ひとしきり喜んで、ようやく雀螺は落ち着きを取り戻した
「…勝った………」
雀「へへ。どんなもんよ!!!」
目を丸くする俺に、満面の笑みでピースサインを返す雀螺
俺より早く修行を始めていたのは知っていたが、もうここまで上達しているとは思わなかった
妖「本当に強くなったね、雀螺」
雀「押忍!!ししょーのお陰です!!!!」
思えば貴女が来てから──と妖夢さんは語り始める
どうやら俺の想像よりもずっと早く雀螺はこちらに着いていたらしく、既に修行を始めて3ヶ月が経っていたそうだ
俺がまだこちらに来て一週間ほどしか経っていないので、どこでそんなにズレが生じたのかは気になるところだった
雀螺は元々スジがよく、初めて触れるであろう日本刀や長槍の類い、薙刀のような得物まで軽々と扱う程の才能に恵まれていたらしい
それ故に自分が負かされる日もいつかは来るだろうと考えていたが、まさかこんなにも早く追い付かれるとは思いもしなかったようだ
──私もまだまだですね、もっと鍛錬を積まないと。
そう言って話を締めくくった妖夢さんは、今日の日程は終わりだと俺たちに伝えて足早に屋敷へ戻っていった
「流石にショックだったのかな、妖夢さん」
「どーかなぁ、でもものすっごい負けず嫌いだから、明日がちょっと怖いかも?」
そんな軽口を叩きながら片付けを進める俺と雀螺を、眺める影が空にひとつあった
?「これは〜………もしかして一大ニュースになりうるのでは?」
─────────────────
翌朝、起こしに来たのは妖夢さんでも雀螺でもなく、幽々子さんだった
異様に冷たい手が頬やら胴やらに触れて、その刺激に小さく呻く
「ねぇねえ、ちょっと。起きて起きて」
「……んー、うん…?」
目を開けると、まだまだ暗かった。早朝なのだろうか
「どーしたんですか…こんな早く…」
視界に映った彼女は、珍しく困り顔をしていた
「どうもこうも、昨日の話が新聞になってるのよぉ 」
「…きのう、の。」
ゆっくりと身体を起こして、軽く頭を振って意識を覚醒させる
昨日、といえば、雀螺が妖夢さんから一本取った日だ
昨日、の夕方だったよな…?
それで今が早朝だとして
「……流石にちょっと早過ぎませんか…?」
「見られてた、のかしらねぇ」
「見られてた…?」
「そう。ここにはねぇ、天狗の新聞屋さんがいるのよぉ」
天狗……天狗だって…?
ふと思いつくのは鴉のような羽と長い鼻
あとは白い毛玉みたいなのがついた黒めの服
「それでね、妖夢がスペル有りで雀螺と模擬戦をしようとしててねぇ」
「スペル、有り、で………スペル有りで!?」
驚いて声を張ってしまう
対してゆっくり頷く幽々子さん
スペルというと、恐らく俺と戦った時の異常な踏み込みや肥大する刀身の技だろう
俺はなんとか、自力じゃないにせよ切り抜けられたが、雀螺は…?
為す術なくあっさりと倒される雀螺のイメージが脳裏を過る
総力戦となれば、確かにそれは正しいことなのだろうが…
?「そーんな時のための、新しい道具があるのよ♪︎」
幽「あら、紫。」
ヴオン、と特徴的な音と共に空を裂いて現れたのは、何やら怪しげな水晶を持ったご機嫌そうな紫さん?だった
恐らく紫さんだ。声が同じだから。
吸い込まれるような金色の瞳に、同じく金色の長い髪
思ったよりは幼さの残る顔立ちだけど、そこに浮かべる表情はとても幼いとは言い難い
やたら布の余っている白い長袖ワンピースのような服と、その全面に紫色の前掛けのような長布が垂れている
……不思議な格好だ。幽々子さんもだいぶだけど、こっちはもっと不思議だ
ちなみに帽子もなんだか初めて見るカタチをしている
なんて思いながら眺めていると、紫さんは不意にこちらの瞳を覗き込んでくる
紫「なーに?見惚れちゃった?」
そんなことを言いながら、ちょっと自慢げなカオをする
「そう……っすね。思ってたよりは可愛らしいなって」
素直に答えると、彼女は驚いたようにまばたきして、居住まいを直した
「で、なにかいい策があるんですか?」
紫「策、というか新しい仕組みね。貴方達を招いた時から河童に造らせていたのだけど、ついさっき完成したのよ」
そう言って、手の水晶を見せてくる
「これが何に……うわ、なんですかコレ。」
パッと見は何の変哲もない水晶だが、よくよく目を凝らすと異常な程に練られ、張り巡らされた術式が見て取れた
紫「これこそはこの幻想郷の新しい遊─コホン、ルール!その名も〔決闘舞台(デュエルリング)〕よ!!!」
すんごいドヤ顔で発表された
ほめてオーラが見てとれるくらいのやつ
「……安直ですね」
紫「何か?」
「いえ何も。 」
そして説明会が始まる…前に
紫「ところで貴方、弾幕を見たことはあるかしら?」
「弾幕?と言いますと…」
紫「やっぱりね。幽々子、少し見せてあげて」
幽「少しでいいのね?」
誰もいない庭に向かって幽々子さんが手を伸ばし、どこからともなく取り出した扇子に妖力を込めた
少しどころじゃない、眩しくて直視できないくらいだ
幽「それっ」
桜色の妖力を注ぎ込まれた扇子を振るう
すると、夥しい数の蝶の形をした攻撃が、視界を埋め尽くすほどに展開された
「………これ、は……」
紫「これが、この世界で言うところの弾幕よ。その一欠片」
一欠片、だなんて、とんでもない。
あんなの、避けるとか撃ち落とすとかそんなレベルじゃない
もし標的にされたら…?
背筋が凍るような思いだった
紫「妖夢も、幽々子ほどじゃないけれど弾幕を持ってる。この世界の戦える子はみーんな、このレベルの攻撃を持ってるの。」
「冗談…じゃないですよね、さっきのも本当に軽く、少しだけで。」
幽「怖がらせちゃったかしら…もう少し加減すればよかったわね」
紫「まあそれはそれとして、普段私たちは弾幕ごっこといってこーんな弾幕を思い思いに展開して戦ってるわけなんだけど、それだと場所も手間もその他諸々大変なのよね」
たしかに、あんなのをぶちまけ合う戦いなんて想像もできない
紫「だから、省スペース高燃費で手っ取り早く勝負をつけるために、この〔決闘舞台〕を製作したワケよ。それと、新しく招いた貴方達の為にもね」
「俺達の為…?」
そして、今度こそ説明会が始まった
今までは弾幕と弾幕のぶつけ合い、つまりメインはパワー対決で、多少のテクニックや戦術があっても押し切られてしまう展開がよくあったそうだ
それを良しとしなかった紫さんは、あらゆる要素をしっかりと活かせるルールを作れないかと思案
そうして各所と相談しながら出来上がったのが[決闘舞台]だという
本来スペルカードは主に詠唱破棄の為に使うものだが、このルールでは縛りとして枚数制限や使用までの待機時間、またカードの開示といったものが設けられる
当然だが、カードの使用無しにスペルを発動することは出来ない
そして、スキルカードというものが新設されたらしい
これは前述のスペルカードと役割が入れ替わり、本来自身の体躯で繰り出さねばならない個人技をカードの力で行うものだそうだ
例えば宙返りをするスキルなら、そのスキルカードを切るだけで身体が勝手に宙返りしてくれる、みたいな。
残りはアイテムカード
これは幻想郷に居る実力者達のお気に入りのアイテムをカード化して使えるようにしたもので、直接戦闘には使えないが補助をしてくれるらしい
『例えばコレね。』と紫さんが切ったアイテムカードは伊吹瓢
本来はめちゃくちゃに強いお酒が入っているらしいが、万人向けに調整してあるので飲み易い清酒に変わっているんだとか
いや酒なのは変わらないのか、というツッコミは無視された
そして、個々人が持つ霊・魔・妖力も使用に制限がかけられるみたいだ
具体的には、各々の腰の辺りに浮遊させている五つの珠のオブジェクトに力を込め、飛ぶ事と守る事と簡略化した弾幕を張ることで消費する仕組みにしているらしい
これらによって先天的な戦力の差を縮め、より誰にでも勝つ機会を与えられるようにした
…と、紫さんは自慢げにしていた
ちなみにそもそもどう勝負をつけるかというと、この[決闘舞台]の内部での外傷は全て対象の体力を直接削るものに変換されていくらしく、先に動けなくなった方が負け、だそうだ。
このルールなら、もしかしたらあの妖夢さん相手でも一矢報いる事ができるかもしれない
ちょっとだけ、ほんの少しだけだけど、希望が見えた気がした
既に東方projectに触れている方ならお分かりかと思いますが、ここで紹介されたルールは 東方非想天則 のそれを再解釈したものになります
ルールをアイテムに依存させたので、通常の弾幕ごっこも無理なく採用できると考えた結果こうなりました
描写に不足が出るかもしれませんが、その時は都度指摘してくださると幸いです