そして、放課後になり帰り支度を早々に整えて俺は身構えていた。
理由は言わずもがな、朝の光希と登校してきた事と何故そうなっていたかの追求から逃れる為である。
「親友くぅん? 逃げられるとお思いで?」
しかしそんな願い虚しく、逃さないと言わんばかりに数人のクラスメイトが近づいてくる気配を察知してしまった。
「面倒な奴らだな……。 俺から話す事はほとんど無いぞ」
「それを決めるのは親友君、君ではないのだよ。 では同志諸君、親友君を捕獲してくれたまえ。 丁重に扱うように!」
「「「了解っ!!」」」
ノリのいい返事をして取り囲むようにして立ち塞がってくるのは主に男子陣であり、それ以外の者は全員女子で構成されている。
総勢10人といったところだろうか?
流石に人数がいるだけあって統率が取れているように思える。
しかしながら多勢に無勢という状況において圧倒的に不利な立場にいることは間違いない。
「一丁前に人数だけを揃えよってからに……面倒な。 ……あ、あそこに帰ろうとしてる光希が」
「そんな簡単な手に引っ掛かるとでもーーー!」
視界の端で何食わぬ顔で帰ろうとしている光希を指さすと、それに気付いたのかクラスメイトは凄い勢いで其方に視線を向ける。
お前らの首はどうなってんだ、今明らかに曲がらない所まで曲がっていたぞ。
ろくろっ首か何かか己らは。
「どうしたんだい皆? ボクそろそろ帰ろうと思ってるんだけど」
「ちょっ、ちょっと待って!! ちょっとだけお話があるから残っていってくれないかな!?」
焦った様子の男子生徒が声を掛けるとゆっくりと振り返った光希が不思議そうに首を傾げる。
その様子を見た一部の女子達が黄色い声を上げたのを聞いてゾッとした。
なんか背筋が凍った気がするわ。
お前ら本当に元男のコイツに何を求めてるんだよ。
「でもなぁ……今日は親友と帰るつもりでいたから遅くなるのはちょっと困るかも」
「光希さんのお手は煩わせませんので安心してください! その代わりと言っては何ですが私達に付き合って頂けませんか!? 大丈夫です悪いようにはしませんから!!」
「やだ」
必死に引き止めようとするクラスメイト達の気迫に若干引き気味の光希だったが、すっぱりと切り捨てる。
お前も我欲が強いなホント。
少しは遠慮しろよ、と言いたくなるくらいの即答っぷりだった。
まぁその答えは正しいんだけどさ。
大体この手の話は碌なことにならないんだから最初から断っちゃえばいいんだよ。
どうせロクでもないお誘いに決まってるんだから。
「そこを何とか! お願いしますぅ!」
必死の形相で頼み込む彼女、彼達の姿は滑稽に見えたがそれ以上に必死さが伝わってくるものがあった。
それだけ必死なんだろうということが窺えるほどだ。
そんな彼女らの姿を見て哀れに思ったのかため息をつく光希は困ったように頰を掻いた後ーーー
「でもダメ。 ごめんね」
申し訳なさそうな表情で謝罪の言葉を口にした後、優しく微笑んだまま断った。
その言葉を聞き届けた彼女達は絶望したようにその場に崩れ落ちてしまう。
それはもう見事な落ち込み具合であった。
それほどまでにショックだったのだろうということは想像に難くない。
「それじゃ、また明日学校でね」
落ち込む彼らを無視してそそくさと逃げるかのように歩いていく光希の後を追って俺もその場を離れることにした。
後ろから聞こえてくる悲鳴というか怨嗟の声を聞きながら歩くが、全く後ろ髪すら引かれない。
そこまで綺麗どころに近付きたいその執念、ある意味尊敬するよ本当に。
「良かったのか断って。 後で絡まれるんじゃないか? 主に俺が」
「その時はその時だよ。 大丈夫さ、なんとかなる」
なんとも適当極まる答えを返してくれた光希。
しかし実際問題どうしたものかと考えているのも事実だったりするわけで。
何で女になったのかという質問が飛んでくる事請け合いだろうが、そもそも医学的に答えが出てないから答えようがないのだが。
「それより親友、この後どうしようか? いつもみたいにゲーセンに行こうか」
「まぁそれが妥当だよな……」
少し考えた後に出てきた答えとしては妥当なものだろう。
お互い高校生だし遊べるのは限られてくるからな。
こういう時は遊ぶに限るというものだ。
そうと決まれば善は急げというわけで俺達は早速移動を開始する事にした。
帰り道にあるゲームセンターに向かって歩き出したのだがここで問題が発生した。
具体的に言えば通行人の視線が集まるようになったという事だ。
それもこれも全部隣にいる光希のせいである。
やはりと言うか案の定と言うかその視線はスルーしつつ、光希は見せつけるように胸を張りつつドヤ顔をするものだから尚更たちが悪い。
ただでさえ大きい胸が更に強調されて目のやり場に困ってしまうのだ。
そのせいで通り過ぎる人々が立ち止まって凝視したりしてくるのだからたまったものではない。
これで狙ってやってる訳ではないというのが恐ろしい話だ。
「なんか見られている気がするね」
当たり前だろ、そのエグいくらいにデカい胸とスカートから眩しいくらいに覗く太腿。
どう見たって男には効果抜群だぞ、そんなの。
もういっその事開き直ってしまえば楽なのにと思うがそれはそれで面倒なことに巻き込まれそうなので却下しておこう。
「おい、何だあの娘……!? グラビア顔負けの身体してんじゃねえか……!」
「その隣にいる男は誰だ? あんなエッロい女見せびらかす様に歩きやがって何のつもりだよ……!」
見せつけてないし、何なら少し離れて歩く様にしているんだが全然効果がなかったようだ。
むしろ逆効果になっているような気がするくらいだ。
「どう考えてもとばっちりだよなこれ。 どうしろっていうんだ」
「親友、さっきからどうしたんだい? キョロキョロして援交相手を探してるオジサンみたいだよ?」
「黙らっしゃい。 もし見た目がそう見えるとしても口に出すなよ」
余計なお世話だと思いつつもツッコミを入れておくことにしておいた。
確かに俺の見た目は図体がデカくて髪もボサボサ、服装もだらしない感じだけども好きでこうなったわけじゃないんですよこれは。
寧ろ変えたくても変えられなかっただけなんですよーだ。
せめてもう少しマシだったら良かったんだろうけどね。
まぁ今更言っても仕方のないことだけど。
そんな事を考えている間に目的の建物が見えてきた。
店内に入ると相変わらず多くのゲーム音で溢れかえっており騒々しい雰囲気に包まれていた。
奥へと進みエスカレーターに乗ると二階へ向かったところで目当ての場所を見つけることが出来た。
そこは様々な種類のゲーム機が置かれているフロアであり広々とした空間が広がっている場所である。
目的の筐体に向かう途中で何人か知り合いの姿を見かけたりもしたがお互いに軽く挨拶を交わした程度に留めておいた。
何せこれからする事があるので急がないといけなかったからだ。
「到着っと。 さぁて久しぶりにやりますかね」
たどり着いた先に置いてあったものは所謂アーケードタイプの対戦格闘ゲームの台であった。
最近主流となりつつあるVRMMORPGなどではないこのゲームは根強い人気があるものの一つと言えるだろう。
画面上でキャラクターを操作して戦うという単純なシステムではあるが奥深い戦略性が求められる為にやり応えがあるものとなっている。
ただしその分操作が難しく玄人向けのゲームとしても知られているのだが。
勿論プレイ動画等も多く存在しているため初心者でも楽しむことは可能ではある。
ただ上級者となるとかなり難しくなるというのは間違いではないけどね。
それでもハマる人はとことんハマるという代物である事も確かだ。
実際に今の時代でも人気があり新規タイトルの稼働も増えてきていることからその需要の高さがうかがえるという訳だ。
そんなわけで今回も適当に空いている台を見つけて座ると準備に取りかかることにする。
「じゃあ僕も親友の隣でやらせてもらおうかな。 少し失礼するよ」
「おう、今日は負けないからな」
光希との対戦成績は21勝22敗で負け越しているので今回こそ勝ちたいと意気込んでいたりする。
そのために色々と対策を考えてきたので負けるわけにはいかないのだ。
その為にも集中力を高めていく必要があると考えた結果、目を閉じて精神統一を行う事にした。
深呼吸を繰り返し心を落ち着かせるように心がける。
そうすれば自然と雑念が消え去り思考の海に溶け込んでゆくような感覚を覚えた。
『GO!』
機械音声の合図と共に試合が始まると同時に素早くコマンド入力していく。
基本コンボを叩き込みながら隙を見て投げ技を使い距離を取るということをひたすら繰り返し行っていく。
敵の動きを読みつつ繰り出される攻撃を避けつつ確実にダメージを与えていきHPを削っていく。
「っ! やるね親友!」
「まだまだぁ!」
敵の攻撃を間一髪の所で回避しつつカウンターを決めることに成功する。
そこから流れに乗るようにして連続で攻撃を繰り出し続け遂にKO勝利する事が出来た。
やったぜ。
今回は俺の勝ちだ。
「ふぃ〜。 疲れたぁ〜」
一気に力が抜けてしまい背もたれにもたれかかった瞬間にどっと疲労感が込み上げてきたのを感じた。
それと同時に喉が渇きを訴えるが生憎飲み物は持ってきていなかったので我慢するしかなかった。
隣に座る光希もまた同じ状態らしく苦笑いしながらも呼吸を整えているようだった。
呼吸をすることで上下する胸が揺れ動く光景を眺めていたかったが、グッと堪えて目を逸らすことにする。
「流石だね親友。 上手く引っ掛けられてやられてしまったよ」
「偶々だって」
俺が光希と話している最中にも、左右や後方から痛い程視線が突き刺さる。
ゲーセンに彼女なんて連れてくるなと言わんばかりなのだが仕方がないだろ。
親友なんだから。
決してデートなんかじゃないぞ。
自分に言い聞かせるようにして何度も頭の中で繰り返す。
そうやって自分を誤魔化すことでなんとか平静を保つことができたと思う。
結局この日は夕方近くまで二人で遊び続けたのだった。
家に帰る頃にはすっかり日が暮れていて辺り一面真っ暗になっていた。
玄関を開けると家の中は既に暗くなっていて人の気配が全く感じられなかったが別に珍しいことじゃない。
両親は共働きで忙しく働いているため帰宅時間がバラバラになることが殆どだからだ。
「ただいまーっと」
誰もいない家に独り言のように呟きながら靴を脱いで廊下を歩いてリビングに向かう。
そこには誰もおらず静寂だけが広がっていた。
明かりをつけてキッチンに向かい冷蔵庫の中から冷えた麦茶を取り出す。
コップに注ぐことなく直接口を付けて飲み干すと喉が潤されていく感覚が心地よかった。
一息ついた後は自室に戻って着替えを済ませてからベッドに飛び込むようにしてダイブした。
柔らかなマットレスの感触を感じながら大きく伸びをして欠伸を漏らす。
「とりあえず、光希が女になっても日常はあんまり変わらなかったな」
いつものイケメンさ加減にエロが加わっただけでいつもと何ら変わりない生活を送っている。
変わった点といえば光希からのスキンシップが激しくなったということくらいか。
今まで以上に距離感が近くなったような気がしてならないのだが気のせいではないだろう。
とはいえそれが不快というわけでもないので問題はないと言えばないのだが。
それにすぐ慣れてしまった自分も自分だと思うが不思議と嫌な気分にはならないというのもまた事実だったりする。
もしかしたら俺自身無意識のうちに女となった光希に興味があるのかもしれないと思うと複雑な気分だ。
そんなことを考えながら瞼を閉じると急激に睡魔に襲われた俺は抗うことなく意識を手放したのだった。