さて、決闘舞台の解説を受けた俺はその後すぐに質問攻めに遭うことになった
相手は紫さんがスキマ(と呼ぶらしい時空の裂け目)から引きずり出した件の新聞記者だ
よく聞くような小さい烏帽子に紐で繋がれた毛玉がぶら下がっている
けど、服装自体はワイシャツにミニスカと比較的普通だ
黒髪ショートで鴉のような羽根も見えるので、鴉天狗だという話は信じてもいいらしい
?「だからですね!この記事の大事なところは…!ってあやや?私はいつの間にこんなところに?」
紫「貴女にもう一働きしてもらう為に連れて来たのよ。他に説明は要る?」
?「もう一働き……ハッ貴方はもしかして!!」
事情を察したらしい鴉天狗は、俺に気付くとあからさまに目を光らせた
…今更だけど、このヒトもめちゃくちゃ可愛い
幻想郷の住人ってのは身体能力も顔面偏差値もスタイルもぜーんぶ持ってるもんなのか。
「えーっと、多分お探しの外来人です。はじめまして」
?「どうもどうも!御噂はかねがね!!なんでもあの妖夢さんと切り結んで生存してる上なんなら返り討ちにしそうだったとか!!」
食い気味に言葉を乱射する
勢いがすごい
元気溌剌、明朗快活といった言葉がこれ程似合うヒトもいないだろう
「それはちょっとだけズレてるんですけど…ひとまずお名前を教えてもらえませんか?」
?「あややや!これは失敬!!私は[文々。新聞(ブンブンマルシンブン)]の射命丸 文(シャメイマル アヤ)と申します!!以後お見知り置きを…!!」
「なるほど。じゃあ文さんでいいですか?」
文「意外と名前で呼ぶ方は少ないのでちょっと擽ったいですが、問題はありません!!むしろより距離が近そうでイイですね!!」
一瞬だけ照れ笑いをして、すぐに表情が巡る
元気の塊みたいで眩しい
「それじゃあえっと、とりあえず事の次第をちゃんと話しますね」
文「宜しくお願いします!!!」
───と、そんなこんなで今迄の経緯を話して聞かせた
特に俺が拾った得物の話や、妖夢さんとの試合については細かく聞かれた
文「ふーーむふむなるほど。私の知る限りでは他に3名ほど外来人がコチラに居ますけど、それと篠宮さんと氷雨さんで5人も居ることになるんですね。今迄に例のない大豊作かも!」
「5人…?」
俺と雀螺、それに藍染と紅さんと…もう1人?
あの時あの場でやりとりしてたのは、俺達だけのはずだ
文「あぁでも、人里の彼女がこちらへ来たのはだいぶ前でしたね。恐らく氷雨さん達とは別枠かと。身体が弱くて戦うなんてもってのほか、専ら絵ばかり描いている方なので!!」
「なるほど…?それならまぁ別に気にしなくてもいっか」
以前聞いた話から考えても、力のある外来人というわけではなさそうだ
そのうち会いに行けたらいいな、なんて思った
?「ちょっとアンタ、何時までそいつを捕まえてるつもりよ。私達への挨拶もまだだってのに」
文「…げ。」
文さんの肩をむんずと掴んで退けさせたのは、デカい真っ赤なリボンを付けた腋出しルックの…巫女さん?っぽい服装の人だった
もしかして、この人が
「例の紅白さん?」
?「はァ!?」
魔「ちょちょちょっと待て!!それは名前じゃないんだぜ!!!」
見るからに不機嫌になった巫女さんと慌てて割り込む魔理沙
これはマズったか。聞いたままを喋る悪癖が出てしまった
「あーー、えっと…?」
魔「こいつはレイム、博麗 霊夢だ!紅白ってのは通り名みたいなもんだから呼び名ではないんだ!!」
霊「通り名ァ……?」
「なるほど、霊夢さんね」
ひどく慌てた様子で弁解する魔理沙
霊夢さんには頭が上がらないらしい
「失礼しました。俺は神凪 氷雨、つい最近此方へ流れ着いた外来人です。これから宜しくお願いしますね」
霊「ふーん、礼儀はなってるじゃない。改めて、博麗 霊夢よ。宜しく、氷雨」
品定めするように眺めてから、手を差し出してきた
ひとまず誤解は解けていそうだった
けど、その手を握った瞬間彼女は顔色を変えて、凄い勢いで俺の手を払い除けた
霊「アンタ…ソレ……本当にヒト?」
「?そうですけど」
よく見ると、彼女の手が震えていた
俺がなにかしてしまったのだろうか
霊「ちょっと魔理沙、コイツどうなってんの?聞いてたよりもっと…こう、進んでるわよ」
魔「……マジか。そこまでとは思わなかったぜ」
「もしもーし?」
訝しむ霊夢さんと焦りの色が見える魔理沙
いったいなんだというのか
霊「一先ず、私の用は済んだから、後のヤツに任せるわ。またね氷雨」
魔「ちょ、待てよ霊夢ぅ!!」
ひらひらと手を振って離れていく2人
俺はそれを見ているしかなく、後には疑問だけが残った
2人が去って紫さんを見ると、いつの間にかその隣にとんでもない金髪狐耳ショートの美人が居て。
立ち姿といったらもう、その大きなふわふわの9本の尾で誰でも魅了できるのではないかというほどで。
びっくりして思わず凝視していると、その相手から声をかけられる
?「初めまして、ですよね。」
「…あっハイ、はじめまして。」
思わず反応が遅れる
そういえば、以前聞いた名前で誰かわからないものがあった
紫さんの言ってた"ラン"ってのがきっとこの人なんだろう
藍「私は八雲 藍(ヤクモ ラン)と申します。簡単に言えば幽々子様にとっての妖夢さんのようなものです。以後お見知り置きを」
「よろしくお願いします。」
生地の厚そうな、ゆったりとした白い長袖とロングスカートに、青い前掛けのような布?を被せている姿の彼女は、その雰囲気に違わぬ上品な仕草で礼をしてきた
こちらも深々と頭を下げる
それ以降の交流は特になく、彼女は再び軽く頭を下げると、紫さんが立ち去るのについていった
それから訪ねてきたのは四人
一人目は人形遣いだというアリス・マーガトロイドさん
短くウェーブのかかった透き通るような金髪と、ラピスラズリのような美しい瞳を持つ女性だ
青と白を基調としたゴスロリ服?を着ている
人形遣いというけど、彼女自体も人形のように完璧過ぎる容姿をしていて、思わず「綺麗ですね」なんて口走ってしまった
言われ慣れているんだろう。微笑んで流すと彼女は主に俺の持つ刀について訊いてきた
知りうる限りのことを話すと満足したようで、ご機嫌そうに去っていった
二人目は本人曰くメイドらしい十六夜 咲夜さん
目の覚めるようなセミロングのトゲトゲした銀髪に、サファイアのような深い碧の瞳をしたメイド服の女性だ
何処へ勤めているのか訊くと、「いずれ訪れることになります」と返された
そう答えた時の彼女は確信に満ちた表情をしていて、何が彼女にそんなカオをさせるのかとても気になった
彼女は主に俺のこれまでの経験─武術に関することを訊いてきた
部活とかはしていたものの、武術となると妖夢さんから学んだものが殆どだ
ありのまま答えると、期待しているとだけ言い残してどこかへ消えてしまった
歩き去るでも飛び去るでもなく、跡形もなく消えたものだから、ひどく驚いた。何が起こったんだろう
三人目は本人曰く死神?らしい小野塚 小町さん
朱色の二つ結びの髪と、血のような赤い瞳をしたやたらスタイルのいい女性だ
青色の着物を着崩していて、正直ちょっと目のやり場に困った
…あと、刃が波打った大鎌のようなものを背負っていておっかなかった
死神というにはあまりにもユルい。というかまだ明るいのに酒の匂いがする。ヒトとして大丈夫なのだろうか
彼女は主に俺の今迄の生き様を訊いてきた
話が一段落する度に「難儀だねェ」だの「真面目だねェ」だの、茶化すんだか労ってんだかわからない相槌を返してきた
けど、一通り話したところで深く頷いて、「アタシは味方してやるから、頑張んなよ」って頭をガシガシ撫で?られて、なんだか少し救われた気持ちになった
最後、四人目は素性がよく分からない古明地こいしさん
薄緑色の肩までの髪に、翡翠のような澄んだ瞳をした少女だ
黄色を基調としたゴスロリ風の服を着ていて、瞳を閉じた?ような何かを纏っている
声を掛けられるまで、この子が居ることに気付かなかった
掴みどころのないふわふわとした語り口、あてどなく揺れる視線や指先、そのどれもが印象的で、きっとこの子の事は忘れないだろうなと思った
彼女は主に俺の現状と、それに対する想いを訊いてきた
ありのまま、楽しいと、満ち足りていると答えると彼女は心底嬉しそうに微笑んで、俺の胸に飛び込んできた
─はずだったのだが、気付くと彼女は失せていて、俺は呆気にとられるしかないのだった
そうして交流を済ませた俺は、目を覚まして庭に出てきた雀螺に現状を問い質されることになる
「……これは何?氷雨クン」
「えーとまぁ、これには色々と事情があるらしくって…」
「ボクは今とっても気持ちよく起きてきて、天気も良くて体調も万全で、体力も満タンで少しお腹が空いているんだけど、そんなボクを待ち構えていたこの状況はなんなんだい??」
「これはですね……」
捲し立てる彼女に、簡潔に要点を掻い摘んで説明する
雀螺は頭の回転がとても早いから、それで大体理解出来たようだ
「なるほどね。話はわかった。面白そうだから受けて立とう!」
「これは勝者の余裕。けど、今度はスペルとかもあるから分からないぞ」
「大丈夫!!ボクなら勝てるよ!!!!」
雀螺は自信満々に言い放つ
相手が相手だし、話はそう簡単じゃないはずなんだが
デッキを組んで、意気揚々と決闘舞台へ向かう雀螺
そして藍さんが、紫さんに言われて半ばヤケになりながら開戦の合図をする
…思いの外早く、二人の勝負は決した
結果は、指折り数える程度の手数で妖夢さんの圧勝
最初こそ雀螺の動きに驚いたようだったが、その後は全て読み切った完璧な立ち回りだった
そして、俺は初めて妖夢さんの大技を目の当たりにした
容赦無く、加減も無く、只々打ちのめされる雀螺を見て
いくら決闘舞台のシステムに護られているとはいえ
その数多の斬撃を迷い無く叩き込める妖夢さんに、恐怖を覚えずにはいられなかった
倒れ伏した雀螺が目を閉じると同時に、スキマに呑まれる
紫さんのことだから、きっと寝床にでも送ってくれたんだろう
それを見届けた妖夢さんは、観衆に一礼するとゆっくりこちらへ歩いてきた
「何を思いましたか?」
「え、と……」
「…怖いと、感じましたか?」
「ッ………………はい。」
図星だったから、余計に言葉に詰まる
声色は穏やかで、表情もいつもと変わりないけれど
だからこそ、ああいう戦いが彼女の日常でもあるんだと認識出来てしまった
「それでいいんです。」
「…え?」
「刃は、傷付けるものです。どんな大義があっても。それだけは決して忘れないでください。」
ゆっくりと、言い聞かせるように。
彼女はそれだけ言ってその場を後にした