親友を堕とす冴えたヤリ方   作:N/2

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親友を堕とす為の第11話

 

「……よし、終わった」

 

 最後の問題を解答用紙へと書き終えた俺はシャーペンを置き、隣を見る。

 雪のように白く、細くしなやかな指で高速ペン回しをしながら余裕の表情をしている光希の姿が見えたことでホッと胸を撫で下ろす。

 

「お疲れさん、どうだった?」

 

「完璧だと思うよ」

 

 自信満々に言い切るあたり相当自信があるらしいことを窺わせる表情を見せていた。

 ならば良しとしよう。

 

 とりあえず、今日の授業はこれで終わりのようだし後は帰るだけとなるわけだ。

 そう思って帰り支度を始めた途端のことだった。

 

「ん……携帯か」

 

 鞄に入れておいた携帯が震えて通知が来たことを知らせていたので確認してみると、送り主は珍しくも母親からであった。

 

 流石に校内では使えないから校外に出て掛けなおしてみることにする。

 するとワンコールが終わることなくすぐさま繋がった。

 

「……もしもし?」

『ああ、ようやく出たか。 親友、今学校が終わったところか?』

 

 女性である筈なのに、男っぽい口調で女性にしては低めのハスキーボイスを響かせているのは俺の母親こと【八木木之実】。

 普段は父さんの方が電話を掛けてくるのだが、母さんの方が掛けてくるのはかなり珍しい。

 

 何かしら急ぎの用事でもあるのかも知れないと判断した俺は母さんの話に耳を傾けることにした。

 

『実はだな……単刀直入に言う。 父さんが弾けた』

 

「……なに?」

 

『もう一度言う。 父さんが弾けた』

 

「……母さんじゃなくてか?」

 

『ああ、言い間違えでも聞き間違いでもない』

 

 弾けた、というのは八木家のみで伝わるある一種の隠語である。

 

 基本的に母さんがやりたい放題やってる時のことを指して俺と父さんが言い始めた言葉なのだが、まさかこんなところで聞くとは思わなかったので少し驚いた次第である。

 

『こうなった父さんは私でも止められん。 お前には悪いが当分家に戻れそうにない』

 

「……それは気にしなくていい」

 

 そもそも2人は同じ職場で働いていて、どういう状況なのはわかっているからあまり心配したことはない。

 それなら今日の夕飯はどうしようかと頭の片隅で考えていた時、母さんがポツリと呟いた。

 

『そこでお前に一つ提案がある』

 

「……提案?」

 

『ああ、今のお前にとって良いことだ』

 

 良いことと聞くと嫌な予感しかしない。

 絶対ろくなことじゃないだろう。

 

『今から私が言うことをよく聞け』

 

「……おう」

 

 ごくりと唾を飲み込んで耳を傾けると同時に母さんの口から発せられた言葉はとんでもないものであった。

 

『今日から一週間の間、香奈の家に泊まりに行け』

 

「……おう?」

 

 職場まで来い、そんな事くらい普通に言われると思ったが予想が少し外れてしまった。

 香奈、といえば光希の母親で、光希の家に泊まり行くことなどしょっちゅうなのに何でこんなことを言ったらだろうか。

 

『聞こえなかったか?』

 

「聞こえたからこそ聞き返したんだが?」

 

『……香奈が煩いんだ。 お前をもっと泊まりに来させろと』

 

 母さんと香奈さん、父さんと光希の父さんは全員同年代であり、結婚したのも同日という世にも不思議な夫婦達なのである。

 なので、割と家族ぐるみの付き合いがある。

 

 まぁ、全員が全員変人しかいないのでまともな人が1人も居ないというのが現状ではあるけれど。

 ともかくそんなこんなで色々と世話になっている人達の中ではあるものの、わざわざ泊まりに行くとなると色々と面倒ごとが起きそうな予感を感じずにはいられない。

 何せ全員癖が強いのだから。

 

『此度は香奈直々の指名だ。 いつもとあまり変わらんが楽しんでこい』

 

「……わかった」

 

 そうと決まれば準備をしなければならない。

 1週間分とまではいかないが、幾つか服を見繕っておこう。

 

『まあ、香奈の家には光希ちゃんもいるしお前が退屈することはないだろう。 気をつけてな』

 

「……とりあえず、そっちも気をつけて」

 

『わかっている』

 

 そこまで言われるとプツリと通話が切れてしまって画面上に表示されていた文字が切り替わってしまうのを見て落胆しつつも電源を落とす。

 ふぅ、と一息吐いていると横から覗き込まれるような視線を感じたので見てみるとそこには不思議そうな表情をした光希の姿があった。

 

 それも当然と言えば当然のことかも知れないなと思いながら口を開くことにした。

 

「親友、さっき誰と話ししてたんだい?」

 

「ああ、聞こえてたか。 母さんだよ」

 

 それを聞いた彼女はホッとしたような表情を見せてから頷いてくれたので大丈夫だろうと思うことにしておいた。

 それよりもまずは1週間の事をどうするかを考えねばならないと思った俺は、この後の予定について話し合うべく光希に声を掛けた。

 

「……光希、とりあえずお前にも連絡が行くと思うが1週間お前の家に泊まりに行くことになった」

 

「んん? そうなのかい? ちょっと待ってくれよ……あ、本当だ。 お母さんから連絡が来てる」

 

 確認するや否や嬉しそうに微笑む姿を見てこちらも自然と口角が上がる。

 いつもとあまり変わらないが、やはりどことなく嬉しそうな雰囲気を感じることができた瞬間でもあった。

 

 光希の笑顔を見ているとこちらまで平和な気分になれる気がしてならないのだが、きっと俺だけでは無い筈だと信じたいところだ。

 その後の話はスムーズに進んだこともあって早々と帰宅することになった。

 

 帰り道の途中にあるスーパーにて買い物を済ませた後、光希の家に向かう。

 

「じゃあ鍵開けるから待ってて」

 

 光希が鍵を取り出して解錠した後に扉を開き家の中に入った俺達にとてつもない衝撃が襲う。

 

「「ぐふぅっ!?」」

 

「やっと帰ってきた〜! 待ってたわよ〜!」

 

 ドアを開ければ腕を広げ、その豊満な胸を前面に押し出しながら迎え入れてくれる美女がいた。

 言わずもがな光希の母親である香奈さんである。

  いきなりの行動と胸に顔が埋まってしまい息ができない苦しさによる苦痛もあり呻き声を上げる他なかったのだ。

 

 だが幸いにも窒息する前に開放してくれたので助かったものの、危うく死ぬかと思ったと言っても過言ではない状況になりかけたことだけは伝えておこう。

 

「……香奈さん、苦しいです」

 

「……い、息できな……」

 

「あら! それはごめんなさいね」

 

 そう言って香奈さんはするりと離れていく。

 柔らかな感触が離れ、少し名残惜しい気分になるが顔には出さない。

 

「……親友、何か名残惜しんでないかい?」

 

「……そんなことはない」

 

 顔には出していないはずなのに何処で見透かされたのだろうか。

  それともエスパーか何かなのかもしれない。

 

「コノちゃんから話は聞いてるわよ〜。 親友君、今日から1週間ゆっくりしていってね」

 

「……お世話になります」

 

「ええ、よろしくねぇ」

 

 微笑みながら頭を撫でられると何故かむず痒さを覚えるような気がしてならない。

 

 俺の図体をして何故か子ども扱いされるのはいかがなものかと思ったが、口にしない方がいいかもしれないと判断して黙秘を決め込むことに決めた。

 触らぬ神に祟りなしである。

 

「親友、とりあえず荷物を置いたら部屋に行こう。 お母さん、ご飯ができるまでは部屋にいるから。 良いよね?」

 

「ごゆっくり〜」

 

「親友人妻はダメだよ?」

 

「……勘違いを加速化させるのやめい」

 

  呆れたように言いつつも俺は光希の部屋へ向かう事にした。

 ちなみに部屋は二階にあり、階段を上っていく際光希のミニスカートに包まれた健康的な太ももが目に入ってきて非常に目の保養となった。

 

 彼女の後を追うように歩いていき部屋の前まで到着した後、ドアを開けて中に入るように促してくる彼女に従って部屋に入るなりドアを閉めた瞬間のことだ。

 

「ふぅ、暑かったぁ」

 

 光希は部屋に着くなり制服を脱ぎ始め、制服で多少押さえつけられていた大玉スイカサイズの巨乳が解き放たれてブルンッと揺れ動く。

 とても魅力的な状況だが、見て何を言われるかわからないので目を閉じて後ろを向いておく。

 

「どうしたの親友。 何で後ろを向いているんだい?」

 

「……お前が着替え始めるからだろう」

 

「ボクは気にしないけど」

 

「……俺が気にする」

 

 目を閉じているからわからないが、光希のことだから下着一枚になっててもおかしくない。

 いや既に脱ぎかけている可能性もある。

 

 そんな状況で振り向く勇気など到底無いに等しいため、結局目を瞑ったまま会話を続けるしか方法がないのである。

 それからしばらくして衣擦れの音が止んだ後に声を掛けられたので、目を開けて振り返ってみると部屋着に着替えた光希の姿が見えた。

 

 薄手のタンクトップにホットパンツという組み合わせだが、生地が薄いせいか身体のラインがくっきり見えるだけでなく肌の色も若干透けており艶めかしい感じが出ているように見える。

 全体的に露出が多くて圧倒的なエロさが滲み出ていた。

 

 しかも黒いレースのブラを着ているらしく、タンクトップの間から覗いている始末だ。

 ただでさえエロい身体をしているというのにこれでは余計に欲情してしまう恐れがある。

 ここは冷静にならなければ危険だと本能が告げてきたので深呼吸をしてから平静を装って話しかけることにした。

 

「……何でそんな服装なんだ」

 

「不思議なことを言うね親友。 ボクは女性の身体になってから部屋着はコレだよ?」

 

 そんなどエロい服装で日常を過ごす奴があるか。

 そう言うのは同人誌の中だけだと思っていたが、現実はそうでは無いらしい。

 

 あまりにも圧倒的なプロポーションから繰り出される蠱惑的で官能的な姿は見る者全てを虜にするであろう破壊力を有しており、扇情的としか言えない程の代物となっていた。

 

「う、むぅ……」

 

 そんな彼女を前にして平然を保っていられるはずがなく、欲望に支配されそうになる自分を自制するために再び息を大きく吐き出すことで、何とか落ち着きを取り戻すことに成功した。

 我ながらよくやったものだと感心せざるを得ない。

 

 それはそれとしてこの状況は非常にまずいので一刻も早く離れるべきだろうと思い一歩後ろへ下がった直後の出来事であった。

 

「ああー身体が滑っちゃったー」

 

「うむぅっ!?」

 

 光希がわざとらしく声を上げたかと思えば次の瞬間にはぎゅっと抱き締められた挙げ句、胸元へ顔を埋めさせられてしまったではないか。

 

 必然的に当たることとなる柔らかく弾力のある物体の感触に脳内が痺れたのか何も考えられなくなるほどであったが、鋼の精神を奮い立たせることでどうにか踏みとどまることができ、そのお陰で難を逃れることはできた。

 

 しかしあまりにも暴力的、そして官能的、魅力的、どれをとっても必殺になり得る発育度合い。

 普通の人なら一瞬でやられていただろう。

 

「……離れてくれ」

 

「おかしいね親友。 ボクは身体が滑って君の方に倒れたんだよ? この場合は『君がボクの身体をしっかり支えて起こす』べきじゃないかい?」

 

 そんなことしたら胸に手が当たってしまうだろう、と言えればいいのだがそれは光希の事が気になると言っているようなものだ。

 

 触ればアウト、触らなくても感触でアウト、進んでも引いても道は一つしか無い。

 光希の奴、最初からこうなる事をわかってやっていたに違いない。

 

 その証拠にニヤついているのがわかるくらいに声色が楽しそうなものに変わっていることからそれが伺えた。

 

「ほらほら親友、いいんだよ? ボクの身体をじっくり触りながら離してくれても」

 

「勘弁してくれ……」

 

 冗談めいた台詞を言う彼女に抵抗する気が失せ始めた頃、光希の部屋のドアがノックされる。

 ノックの音が聞こえた瞬間、俺の身体から音もなく、まるで満ちた潮が引くように離れていく。

 忍者か己は。

 

「光希ちゃん、おやつあるけど食べるー?」

 

「……ちっ、タイミングが悪かったかな。 お母さん、部屋の前に置いてくれる?」

 

「わかったわー」

 

 ドアの向こうから聞こえてきた声は紛れもなく香奈さんの声である。

 部屋の外でお盆を置く音が聞こえて助かったとばかりにため息を漏らしつつも安堵した俺は他所に心の中でそっと謝罪をする。

 

 すまんな光希。

 後でフォロー入れておくことにしよう。

 現実逃避したいという気持ちはあるが、とりあえず香奈さんからいただいたおやつを取る為にドアノブに手を掛ける。

 

「……さて、何処に置いて……!?」

 

 ドアを開けて息を呑む。

 おやつは確かに置いてあった。

 

 置いてあることには置いてあるのだが、息を呑むに至ったのはその側にある物。

 食べ物や飲み物があるのはもちろんのこと、その隣にソッと添えられた『書き置き』。

 

「……?」

 

 恐る恐る開いてみればそこに書いてあるのは『耳栓着けてるのでどんなに大きな声を上げても聞こえません。 ごゆっくりー♪ 追伸、良かったらコレ使ってね』という文章だった。

 

 紙の下には極薄と書かれた箱が置いてある。

 つまりはそういうことなんだろう。

 男から女になった娘息子の母親がヤる事を促すな。

 

「親友、おやつは?」

 

「……ああ、持っていく」

 

「今日は何かな」

 

 だが、今の光希にコレがあることを知られるのは非常にまずい。

 おやつが載ったお盆を持ち上げると同時に、光希の視界に入らない様に極薄の箱を平らに圧縮してポケットに仕舞い込む。

 

 この動作を行うこと1秒以内。

 光希からはただお盆を持って立ち上がったと見えただろう。

 その後もポケットに何かを入れた事を悟らせずに何事も無かったかのように振る舞うことを忘れない。

 

 ポーカーフェイスは得意だと自負していたが、今回ほどそれが役に立った日は無いのではないかと思える程に上手く立ち回れた気がする。

 

「待たせたな」

 

「ありがとう。 それじゃ食べようか」

 

 机の上に広げられたのはショートケーキと紅茶の入ったカップが置かれているだけだった。

 美味しそうだとは思うものの、今はそれどころではなかったりする。

 

 何故なら目の前に座る光希の視線は俺のポケットの方へ注がれているからだ。

 心なしか目が据わっているような気がしないでもない。

 気のせいであって欲しいがおそらく気のせいではないだろう。

 

「なあ光希」

 

「なんだい親友」

 

「何故じっと見ているんだ?」

 

「いや、何でもないよ」

 

 そう言いながらもジーッと見つめている辺り説得力の欠片もなかった。

 嘘を吐くことが苦手な俺にとってその視線から逃れる術はなく、居心地の悪さを感じながらケーキを口に運ぶしかなかったのである。

 

 その後は黙々と食べ進めていき、あっという間に完食してしまった。

 その間ずっと視線を浴び続けていたわけだが、いくら鈍感と言われる俺であってもさすがに気づくというもの。

 

 完全にバレている。

 マズい、コレの存在が外に出てしまえば光希の様子から察するに獣になるのも時間の問題だろう。

 獣になるのが俺ではなく光希になのがおかしい事に突っ込んではいけない。

 

「……ところで親友、さっきからチラチラ気になってたけどソレ何?」

 

「さぁ、何だろうなぁ」

 

「へぇ……教えてくれないんだ」

 

 明らかに俺のポケットを見て訝しんでいる。

 だが教えることはできないのだ。

 

 そんなことをすればどうなるかは火を見るより明らかだからだ。

 下手に教えてしまうと大変な事になる可能性が高い。

 だからこそ教えることはできない。

 

「親友、何か隠してないかい?」

 

「さあな」

 

「ふぅん……まあいいや。 ボクが見つければいいだけのことだし」

 

 そう言うとおもむろに立ち上がり、俺の膝の上に乗ってきては後ろから抱き着いてきた。

 突然の行動だったため対応できずされるがままになってしまった結果、身動きが取れなくなってしまい、抵抗できずにいる。

 

 デカくて柔らかな尻が俺の腿の上に乗り、ある一部分が幸せになってしまう。

 まるでクリスマスにプレゼントを貰った子どものように。

 

「……光希、降りろ」

 

「だめ。 親友が隠してるモノを出してくれたらやめてあげよう」

 

「何も無いぞ」

 

 俺がそこまで言うと、含んだような笑いをして光希が告げた。

 

「親友知ってるかい? 君は嘘を吐こうとすると視線が胸元に向くんだよ」

 

「……む」

 

 そんな薄手のタンクトップを着ていたら嫌でも深い谷間が見えると思うんだが。

 今でさえ身体が動く度に揺れているのが分かるぐらいだ。

 

 おかげで目を奪われて仕方がないわけだが、このままでは不味い。

 こうしている間にも段々と光希の目がトロンとしているようにも見える。

 

 このままここに居続けようものならば確実に食べられる未来しかないことは目に見えてわかるわけで、そうなると俺の貞操の危機になりかねないということでもある訳だ。

 

「……仕方ない、アレを使うか」

 

「……使うって何のこと? きゃっ!?」

 

 急に大人しくなった光希をなるべく意識しないようにしながら、光希の背中に手を添えて体勢を逆転させる。

 可愛げのある悲鳴をあげて、されるがままになっている光希の耳元へと俺は顔を近付けていく。

 

「し、ししししんゆう……! ソコからいくのかい!? いくんだねっ!?」

 

 俺の顔が近付くにつれて、光希は腕を胸の前で腕を組み潤んだ瞳で見上げてくる。

 谷間の間に腕が埋まり、見るからに柔らかそうである。

 

 徐々に近付く俺と光希の顔。

 この後に起こる事を想像したのだろうか、顔を赤らめて唇を微かに突き出している。

 

 そんな中、俺の顔は光希の唇へと近付くーーー

 

「……ん」

 

 ことは無く、光希の耳元へと顔を寄せた。

 目を閉じたままの光希は近づいていない事に気付かず、ふるふると震えながら待ちぼうけを食らっている。

 

 光希はそのままでいてほしい。

 でもキス待ちしている光希には悪いが、俺がやる事はそれでは無い。

 

「……しんゆう?」

 

「ーーーお前はとても綺麗だ」

 

「ほえ?」

 

「そんなに顔を赤らめてどうしたんだ」

 

「え、は、し、親友? どうしーーー」

 

「ほら、顔を俺に見せてくれ」

 

「あっ♡」

 

 耳元でとりあえず今出せる精一杯のイケボで囁き掛ける。

 そのついでに光希の顎を持ち上げて視線を合わせる事を忘れない。

 

 こうする事で光希の脳内を他の事に思考を割かさせないようにする。

 名付けて『普段やらないようなことして有耶無耶にしよう』作戦である。

 

「あっ、親友……♡ 顔が、近くて……」

 

「顔が近いから、何だ? もっと見て欲しいのか」

 

「ち、ちがうよ♡ し、親友の顔が近くに……!」

 

 いつもの俺と違う事に驚き、思考が回っていないからか光希の視線があっちこっちを行ったり来たりしている。

 このまま行けば、俺の中の何かを犠牲にして場を乗り切ることが可能だろう。

 

「遠慮するな。 もっと見たいんだろう?」

 

「は、わわっ。 し、親友がこんなに積極的にっ!? ーーーきゅう」

 

  最後にとどめとして耳にフッと吐息をかけてやると簡単に落ちた。

 光希の耐性の低さにちょっとだけ引くが、今はそんな事を言っている場合ではない。

 

 光希が起きてくる前に圧縮した箱をバッグの中、それも奥の奥まで押し込むようにして隠しておく。

 願わくば一生外に出てこない事を祈りながら。

 

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