オグリの幼馴染が記憶を無くしてチョコレートの怪物になって化け物と戦ってた話   作:かな餅

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調査区域:東京都府中市


状況概要
・行方不明者数:先日の30人から50人へ増加
・被害対象:ヒト耳個体に加え、ウマ耳個体の行方不明も増加傾向


対応方針
・現地にて記事作成を行いつつ、住民への注意喚起を実施
・トレセン学園所属のトレーナーにも接触・調査を行うこと


討伐指針
・推定対象数:5体
・状況に応じてそれ以上の個体数を想定し、慎重に対応せよ


東京区域担当責任者:酸賀研造




BITTER & SWEET:BEGINNING
そこにいた


 不味い、だるい、面倒くさい。

 

 

 

 

 配属日初日、学園周辺の確認とチョコレートが売っていて尚且つ値打ちが安い店。 

 

 

 

 

 物資を調達できる店を探して周辺を適当に徘徊していたら葦毛のウマ耳に話しかけられた。

 

 

 

 「人違いだったら済まないんだが……その、えっと。」

 

 

 

 ”私の容姿に見覚えは無いか”だと?、知るかそんなもん。

 

 

 

 

 少なくとも俺は目の前のこいつを知らん、過去に助けたことがあるのか?。

 

 

 

 

 少なくともそういう感じじゃない、過去の俺を知ってる?。

 

 

 

 『お前の事は知らん。俺はヒト耳の友達すらいない。』

 

 

 

 

「……そうか、済まない。そうだな……もう、あの子は

 

 

 

 

『名前を覚えてるんだったらこの名刺で違うって分かるだろ、まあ……困った時は仕事くれ』

 

 

 

表向きは引越しの手伝いと清掃を受け持つ何でも屋、その名刺を渡したら素直に引き下がった。

 

 

 

 「私はオグリキャップ、良かったら今度レースを見に来てくれ。これも何かの縁だ」

 

 

 

 オグリキャップ……ウマ耳で葦毛のオグリ……やっぱりわからん。

 

 

 

 

 酸賀に今度聞いてみるか?、いやあいつがウマ耳に興味を持ったところなんて見たことないな。

 

 

 

 

 

 ただ今回トレーナーも調べる必要がある以上関わる口実には――。

 

 

 

 

 

 ……妙に荷物が軽いな?、中身は仕事道具とチョコレートと身分証……でこれは。

 

 

 

『……服だ、しかも女物の……不味いな。荷物が入れ替わったのか』

 

 

 

 これがバレたら……。

 

 

 

――仕事クビ・路上生活・酸賀への責任追及・酸賀がホームレスになる――

 

 

 

 

『……はぁぁぁ……だるぅ。』

 

 

 

 

――トレセン学園・寮室

 

 

 

 

 今日は、笠松へ帰った時に来て行く服を買いに行くだけのはずだった。

 

 

 

 

 いつもの帰り道、あの子の面影をもつ人に出会って……人違いだった。

 

 

 

 

 人違いだったのに、何処か……忘れていた気持ちが沸き上がって不思議だった。

 

 

 

「引き摺りすぎだな、私は。」

 

 

 

 最初に会った時、耳をもみくちゃにされた痛みも、立てない私の頭を抱いてくれた暖かさも。

 

 

 

 

 胸の奥から伝わってくる鼓動も、無邪気な声もお菓子の甘い匂いも、分けてくれた人参の味も。

 

 

 

 

 昨日の事のようにいつも思い出せてしまう、それを忘れられるのは走っているときだけ。

 

 

 

 

 今日買った服もあの子の前で着たらなんて言ってくれるだろ――うか?。

 

 

 

 

「……プレゼント用で包んだ覚えはないぞ?、チョコも買ってない……服は?」

 

 

 

 

 ……まさか、荷物が入れ替わってしまった?。

 

 

 

 

 名刺に連絡先は……書いてない、とんでもないことをしてしまった……。

 

 

 

 

 住所は書いてある……まだ日も暮れてない、届けに行って謝ろう……。

 

 

 

 

 プレゼント……家族への贈り物だろうか、流石に中身を見るわけにはいかないな。

  

 

 

 

 私の服は無事だろうか……もしかしたらあっちも同じ状況に――。

 

 

 

〔ちょろ?、ちょろぉ?……ちょわッ?!「なんか出てきた……?、なんだこれは……?小人か?」

 

 

 

 

 こいつに書いてる文字をみると……CHOCODON(チョコドン)……チョコのお菓子か?。

 

 

 

〔ちょわッ!ちょわッ!(離しての意)〕

 

 

 

 

「……ちょっとかわいいかも知れないな……!(何も伝わってないオグリの意)」〔ちょろぉ……〕

 

 

 

 

「オグリちゃーん?いる?、明日のトレーニングの件なんだけど……誰かと喋ってる?」

 

 

 

 

〔ちょッ――〕「あぁ!大丈夫だ!ちょっと待ってくれ……お、大人しくな?

 

 

 

 

〔ちょろぉ……〕

 

 

 

 

――何でも屋:【助っ人酸賀さん!】

 

 

 

「ん~……あーお帰りぃ~絆斗君、良いチョコ買えたぁ?」『質より量』

 

 

 

 

 

「いつも通りかぁ、たまにはいいもの買ってみたら?。強いゴチゾウが生まれるかもよ?」

 

 

 

 

『高けりゃいいなら、最初からそうしてるだろ。それに味の違いなんてわかんねえし。』

 

 

 

 

 酸賀研造、今回の調査の責任者で俺の上司であり師匠であり、親代わり。

 

 

 

 

 頭も良いからなんか色んな資格を持って金持ちだから今の仕事で金に困ったことはない。

 

 

 

 

 逆に言えば酸賀がいなくなったら俺は金に困る。

 

 

 

 

 

「……最近さ、絆斗君も独り立ち時期かなって思ってるんだよね、ほら仕事にも慣れてきたし」

 

 

 

 

 

『酸賀、仕事道具無くした』「いや、まだ早いかぁ……」

 

 

 

 

 今日やること。

 

 

 

 ①トレセン学園って言う所にオグリの荷物を届ける。

 

 

 ②仕事道具を取り戻す。

 

 

 ③ゴチゾウを量産する。

 

 

 

 

「そのオグリちゃんだっけ?、友達になった?、いやもしかしてナンパだった?」

 

 

『人違いで喋りかけられた、昔の男が忘れられないとかそんなんだろ……じゃあ行ってくッ――』

 

 

 

 白いなんかが出てきてぶつかった……?、葦毛、ウマ耳……さっき会ったばかりのあいつだ。

 

 

 

「えっと、この名刺の住所はここであっているだろうか……?」『ああ、正に丁度そこに不法侵入だ』

 

 

 

 

 

「こらこら絆斗君、常連さんなんて店が開いてなくても入ってくるんだから……」

 

 

 

 

『友達の家じゃないんだぞここは』「友達の家でも勝手に入るのはだめじゃないか?」

 

 

 

 

「あれ?待って絆斗君もしかしてその子が?……『人違いしたオグリだ』「荷物を届けに来たんだ」

 

 

 

「ちょっとちょっと……絆斗君こっちきて……」『……なんだよ』

 

 

 

 

 酸賀は俺に同世代の友達を作らせたがる。

 

 

 

 

 

 なんでも屋をやっているのは自然と情報を集めるためではある。

 

 

 

 

 

 ただ酸賀がそれよりも俺が年頃の人間らしく振舞うことも楽しみにしてるらしい。

 

 

 

 

「あの子いいじゃない……しかも丁度同い年くらい?、いやぁ丁度いい……」『すがぁ……やめろ、くだらない。』

 

 

 

 

「まあまあ……オグリちゃんだっけ?、せっかく来てくれたんだし座って座って、ほらほら」

 

 

 

 

「あ、ああ……ありがとう。荷物を渡したらすぐに出て行くつもりだったんだが……?」

 

 

 

 

『そうしたかったらそうしろ、でこれがおまえの荷物だ』「ああ……」

 

 

 

 

 中身を確認して……よし、チョコゾウは無事か……最近ゴチゾウの出が悪いからな。

 

 

〔ちょろっ!、ちょろ!!〕『馬鹿ッ静かにしろ……』

 

 

 一匹でも貴重な仕事仲間だ……何より他人にこいつをなるべくみられるのはまずい。

 

 

「聞いていいことなのかは分からないが、その小さい……チョコドンと書いてるのはなんなんだ?」

 

 

 

 手遅れだったららしい。

 

 

 

『そんな菓子は知らん、このチョコは全部市販の奴だぞ』「なにぃ?チョコの妖精でもみたの?」

 

 

 

「いや……なんでもない、その包みは家族へのプレゼントか?」『……まあ、そんなとこだ』

 

 

 

 

「絆斗君、俺ちょっと出掛けてくるから……その子とお茶しといて」

 

 

 

 

『いや、用事は済んでるんだから帰えるだろ』「お客さんを無碍にしないの、じゃあいってくる」

 

 

 

 

 ……行きやがった、まあ……客になるかもしれないなら少しは喋るか。

 

 

 

『……一杯の茶と菓子は出してやるから、食ったら帰れ』「あ、ああ……」

 

 

 

 チョコゾウは見られたがまあ、誤魔化せたしすぐに忘れるだろう。

 

 

 

 

「……酸賀絆斗が、名前なんだな」『芸名かと思ったのか?』

 

 

 

 

 こいつが思ってるやつにそんなに似てるのか……それかやっぱり過去に会った事あるのか?。

 

 

 

 

「……よし、迷惑をかけて済まなかったな。おいしいお茶と茶菓子をありがとう」『食うの速いな』

 

 

 

 

 

「それと……是非、レースを見に来てくれ」

 

 

 

 帰った……まあ、お茶して話した事実はできたな、よし。

 

 

 

〔ちょろ……〕『お前は俺と違って孤独じゃなくてもいいからな、だから寂しがるな』

 

 

 

 

 

 〔わにゃぁっ、わにゃ!〕

 

 

 

 グミから生まれたゴチゾウ、ホッピンググミ、通称"グミ"。

 

 

 

 

 仕事には俺との相性が悪くて使えないが足が早いことを見込んで周辺の調査をさせてる。

 

 

 

 

 そしてまだ門限に猶予があるうちに帰って来たとなるとそれは緊急事態。

 

 

 

 『……"グラニュート"か』

 

 

 

 

 外に出てグミの後をついて行く、店から出てすぐの道は意外にも人通りが少ない。

 

 

 

 

 と言っても、そう言う風に昔から人払いを済ませてるだけに過ぎないが。

 

 

 

 

 ゴチゾウが隠れられる場所多いから散歩に行かせる時はいつもこの周辺だ。

 

 

 

 

 ただ本来の目的としては人がいない場所を作ることでもでもゴチゾウの散歩のためじゃ無い。

 

 

 

 

 人混みの中に生きて人気の無い場所で正体を表すを誘き寄せる為でもある。

 

 

 

 

 人を攫うのにうってつけな、狩場を用意して。

 

 

 

 

 ――駄菓子屋:【代理移動販売店"ハピパレ"】

 

 

 

 

「は〜い!ご購入ありがとうございまーす、レース頑張ってね!オグリちゃん!」

 

 

 

 

 帰り道に普通のお菓子とは違うちょっと可愛らしいお菓子を沢山買ってしまった……。

 

 

 

 

 

 どれもチョコドンというチョコレートの妖精に酷似してるものばかりだけど、全部美味しい。

 

 

 

 

「もしかしたらあの子も美味しい……ん?」『だ、だれかぁ。たすけて……

 

 

 

 

 路地裏から声が聞こえる、苦しんで大きい声も出せないみたいだ。

 

 

 

 

 日が暮れてそろそろ帰らないとまずいけど……仕方ない。

 

 

 

 

「そこに……誰かいるのか?」『こっちだ……こっち』

 

 

 

 

 ……なんか変だな、でも念の為――。

 

 

 

 

 

 『オグリ』「……絆斗?」

 

 

 

 

 

 『んなとこで何やって……お前もハピパレでお菓子買ったのか』

 

 

 

 

 

「うん、そこで助けてって声が聞こえて……」

 

 

 

 

 

 

 『あー……じゃあ、俺が代わりに行くからとっとと帰れ、女が路地裏に1人は危ないしな』

 

 

 

 

 なら、私も一緒にと口に出しかけたところで……チョコを口に入れられ塞がれてしまった。

 

 

 

 

 『暇が出来たらレース見に行ってやるから、だから早く帰れよ。日が暮れないうちに』

 

 

 

 ぶっきらぼうな言い方だけど、嫌われてるわけじゃない。

 

 

 

 

 彼もお菓子をただ買いにきただけだろうか。

 

 

 

〔……ちょろ〕「……君はお菓子の妖精、もしかして……食べられに来てくれたのか?」

 

 

 

 泣き出した様子を見るに違うらしい、というか……これは絆斗の持ち物の中にいたから……。

 

 

 

 

「もしかして……絆斗を探してるのか?」〔ちょわっ〕

 

 

 

 すぐそこだろうし届けに行こう、そうしたら次はきちんと帰宅だ。

 

 

 

 

 耳を澄まして足音を追えば……うん、入ってすぐそこにいた。

 

 

 

「絆斗、この子が君を――」『危ねぇッ……』

 

 

 

 

 

 その瞬間、私は思い出した。あの日のことを。

 

 

 

 

 

 ある日、私とあの子は公園で遊んでいた。

 

 

 

 

 

 その時の私は、立つのもやっとで、足も悪くて、他の子たちのようには動けなかった。

 

 

 

 

 だから、いつも遊ぶのは砂場だった。唯一、私にも許された遊び場所だった。

 

 

 

 

 でも、それでもあの子と一緒にいるだけで楽しかった。

 

 

 

 

 自分が足手まといだなんて、その時だけは思わなかった。

 

 

 

 

 そう思えていた、はずだった。

 

 

 

 

 だけど、それに夢中になっていた私は、気づけなかった。

 

 

 

 

 ボールが飛んでくることも、あの子が私の前に出た理由も。

 

 

 

 

 ただ、次の瞬間には……私は、彼に押しのけられるように庇われていた。

 

 

 

 

 

 年上のウマ娘が蹴った勢いのまま、硬いボールが彼の頭にぶつかった。

 

 

 

 

 鈍い音がした。

 

 

 

 

 それは風の音よりも、砂の感触よりも、ずっと鮮明に私の耳に残った。

 

 

 

 

 忘れられない。今も、ずっと、忘れられない。

 

 

 

 

 

 幼い心にとっては、耐えきれないほどの出来事だった。

 

 

 

 

 怖くて、痛くて、苦しくて……それなのに、泣くことすらできなかった。

 

 

 

 

 

 ただ、立ち尽くして、彼を見下ろしていた。

 

 

 

 

 無表情で、声も出せずに。

 

 

 

 

 

 ボールを当てたウマ娘も、その子の親も、私の母も、みんな騒いでいた。

 

 

 

 

 怒って、泣いて、心配して、責めあって、怒鳴り声が大きくなって。

 

 

 

 

 あの場にいた誰もが声を上げていた。

 

 

 

 

 なのに――私だけが、あの時、ずっと静かだった。

 

 

 

 

 声を出せなかったのか。

 

 

 

 

 それとも、出したくなかったのか。

 

 

 

 

 あの時の自分の顔が、今も思い出せない。

 

 

 

 

「……駄目だっ!」

 

 

 

 

 

 砂場の記憶が頭をよぎった刹那、目の前の絆斗の身体が何かに引きずられていく。

 

 

 

 

 反射的に、全身の筋肉を瞬間で動かして必死にしがみついた。

 

 

 

 

 

 

 だけど、その身体を引こうとする力は、人のものじゃない。

 

 

 

 

 強くて、ぞっとするほど執拗だった。

 

 

 

 

 それでも私は確かに、彼を掴んでいる。

 

 

 

 

 今度は、あの時みたいに立ち尽くしたりしない。絶対に。

 

 

 

 

 

 私は彼の肩にしがみつきながら体重をかける。

 

 

 

 

『もげッ……おいっ、離せ!何で此処にいるんだよッ!』〔ちょわ!〕『お前どこ行ってた!?』

 

 

 

 

「君は一体何に巻き込まれてるんだッ!あとやっぱりチョコの妖精は実際にいたぞ!」

 

 

 

 

叫びながらも、私は力を緩めない。声は震えているけど、手は離れない。

 

 

 

 

彼を放せば、今度こそ“戻ってこられない場所”に行ってしまう気がして……嫌だった。

 

 

 

『んなこと言ってる場合か?! くっそ、仕方ない……』〔ちょろ!〕

 

 

 

 

 

 パン、と鋭い音が耳に響いた。乾いた銃声のような音。

 

 

 

 

 引っ張っていた力が、突然すっと抜けた。

 

 

 

 

 犯動で尻餅をついた私の目の前に、絆斗の身体が倒れ込むように戻ってくる。

 

 

 

 

 視界の隅で、彼の右手から何かが飛び散ったのが見えた。

 

 

 

 

 赤く、ねっとりとした何か。

 

 

 

 

 いや、触手のようなものの破片が地面に落ちている。

 

 

 

 

 それに代わるように、血の匂いが風に乗って鼻を打った。

 

 

 

 

『……チョコゾウ、次は逸れるなよ……お前しか俺に力を与えられないんだ』〔ちょ、ちょろ……〕

 

 

 

 

 絆斗の声が低く、苦しげに響いてる。

 

 

 

 

 顔色が明らかに悪い。腕を押さえている。

 

 

 

 

 そこから……赤いものが、溢れている。

 

 

 

「腕……怪我したのか?、それもそうか……さっき強い力で引っ張られ。」

 

 

 

視線を落とした私は、言葉を詰まらせた。

 

 

 

 

 

それをはっきり見るまで理解できなかった、いや――したくなかった。

 

 

 

「手は……どうしたんだ……」

 

 

 

 

――銃声・血・崩れた触手――

 

 

 

 

あの瞬間、彼は自分の手に巻ついた触手を手ごと撃って切り離したのだと直感的に理解した。

 

 

 

 

 

普通じゃない。

 

 

 

人間が自分の手を撃つなんて、どうしてそんなことができる?。

 

 

 

『流石に……堪えるな。オグリ、お前は無事か?』

 

 

 

それでも彼は、私の無事を最初に気にかけた。

 

 

 

「手……手はどうしたんだ?」

 

 

 

 

『いいか、これから起きる事、見たこと……誰にも言うな』

 

 

 

 

「いや……そんなこと言ってる場合じゃない。早く――」

 

 

 

 

 絆斗の顔が歪んだ。怒りとも、焦りとも、痛みによるものとも取れない、苦悶の混ざった表情。

 

 

 

『約束しろッ!!!』

 

 

 

 怒鳴り声が路地に響いた。鋭く、荒く、喉が擦り切れるような叫びだった。

 

 

 

 

『それだけは……”俺の手”がなくなったことよりも大事なことだッ……ッ!』

 

 

 

 

 その声に、私は肩をびくりと震わせて、立ち尽くしてしまった。

 

 

 

 

 

 怖かった。怒鳴られたことも、声の大きさもじゃない。

 

 

 

 

 

 絆斗の必死さが、何よりも怖かった。

 

 

 

 

「わ……わかった。やっぱり……でも、君の手は――」『……ッ』

 

 

 

 低く鈍い銃声が2発、それは絆斗が持ってる……”何か”から放たれた。

 

 

 

『あと、1人、1人なのに。邪魔をするなよ……今になって立ちはだかるなよッ!!!

 

 

 

撃ち落としたのは、化け物の腹から……触手、赤くて、うねってて……。

 

 

 

 

見てるのに、頭がついてこない。何を見せられてるのか、わからない。

 

 

 

 

気味が悪いなんて、そんな軽い言葉じゃない。

 

 

 

『……ああ、遅くなった。』〔チョワッ!!!〕

 

 

 

 

――CHOCO――

 

 

 

 

『お前だな、この辺りで一番多く人を攫ってるグラニュートは……』

 

 

 

 

 

『あと1人で終わりなんだ、お前が邪魔させしなければ俺はッ!!!……終われるんだ!!!』

 

 

 

 

 

『もう終わらせんだよッ』

 

 

 

 

――SET CHOCO SET CHOCO ――

 

 

 

 

 

 

『下がってろ、オグリ……』〔WAO‼WAOWAO!!!〕

 

 

 

 

 

『お前……グラニュートハンターのッ……!』

 

 

 

 

 

 

―― CHOCODON PAKI PAKI ――

 

 

 

 

 ……もう今日は何が何なんだか。

 

 

 

 

 チョコレートの妖精は本当にいた。

 

 

 

 

 

 幼馴染かも知れない人が“それ”を使って変身して、今目の前で戦っている。

 

 

 

 

 

 化け物と、本物の怪物が戦ってる。

 

 

 

 

 

 さっきまで血を流していた人が、目を逸らした隙に“仮面”を被っていて。

 

 

 

 

 

 触手を撃って、地面を蹴り、まるで自分の身体じゃないみたいに戦っている。

 

 

 

 

 

 足を動かそうにも動けない、思考が追いつかない。

 

 

 

 

 あれはさっきまでそこにいた絆斗なのか、本当に?。

 

 

 

 

 あんな目をして、あんな力で、何かを壊すようにして戦っている怪物が。

 

 

 

 

 私の知ってる、耳をもみくちゃにして泣かせた、あの子なのか?

 

 

 

 

 それは、わからないし……今もまだあんまりわかっていない。

 

 

 

 

 これは、あの子が“仮面”を纏って生きる理由を、私が知ることになる最初の話。

 

 

 

 




【グラニュートハンター】


“グラニュートハンター”それは、かつて“闇菓子”と呼ばれる中毒性の強いお菓子に手を染め、ついには(闇)バイト家業へと堕ちたグラニュートたちを狩る存在につけられた通称である。


この名称は本来、闇菓子の製造と流通を担っていた“ストマック家”が敵対者への侮蔑として使い始めた呼び名に過ぎず、正式な名称ではないとされている。


だが皮肉なことに、今ではその名が広く定着し、敵味方を問わず通用する呼称となった。


人間界でもその姿はたびたび目撃されており、一部では”仮面ライダー”として都市伝説的に語られている。


彼らの行動は一定しておらず、ある時は人を救い、またある時は店先から食べ物を奪い去るなど、個体によって善悪の基準にばらつきがあるようだ。


興味深いのは、彼らに助けられた人間たちの証言の中に”同じ言語で会話できた”というものがある
点だ。


それが示すのは、グラニュートハンターの中に“人間の姿を持つ者”あるいは“人間と共に生きる者”が紛れている可能性である。


仮面を被った正体不明の存在。


その裏にあるのは、人か、怪物か、それとも別の何かか。
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