雀螺と妖夢さんの試合が終わったあと、観衆達は決闘舞台を展開する為の水晶を受け取って帰っていった
集まっていた人数はかなりのものだったが特に問題はなかったようで、どうやら相当な数の〔決闘舞台〕を仕上げて持ってきていたようだ
皆それぞれ違う思惑があるようで、その表情は様々だった
…まだ話せていないヒトのほうが多かったが、やがてきっとそのうち関わることになる
挨拶はその時にでもすればいいだろう
それで俺はというと、雀螺の所へ向かっていた
命に別状が無いことは分かっていても、心配なものは心配だったのだ
「ウルサイよ、氷雨クン」
「…悪い。」
ちょっと急ぎ足だったからか、足音がよく響いてしまったらしく顔を合わせるなりそう言われた
「でもそれだけ心配してくれたってことかな。だいじょーぶ、ボクはケガひとつ無い健康体そのものだよ」
微笑む雀螺
そりゃそうだ。せっかくの試運転で不具合が出ちゃ大問題だしな
けれど、先日までの元気はそこにはなかった
「なぁ、雀螺。アレは…」
「師匠さ、あんなに怖いと思わなかったよね。」
少し食い気味に言われる
「…うん」
ぽつぽつと、雀螺は語り始める
「最初は突然威嚇されたから、ナマイキだなって思った。ナイショだよ?」
「黙っとくよ。」
「ありがと。それでさ、幽々子サマがあんな感じだからすぐここに住むことが決まって、その後はずーーっと家事と鍛錬の日々を送ってたワケ」
「うん。大体は聞いてる」
思い出して、楽しい記憶が蘇ったのか彼女は微笑んでいる
と思えば次の瞬間にはまた表情を変え
「話が早い!まぁそれでボクはここでめきめき強くなってったんだけど、やっぱり足りないものがあるよなぁって思ってたんだよね〜」
「足りないもの?」
急に元気になる。本当にこの子は読めない
「それはですねェ…」
紫「専用の武器、でしょう?」
雀「うわっ、出た!」
「失礼だなぁ」
不意に現れる紫さん
神出鬼没とはこの人の為にあるような言葉だ
紫「貴女には一度しっかり負けを経験してほしかったのよ。それで得られるものは大きいし、ね?」
雀「だからずゥーーーーっと見てるだけだったんですか」
紫「そ。その通り」
露骨に不機嫌になる雀螺と、動じない紫さん
ただ、この話の流れなら
「…今なら、何か与えられるものがあると?」
紫「…ご明察。」
紫さんは微笑んで、ゆっくりとした動きで懐から何かを取りだした
雀「………ちっちゃ!!」
紫「あら、それじゃあ要らない?」
雀「要る!!!!!!!!!!!!!!!」
ついさっきまでの落ち着きは何処へやら
雀螺は子供のように目を輝かせていた
紫「素直でよろしい。さぁ、どうぞ」
雀「ありがたや〜〜……って、なんだこりゃ、お財布?」
紫さんはお菓子でもあげるような手つきでソレを手渡す
パッと見は手のひらサイズの黒いがま口財布だった
仰々しい動きでその手の物を受け取った雀螺は、怪訝そうに眉をひそめる
紫「名前は…そうね、〔ポケット武器蔵〕とでも呼んでおきましょうか」
「めちゃくちゃ物騒じゃないですか」
突拍子もない命名に思わず口を挟んでしまった
雀「すごいすごい!!何でも出てくるよ!!!!!!」
「えっ?…うわ」
隣でガチャガチャやっているとは思っていたが、声に振り向くと刀剣の類が部屋に散乱していた
「……畳傷付けたら、また怒られるぞ」
雀「…ヤバっ」
紫「その名の通り、望む得物に最も近いものを取り寄せられる道具よ。色々と扱える貴女には最適でしょう」
慌てて武具の山を仕舞うと、雀螺は満足したようにふう、と息をついて
雀「すごいや!!紫サマありがとう!!!!!!!!!!」
「なんつーもんを…」
怪訝な顔をする俺に対して、彼女は初めて見るくらいの笑顔で礼を言った
紫「それと、加えて貴女には空のスペルカードも渡しておくわ。沢山の武器に触れて、特に気に入ったものを記録しておけばスムーズに使い分けられるはずよ」
雀「やったあ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「すごいな」
てっきり、スペルとして保存できるのは技そのものだけだと思っていたが、どうやらそんなことはないようだ
紫「あぁ、貴方にもどうぞ。後で必要になるから大事に持っていてね」
「後で、ですか?」
渡されたのは白紙のスペルカード、その数10枚
ちょっと多過ぎやしないかと思った
つーか後で、だって?
紫「それから、貴方にはお話があるから、今夜付き合ってね。」
「了解です」
雀「じゃあ夕食まではボクに付き合ってよ、氷雨クン」
「……何に?」
嫌な予感はしていた
それは間を置かずに的中することになる
雀「勿論、試し斬りだよ!!!!」
新しい道具を手に入れたら、試したくなるものだ
だから雀螺の気持ちもよくわかるんだけども。
「本当に俺はコイツでいいのか?」
「いいよ!!!!!!」
手の内の得物を改める
それは俺にしか抜けない白鞘の刀であり、生半可な得物なら容易く斬り裂いてしまうものだ
…だからこそなのかもしれない
雀螺の標的は、変わらず妖夢さんなのだ
つまり楼観剣と打ち合える得物でなければ相手にすらならない
それを見定めるためというなら、正しい選択なのかも
〔決闘舞台〕は白玉楼にも一つ配られていた
使い方は教わっているので、展開する
「準備は?」
「万全だよ!!!!!!」
「なら、始めるぞ」
力を貸してくれ、と一言かけて、俺は白鞘から刃を解き放つ
それが纏う妖気は相変わらず桁違いで、幾度か見ているのに未だ慣れることはなく、頼もしさよりも微かに恐怖が上回った
雀螺はというと、がま口から飛び出した柄を握って勢いよく一振りの刀を抜いていた
紫さん由来の品だから、アレからは何が出てきても不思議ではない
「いっくぞーー!!!!!!!!!!!!」
「来い!!!!!!」
大声で叫ぶ雀螺に合わせて声を張り上げる
そうして始まった〔ポケット武器蔵〕の試用会は、妖夢さんが夕食だと呼びに来るまで延々と続いていた
妖「2人とも、その、大丈夫?」
雀「氷雨クンがイジめる〜〜〜〜〜〜」
「…いや、お前の殺意のほうがえげつねぇって…」
結果、現状マトモに打ち合える得物は三つだけだった
銘が何故か削り取られている霊気を纏った黒い鞘の脇差
異様に軽く、異常に薄く、それでいて折れも曲がりもしなかった短双刀
それから、雀螺の身長よりも長い特殊なカタチの薙刀
流石にあのがま口から薙刀がぬるっと出てきた時は驚いた
それと、以前霖之助さんに貰った防刃?のTシャツの効果も今回でハッキリした
どうやら刃物がこちらに当たりそうになると、体感時間が延長されるような術式が練りこんであるらしい
結果的に思考する時間が取れて、攻撃を防ぐのにも一役買うわけだ
以前妖夢さんに刺されそうになった時も、これが仕事をしてくれたんだろう
上記の得物を雀螺のカードに記録してその日は終わったのだが、試すどころか終始全力で襲いかかってくる雀螺をいなすのに俺は神経をすり減らし続け、雀螺もその気力を維持するのに体力を消耗し続けたので俺達は2人とも疲労困憊だった
妖「えと…ご飯、食べられそう?」
雀「詰め込む…!」
「胃に優しいものなら…」
まったりとした夕食の時間を終え、部屋に戻る
このあとは紫さんとのお話があるはず
なんのことだろうな、なんて考えていると、奇妙な音と共に縁側に降り立つ影があった
「今晩は、調子はどう?」
「良…くはないですね、まぁお話程度なら問題無いかと」
「そう。よかった」
紫さんだった。あの湧き方にも流石にそろそろ慣れてきたかな
俺も縁側に出て腰掛ける
すると、紫さんはすぐ隣に座ってきた
「で、何の話ですか?」
「そうねぇ、まず一つは貴方の得物の話かしら」
「俺の…」
傍らの白鞘を撫でる
確かにこれについては謎ばかりだ
ぽっと出の外来人には似つかわしくない、格の違う力を秘めた妖刀
その名前すら、俺はまだ知らない
「素直な感想でいいわ、ソレには何が封じられていると思う?」
「封…え?」
「あら、そもそもそこにも至っていなかったのね」
小さく笑う紫さん
そっか、力を貸す意思があるのなら何者かがそこに居ても不思議じゃないんだ
謎の声の件もあったのに何故そんなことを考えもしなかったのか、我ながら理解に苦しむ
「そう、ですね。今までの事から考えて、素直に火を操る力に特化した者だと考えられます」
「良い勘をしてる。じゃあ質問を変えましょう、その名はなんだと思う?」
「…えっ、名前、ですか」
「そう、名前。」
「うーーーーーん…」
名前。名前だって?
刀そのものじゃなく、ナカミの名前……
「思ったまま言ってみていいのよ。間違えたからって何が起こるわけでもないのだし」
紫さんは微笑んでいるが、その笑顔には少し含みを感じた
今までのことを振り返る
こいつはいつも圧倒的なまでの妖力で俺を助けてくれた
ただの火とか炎で表せるチカラではない
けれど、個人名のような推測が実質的に不可能なものであるなら、そもそもこの問いは成立しないだろう
そう考えて、俺は
「──」
口を開きかけると、視界の端で何かが動いてすぐ消えた
気にせず改めて、浮かんだ単語を口にする
「────ほむら。」
口にすると、頭の中でなにかがカチリとハマったような感覚があった
同時に、目の前の庭でドサリと物音
妖「ダメです氷雨さん!!間違えばあなたは!!!…あれ?」
紫「心配いらないわ。ご覧の通りよ」
「……え、間違えばどうなってたんですか」
微笑む紫さんと、未だ緊張した面持ちの妖夢さん
答えを聞く前に異変は起きた
『嗚呼、漸くまた───』
今度はハッキリと聞こえた
「お前が、そう、なのか」
白鞘が震える
手に取り微かに抜くと、以前のように熱風が噴き出すことは無く、その白刃の根元に一文字、[焔]と刻み込まれていた
妖「間違えば、あなたはその刀に拒絶されて最悪死んでいたかもしれないんです。よかった、本当に」
紫「あら、そうなったらちゃんと匿うつもりだったわよ。もう少し信頼してくれてもいいんじゃないかしら?」
?「まぁ───答えなんて、無かったんですけれど、ね」
「ッ!?」
背後から、声
思わず飛び退いて振り返ると
?「あら、あら。そんなに驚くことはないでしょう?ずうっと傍に居たのですから」
そこには優しく微笑む、燃えるような紅い色をした異様に長い髪の、所謂白無垢を着た女性が座っていた
目は閉じられており、肌は病的なまでの白さ
故に髪の紅が際立っている
紫「………もう、ここまで」
紫さんはなにかを小さく呟く
妖夢さんはというと、突然現れた彼女に怯えた目を向けていた
俺はといえば、彼女に今まで接したどの力とも違う力を感じていて、正直気圧されていた
「…焔、でいいのか?」
?「えぇ、ええ。貴方がそう呼ぶんですもの、私の名はそれに違いないわ。そうでしょう、紫?」
紫「そうね。貴女は間違いなく、焔という名よ」
瞳を閉じたまま、正しく紫さんの方へカオを向ける彼女
淀みなく、確かめるように答える紫さん
落ち着いて満ち足りたような、嬉々とした様子の彼女は、紫さんの言葉を聞いてやはり心底嬉しそうにその胸を撫で下ろした
焔「私は焔。貴方様の、ただの焔。改めて、これからも宜しくお願い致しますね。」
彼女は俺に向かって深々と頭を下げる
俺も応えようと口を開いたが、直後に吹いた風が霧を解くように、それを消し飛ばした