オグリの幼馴染が記憶を無くしてチョコレートの怪物になって化け物と戦ってた話   作:かな餅

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【何でも屋:助っ人酸賀さん!】



 酸賀と俺が共同でやってる便利屋は、基本的に“選んだ客”にしか仕事を請けないスタイル。



 条件は名刺を渡した相手限定。

 

 人探しもやらないわけじゃないが、それは条件が揃ってる時だけの特例。

 

 稼ぎは意外と悪くなくて、貯金もそこそこできてる。とはいえ、仕事の数はあえて絞ってる。

 

 仕事内容は主に飲食店の手伝いや、常連でもあるハピパレ絡みの雑用が中心だ。

 

 週休3日で副業もOK。バイトは取らないけど、とてもアットホームな職場ではある。

 

 ……なお、休暇中に葦毛のウマ娘が不法侵入してくることがちょくちょくある。






お菓子よりも満たされる味

 オグリの機嫌をなんとか取って、ようやく16時には解放された。

 

 

 

 

 ……にしても、あの不機嫌っぷりは一体なんだったんだ。

 

 

 

 

 とりあえず、自分へのご褒美でも買い漁るか。お菓子とか、適当にいろいろ。

 

 

 

 

 いや、いつもと同じだな……誕生日って自分で何をすれば正解なんだ?。

 

 

 

「……おっ?、よお元気そうだな」「あら、こんな所であえるなんてねぇ!」

 

 

 

 誰だこの兄妹……兄妹?――ああ、あいつら(斉藤一家)だ。

 

 

 

『何でこんなとこでフラフラしてんだ?、散歩か?』「ちがうわー、会いにきたのよー?」

 

 

 

 

『……俺に?』「贈り物があるんだってよ。」「はい!ぶっしゅどのえるー!」

 

 

 

 

 

 

「……それかぁ、贈り物」『……ああ、ありがとうな』「嬉しくないのー?……」

 

 

 

 

 嬉しくないわけじゃないんだ、うん。

 

 

 

 

――何でも屋:【助っ人酸賀さん!】

 

 

 

 

 

〔ブシュ!ブシュブシュ!〕〔ピィ?チョコ!〕〔ザク……ザクザク〕『一つ目でも仲良くしろよ』

 

 

 

 

 

 

「それで、保護してくれた事には感謝するんだけどよ。何十年といられる訳じゃないんだろ?」

 

 

 

 組織は国に認められてはいる。

 

 

 

 

 ただし常設の軍隊でもなければ公的な予算で動いているわけでもない。

 

 

 

 

 主な支えは、財団からの援助や国の投資によるもの。

 

 

 

 

 それが、いつまで続くのかなんて誰にも断言できない。

 

 

 

『慣れてきたら一般家庭のように暮らすことも求められるだろうが……まだ何とも言えん。』

 

 

 

 

「そうか。なぁ、特に何かしらって言われてないけどよ……なんか、やれる事ってあんのか?」

 

 

 

 

『そうだな、妹の側にいてやれば良い。言えるのはそれだけだ』

 

 

 

 

「俺だって何かしたいんだよ……守られてるだけじゃなくて何か……」

 

 

 

 

 ……気持ちだけはわからなくもないがな。

 

 

 

『……なら、ハピパレってとこでバイトでもしてみるか?人間のことを知る良いきっかけになる』

 

 

 

 

「……そう言うんじゃねえんだけど」『人の役に立て、人を知れ。そうしたら、また聞かせろ』

 

 

 

 

 俺は無理を言って戦いに出た立場だが……。

 

 

 

 

 流石にグラニュートとはいえ家族が居るんだ、無理はさせれん。

 

 

 

 

 あそこにはラキアもいることだ、なんかアドバイスしてやってくれるだろ。

 

 

 

「むずかしいおはなししていたの?、つぎはわたしがあなたとおしゃべりね〜♪」

 

 

 

 

 『おい……近い、膝のっか――甘えたがりかお前は』「おひめさまよー!」

 

 

 

 人間の姿ではあるが……こいつ、人懐っこすぎるなまんま犬か……。

 

 

 

「そうだ、俺たち和名ってのを貰って俺が斉藤白狼(しろう)こっちが――」「いやぁー……」

 

 

 

 

 

「こーら、ジタバタするな……このお転婆娘が"斉藤狼奈(ろうな)"だ」「まだおしゃべりするのー」

 

 

 

 

 まんま過ぎるが……まあ、気にする事じゃないな。

 

 

 

 

『一応名刺渡しといてやる、なんかあったらうちに来い、なんかはしてやるよ』

 

 

 

 

 

「……字が読めねぇ」『……じゃあ暇な時面倒見てやるから来い』

 

 

 

 

 まず人間に紛れるとしたら人間の言葉も覚えないといけないか……考慮してなかったな。

 

 

 

 

「さ、帰るぞ」「むー……あしたはきちゃだめなのー?」

 

 

 

 

 

 『明日は何も――いや、誕生日か……』「おたんじょうび!じゃあお祝いしなくっちゃねぇ!」

 

 

 

 

 ……変なスイッチ入れちまったか?。

 

 

 

 

「おお……こらめい――」「おめでたいわねぇ!いくつになるのかしら!」『たぶん18』

 

 

 

 まあ暇だしいいか、3人だったらハピパレのパーティセット――あっ、あいつら(幸果とラキア)とも連絡先……。

 

 

 

 

「おともだちもたくさんよんでおいわいしましょー!」『いや、そんな祝うことでも――』

 

 

 

 

 

「いわうのー!」「こうなったこいつは止まんねえぞ」

 

 

 

 

 

 結局、押し切られてしまった……とりあえず、何人になるかわからんが予約しておくか……。

 

 

 

 

 

 

 

 ――駄菓子屋:【代理移動販売店"ハピパレ"】

 

 

 

 

 

「ええ〜!?まじ?誕生日?おめでたじゃーん!、じゃっこの日はお店閉めて――」

 

 

 

 

 

 

『えっ?』

 

 

 

 

 

 

 

「なに驚いてんの?、明日はハンテイのお祝いするから――てか明日!?準備間に合うかなぁ……

 

 

 

 

 

 

 

 『……何で前日になって言うんだぁ?』『こんなつもりで来た訳じゃねえんだよ……』

 

 

 

 

  まあ美味い菓子がタダで食えると思えば2人くらい増えるのは問題ない……。

 

 

 

 

『あっ?……オグリからメッセージか、そう言えばあいつ仮にでも幼馴染だったな。』

 

 

 

 

 

[絆斗、本当は直接聞きたいことだけど誕生日は何が欲しい?]

 

 

 

 

 

 『こいつも律儀だな……"菓子パーティやるからいらん。"っと、これで良いのか?』

 

 

 

 

 

 [そうか、菓子パンパーティをやるんだな!]

 

 

 

 

 

『"菓子パーティーだ"』[明日が楽しみだな!何時に始めるんだ?、私はこのくらいに――]

 

 

 

 

 だめだ。こいつ来る気だ、こいつ1人いたら食えるもん無くなりそうなんだよな……。

 

 

 

 

 

 可哀想だが断って……。

 

 

 

 

[明日オグリちゃんもくるから好きな食べ物と嫌いな食べ物のピックアップよろ⭐︎]

 

 

 

 

 

 手遅れだった。

 

 

 

 

 

 ――グラニュート界:【バウエル社】

 

 

 

 

「今月の収穫はひとまず闇菓子500個分は何とか確保しました。」

 

 

 

 

『……上質ではないがまあこれだけあれば顧客は黙るだろう、例のグラニュートハンターは?』

 

 

 

 

「そちらに関しましては引き続き対策を練っていますが……想定以上に手強い個体も……」

 

 

 

 

『だろうな、それ以外は過去にいたグラニュートハンターと比べれば……この闇菓子のように』

 

 

「"量はあっても質はない"ですね、おそらくその個体さえ始末すれば今後の供給も……」

 

 

 

 

 ……まったく、こんなやり取りに時間を割くくらいなら、とっとと研究に戻りたい。

 

 

 

 

 まあ結局、自分をこの面倒な立場に追いやったのは、自分自身なんだけどね。

 

 

 

 

『そうか、これまで通りそいつの対処は一任する、アルバイトの管理もな』

 

 

 

 

 やれやれ、ようやく解放されたか。

 

 

 

 

 同じ“ランゴ兄さん”の外見でも、中身が違えばやはりストレスの質も変わる。

 

 

 

 

 

 2年前、確保できる人プレスの数が激減したのは誤算だった……。

 

 

 

 

 

 現状はどうにか当時の水準までは回復できているし今の所小言しか言われていない。

 

 

 

 

 

 この状態をなるべく長く保ちつつ、本当は研究に専念したいところなんだけど――。

 

 

 

 

 

 思いがけず、グラニュートハンターの対応だけでなく、アルバイトの管理まで任されるなんて。

 

 

 

 

 

まあ、おかげで自分の研究に必要なデータや素材は集めやすくなっているけど……。

 

 

 

 

 

 

「まあ……忙しすぎたら、それもね。」

 

 

 

 

 

『あーら、また人間の姿でいんのあんた?。物好きねぇ〜』「ああ……姉さ――いや、団長」

 

 

 

 

 

 

『ふっ、自分でこの姿にしといてまちがえてんじゃないわ……よっ!』「い、痛いです……はい。」

 

 

 

 

 ……グロッタ姉さんの遺伝子を継承させた、グラニュート界でも屈指の強さを誇る戦士。

 

 

 

 

 

 パウエル派"アルデミシア"、趣味はグロッタ姉さんとほぼ変わらないけど強いて言うなら……。

 

 

 

 

「持っているのが家族じゃなくてファミリーってとこかなぁ……」『あん?何よ?』「いえ。」

 

 

 

 

 

 悪い奴ではないし組織の中では僕に寛容な方……ただ、喧嘩っ早いのが難点かな。

 

 

 

 

 

 

 グロッタ姉さんは感情で手が出たけどこの人は理性で手を出す分タチが更に悪い。

 

 

 

 

 

 

 組織内でも扱いに困る存在で、停戦中の反対派にちょっかいを出すのは日常茶飯事だ。

 

 

 

 

 

『そうそう!、あんた最近こいつ研究(絆斗)してるんだって?。強いそうじゃなーい?』

 

 

 

 

 

 あと知性も高いから僕くらいしか使わないような機材も容易く扱うんだ。

 

 

 

 

 

「……一応極秘なんですけどね、大したことありませんよ、ただ他より少し身体能力高い――」

 

 

 

 

 

『知ってんのよ?こいつうちのバイトを何百と討伐してること……良いわぁ!楽しくなってきた。』

 

 

 

 

 

 ……不味い、酸賀さんの坊やが殺されてしまう。

 

 

 

 

 

 対峙させるならせめてもう少し……様子を見たかったんだけどね。

 

 

 

 

「戦いたいのでしたら、機会をご用意致しますのでどうかここは……」『ふん、まあ良いわ』

 

 

 

 

 

 

 

 ……さて、彼の余生は……残り何週間かな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――何でも屋:【助っ人酸賀さん!】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〈それではぁ?……絆斗君誕生日を祝してぇッ!!!〉

 

 

 

 

 

 

お誕生日おめでとう~っ!!!

 

 

 

 

 

「あらぁ、おめでたいわねぇ!」『うるさっ……だる……』

 

 

 

 

 なんか、たたきおこされたとおもったら、にんげんがたくさんいた……ほんとうにだるい。

 

 

 

 

『てか……まだへいじつだろ、なにしてんだおまえら。』

 

 

 

 

「お店閉めた♪」「遅刻にした」「朝知ってきちゃった♡、出席日数やばい……責任とって。」

 

 

 

 

 

『しるかぼけぇ……祝ったし寝ていいか……』「む~だめよ~!」

 

 

 

 

 

 いや……本当に目が開けられん、本当に後五時間だけ寝かせてくれ……。

 

 

 

 

〈ちょっとちょっと絆斗君~……だめじゃな~い?夜更かししたのぉ?〉

 

 

 

 

『黙れ』

 

 

 

 

 

「こいつ朝めっちゃ弱いんだな……」『ほら主役が起きなきゃ早く終わらないんだ、起きろ』

 

 

 

 

『んん~……犬じゃねえんだ持ち上げんなぁ……』「はいはいこっちねぇ~」

 

 

 

 

 だめだ……頭が回らん、ゴチゾウは……?いや隠すことないのか……。

 

 

 

 

〔ごろぉごろぉ〕『おい誰だぁ、ゴロゾウを解き放った奴はぁ……』〔ごろぉ?〕

 

 

 

 

 

「とじこめられていたからだしてあげたわぁ!」『そうか……やさしいな。』〔ぴぃ!ぴゃあ♡〕

 

 

 

 

 顔を舐めんな……朝っぱらから甘ったるいチョコの匂いがキツイ。

 

 

 

 

「それもゴチゾウ?やっぱただのおもちゃじゃないよね?」「ああ……まあ!楽しも?」

 

 

 

 

 

 

「にしてもめでたいねぇ……少年も私と同い年かぁ」『……』「……10回目の誕生日もそれ以降も祝えなかったからその分祝うぞ!」

「おいしいものもたくさんでうれしいわねぇ!」

 

 

 

 

 

 

 左手にチップ、右手にオグリ、膝の上に狼奈……なんだ、また逃がさん気か。

 

 

 

 

 甘い菓子を口に放り込みながら、ようやく意識が戻ってきた。まずは、状況の把握からだ。

 

 

 

 

 

 脱出したいのは山々だが――オグリ、チップ、そして狼奈。

 

 

 

 

 ウマ娘2人とグラニュート1体に体の左右と膝上を完全に制圧されている。動ける気配はない。

 

 

 

 

 

 時刻は7時半。どうやら騒がしくはしゃいでいたらしいが、肝心の中身は眠気で記憶にない。

 

 

 

 

 

 現在進行形で、酸賀が電話越しにカラオケで熱唱中。

 

 

 

 

 

 朝っぱらからなんて元気なおっさんだよ……うるせえよ。

 

 

 

 

 

〔ちょわちょわ〕〔ざく、ざく?ざく……〕〔わにゃ……グミ!〕

 

 

 

 

 ダートグミとオグリのダートチョコとチップのノリスケがなんか喋ってんな……。

 

 

 

 

 お互いの主人の近況報告か、こいつらもそんな話するんだな。

 

 

 

 

「てーか、ハンティそろそろゴチゾウ出てもおかしくない?。出が悪いのかな……」 

 

 

 

 

『出てるよ……うちにポケットあるからそこに入ってんだ』〔ちょわ!〕〔ちょろ!〕ZZZ

 

 

 

 

 

「えぇ~チョコゾウばっかじゃ~ん?、ポテチとかグミとか食べていろんなゴチゾウみたいなぁ」

 

 

 

 

 

『生まれてきたもんにケチなんてつけるんじゃねえよ、それにもう生まれてる』

 

 

 

 

 

〔きぃ?……けっきぃ~!〕〔ぷぅるん?〕

 

 

 

 

ミルククッキーから生まれた……ケッキ―ゴチゾウってとこか。

 

 

 

 

 

「……これツッコまない方がいいやつ?」「ロールケーキもおいしいわよぉ!」

 

 

 

 

 

 

調べたところロールケーキに塗装したのがブッシュドノエルで、何もしてないのがロールケーキ。

 

 

 

 

 

 

 

 正直どっちも一緒だろうと思うが……。

 

 

 

 

 

 

 皿の上に乗ったロールケーキを一口サイズに切り取って、フォークで刺す。

 

 

 

 

 

 見た目はただの渦巻き。

 

 

 

 

 スポンジの中にクリームがぐるっと詰まっていて、表面には何の装飾もない。

 

 

 

 

 パクッと口に放り込んだ瞬間、感じたのはスポンジのふわっとした軽さ。

 

 

 

 

 そして口どけの良い生クリームの甘さが舌に広がった。

 

 

 

 

 ……なるほどな。ロールケーキは、ストレートだ。

 

 

 

 

 

 味に飾り気はなくて、構成もシンプル。スポンジとクリーム、それだけ。

 

 

 

 

 

 けど、それだけだからこそ、甘さの輪郭がくっきりしてる。

 

 

 

 

 

 

 

 余計な要素がないぶん、素材の良し悪しがはっきりわかる。対して、ブッシュドノエル。

 

 

 

 

 

 

 こっちは全体をチョコクリームやココアパウダーで塗装されて、見た目からして豪華絢爛。

 

 

 

 

 

 

 

 中身の構成は似てるはず。外にかけられたコーティングが味に重みを加えて、香りも複雑なる。

 

 

 

 

 

 装飾がある分、見栄えもいいし、甘さも濃い…そしてビターだ。

 

 

 

 

 

 食べてて満足感があるが……そのぶん、重い。

 

 

 

 

 

 それに比べると、今食ってるロールケーキは素朴で軽やか。

 

 

 

 

 

 

 一口ごとに"もう一口いけるな"と思わせる安心感がある。派手さはないが、地味にうまい。

 

 

 

 

『……違い、あったな。』「でしょー?」

 

 

 

 

 これはこれでちゃんと完成してる菓子だった。

 

 

 

 

 

 皿の上、残り三切れ。気づけば、手が止まらずに次の一口に伸びていた。

 

 

 

 

 

 この感じ……この感覚……また何か思い出しそうな――。

 

 

 

 

 

――生まれてきてくれてありがとう――

 

 

 

 

「……どうしたの?、一切れもらっちゃだめ?」『いや……別に。』

 

 

 

 

 ……チップじゃない、さっきのは誰の姿だ?。

 

 

 

 ――ごめんね、これしか用意できなくて――

 

 

 

 

 

『……食い過ぎたな、ちょっと外の空気でも吸ってくる』「あー甘いものばっかりだったしねぇ〜」

 

 

 

 

 

 

 ――ケーキ、私の手作りだけど……美味しい?――

 

 

 

 

 

『何か言ってはいるんだよな、誰だ?……ウマ娘の知り合いがまたいたのか?』「……絆斗?」

 

 

 

 

 

 ――あら……ふふっ、そんなにがっついて。――

 

 

 

 

 

 

 『……なんだ?』「いや、様子が気になって……具合でも悪くなったのか?……食べ過ぎか?」

 

 

 

 

 

 『いや、人が沢山いるのは得意じゃなくてな。疲れる』

 

 

 

 

 

「そうか……絆斗、その。ロールケーキを食べてどうだった?」『美味かったんじゃないのか』

 

 

 

 

 

 

「何か思い出したりは……してない?」『……チップとは違う黒毛のウマ娘、それしか言えん』

 

 

 

 

 

「!……じゃあ、自分の"お母さん"のことを思い出したんだな!」

 

 

 

 

 

『……俺の母親?、人耳じゃないのか?』

 

 

 

 

 

「ウマ娘が親だからと言って必ずしもウマ娘しか産まないとは限らないんだぞ?」

 

 

 

 

 

『そうなのか、まあ……人種?だからまあそうか。』

 

 

 

 

 

「本当は手作りのケーキを用意してあげたかったんだ、忘れてたけどあの時のように――……」

 

 

 

 

 

『別に喋っても良いんだぞ?、俺がその話を分からないだけで』

 

 

 

 

 

「いや……何だろう、今の絆斗を見てないようにも聞こえる気がして」

 

 

 

 オグリはきっと昔の俺のことを随分と気に入っていたんだろうな、とは感じている。

 

 

 

 

 

 あれが好きだった、こうしていた――そう語られても、今の俺にはピンと来ない。

 

 

 

 

 

 事実でも嘘でもそんなのは俺の知ったことじゃない。

 

 

 

 

 

 ただ……話しているオグリの表情がどこか楽しそうだったから。

 

 

 

 

 

 それだけで、黙って耳を傾けている。

 

 

 

 

〈ごろぉ……ごろごろ〉『あぁ……脱走すんなって……こいつ結構ヒビ入ってんな。〔ごろぉ?〕   

 

 

 

 

「君は……確か石から生まれたゴチゾウ。」『石”チョコ”な。』

 

 

 

 

「そうえばゴチゾウにも色々特技があるって……この子は何が出来るんだ?」『何も。』

 

 

 

 

「……何も出来ないのか?」『知性は赤ちゃん並みで転がるだけしかできん。あと重い』〔ごろ〕

 

 

 

 

 

 

「……その、何のために居るんだ?」『俺も最初はそう思った、でもせっかく――』

 

 

 

 

 

 

 

――生まれてきてくれたのだから、愛してあげなくちゃ――

 

 

 

 

 

 

 

『生まれてきてくれたんだ、大事にしてやらないとな』

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり、お母さん似だ。全く同じことをいっている。」『……同じことを?何て?』

 

 

 

 

 

 ……そういえばまた何か見えた気がするな、靄が掛かったようで見えないが――あっ。

 

 

 

 

 

〔ごろ……ごろッーーッ!!!〕「ふ、震えているぞ?だ、大丈夫なのか?」『いや……これは』

 

 

 

 

 

 

〔ぴゃあ~♡〕『あ……殻が破れたか、一匹ずつじゃないと面倒見切れんぞ……』

 

 

 

 ゴロゾウのヒナがまた一匹、生まれた。それにしても、なんでこんな扱いづらい仕様なんだか。

 

 

 

 

 

 孵ったばかりじゃ何もできない。戦力にならないって点では、ゴチゾウとしては致命的だ。

 

 

 

 

 

 けど――時間をかけて育てれば、確かに強力な存在になる。育ちきれば、間違いなく頼れる。

 

 

 

 

 

 ……それでも、最初から即戦力じゃないってのは正直厄介だ。どうしてこんな仕組みに……。

 

 

 

 

 

『……やっぱお前は昔の俺みたいだな、時間をかけてもらってやっと何かが出来る。』〔ぴぃ?〕

 

 

 

 

 

「私も似たようなものだな」『……ああ、昔足が悪かったんだったな?』

 

 

 

 

 

 

 

「うん、まともに歩くことすらもままならなくて――今も”立って走れるだけで奇跡”なんだ。」

 

 

 

 

 

 俺も昔……酸賀に似たようなことを言われたか?、あんまり覚えてないが……そうだ。

 

 

 

 

『”生きて戦えるようになったのが奇跡”そう言われたよ。8年前は植物人間だったからな』

 

 

 

 

 オグリキャップ。今では“灰色の怪物”なんて異名が付くほどの脚力を持つウマ娘だ。

 

 

 

 

 けれどそんなこいつにも、かつてはまともに歩くことすら難しい時期があったらしい。

 

 

 

 

 よく母親に脚をマッサージしてもらっていたそうだ。

 

 

 

 

 それから耳をぐしゃぐしゃにした俺と出会って、どうやらそこから俺もそばにいたらしい。

 

 

 

 

 もちろん、俺自身にはその記憶はない。

 

 

 

 

 立つことすら困難だった彼女に、無理をさせながらも一歩一歩歩かせた。

 

 

 

 

 俺が支えになりながら、毎日少しずつ練習を重ねていった。

 

 

 

 

 

 やがて歩くことができるようになり、駆け足になり、走れるようになって……。

 

 

 

 

 

 2人で、よく一緒に遊んでいたらしい。

 

 

 

 

 

『……それで、その矢先……俺の家が全焼して一家丸ごと消え去った。』

 

 

 

 

 家が燃えて、恐らく数週間も経たないうちに酸賀が俺を拾い、保護したんだろう。

 

 

 

 

 当時の酸賀の目的は、“誰よりも長く、強く生きる命”を作ること。

 

 

 

 

 そのために、俺を研究しながら育てていた。

 

 

 

 

 毎日いろんな刺激を与えられていたうちに、ある日突然、自我が芽生えた。

 

 

 

 

 

 ……確か最初にやったのが、菓子をむさぼり食ってたことだったか。

 

 

 

 

 

 調べた結果、言葉もわからず、人間として必要な記憶はすべて欠落していた――ただし、

 

 

 

 

 

 その代わりに、学習能力は異常に高く、食欲も異様だった。

 

 

 

 

 

 身体の成長も早くて、13歳の頃には身長が140から175に伸び、筋力もグラニュート並みに。

 

 

 

 

 

 人間らしい振る舞いについては……まあ、気難しい奴くらいには見える程度にはできてる。

 

 

 

 

 

「……本当はその酸賀っていうのは……悪いひとじゃないのか?」

 

 

 

 

 大抵の人間はそう思うだろう。けれど、話はそう単純じゃない。

 

 

 

 

 

 誰にだって、暗い部分はある。優しさを持っていたとしても、それを忘れてしまう時もある。

 

 

 

 

 

 酸賀も、きっとそういう人間の一人だった。

 

 

 

 

 

 ただ俺は……失った何かの穴を埋めるためにそばに置かれただけだと思ってる。

 

 

 

 

 

 お菓子を貰う時の味はいつだって優しさばかりじゃない、それでも俺はその味が好きだ。

 

 

 

 

『単純にそうなら、俺はここに居ないし。ゴチゾウだって生まれてない』〔ぴゃあ?〕

 

 

 

 そもそも俺は酸賀から与えられる良心をむさぼってこう育ったようなものだ。

 

 

 

 

 

 人を憎まず、人を守り、人になりたいと願ってる。俺はこれだけで酸賀と居られる。

 

 

 

 

 

 それ以上に酸賀と居たい理由なんてどこにもない。

 

 

 

 

『あいつは悪い奴じゃない、俺をここまで育てたマッドサイエンティスト(お父さん)だ。』

 

 

 

 

 

 

「……いま、少しわらっ――」『俺は笑わん。』

 

 

 

 

 

「そ、そうか?……君に取って酸賀という人は……私にとってのお母さん、いや北原?いや……

 

 

 

 

 ……母親、少しでも記憶に残っていたら恋しく思っていたんだろうか?。

 

 

 

 

 思い出せる記憶は微塵も残っていないから確かめようも――。

 

 

 

 

  

 

「そういえばさっき、”せっかく生まれてきたんだ”って言っていただろう?」

 

 

 

 

 

 ――生まれてきてくれたのだから、愛してあげなくちゃ――

 

 

 

 

 

 

「絆斗のお母さんも言っていたんだ。そういえば……初めて食べたあのケーキ、美味しかったなぁ」

 

 

 

 

 

 

 ――ごめんね、これしか用意できなくて――

 

 

 

 

 

 

 ――ケーキ、私の手作りだけど……美味しい?――

 

 

 

 

 

「君なんて目をまんまるにして物凄くがっついて――」

 

 

 

 

 

 ――あら……ふふっ、そんなにがっついて……――

 

 

 

 

 

「……絆斗?……どうしたんだ?、何か思い出したのか?」

 

 

 

 

 

『……誕生日、まだ貰ってなかったな。』「……っ?!ち、違うんだ!忘れてたわけじゃ――」

 

 

 

 

 

『次のレースの勝利と、俺の生みの親……母さんの話でどうだ?』〔ロル~……ロルゥ?〕

 

 

 

 

 

 オグリが学校へ遅刻するまでの間、オグリには昔話をして貰うことにした。

 

 

 

 

 

 

 俺が忘れた、俺の家族の話……酸賀にも今度聞いてみるか、知ってるかは知らん。

 

 

 

 

 

 いつの間にか生まれていたロールケーキのゴチゾウは一旦放置することにする。

 

 

 

 

 

 




【調査依頼書】

件名:中京競馬場における人プレス集積の可能性について

依頼日:20――年6月25日
調査対象者:酸賀 絆斗
調査地点:中京レース場



調査の結果、中京競馬場構内の一部が人プレス集積場である可能性が確認されました。



ついては、当該区域の調査および実態確認を酸賀絆斗に一任します。



なお、一般来場者に対する人払いはすでに実施済みです。



近日中に”高松宮杯”等の大型イベントが予定されているため、速やかな対応と対処を求めます。



状況に応じて現地の追加封鎖・戦闘行動も許可します。



詳細な報告は、調査終了後速やかに提出すること。




依頼者:コール・スローン(特殊対応課・監察係)
 
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