「というわけで、今日の放課後に親友の家で第1回ファッションショーを開催するよ」
「ちょっと待て」
学校に着いて早々教室内に入り挨拶を交わしてすぐに、光希の口からとんでもない言葉が飛び出してきた。
またいつもの事かと、鞄から文庫本を取り出してマカチョップの体制を取り始める俺を見て光希が机を叩きながら立ち上がる。
「親友、ノリが悪いよ」
「やかましい。 お前の言うことやること全て聞いていたらキリがないんだよ。 それよりもさっき来たプリント回すの手伝って欲しいんだが」
そう言いながら手に持っていた紙束を渡すと渋面を作った後ゆっくりとした動作で受け取り隣の席に座って静かに作業を始める光希を尻目に、俺も自身の席に座り受け取った紙を一枚ずつ確認していく作業を再開することになった。
「むぅ、つまらないね」
「当たり前だろうが」
何故ファッションショーなんてよくわからないことを考えるのか問い正したいが、どうせはぐらかされるだけに終わるのだろうと思うと面倒くさくなってきたので取り敢えず目の前の押し付けられた作業を片付けることにした。
あれから授業を受けるために教師が来るまでの間、黙々と作業をこなすだけだ。
そして、なんやかんや授業を受けていくうちに気が付けば放課後になっていた。
「じゃあ、俺は帰るからな」
「親友、逃すと思うかい?」
流れのままに帰ろうとしたら光希に肩を掴まれた。
俺の得意技である消えるように教室を出るぼっち技を見切ったとでも言うのか。
そんな冗談はその豊満なボディーだけにしてほしい。
などとくだらないことを考えながら現実逃避を試みるが全く効果は無さそうである。
「親友、観念するといい」
「はいはい……」
肩を掴む手に力を込められ無理矢理振り向かされると、そこには満面の笑みを浮かべる女神様の姿があった。
女神と言うよりは魔王の方が正しい気もするが。
どちらにしても厄介であることに変わりないか。
仕方がないので諦めることにして引き摺られるままについて行くことにする。
目的地はやはり俺の部屋のようで迷いの無い足取りで階段を登って行った。
部屋に入ると荷物を下ろして椅子に座る様に促されたので従うことにする。
光希は俺のクローゼットを開き、ゴソゴソし始めたかと思うと服一式を取り出し始めた。
「おい、ちょっと待て」
「どうしたんだい親友」
何で俺のクローゼットからお前の服が出てくるのだ。
しかも際どいコスプレが大量に俺の服の間に挟まっていることに今更気がついた。
いつの間にこんなに集めて隠していたのだろうか、俺のクローゼットなのに。
「いつ俺のクローゼットにそんな物入れたんだよ……」
「最近結構持ってきては入れさせてもらってるよ。 家の棚に掛けとくとお母さんに使われちゃうから」
「お前の母さんなんなんだよ……」
夫婦仲がマンネリ化しないようにコスプレするのはいい。
コスプレを買うことも否定はしないし、できないだろう。
だけれど勝手にクローゼットを使われるのだけは納得いかない。
せめて相談しろよと思ってしまったのだった。
しかしこれ以上言及するのも疲れるだけなのでやめることにした。
それに今はそんなことどうでもいいことだ。
何せこれから始まるであろう光希一人のファッションショーが始まるのだから気を引き締めねばなるまい。
「さて、覚悟は決まったよね?」
「いや決まってないが」
「ふぅん、早速取り掛かるとしようじゃないか」
拒否権無しかよとツッコミを入れたくなったところで無駄と判断し、黙って好きにさせることに決めた俺は遠い目をしながら虚空を見つめていたのであった。
「それじゃ、先ずは軽く行くとしようか」
「軽くってなんだよ……ってちょっと待て」
「なんだい親友」
なんだい親友じゃないが。
何故光希は目の前で服を脱ぎ始めようとしているだろうか。
制服のボタンを外し始めているから今にもその豊満な胸がまろび出そうになっている。
薄水色を基調としたレースのブラがワイシャツの間から顔を覗かせ、あまりにも目に毒である。
そんな事を知ってか知らずか光希は見せつけるようにポーズを取っていき、最後にウインクを決めた後に言い放った。
「親友だけに特別サービスだよ?」
その姿はさながらグラビアアイドル顔負けのような蠱惑的な姿であり、それだけでもかなり破壊力抜群であったが次の瞬間更なる衝撃が訪れることとなる。
なんとあろうことかスカートまでも脱ぎ始めてしまったのだ。
下穿きのみを身につけた姿になり恥ずかしそうに頰を赤らめているが、不思議と目が離せない魅力を放っているように思える。
薄水色に青いリボンのショーツに包まれた彼女の肢体は均整が取れていて美しい曲線を描いている。
柔らかそうな太ももや引き締まったお尻に目を奪われていると不意に声を掛けられた。
「親友、そんなに見つめられたら穴が開いてしまいそうだよ」
「お前がいきなり脱ぎ出したんだろうが」
責任転嫁するのはやめてほしい。
良い加減にしないと、その目の前で揺れる胸と尻を揉みしだくぞ。
「それは困っちゃうかもねぇ、えへへ」
ダメだこりゃ。
完全にスイッチが入った状態の光希には最早何を言っても無駄なのかもしれない。
こうなったらとことん付き合うしかなさそうだと判断した俺は深い溜息をつくと諦めたかのように両手を挙げて降参のポーズを取る事にした。
それを見た彼女は嬉しそうな表情を浮かべ意気揚々と着替えを始める。
「とりあえず着替えるなら俺が外に出る。 お前はそこでやれ」
「ヤれ? 親友まだ夜には早いけど君がそう言うのなら……」
「ドアホ。 これが最大の譲歩だ」
「もぅいけずだね」
これ以上何か言うのがアホらしくなり、俺はそのまま部屋を出ていく。
居間まで降りてくると備え付けられていたソファーに座り込んで一息ついた。
それにしてもあの調子だと長くかかりそうだと思いながらテレビをつけてボーッと眺めるだけの時間を過ごすこと数十分が経過した頃のこと。
やっと出て来たのか足音が聞こえてきたかと思えば、部屋のドアが開かれる音が聞こえたので振り返るとそこには先程まで着ていたものとは別の衣装に身を包んだ光希の姿があった。
「さあ、親友。 このボクの身体をねっっっとりと視姦していいよ」
「言い方」
姿を見せた光希の服装は所謂メイド服と言われるものであった。
ミニスカメイドスタイルと呼ばれるもので、ニーソックスを着用しているため太腿が強調されている上に胸元は大きく開かれており谷間が見える仕様となっている。
それに加え胸元が大きく開いた部分からは素肌が見え隠れしており谷間だけでなく乳輪すらも見えてしまいそうだ。
胸元同様に大きく開かれたスカート部分からは下着が見えていないものの、股間の部分を見れば明らかにエグい下着をつけていることがわかる。
つまりそういうことなのだろう。
更に言えばガーターベルトというものまで着用しているようで非常にエロティックな雰囲気を漂わせていた。
極めつけと言わんばかりに頭に付けているカチューシャは犬耳を模したものであり、それがより一層拍車をかけていて可愛らしい印象を与えると同時に背徳的な気分に浸らせてくる。
端的に言えば、非常にあざと可愛い格好をしていたのである。
しかし一つだけ気になる点があった。
「それ普通のメイド服じゃないだろ……」
「うん、オーダーメイドってやつ。 どう? 興奮しちゃったかな?」
「アホ抜かせ」
その程度で息子がスタンドアップセンチュリオンしてたら、俺は今頃こいつを襲っていたことだろう。
「で、どうなんだい? このメイド服は」
「……まあ、良いんじゃないか。 女になったお前には似合ってると思うぞ」
圧倒的なまでに股間に悪いことを除けば似合ってるのは、本当のことである。
なんだその胸元は誘っているのかと言ってやりたいレベルだしなんなら今すぐにでも襲いかかってやりたい気分だ。
やめろ、これ見よがしに胸元を抱いてあげるんじゃない。
その圧倒的な胸が強調されてしまう行為により意識してしまいそうになる。
揺らすな、そして近づけるな。
「ふぅん、君からの視線が胸を揺らせば動かせるのとっても楽しいね。 見ての通り今のボクは大きいからね」
「見せなくていいわ。 早く着替えて来い」
「つれないなぁ……まあいいけどさ。 名残惜しくなるくらいたっぷり視姦してくれたみたいだし充分かな」
満足した様子で部屋から出ていったと思えば、また扉越しに服を着替える音が聞こえてきた。
まだ一着目、次は何のコスプレでくるのだろうか。
やがて静かになった頃に再び姿を現した光希の姿を一目見た瞬間、俺は言葉を失った。
なぜなら彼女が身に着けていたのは、チャイナドレスだったからだ。
それもただのチャイナドレスではなく背中がぱっくりと開いているセクシーなもので、大胆に露出された背中が眩しいほどに輝いているように見えるほど艶めかしいものがある。
胸元は大きく開き谷間を見せつけるかの如く強調され、スカート丈はかなり短いものとなっているため太ももの付け根ギリギリのラインまでしか布がなく生足が見えている状態だ。
加えてニーハイソックスを履いているためむっちりとした太腿が強調されており実に扇情的であると言えるだろう。
「どうだい、今度はチャイナドレスだよ?」
「良いんじゃないか」
素直に似合うと思ったので正直に答えることにした。
その言葉に気を良くしたのか笑顔を浮かべるとその場でくるりと回り始めた。
その際にふわりと舞い上がったスカート部分から覗かせる白い下着に目が釘付けになってしまうのは仕方のないことである。
これは不可抗力なのだ、許して欲しいところだ。
それにしても、これだけ露出があるならどう考えてもソレ用途の服だろう。
「こんなんじゃパンツ見えちゃわないのか?」
「大丈夫だと思うよ? だってこれ魅せパンだから」
さも当然のように言われたことで思考回路が完全にショートを起こしそうになったが何とか持ち直すことに成功した俺は恐る恐る尋ねてみることにした。
「一応聞いておくが、パンツ見せてアピールしてないだろうな?」
「もちろんしてるに決まってるじゃないか。 しかも、そこまで言うってことはかなり興味を持ってるよね、見たいの?」
「バカ言うんじゃない」
とてつもなくスカートの中見てみたいです。
だがそうと言っては最後、なし崩し的にずるずるといってしまいそうだから、喉元でその言葉を留める。
確かに魅せパンだろうが、光希程の美人というか美少女が着用すればその破壊力はおして知るべきだ。
最早紐パンと言っても過言ではないそれは、腰にかけるようにされている辺りハイレグの度合いがエグい。
「これも結構刺さる、と」
「俺の性癖を探るな」
光希は一体どこに向かっているのだろうか。
そして俺に一体何を求めてるんだ。
「もう我慢できないから脱ぐね」
「おい馬鹿やめろ」
唐突に立ち上がり服を脱ぎ始めたので慌てて止めに入る。
いくら二人きりとはいえ恥じらいというものがないのかこいつには。
きっちりアームロックをかけて止めた後、光希はまたいそいそと俺の部屋へ向かっていく。
そしてーーー。
「さて、次こそ本命の登場だね」
「いやもうお腹いっぱいなんだが」
次に取り出したものは、バニーガールの衣装であった。
黒いレオタード風の衣服に網タイツといった組み合わせで、ただでさえ露出度の高い衣装だというのに光希の胸があまりにもデカ過ぎるからか肉がはみ出している状態となっているものだ。
さらには兎の耳を模ったカチューシャもセットとなっており、どこからどう見てもエロい店でしかお目にかかれないような代物となっていた。
しかも問題はそれだけではない。
「おい、コレ……」
「流石親友、気が付いたみたいだね」
「よく見たらチャックがついてんだろうが。 もう本当になんなんだよ……」
何があってこれに辿り着いてしまったんだろうか。
いや、大方予想通りの結果ではあるが想像していた以上のことであることには間違いない。
こんなものどうやって調達してきたんだ。
胸にあるチャックを開けば、その下に隠されているであろう乳首がまろび出てしまうことだろう。
「これはお母さんが渡してきた服だよ」
「香奈さん何してんだよ……」
ある意味グッジョブである。
これは本気で股間に来ると言っても良いだろう。
これで股間に来ない奴は枯れてるかそもそも興味を持ってない奴だけだ。
俺は普通なので、そう言ったことに反応するのは仕方のないことだと思っている。
「ほらほら、親友もっと見ても良いんだよ。 このバニースーツはお尻も凄いんだ」
そう言ってくるりと振り向く光希に視線を合わせれば、それは素晴らしい尻が俺の視界に入り込む。
チャイナドレスの裾が光希のデカすぎる尻肉を隠そうとするが、布が少し小さいのか左右の尻がはみ出てしまっている状態だ。
そのせいで、まるで誘うかのようにフリフリと動く様は妙にいやらしいものに見える。
時折ふりふり、時々ヘコヘコと前後に動かすものだから堪らない光景が広がっているのは言うまでもあるまい。
「どうかな?」
その言葉を受けて冷静になってみれば光希の身体はほんのり汗ばんできているような気がするし、呼吸も荒くなっていることに気づいた。
それによく見ると身体が小刻みに震え始めているようにも見える。
もしかしてと思い彼女の顔を見ると頬は完全に紅潮しきっており目もどこか虚げになっており焦点が定まっていないように見えたことから確信した。
おそらく発情しているのだと確信を得た俺は彼女を横抱きに持ち上げーーー
「あっ♡ 親友とうとう手をーーー」
「お触りは厳禁だっつってんだろ。 タワーブリッジ!!」
光希の両足、首元を細心の注意を払った上で優しくホールドしつつ、かの貴公子超人を彷彿とさせる技を彼女に掛ける。
意識の外から掛けられた技は綺麗に光希に決まり、受け身を取ることも出来ずに倒れ伏した彼女を見て俺は溜息を吐くしかなかった。
「全く、油断も隙もあったもんじゃない」
「酷いよ親友、あんなに情熱的に求めたのにぃ〜」
「うるさいぞ、誰があんな色仕掛けに引っかかるかってんだ」
「えー、残念」
残念そうにしている光希に追撃のデコピンをかましつつ、これで手打ちにすることにした。
そうしてしばらく経った頃、時計を見た際に思った以上に時間が経っていたことに気がつく。
そろそろ夕飯時に差し掛かってきたこともあり、お開きにすることにしたのだが、未だに倒れている光希を置いていくわけにもいかず仕方なく起こすことにする。
「おい起きろ」
「うにゅー」
声をかけてみても一向に起きる気配はなく寝返りを打つだけだったのでどうしたものかと考えた末に閃いた名案を口にする。
「起きないなら悪戯するぞ」
「どうぞ」
即答された事に驚いて呆れつつも、溜め息を吐いて告げる。
「さっきから香奈さんから電話かかってきてるぞ」
「むぅ? あ、本当だ。 親友ちょっとごめんね」
「気にするな」
そう言うと光希は電話に出るべく俺から少し離れてスマホを操作し始めた。
その後ろ姿を見ながら思うことがあるとすればただ一つだろう。
先程のアレのせいで割とムラっと来てしまっていた為、この行き場のない思いをどう発散しようか考えなければならないのだ。
大体なんなのだろうかあのチャイナドレスは。
腕を組みながら思案に耽っていると、電話をしていた光希が俺の方へ歩いてきた。
電話は終わったのだろうか。
「親友、お母さんが電話代わってくれだって」
「ん? 香奈さんから俺にか?」
言われるままに手渡された受話器を受け取り耳に当てる。
「もしもし、代わりました」
『あら八木くん。 こんばんは〜』
聞こえてきた声は紛れもなく香奈さんのもので間違いないと思うのだが違和感がある気がする。
普段よりトーンが高いというかなんというか。
気のせいかもしれないが心なしかいつもより声が弾んでいるような気がする。
何かあったのだろうか。
「どうも、どうかされましたか?」
『八木くん突然で申し訳ないんだけど、私と旦那がこれから用事で家を空けなくちゃならなくてね。 家に一人でいさせるのも怖いから君の家に泊めてあげてくれないかしら?』
「こんな時間から用事ですか? まあ、泊めさせるのは構いませんが……」
『本当にごめんね〜。 どうしても外せない用事だから助かるわ』
申し訳なさそうに謝罪してくる声音から察するに相当焦っているのだろうことは伝わってくる。
「気にしないでください。 こいつが泊まっていくのなんて日常茶飯事だから何の問題もないです」
『じゃああの娘のことよろしくね。 何だったら夜這いしてもーーー』
「用事、すぐ済ませて帰ってきてくださいね」
俺は流れるように通話終了ボタンを押して通話を終わらせた。
香奈さんは何てことを言うのだろうか。
もう少し元男である光希のことを考えてやってほしい。
「親友、迷惑だったかい?」
「いや、迷惑じゃないさ。 とりあえず香奈さん達の用事が終わるまでウチに泊まっていけ」
「ありがとう」
今更だが、ご迷惑な点が一つあった。
光希の身体は俺の息子に対して大変なご迷惑かけていることである。
それはさておき、光希が泊まるとなれば飯と風呂、そして寝床の準備をしなければならない。
「ほれ、寝床の準備してくるから光希は夕飯の準備を頼むぞ。 冷蔵庫の中身わかるだろ?」
「了解、任せてよ。 腕によりをかけて作るからね」
その腕を寄せると豊満な胸が柔らかそうに変形するのでやめてもらいたい。
というかこれ以上息子に見えないダイレクトアタックしてくるのはやめてほしい。
そんなことを頭の片隅に追いやりつつ、俺は自分の部屋へ準備をしに向かったのであった。
夕食を終えた俺達二人は今一度食休みを取っていた。
テーブルを挟んで向かい合った状態で座り、互いに談笑をしている最中なのだがーー。
「なあ、一つ聞きたいんだが」
「んー、なに?」
不思議そうに小首を傾げているのがなんとも可愛らしく見える。
なんでこうも可愛く思えてしまうのだろうか。
「何でビキニにエプロンなんだ」
「だって親友こういう恰好好きだろう?」
否定はしない。
否定はしないが、肯定もしない。
ビキニは光希らしく薄い水色の布地で作られているもので、デザイン的にはシンプルでありながら胸元に付いているフリルが可愛らしさを引き立てていると言える。
サイズがやや合っていないのか、胸の形がくっきりと浮き上がっており谷間を強調するかのような形になっていた。
さらに下の方に目を向けると面積の少ないパンツによって大事な部分が守られているわけだが、逆に言うとそれしかないとも言えるわけで。
特に臀部に至っては布面積が少なくほぼ紐みたいなものに近いのではないかと錯覚してしまうほどだ。
そのビキニの上からエプロンを装着しているのは何ともアンバランスにも思えてならない。
恐らくはわざとなのだろうけれども。
「見せつける様に前屈みになるんじゃない」
「えへっ♡」
俺が指摘するやいなや即座に姿勢を元に戻した時に見えたものはもはや語るまでもないだろう。
もう少しお前は恥じらいを持て。
俺が獣になったらどうする気だ。
そんな事をしながら日課の筋トレと風呂を済ませれば、あっという間に寝る時間となった。
そこでもまた、俺は頭を抱える羽目にあうことになる。
「はいはーい、それじゃあ寝ようねー」
「待て待て待て」
劣情を煽るネグリジェ姿でベッドへ潜り込もうとする光希を呼び止めると、不思議そうな顔をしながらこちらを見つめてきた。
「どうしたのさ」
「なんでそんな服なのと俺のベッドに入ってるんだ」
「だってこれの方が寝る時楽だからね」
「そうか、それなら仕方ないのか……?」
本当にそうなのだろうか。
何もおかしいところはない、おかしくはないのだが、如何せん目のやり場に困るというものだ。
特に胸部付近はやばい。
零れ落ちんばかりにたわわに実った果実が主張激しく自己を主張してくるせいで俺の意識がそこに集中してしまうからである。
正直言って理性を保つのが難しいレベルに達してきている。
我慢しろと言われて出来るのであれば苦労はしないだろう。
むしろ今まで耐え抜いた俺を褒めて欲しいとすら思えるくらいだ。
それでもなんとか耐え抜いているのはひとえに息子の頑張りによるものが大きいと言えるのではないだろうか。
もしここで暴発しようものなら間違いなく光希という泥沼にズブズブと浸かってしまう。
それだけは何としても阻止しなければならない。
だからこそ必死に耐えるしかないのだが、果たしていつまで持つのだろうか。
自信はなかった。
「……どうしたものか」
「何がだい?」
「なんでもない」
小声で呟いた独り言を聞き取られてしまったようだが適当に誤魔化しておくことにする。
あまり追及されても困る。
「それより、こっち来るな。 狭いんだから詰めることになるぞ」
「いいじゃないか別に減るものでもないしさ」
そういう問題じゃないんだよなと思いつつも言葉に出すことはなく沈黙を貫くこと数分。
はぁ、とため息を吐いて俺は手を挙げた。
こういう時の光希は何を言っても聞かないだろうし聞くだけ無駄だからだ。
案の定止まる様子もなくどんどん距離を詰めてくるばかりなので諦めて受け入れる覚悟を決めることとする。
背中から感じる柔らかい感触に一瞬目眩を覚えたものの振り払うようにして深呼吸を繰り返す。
鼻腔に広がる甘い香りは非常に心地よくいつまでも嗅いでいたいとさえ思わせるほど中毒性を帯びているような気がした。
そんなことを考えているうちに眠気に襲われ始める俺だったが背後から聞こえてくる声によって意識を覚醒させられることとなった。
「ねえ、親友」
「……何だ?」
光希からの唐突な呼び掛けにそちらを向かずぶっきらぼうに答えを返すことしかできないまま聞き返す。
「親友はさ、ボクが女の子になっても一切態度変えないよね。 どうしてだい?」
また何とも返答に困る質問をしてきたものである。
光希の顔が見えないからどんな顔をしているかわからないが、多分不安を含んだ表情でもしているのだろう。
こいつは俺と一緒にいて何を見てきたのだ。
「お前はお前だろう。 たかが女に変わった程度で態度なぞ変えん」
「ほんとかなぁ……ふふ、ありがとね」
そういうや否や背中側に軽い衝撃が走る。
視線は後ろに向けられないが光希が抱きついてきたのだろうということはすぐに理解できた。
「どうした」
「何でもない、ただこうしたかっただけだよ」
「そうかい」
照れ隠しなのか素っ気なく返事をする俺を見てクスクスと笑う声が聞こえたかと思うと、強く抱きしめられてしまい動けなくなってしまった。
光希のスケスケネグリジェ越しの柔らかな胸が押し付けられるような形となり、ますます密着度合いが増していくばかりだ。
だが不思議と邪な気持ちは湧いてこなかった。
「俺もそうだが、洋介も奏多ちゃんも今更態度なんて変えないから安心しとけ」
「そっか……そうだよね、みんな優しいもんね」
どうやら納得したようだ。
安堵の息を漏らすと共に抱きしめる力が弱まったのを感じた俺は、ゆっくりと目を閉じた。
そして気がつけば翌朝。
「あ、親友おはよう。 今朝ごはんできあがるから待ってて」
「……ああ、おはよう」
眠気眼を擦りながら席につくとテーブルの上には既に出来上がっている朝食が置かれていた。
メニューはご飯に味噌汁、卵焼きにほうれん草のおひたしといった定番のものに加えてデザートとしてリンゴがついているようだ。
いただきますをして食べ始めることにする。
やはりうまい、いつも食べている料理よりも格別にうまく感じられる。
「そういえば親友、今日は国語の小テストあるけど大丈夫?」
「……む、多分大丈夫だ。 ところで……」
「んむ? どうかしたかい?」
先程からずっと気になっていたんだが、その服装はどう言った意味が込められているのかと問いたいところだった。
というのも目の前の光希はただエプロンを着ているだけなのだが、その下にはなんと何も身につけていない様に見えてしまったのだ。
故に疑問に思っているわけである。
それを指摘したら光希は少し顔を赤らめてからこう言ったのだった。
「良いだろう、直エプロンっていうやつなんだよこれ」
「正気か?」
「マジだよ」
真顔で返されるとは思っていなかったために思わず面食らってしまったが、本人がそれで納得しているのであれば俺から言えることはないだろう。
「でも、この姿も親友の性癖にはあっているだろう?」
「……」
「沈黙は肯定と受け取るよ」
裸エプロンは男の夢だろう。
見えるか見えないか、履いているか履いていないか、そんなチラリズムに近しい感覚に陥ることができる。
まさに至福の時といっても過言ではないはずだ。
しかしながら朝から刺激的すぎる光景感は否めないものの悪くはないと思っている自分がいることもまた事実であった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
こうして朝の時間は過ぎていったのだった。
「あ、親友。 何だったらここの紐を解いてみるかい? 良いモノが見れるよ?」
「いい加減にしろ」
ほんの少し、本当に少しだけ惜しいと思ってしまったのは内緒である。