焔が消えたあとの静寂を破ったのは、激しく咳き込む声だった
妖「…カハっ、は、ぁ、っげほ、ッはぁ」
「妖夢さん!?」
慌てて駆け寄り、ひとまず背中をさする
かなり体温が低く感じるし、震えていた
顔色も酷い。なんでこんな…
妖「ごめ、息、できてなく、ごほっ、ゲホッゲホッ」
紫「だから来ないように言っておいたのに、仕方ない子ね」
暫くして妖夢さんが落ち着きを取り戻したあと、俺は訊ねた
「あれは、焔とは、なんなんですか」
問われた紫さんは、珍しく神妙な面持ちになる
紫「そうね、言うなれば位がひとつ違う存在。……そう、その始まりは幻想郷の歴史よりも更に遡ることになるわ」
「それは……どういう…」
なんだか壮大な話になりそうだ
少し覚悟しないといけないかもしれないと思い、じっと彼女の瞳を見つめる
すると、その瞳は瞼に隠された
紫「…と思ったけれど、話はここでおしまい。この先はまた今度ね」
いたずらっぽい笑みを浮かべて、話を中断される
「えぇーーーーーーーーー」
紫「ふふ、全てを明かすにはまだ早いもの。それに謎が残っている方が楽しいでしょう?」
それはそうだけど、あんまり勿体ぶられてもな、とも思う
妖「それにしても初めてです。あんな、息ひとつすら死に直結しそうな緊張感は」
「……そんなにヤバかったのか」
紫「貴方には毛ほども圧をかけていないもの。分からないのも仕方ないわ」
この二人をしてこうまで言わせる存在、相当ヤバい事だけはわかる
わかるんだけど
「なんか、■■■■■、だったような」
呟いて、今のは誰の言葉だと我に返る
紫「いま、なんて?」
「ごめんなさい、なんでもないです」
紫「そう。ひとまず私の用事は終わったから、解散にしましょうか。妖夢は、もし怖かったら氷雨くんと一緒に寝るといいわ。彼の傍に居ればあれは悪さをしないでしょうから」
ん?
妖「…え、逆じゃないんですか?その、なんというか、薄らと彼に対する執着のようなものがあった気がして」
え?
紫「言うことは素直に聞くものよ。まぁ気にしないのであればいつも通りでいいでしょう。またね、二人とも」
手をひらひらと振って、紫さんはいつも通りスキマに呑まれていった
残された俺たちは顔を見合わせる
「…どうする?」
妖「どう、しましょうね」
少しして、妖夢さんは布団を持ってきて横に寝るなら問題無かろうという結論に至ったらしい
駆け足で自室に戻る背中を見送って、俺は小さく唸るのであった
翌朝、妖夢さんは元気に自室へ戻っていった
俺は残念ながら、一睡もできていない
まあ、この程度で救われたのならよしとしよう
妖「今日からは、決闘舞台を活用して実戦経験を積んでいきましょう」
「マジすか」
雀「アレってそんな沢山使っても大丈夫なの?」
紫「問題無いわ。副作用も特にないし、むしろうってつけね」
「おはようございます」
紫「…ひどい顔。どうしたのよ」
「誰のせいだと…………?」
朝食を済ませて俺と雀螺は早速庭へ出る
…正直気が進まないけれど、俺の得物は焔だけだ
試しに小さく名を呼んでみると、応えるようにその白鞘に震えが走った
雀「準備はいいかい、氷雨クン?」
「…ああ。───焔!!!」
大きく息を吸って、その名を呼んだ
『必ずや、お役に立ちましょう』
確と柄を握り締め、抜刀する
輝き方が違うことには、すぐに気付いた
煌々と白金に燃えていた刀身は、今や"彼女"の髪と同じ紅に染まっている
逆に、纏う妖気の方が色を失い、それがかえって未知数の力を宿しているように思えた
雀「スゴい、、、けど負けないよ!」
雀螺は、スペルカードに武器を紐付けている
故に初手は必ず何れかのスペルから切ってくるのだ
秘刀[ツルギマイ・一閃]───
〔ポケット武器蔵〕から瞬時に抜かれた刀で距離を詰めてくる
雀「はああああ!!!!!!」
「うおおおおお!!!!!!」
────────────
そうして、一ヶ月が経った
雀螺はスペルカードに記録する武器を更に1本増やし、4本全てを順に使うコンボ技をも開発していた
俺の方はというと、基礎体力の向上はもちろん、焔と対話できるようになったことで使えるスペルが大幅に増えたのが大きかった
劫火も含め4つ、余りは6枚もあるが、この調子ならやがて埋まる……のか?
焔の力を借り過ぎることに恐れはあるが、そうも言っていられないらしい
なにより、雀螺に置いていかれたくなかった
そんなこんなで鍛錬の日々を経て大きく成長した俺は、紫さんにひとまずの合格点を貰うことができたのだった
紫「というわけで、あなたを次の所へ連れて行くわ。お別れは済ませた?」
「はい。昨晩一通りは」
雀「うむ!よきにはからえ!!」
妖「お元気で。もっと強くなられると、私は少し困っちゃうんですけど…」
幽「まあまぁ、それも氷雨くん次第よ。私は大いに期待しているわ」
「はい、ご期待に沿えるように頑張ります」
ここへ来て初めに見た、大きな門が正しく外へ開いていく
なんだか感慨深い
最初はそれはひどいものだったからなぁ
雀螺に襲われて、妖夢さんと戦って、なんやかんやあって
あの時見た一面の桜は、今はその花を散らして青い葉をつけている
手を振る3人に見送られて、白玉楼をあとにする
ここで過ごした日々は、とてもよいものだった。と思う
大変なことも多かったけれど、いい経験になったハズだ
次にここへ来る時には、もっと強くなっていたい
いや、帰ってくるんだ
いつか、ここにまた桜が咲く頃には
長い長い石階段を降りていく
少しずつ遠ざかる皆の姿を目に焼き付けて
───直後俺たちは、足元に大きく口を開けたスキマに落ちることになった