そして次の日、学校に行くことになったわけなんだけどこれがまた大変だった。
「親友、いつもより視線を感じるんだけど皆コレが気になるのかな」
「多分それもあるけど、一番はお前がこうしてる事だからな?」
何故か光希は俺の腕を取って、その豊満な胸の間へと持っていき腕を組んでいるのだ。
それのせいで道行く人々の視線がすごいことになっていたのを覚えている。
すれ違った人々は必ずと言っていいほど二度見していたんだからな。
中には光希があまりにも美人過ぎるからか写真を撮っている輩もいたようだが、肖像権というものがあるだろうし許すまじき行為であるのは間違いないだろう。
現に盗撮されていたみたいだし。
とはいえ気持ちは分かるんだけどね。
だって光希さんすっごくエッチですもん。
すれ違う人達がついつい目で追ってしまう気持ちもよくわかりますとも。
俺だって例外じゃないんだから。
仕方ないことだろう。
「というより、何で俺腕組みながら歩かにゃならんのだ」
「だってそっちの方が楽しくて、親友の性癖にもあっているだろう?」
それはそうなんだが。
彼女ができたらやってみたい事の一つを、元男の光希によって叶えさせられるのは何とも言えない気持ちになるのである。
それをこんな形で実現することになるとは思わなんだ。
しかも光希の胸に挟まれているから、腕に当たる感触が気になってしょうがない。
柔らかい上に温かい上にいい匂いまでしてくる始末だ。
おまけに耳元で囁かれたりするものだから余計タチが悪いのである。
「どうだい親友。 こういう密着度の高いシチュエーションと言うのはいいものじゃないかい?」
「うるさい黙れくださいお願いします」
からかうように言うんじゃないまったく。
こっちは色々辛いんだぞ。
緊張やら興奮やら恥ずかしさやらその他諸々混じってどうにかなりそうだよ。
胸が柔らか過ぎて語彙力無くなりそう。
「ふふっ。 親友の反応は面白いね。 見ていて飽きないよ」
ニヤニヤと笑う光希。
どうやら完全に遊ばれてるみたいだ。
そんなこんなでようやく教室に到着する頃には精神的に息も絶え絶えになっていた。
どんだけ体力奪われてるんだって話だよ本当。
まぁその原因を作ってる張本人は全く気にしていないみたいなんだけどな。
ちなみに光希は先生と一緒に来ることになっているので、職員室へと置いてきた。
その間席に座って待機しており、現在朝礼間近なところだ。
それにしても今日はいつもより疲れる日だ。
早く家に帰って寝たい気分である。
そう思っていた矢先の出来事だった。
「親友ォ! お前今日朝一緒に登校してきた美女は誰だよ!?」
「黙秘権を行使する」
開口一番クラスメイトの一人が俺に詰め寄ってきたため反射的に突っ込んでしまった。
ちなみに今更だが、俺の名前は親友と書いて『ちかとも』と読む。
それはそれとして近いから離れてくれてほしい。
顔の距離が近いから鼻息当たってくすぐったいんですけども。
「それよりまずは離れろ。 周りの迷惑になるだろ」
「すまんつい興奮しててな。 それでさっきの人誰なんだ教えてくれよ!」
「わかったから落ち着け。 とりあえず、俺に聞くよりこの後すぐわかるから待ってろ」
周りがザワザワとしている気配を感じ取ったので小声で忠告しておく。
そうすると渋々といった様子ではあったが離れてくれたのでホッと安堵の息を吐くのだった。
そうして間もなくチャイムが鳴り朝のホームルームが始まった。
号令に合わせて挨拶をしていく生徒たちの中に、教師に連れられて一人の美女が入ってきたことにより再びざわついた。
その美女は紛れもなく光希であり、噂の中心人物であった人物なのだから無理もないと言えるだろう。
当然のごとく注目を浴びることになった彼女であるが、本人は特に気にすることもなく堂々としていた。
そして全員が席に着くと、早速とばかりに先生が話し始めた。
「実は皆に報告があります」
その言葉を皮切りに静まり返る教室内。
誰もが固唾を飲んで次の言葉を待っていた。
そしてついにその時がやってきたのである。
「実はこのクラスに一人、生徒が来ることになりました」
その言葉にクラス中が一斉に騒ぎ始める。
その騒ぎ始めるクラスメイトの中で、光希である事を把握している俺と先生は半分死んだ顔をしていたのは言うまでもない。
先生も先生でかなり言葉を選んでいたのがよくわかった。
「では、改めて自己紹介の方をよろしくお願いします」
先生に促される形で教壇に立った光希は微笑んで口を開く。
その瞬間クラスメイト達が息を呑んだのがわかった。
「皆は何でそんなに畏まってるのかな? ボクは『榎本光希』。 何故かよくわからないけど『女』になりました」
クラスメイトの頭上にハテナマークが浮かんでいるのがよくわかる。
いやまあそうなるわな普通は。
いきなりこんなことを言われても理解不能だろうから。
でもこればっかりはどうしようもないんだよな。
なにせ事実なのだから。
「光希さんは原因はわかりませんが、男性の身体から女性の身体に変わりました。 でも、いつもの光希さんとあまり変わりませんので皆さんも今まで通り接してあげてください」
先生が補足するように言うと少しだけホッとしたのか空気が弛緩したような気がした。
かく言う俺も同じ意見である。
見た目以外は言動もほとんど変わらずいつもと同じような感じだ。
そこは光希らしいと言えるかもしれない。
「……おい親友、コレがお前の言っていた見ればわかることの答えか?」
「それ以外に何がある。 てか、あんま大きな声を出すなよバレる」
先程とは違いひそひそ声で会話を交わす俺達。
幸いにも皆は光希の方に夢中のためこちらの様子に気づいていないようだった。
というか他の奴らに至っては既に光希の爆乳に見惚れて鼻の下を伸ばしており視線しか向けていない。
気持ちは分からなくもない。
だって凄くおっきいし柔らかそうである。
アレに挟まれたらさぞ気持ち良いことだろうなとは思うよ。
もっともそんなことをしようとは思わないけどな。
下手に刺激したら何をされるかわからんし。
正直怖いですハイ。
「それでは光希さんはいつもの席へどうぞ」
先生がそう言うと指差された先は窓際の席ーーー俺の隣の席だった。
元々光希の席は俺の横、隣同士である。
本人が本人の席に座るというのは当然の流れなのでおかしなことではない。
光希が来たことでクラスのみんながより一層テンションが上がったように思えた。
皆が光希のことを凝視しているが当の本人はどこ吹く風といった感じで平然としている。
それどころか周囲の反応を楽しんでいる節さえあった。
そんな中で俺の隣に来た光希はこちらを向き話しかけてくる。
その瞳には好奇心が見え隠れしていた。
まるで新しいおもちゃを見つけた子どものような目であった。
嫌な予感がする。
「やぁ親友。 皆僕を凝視してくるんだけどなんでかな?」
その豊満な胸のせいだろうと喉から出かけたが飲み込んだ。
そんなにばるんばるんと揺らしていればそりゃ見るだろうさ。
俺だってガン見したいわ。
いやいかんいかんいかん。
煩悩退散、頭を冷やせ俺。
いくら何でもそれは駄目だろ。
相手は男ではなく女なのである。
例え中身が男だったとしても今は正真正銘の女性なのだ。
だから変な気を起こしてはいけないのである。
「光希があんまりにもイケメン美女だからじゃねぇの?」
苦し紛れの言い訳を口にするものの内心冷や汗ものである。
自分で言っておいてなんだが結構無理のある理由だと思ったからである。
それでも光希は納得してくれたようでなるほど、と呟いている。
そのまま納得しておいてくれ。
「積もる話は全ての授業を終えてからにしてください。 質問で授業を潰す訳にはいかないので」
先生の言葉だけが救いだった。
ナイスフォローだと心の中で拍手を送ったくらいである。
その後は何事も無く午前の授業が終わって昼休みになった。
さて腹減ったことだし昼飯食べに行かないとなと思いながら立ち上がろうとした瞬間。
目の前にずいっと差し出された手のおかげで立ち上がることができなかった。
その手の持ち主を見れば案の定と言うべきか目の前にいる人物は光希でありその手には弁当箱らしきものを持っていた。
ご丁寧に蓋を開き中身を見せてくれるので見てみると色とりどりの具材が並んでいるのが分かる。
めちゃくちゃ美味そうだと思った瞬間ぐぅっとお腹が鳴った。
それを聞いた光希は笑いながら言った。
「親友、いつもと同じ様にお昼ご飯を食べに行こう」
「お前この状況よく見てる?」
ちらりと周りに視線を動かせば、男女共の粘りつく様な視線がこちらに向いていることが分かる。
その中には嫉妬の眼差しもある。
大方光希を狙っている男達の視線だろう。
お前ら元男のコイツを狙うとかホモかなにかか?
「ん〜、確かに注目浴びてるよね。 僕ってそんなに魅力的?」
「お前は昔からそうだが自覚がないよな」
呆れながらも溜息を一つ零す。
その胸とボーイッシュな見た目、誰に対しても割と分け隔てない性格。
光希は自分の容姿やその他諸々に対して無頓着すぎるきらいがある。
だからこそ平気で肌を晒したり無防備になったりするのだ。
その度にこっちがどれだけ苦労しているかも知らない。
思わずジト目を向けると光希は何のことだか分からないといった感じで首を傾げているだけだった。
こいつ本当に分かってないな。
鈍いにも程があるぞ。
「まあいいや、行こうぜ」
これ以上言及するのも面倒臭くなったので、俺はさっさとその場を後にすることにした。
未だに周りから向けられる視線を無視しながら歩きだすと、光希もそれに続いて歩き出す。
それからしばらく歩いているうちに目的地の屋上に到着した俺達は適当な場所に腰を下ろした。
「じゃあ親友、コレをどうぞ」
「……今更だけど何でこんなに女子力が高いんだ」
光希から渡された弁当箱を見ながら呟くように尋ねると彼女は楽しそうに答える。
その表情はとても輝いており嬉しそうだった。
どうやらとても自信があるらしい。
「自炊できたら一人の時に楽だろう? 親友に作ってきているのはそのおまけさ」
「唐突なイケメンムーブだなおい」
「今はイケメンというよりただの美少女だからイケメンでは無いと思うんだけど?」
不満げに頬を膨らませる光希であったがすぐに気を取り直したのかパクパクとお行儀良く食べ始めた。
その姿はリスのようでなんとも可愛らしく見えるものだ。
箸使いも綺麗だし全体的に上品さが漂っているように見える。
普段大雑把な性格をしているくせにそういうところだけはキッチリしてるんだよなぁ。
それよりも俺も光希から貰った弁当箱を広げて食事を始めることにした。
「……美味い」
「当たり前だろう? なんて言ったって僕が作ったお弁当だからね」
一口食べると素直に言葉が出て来た。
なんというか優しい味っていうのかなこういうの。
とにかく美味しいことは確かだった。
「卵焼きが一番美味い」
何気なく口にした言葉だったのだが、それを聞いた光希が目を輝かせていることに気づいた。
なんかマズイことでも言ってしまっただろうか?
「うん。 親友の為に頑張ったからね!」
満面の笑みで言われると同時に心臓がドキリとした気がした。
そういうことを簡単に言うんじゃありません。
世の中の男は簡単に勘違いするんだぞ、わかっているのか。
それからは光希は終始笑顔で弁当を食べていった。
食べている間は他愛もない話をしたりしてのんびりと時間は過ぎていった。