イワン・クパーラ編 第10話です、お楽しみください
「もう一度、ゴレオンさんと戦わせてください」
旧校舎に運び込まれてからしばらく時間が経過し、日が沈んだあたりで復帰してきたアケミが深々と頭を下げてそう言った
「アネゴ…」
「どうかお願いします」
栗浜アケミ、話を聞くとヘルメット団の1人であり部下のロブを助けるために単身レッドウィンターに来たらしい
ロブもロブでユメ達アビドスに迷惑を掛けた負い目から果実を探しにここに来たらしいが偽チェリノに捕まってしまい、投獄しない代わりにゴレオンの側近に。
ああ見えて割と楽しかったと…
「──確かにギュメイ以外でゴレオンを相手にできるとすれば君だけだ。私は彼女がゴレオンの相手をすべきだと思う」
「ガンベクセン様、しかし…」
「そなたも見たであろうギュメイ」
見た、というのはもちろん偽チェリノのことだろう、あの時──
▽▲▽▲▽
『うわ、ぬわっ!待て!ちょっと待『問答無用、お前は少々…!反省しろ!』
『火炎斬り』!
手加減していたのは間違いない、敵対しているとはいえゴレオンはゲルニックよりも余程信頼できる男だ。果実を回収したあとのことを考えて間違っても殺さないよう気を付けていた
『おっと』
『っ!?』
止められた。何故かそこにいた偽チェリノに、加減していたとはいえ我の一刀を片腕で…
素手でどうやって火炎斬りを止めた?
──よく見れば彼女の腕を氷が覆っている
『魔力の気配…ヒャド系の呪文を身に纏っているのか…?』
『ほう?剣だけでなく魔法にも精通しているのか、つくづくあなたは面白いぞギュメイ先生』
『専門外だが…知人によく魔法を使う女がいるからな』
『ぬ!チェリノ様ぁ!』
『よい、ガンベクセンに加え七囚人を2人も相手にしてはさしものお前も手傷は負うであろう、ここは退くぞ』
『逃がすと思うか?…投降して果実を渡せ』
『──初対面の時とは随分態度が変わったものだなギュメイよ
だがそう急ぐな、総攻撃は明日であろう?互いに今は身を休め決戦に備えるといい』
『………』
▽▲▽▲▽
「脅威はゴレオンだけではない、今まで前線に出てきたのが彼だけだったから見落としていたが地下牢と先の計二戦で確信した」
「偽チェリノは我でなくては倒せない、と」
「うむ、それに私でも知らなかった明日の総攻撃を彼女が知っていたことが気になる」
最低でもヒャド系の上級呪文を操れる偽チェリノ相手に生徒達だけでは太刀打ちできない、こちらの動きが読まれているのもあり完全に待ち構えられているはず。ならば我がチェリノを止めるしかないがその間ゴレオンを止めるには…
「分かった、ゴレオンはアケミに任せる」
「──感謝しますわ」
「ところで先生、チェリノ
「トモエのところで眠っている。…明日は相当な激戦が予想される、チェリノには悪いが彼女はこれ以上介入させないほうがいいだろう」
さっきまで寒い寒いと駄々をこねていたチェリノはガンベクセン様が渡した王者のマントにくるまって寝ている
起こさない方がいいだろうしそれに加え、チェリノに成り変わったマリナにとっては最優先で狙うべき相手だ、いくら我と言えど乱戦の中で彼女が狙われたら守りきれん
「誰にでも叛逆の狼煙を上げる権利が…いや、今は言っている場合では無いか。ともかく今日は休もう」
「ああ、そうだな」
軽くミノリと言葉を交わして我らも休息の用意。教室の1つを間借りし、断熱マットと寝袋を敷いて完成だ
尋常では無い寒さだったが魔力回復したガンベクセン様が旧校舎全体に防寒の魔法を掛けてくださった、このような魔法もあるのだな
「ギュメイ先生、その…寝る前に話があるの」
「ユメ?どうした」
「えっと、えっとね…」
何か話そうとしている彼女だが要領を得ない
話しづらいことなのか?
「──今から私が何を話すか分かる?」
「? いや、分からないが…」
「そう…そうだよね、うん。ごめんなさい、今のは忘れて」
「???」
様子のおかしいユメにどういう意味か聞いてみても返ってくるのは【なんでもないの】という素っ気ない返事だけ
…年頃の少女には言いたくないことの1つや2つある、か
無理に聞き出すのはやめておくとしよう
明日の決戦に備え、我ら3人は寝袋の中で眠りにつくのだった…
▽▲▽▲▽
「グワーッ!イッテェェェ!!触んなクソガキ!」
「ご、ゴレオン将軍!どうかお静まりを…!あわわ…!」
「図太い悲鳴が聞こえてきたかと思えば何をしておるのだゴレオン
触診なのだから仕方なかろう、余のプリンを分けてやるから我慢するがよい」
医療担当の生徒を文字通り投げようとしたオレの手をチェリノ様が止める
ぐ、そうは言っても…
栗浜アケミにへし折られた牙はなんとか元通りくっつき、ヒビの入っていた顔の骨もだいたい治ってきた。こういうところは魔獣の身体で良かったと思うが…
「痛みは完治が近い証拠であろう?良いことではないか」
「確かにそうですがチェリノ様、痛いものは痛いんですぜ…」
正直今も喚き出したいくらい酷い痛みだが他ならぬチェリノ様に『我慢しろ』と言われては従うしかない
「──明日、反乱軍がこの事務局に総攻撃をかける」
「!!」
「安守ミノリはもちろん、このチェリノを騙る偽物やガンベクセン、そして何よりシャーレから来たギュメイが全力で攻勢をかけてくる
お前が今日戦った栗浜アケミもそこにいるだろう」
容器片手にはむはむとプリンを食べるチェリノ様。魅惑の美味しさに頬を緩めながらも眼光の鋭さだけは一切ブレていない
「この中でキーとなるのはギュメイとアケミ、この2人さえ叩きのめせば他が何をしようと余の統治を揺るがすことはできぬ
そこで聞きたいのだゴレオンよ、明日のクーデターでお前の前に立ちはだかるのは栗浜アケミだ。…その身体で戦えるか?」
「…! ええもちろんですぜ!」
「・・・ホントに?」つんつん
「ギャーッ!!チェリノ様、やめてくれぇ!?戦える!戦えますから牙は触らないでくだせぇ!」
予想外の触診に貰ったプリンの容器をどこかに吹っ飛ばしてしまって──それを医療担当の生徒がバッチリキャッチし、残りをペロリ
っておい!まだ一口しか食ってねぇ…
「まぁ…無理をさせてお前を失うのだけは避けねばならぬからな、許せ
ギュメイは余が相手をしよう。今夜の護衛は要らぬ故、お前はしっかり休め」
「へぇっ、分かりました」
投獄したり追放したりで事務局にはほとんど生徒は残っていない。戦闘員どころか掃除係でさえ不足している今、怪我如きで何日も寝ていられねぇ。明日はチェリノ様の右腕として──うん?
「んあ…そういえばチェリノ様。1つお聞きしたいことが」
「? どうした」
医務室を出て行きかけたチェリノ様を引き止める
…いや別に大したことではないがこういう小さな疑問はすごく気になる。ぐっすり眠るためにも解消しておきたいぜ
「今チョーホーハンって誰か残ってましたっけ?」
「チョーホー?ああ諜報班か、いないぞ。プリン生産工場の人手が足りなくてな、解体してそっちに人員を割いた」
「その、素朴な疑問なんですがぁ…チョーホーハンがいないのに反乱軍の動きをやたら具体的にキャッチしてるのはどこから情報を手に入れたので?」
「そんなことか、もちろん──ええと、うむ?どうやって知ったんだったか…確か誰かが教えてくれたんだが…」
おいおいチェリノ様???
「チェリノ様を疑うことなんて1ミリもありませんが…大丈夫なんすか?それ」
「え、えーと…いや大丈夫だ!うむ、大丈夫!間違いない!反乱軍は明日総攻撃を掛けてくる!展開も先に言った通りになるはずだ!」
──そうか
「そうだな!チェリノ様がそう仰るなら間違いありませんや!」ガッハッハ!
「そうだとも!明日、余とお前で反乱分子を叩き潰し、反逆者を1人残らず
「ガッハッハ!」
「ワッハッハ!」
「ンガッハッハッハ!!!」
「ウワッハッハッハ!!!…ふぅ、じゃ余はもう寝るからな。おやすみゴレオン将軍…」
「へい、おやすみなさいですぜチェリノ様」
今度こそチェリノ様を見送り、静かになった部屋で大きく背伸び
…オレも寝るか
「あのゴレオン将軍、寝るなら
「ぐごー…んごぉー…」
「もう寝てる…唯一のベッド占領した上にバカみたいにイビキでかいし、私どこで寝ればいいの…?」
・・・
「・・・反乱軍に加わろうかなぁ」
ゴレオンは魔獣となり復活する前から怪力だけでなく回復力もピカイチだったんじゃないかなー、と思う作者のルルザムートです、ハイ。
というわけでいよいよ決戦が近づいてきました。原作ブルアカの方では特に戦闘は起こらず、ただデモ隊が雪崩れ込んで終わりましたがこっちはしっかり描写していきます
…それにもう今の時点でかなり手を加えてるし…もう、ね?
それではまた明日…