イワン・クパーラ編 第9話です、お楽しみください
「ついてくるなミノリ!我に任せろ!」
「いいや!今この瞬間も奴らと戦っている者がいるのならそれは同志も同然だ!私が行かなくてはならない!」
潜入していたワカモからガンベクセン様がゴレオンと遭遇してしまったと報告を受けた我は旧校舎を飛び出して走っていた
今は何故か現地に現れた栗浜アケミが相手をしているようだがゴレオン相手にいつまで持つか分からない
アケミの戦闘能力はカジノの一戦にて見たきりでいまだ未知数だ、アリスと力勝負で押し勝っていたことから弱いということは無いだろうがはっきり言って力勝負でゴレオンに勝てる相手など世界のどこにもいないと言い切れる
「仕方ない、だが戦いが始まったら決して我より前に出るな、急ぐぞ…!」
▽▲▽▲▽
「く、分かってはいましたが…!」
「オラァ!」
つい最近修理が終わったばかりの重機関銃『エリザベス』は彼の鉄球2発で完全に破壊されてしまったが引き換えに生み出した隙をついてロケット弾を叩き込んだ。おかげで鉄球を手放させることに成功はしたものの…
「っぶは、ふっ…断言してやるぜ栗浜アケミ、お前のパワーはキヴォトス最強だ。──このゴレオン様さえいなけりゃな!!」
互いに手元の武器が無くなったとことで間髪入れず始まった打撃戦。
およそ素手同士の勝負では発生しない音と衝撃波を出しながら互いの全力をぶつけ──いや
ゴレオンさん、あなたは…
少なくとも力は加減されていない、だが戦い方は明らかにこちらを気遣ったものだ
これだけ激しい殴り合いをしておきながら顔と腹部だけは殴られていない
あくまで無力化するために手や足を狙ってきている
私が女だから、ですか?
こちらがなりふり構わず全力で顔面や鳩尾を殴り抜いているにも関わらず向こうはこちらを気遣っている…その事実に感じる確かな敗北感、同時に自分が『か弱い女性』扱いされていることへの高揚感が湧き上がってくる
いや、喜んでいる場合ではない。確かに彼は魅力的な男性だがその彼が、鍛え上げた力を暴力に変えて撒き散らし弱者を支配しているというのなら止めなければならない
他ならぬ、私が──
「アアア…!」
雄叫びと共に残った余力を全て注ぎ込み、腰の入った正拳がゴレオンの顔面を捉えた
「!!! ブ、オ"…!?」
瞑想できていなかったとはいえ伝説のスケバンの異名は伊達ではない、かつてはこの打撃1発で重装甲戦車を真っ二つに抉り飛ばしたこともあった
文字通り当たれば一撃必殺になりえるもの。これまで生物相手には決して使わないと固く誓っていたそれを叩き込まれたゴレオンはかつてない一撃とそれに伴って発生した衝撃波で流石にうめき声をあげ、片方の牙を折り取られながらよろめいた
しかし──
「ハハ…お前は本当に凄いやつだな、前にいた世界でもこのゴレオン様とまともに殴り合えた奴は1人もいなかった」
「…!」
折れた歯を吐きながらゴレオンは笑う
あれほどの一撃を受けて、笑っている
「じゃあな!帰ったらたっぷり自慢するがいい!」
岩のような彼の裏拳が後頭部に衝撃を与え、意識を奪い取る
止めねばならない、そう思考する中でそれよりも大きな感情がアケミには芽生えていた
力勝負で自分を負かし、その上で自分を『女』として気遣う彼に──
▽▲▽▲▽
「気絶したか?気絶したな?よし」
ダウンしたアケミをゴレオンが抱き上げ、涼しい顔でそのまま図書館へ。
間を空けず戻ってきたことから単に避難させただけだろう、そうしてゴレオンは──
んぎゃあああああ!!!
イッテェェェッ!!
「「「「!?」」」」
顔を抑えてのたうち回るゴレオンに全員絶句。大の大人が騒ぎながら転がり倒していたら誰でもそうなるだろう
「ぬ、ぬおん…お…!!クッソぉ…!アビドスで初めて会った時からタダモンじゃねーと思ったがアケミのやつ、遠慮なしにブン殴りやがって…!が、顔面が歪む…!」
「ゴレオン将軍!ゴレオン隊3名、到着しました!
・・・転がり回って何やってるんですか?新しいトレーニングですか?あ、牙折れてるし血が…」
「! う、うるせぇ!それより奴らを捕まえろ、チェリノ様を脅かす反乱分子だ!
…つーかまた人数減ってねーか?」
「はぁ…分かりました。それと隊の残り2人はプリンを食べ終わったら来るそうなので安心してください」
「なに!?オレ様の分は残ってるんだろうな!?」
「さぁ観念しなさいあなたたち!ここがネングの納めどきです!」
「無視すんな!オレ様のプリンは!?」
まるで緊張感の無いやりとりをしながらジリジリと距離を詰めてくるゴレオン配下の生徒達。
ゴレオンもかなり弱っている、逃げるだけなら充分可能だが…
「…ロブと言ったな、ここで私たちが逃げると言ったら君は一緒に来るか?」
「フザけんな!アネゴは俺たちを守って倒れたんだぞ!助けに行くに決まってる!」
「だろうね。…トモエ、チェリノを連れて旧校舎に戻りなさい。私とロブで栗浜アケミを助けてから戻る」
「分かりました、ではチェリノ会長」
「う?う、うむ…」
「? 手伝ってくれるのか?」
「雪が積もったこの地ではあの体躯の彼女を君1人で運ぶのは無理だろう」
とはいえ私にできることなどもう無いに等しい、先のバギで魔力をほぼ使い切った私にできることは──
「いいか、私が彼女達の目を眩ませる。その隙に図書館に入って彼女を連れ出すぞ」
「…了解だ、信じるぜ」
「ムダな抵抗は「『ニフラム』」
詠唱と同時に優しい光が彼女らを包み込む
「わ!?なんだなんだ?」
「うおっ、見えねぇ!」
低級の魔物にしか効かない退魔の魔法、もちろん彼女達に効くはずがないが残った魔力で唱えられる呪文はこれしかない
「今だ!」
「アネゴ!今行く!」
彼女らの横をすり抜けると同時にニフラムの光が消え去ってゆく
「こらー!待て!」
「ならばもう一度!『ニフラム』!」
──しかし先のような光は現れない、もう完全に魔力を使い切ったことで最も消費量の少ないニフラムでさえ不発に終わってしまった
くそっ、もうまったく無いのか…!?
「よし!捕まえダァンッ!
こちらの腕を掴みかけた生徒がまるで横から殴られたかのように吹っ飛び、雪に突っ込んでゆく
発砲音!誰が撃った…?
「!! スナイパーがいるぞ!」
「どこから──うわっ!?」
「あのー、プリン食べ終わったんで合流したんですが今どういう状況でぎゃふっ!?」
▽▲▽▲▽
「そこの2人!援護します、走りなさい!」
深い雪道に苦戦しながらようやく追い付いたと思えばまさにギリギリだった
…おそらくあの男性がギュメイ先生の言っていたガンベクセンという人なのでしょう
すぐ近くにあの鉄球男が見える…決して闘うなとあの方に言われはしましたがここで彼を救うには戦うしかありません
「申し訳ありませんギュメイ先生…言い付けを破ります!…さぁ、急ぎなさい!」
ゴレオンの部下だけでなく、おそらくチェリノ書記長が放ったであろう生徒達が続々と彼らめがけて集まってくる
…できれば栗浜アケミは見捨てて欲しいがそんなつもりはないようだ
いえ、なんてことはありません。ヴァルキューレやFOX小隊に比べればお粗末そのもの…!
加えてここは切り立った崖になっている、迫られる心配はない!
「ぬおおー!逃がすかぁ!!」
「こちらの台詞です…!」
もちろんゴレオンも足止めしなければならない、周囲の生徒を制圧しつつ彼にも弾丸を浴びせるが…
「パチパチ鬱陶しいぜ!引っ込んでろ!」
「怪物ですかあなたは…!」
ワカモの弾丸などまるで意に介さず図書館へ向かっていくゴレオン
何か手は…──!あれを撃てば…!
彼のすぐ横でひしゃげて火花を散らす雪上車に向けて装填分の弾丸を全て叩き込み、目論見通り燃料に引火。雪と一緒にゴレオンを吹き飛ばす
「ぶわぁ!?また火かよ、あっちいいっ!!」
…怯みはしたがロクにダメージが無いらしい、もう止める手段がない
「急いでください!もう時間は稼げな「い・い・か・げ・ん・に…」ガシ…
? 雪上車の残骸を持ち上げて…
「しやがれェッ!!!」ブンッ
まるでこの瞬間だけ重力がこちらに向きを変えたように雪上車の残骸が飛んでくる
そんなバカな──
「『メタル斬り』」
覚悟を決める暇さえ無い刹那、忘れようのない斬撃が割って入った
もちろんその斬撃の主は──
「申し訳ありませんあなた様っ!わたくしは言い付けを破って…!」
「いやいい、我が来るまでよくガンベクセン様を守り抜いてくれた…!ミノリ、ワカモを頼む」
──ゴレオンっ!
▽▲▽▲▽
「ぬあ!?モノマネ野郎も来やがったのか!」
「ガンベクセン様を追い立て、子供に手を上げ…!もう許せん!ゴレオン、ここで貴様を斬る!」
地面に着くのも待てず、崖の中腹で踏み切りゴレオンへ一直線。
隼のように突っ込むギュメイに対し、立て直したゴレオンが鉄球を投擲。
「『しんくう斬り』…!」
本来避けようが無い空飛ぶ鉄塊にしんくう斬りをぶつけ、生まれた突風で一回転し回避。そのまま伸び切った鎖の上を駆け抜け──
「うわ、ぬわっ!待て!ちょっと待「問答無用、お前は少々…!反省しろ!」
「『火炎斬り』!」
レッドウィンターという寒冷地環境にてふわふわもふもふなワカモの尻尾で暖をとりたい作者のルルザムートです、ハイ。
郷に入っては郷に従え、ということでゴレオン将軍もプリンに脳を焼かれるようになりました
そしてそろそろ中盤に差し掛かりますがまだレッドウィンターにおける最終決戦を書き切っていないんですよね…
なんかこの流れ、パヴァーヌ編の時と全く同じで笑えない
とりあえずあの時と違ってまだ余裕はあるのでなんとかなるでしょう!多分…