ギュメイ将軍のキヴォトス放浪記   作:ルルザムート

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レッドウィンター編を書くにあたって1番お気に入りの話です
まぁブルアカ要素がほぼ無いのがアレですが…
イワン・クパーラ編 第7話です、お楽しみください


孤独な王と、それを変えた子供達

【3XX年前…ガナン王国首都、ベクセリアにて…】

 

 

 

『……………』

足が重い、今すぐ背を向けて戻りたい

…だが戻ったところで何も変わらない、そう何度も自身に言い聞かせて王の間の扉に手を掛ける

 

 

 

報告するためだ

この国で最も尊く、守られるべき命の1つが消えたことを──

 

 

 

『失礼します。

ガンベクセン王…女王陛下が、今…』

『そうか、分かった。他には?余に報告しておくことはないか?』

 

『っ…?王よ、妃様が亡くなられたのですよ…?』

『それはもう聞いた、他の報告は?…無ければ下がって南の関所からの連絡を待て

隣国の者達は執念深い、先の襲撃で終わりではないだろう。必要ならば防衛線の強化をせよ、兵と金は送ってやる』

 

 

 

『っ、ガンベクセン王!あなたには心というものが無いのですか!?

母親を失って、ガナサダイ様が…ご子息がどれほど悲しまれているか…!』

『やめなさいギュメイさん、私たちの出る幕はありません』

 

『黙っていろゲルニック!!

王よ、冠を外さずとも家族と過ごすことはできます、どうか父として今すぐご子息の元へ!』

『ならん』

『っ…!』

 

 

 

『女王が死去した今だからこそ、余はここを離れるわけにはいかん

例え秘匿したとしても王族の死は国の揺らぎ…隣国に怪しい動きがある以上、為政以外のことは些事である』

『今なんと…!?』

 

『埋葬は許すが葬儀はするな、間者が紛れ込んでいれば王族の死を悟られる危険がある

妃の葬儀は他国の戦争態勢が完全に沈静化するまで延期とする』

『が、ガンベクセン、王…』

 

『…他に報告は?ゴレオン、ゲルニック、お前達も無いな?』

『はっ!』

『ありません』

 

『では各自持ち場に戻るがよい。

ああ待て、ギュメイとゴレオンに言っておく事がある』

『……は』

『? オレにも?』

 

 

 

『民が犠牲にならず兵の損失も最小限に抑えられているのは前線で武器を振るうそなたら2人の働きが大きい

だがその分他国にも名と顔は知れ渡っていることであろう

 

法に触れる故、出自の関係でそなたらは兵士長のままだが…はっきり言って列国の将軍に劣らぬ戦士だと余は思っておる』

 

 

 

『! オオ!ありがたきお言葉!』

『………』

 

 

 

『うむ、そしてそれが万が一討ち取られでもすれば士気は反転し、他国を勢い付かせる要因にもなり得るだろう

 

…故に何があろうとそなたら2人だけは生きて帰還せよ、民と国の未来はそなたら2人に掛かっていると言っても過言ではない

軍とはすなわち国の力、そなたらはその柱だ。

 

今この国であらゆる命より優先される存在であることをそれぞれ自覚し、赴くように。武運を祈る』

 

 

 

『ッ、ハハァ!!このゴレオン、必ずやご期待に応えてみせるぜ、王様!!』

『………』

 

『ギュメイ』

『………その優先順位とは、民より上なのですか?』

『違う。この戦争状態で判断するならば──』

 

 

 

民と兵、そして王族よりも上なのだ

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

「それで、どう思った?なに気にすることはない、先も言ったが私はもう王ではないただの死に損ないだ」

「…血の通った人間の言葉とは、思えませんでした」

 

「手厳しいな。しかし…うむ、私もそう思うぞ。だがあの時はまだ【フリ】で済んでいた

おそらく完全に後戻りできなくなったのは妻の葬儀の時だろうな」

 

 

 

それから2年後。他国との戦争状態が落ち着き、亡くなった妻の葬儀が終わった時…

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

敵国の軍事力を叩き尽くし、葬儀も終えて落ち着いた私は息子と過ごし、育て、次の王にすることを決めた

使用人に世話の内容を聞き出し、国王から父親へ変わろうとしていた

 

 

 

『ガナサダイ』

『………』

 

 

 

無視されているとは微塵も考えていなかった、1度目と2度目は単に聞こえていなかったのだろうと。

 

だが3度目で──

 

 

 

『ガナサダイよ、話がある。王位についてだが『ギュメイ、この男を追い払え』

 

思えば息子と目が合ったのはそれが最初で最後だった。息子の目には『軽蔑』と『恐怖』しか無かった

 

 

 

その時見た『軽蔑』と『恐怖』を取り除くために、私はどうすればいいか必死で考えた

 

分からなければ民や大臣、ゲルニックにも聞いた

だが返ってきた答えはみな同じ

 

 

 

そうなって当然でしょう?

ご子息はもうあなたを認めない

 

 

 

血を分けた家族にそんな感情を向けられて平気な父親などいるものか。

ズタズタになった父としての心を、国王の仮面で押さえ込んだ。

 

私はガナサダイに認められようとより為政に力を入れた。

まだ足りない、まだ届かない、そう思いながら

 

ふふ、滑稽な男だな…ここに来てガナサダイのことではなく自分自身が息子に嫌われないために動いている。…子を思うのならばすぐにでも冠を放り投げ、2度と姿を見せなければよかったのに

 

 

 

国はいっそう潤った、民は1人残らず守られた

ああくだらない。私が欲しかったのはそんなものでは無かったと言うのに

 

 

 

 

 

▽▲▽▲▽

 

 

 

 

 

「そうして息子と話もできぬまま、私はガナサダイに親殺しをさせ、世界中に不幸を振り撒かせてしまった

 

親を名乗ることも王を名乗ることもおこがましい、最低の男は死にきることもできず亡霊となり、そして息子の築き上げた帝国城で天使に討たれて消えた

 

──そのはずだったが」

 

 

 

パラリ、と彼が取り出したのは写真だった。キヴォトスに来てから撮られたものだろうか?

 

 

 

…写真にはガンベクセン様と連河チェリノ、多数のレッドウィンターの生徒達が雪合戦している様子が写っている

 

いや他にもある、2枚目はガンベクセン様が間宵シグレとゴレオンの3人で一緒に何かを飲んでいる様子が写っているし3枚目は図書館のような場所で我の知らぬ生徒と本を読んで過ごしている様子が写っている

 

楽しそうだった、どの写真に写った誰を見ても、本当に…

 

 

 

「どういう訳かキヴォトスに流れ着き、かつての間違いを正した結果だ

もう王にも父親にもなれはしないが…彼女達に支えられて人間にはなれた

最初からこれに気付いていれば…ガナサダイもきっと…ぐ…彼女達のように…ううっ、うあ…!」

 

 

 

嗚咽と涙を堪えきれなくなった彼の背中をさする

礼儀も敬意も、今だけは忘れてただ静かに。

人の心が無いと我が糾弾した男は不器用だったのだ。誰よりも聡明で、不器用なただの人間だったのだ。

 

 

 

そしてしばらく時が経ち…

「──聞いてくれてありがとう、ゴレオン含めこれを話せる相手はいなかったからな

うん、自分のことをこんなに喋ったのは初めてだ」

 

いつの間にか粉雪も止み、途切れた雲からは青空が見え始めていた

 

「…ここは冷え込みます、校舎に戻りましょう」

「ああ、そうしよう」

 

 

 

体育館から聞こえてくる未だ興奮の冷めない工務部達の声の方へと戻る2人

と、出入口で──

 

 

 

「ひゃっ!」

「むおっ、ユメ?それにトモエも…どうした?」

「あう、ご、ごめんなさいギュメイ先生…つい気になって──あ、それよりもトモエさんが…」

 

「ガンベクセンさん!チェリノ会長が、チェリノ会長がいないんです!

私やユメさんが電話しても繋がらなくて…!」

「…!分かった、探しに行こう」

 

「ガンベクセン様、私も…」

「いや私とトモエだけでいい、彼女の行きそうな場所にはいくつか心当たりがある

お前はここに残って生徒を守ってくれ」

 

「………分かりました、しかしあなたと連河チェリノはおそらく狙われている。

ゴレオンの襲撃があればすぐにここへ戻ってきてください、私が止めます」

「そうならないよう努めるさ。…ゆくぞトモエ」

「はい!」




ガンベクセンの過去を書くのがクッソ楽しかった作者のルルザムートです、ハイ。

自分が好意を寄せた人間が死んでしまえば悲しいに決まっています、それが愛した妻であれば尚更。
でも泣いたところで人は生き返らない、涙で問題は解決しない。それを分かっているから王は泣きませんでした。泣いたところで無駄なのだから

…しかし王に涙は必要なくとも『人間』『父親』『夫』には涙が必要でした、それが彼には分からなかった…

『優れた王でありながら理解者のいない孤独な王』…というメチャクチャ書きがいのある設定のガンベクセン王。その上で殆ど出番が無いので書こうと思えばいくらでも書けるのがよき
それではまた明日…
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