品が占めている
当然馬鹿正直に終点まで乗り合わせるつもりはない、警備の厳重な倉庫に入る前に我らは列車から飛び降り、ひとまず吹雪から身を守るために近くの旧校舎の中へ
その、はずだったが
ゴゥン…
!!
「『魔神斬り』!!」
真上から流星のように振り下ろされた鉄球の一撃、当たれば粉々になると容易に想像ができるそれに全力を込めた魔神斬りで立ち向かう
ドギャッ…
「ぬぐっ…!?」
キラーマジンガの一撃なぞ比較にならない重さ…!まずい、砕かれる──
ダァンッ
「むお!誰が撃ちやがった!?」
「っ…!ぬんっ!」
鉄球の持ち主の注意が逸れ、なんとか轢き潰される前に脱出。
狙撃銃の発砲音…ワカモか?どちらにせよ好機…!
「っのれぇ!レッドウィンターに密入国しようとは良い度胸だなァ!」
「よりによってここに来て最初に出会うのがお前とはな、ゴレオン!」あと国ではないぞ
「せんせ──ふびゃっ!?」
ひとまず抱えているユメを旧校舎の中へ投げ飛ばし、ゴレオンと対峙。
この猛吹雪にも関わらず、ゴレオンの装いはガナンの時と変わっていない
カジノの時に見せた息苦しそうな制服は着ていないようだ
ガナンの軍服を脱いだ我やゲルニックと違い、ガナンの兜、ガナンのマント、ガナンの腰防具にガナンのブーツ…カジノで見たまま、本当に何一つ変わっていなかった
…強いていえば鉄球を含めたあらゆるものにレッドウィンターの校章が入っている
「ぬ、何者だキサマ!どうしてオレ様の名を???」
「・・・」
…察しの悪さも変わっていない、か
「…なに、すぐに分かる」
「訳の分からんことを…面倒だ、轢き潰してチェリノ様の前に突き出してやるわ!」
再び鉄球が彼の手を軸に回転し始める
周囲にはかつてこの廃工場で使われていたであろうコンテナや倉庫が密集しており、鎖鉄球のような大物には戦いづらい場所…
──というのは彼以外の場合
「ブッハハ…お前が男で良かったぜ、遠慮なしにグチャグチャにできるからな!」
ゴゥンゴゥンと空気と吹雪を切りながら振り回される鉄球はまるで豆腐を抉るように周囲の地形と建築物を変えてゆく
…帝国一の怪力無双ゴレオン将軍、彼の前に障害物は意味を成さない
「相変わらず無茶苦茶な男だ」
あれとまともにやり合ってはいくら我とて敵わない、力がある分鈍重な彼には速度で圧倒して何もさせずに勝つしかないが今は環境が悪い
「………」
エルマニオン雪原の魔物も真っ青になる氷点下と足元の雪が致命的だ
寒さで剣筋が乱される、それにこの足場では速度の乗った剣技は出せぬ
とはいえ負けるつもりなど微塵もないが。
「『火炎斬り』!」
まずは足場の確保。足元の雪目掛けて火炎斬りを繰り出す
動き回るにはまるで足りないが一瞬、足元から雪が消えた
「!! その技は…!」
気づいたか、だが遅い!
「『マヒャド斬り』!」
今度は逆に足元を凍らせる。先ほどまでとの違いは雪ではなく氷であるということ。これで多少の踏ん張りは効く!
「んなもん黙って作らせると思うか!?ぅオラァ!」
当然ゴレオンも見ているだけではない、台風のように鉄球を振り回してこちらが作った足場を端から破壊していく
──やはりお前は分かりやすいなゴレオン
とんっ
「『メタル…斬り』」
伸び切った鎖部分に飛び乗り、そのまま鎖を斬り刻みつつ水平に跳躍。
「オレ様の鉄球を…!テメェいったい…!?」
「──これは再会の挨拶代わりだ、とっておけ」
『魔神斬「双方そこまで!」
「む!?」
全く予想できなかった人間の出現に思わず身を引く
今のはあの白髪の生徒か?気配がまるでしなかったぞ
「おさがりくださいチェリノ様!この男は危険です!」
・・・お前そんな喋り方ができたのか
「案ずるなゴレオン、その男の正体は知っている
…『連邦捜査部シャーレ』の顧問、ギュメイだ」
「ギュメイ…ギュメイだとぉ!?」
──目上の人間に対しても少し気を抜けば普段通り。ああ、本物のゴレオンだな
こっちには本物かどうか疑わしい生徒が1人…
「あなたはいずれ余自ら招くつもりだったが…まぁせっかく来てくれたのだ、歓迎しよう」
連河チェリノ…アロナの調べとはかなり様子が違う
レッドウィンター学園3年生、事務局書記長
…とここまで聞けば目の前の生徒はその肩書きに相応しい学園のトップなのだが致命的な矛盾が発生している
身長が130㎝しかないのだ、反してこの生徒は目測でも170㎝は超えている。肩幅を大きく見せるように着こまれた白コートを羽織る彼女からは写真で見たような幼さ、甘さは微塵も感じられない
「しかしチェリノ様!こいつは密入国者ですぜ!」
「その通りだ、だがただの悪党ならアビドスやミレニアムの問題を解決し、生徒から慕われるような人間などなれぬ
…密入しようとしたのには訳があるのであろう?どうか話してくれないか?」
「………ユメ、出てこい」
「うん…」
隠れていたユメを呼び出し、ひとまず彼女の元に向かうことにした
「んな、もう1人いやがったのか?」
「2人を事務局へ。…おい誰か!2人に雪上車を回してくれ」
「はっ!」「はっ!」
チェリノ(?)の一声で彼女の部下と思しき生徒が集まってきた
欲に塗れた独裁者と聞いていたがこれも調査と違うのか…?
「──ようやく分かったぜ、お前の正体がな」
「なんだようやくかゴレオン」
察しの悪い彼もようやく確信したらしい
…ゲルニックを連れてきていれば嫌味を言いまくって騒ぎにしていただろう、ユメを連れてきて正解か
「メチャクチャに速い剣技、スカした態度、そしてギュメイという名前…オレ様には分かってる!お前…」
ガナン帝国軍のファンだな!?
「────」
なぜ、そうなるんだ、お前は…
「なぜそうなる…我は本物だ」
「嘘をつけ!確かにギュメイという帝国将は知っている!だがお前は致命的なことを見落としているぞ!」
「致命的なこと…?」
なんだそれは?
「知らないなら教えてやるぜ。いいか?お前が憧れているギュメイってやつはな…
魔獣じゃなくて人間なんだ!それにもう死んでて存在しねぇんだぜ!!」
「・・・・・」
じゃあここにいるお前はなんなんだ、鏡を見た事はないのか、ガンベクセン様と会ってないのか、色々と言葉が浮かんだが──
「・・・ああ、そうだな」
ギュメイは考えることを放棄し、雪上車に乗り込んだ!!
▽▲▽▲▽
「………」
眼下に広がるレッドウィンター学園、といっても吹雪のせいで殆ど見えないが逆に吹雪のおかげでこの高度まで下がって来れたとも言える
ここに来てしばらく経つ気がするが相変わらずそれらしい力を持ったものは見つからない
「どこにあるんだ…?」
バカっぽいけど実直なヤツっていいよね…と思っている作者のルルザムートです、ハイ。
というわけでギュメイ先生、ゴレオンと無事再会しました!
彼も間違いなく帝国三将という悪の幹部ではあったんですがⅨ主人公が持っていたガナンの紋章(しかも自分が無くしたヤツ)に気付かなかったり、天の方舟に乗れていたはずの主人公をただの人間扱いしたり、装備やアイテムも取り上げていなかったりとおバカすぎて憎めないんですよね…
その責任をガナサダイから全部ふっかけられたゲルニックがキレるのも含めて…