東方氷焔録   作:ゆーきあいのそんさん

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7章 -鬼は鬼でも- 前編

 

 

感慨に耽りながら石段を降りていた俺たちは、突然足元に口を開けたスキマへと落ちることとなった

距離があり過ぎるからショートカットする意図だったらしい

 

 

白玉楼での修行も一段落

次のステップへ進むとかで、俺は地獄に連れてこられている

 

行き先は地獄、と言われてビビってたけどパッと見普通の街並みだ

江戸の時代の長屋みたいな、俺の時代ではもう無いような様式だけど

 

 

「それで紫さん、次はどんな人のところに?」

 

「人じゃないわ。次の先生は鬼よ」

 

「鬼。」

 

鬼ってアレだろうか、筋骨隆々で肌が赤かったり青かったりして角がどーんって生えてる怖いヤツ

 

どんな修行なのかな

筋トレがメインだったらやだな

 

「何を考えてるのか大体察しがつくけれど、思ってるよりはマシだと思うわよ?」

 

「あ、ホントですか?」

 

「勿論。私、嘘はつかないもの」

 

「途端に信憑性無くなりましたね」

 

ガン無視で歩みを進める紫さん

やがて、五階建てほどの大きくて立派な屋敷に辿り着いた

 

これやっぱりゴリゴリの赤鬼とかが出てくるやつじゃないか

ほら、ずしんずしんって足音が…

 

バゴォン!

 

「なんの音!?」

 

?「退いてくれーーー!!!」

 

直後、空から降ってくる影がひとつ

 

紫「…喧しいわね」

 

手を振ると空の影は消え、代わりに傍らにスキマが開く

 

そこから落ちてきたのは、大柄でぶかぶかの半纏を着た

 

浅黒い肌と立派な二本角の、紛れもない”鬼”だった

 

 

?「おお、こりゃ紫様のスキマか。助かりました」

 

彼は紫さんに仰々しく頭を下げる

声も案外優しげだ

 

紫「素直で宜しい。それで、この騒ぎは何?」

 

?「いやぁースイカに誘われて呑んでたんすけど、どうやらそれがユウギの姐さん秘蔵の酒だったらしくて」

 

紫「あぁ、お酒の恨みは怖いものね」

 

参ったというようなジェスチャーをする鬼と、クスクス笑う紫さん

 

 

ユウギって人の酒を勝手に飲んじゃったからお仕置きされてたってとこか

見上げると、屋敷の4階の壁に穴が空いていた

 

…あそこからぶん投げたのか…?

雑に2メーターはありそうなこの鬼を...?

 

ユウギってのはどんな馬鹿力の大鬼なんだ……

 

?「まあ俺も悪いんで仕方ないっス。あれ、コイツは?」

 

苦笑した彼は俺の存在に気付くと、尋ねてきた

 

「えーと初めまして、俺は神凪 氷雨です。わりと最近こっちに来て、白玉楼で剣を学んできました」

 

?「おぉ!外来人か!そしたら俺の後輩ってことになるな!」

 

彼は豪快に笑ってそう言った

後輩…ってことはつまり

 

紫「そう。彼は紫動 一鬼(シドウ イツキ)よ。貴方と同じ外来人で、3年ほど先輩になるのかしら」

 

一「そうっすね、大体そのくらいのハズ。見てくれはもうすっかり鬼だけど、これでも元は人間なんだぜ?」

 

元は。か

 

 

「え、てっきり現世に隠れながら生きる鬼を攫ってきたのかと思ってました」

 

紫「あの時代まで生きてる鬼なんて萎びちゃって使い物にならないわよ。彼はそもそも戦力増強の為に呼びつけたんだし」

 

…え、生きてるんだ。鬼。

 

「戦力。なにか戦争みたいなものが?」

 

紫「あったわ。まあでもそれに関しては追々、ね」

 

それでと紫さんが何か言いかけると、おもむろに空を見上げた

 

 

俺も釣られて上を向く

…また何か降ってきている

 

?「一鬼〜〜!クッション!!」

 

一「了解!!!」

 

幼げの残る女の子の声だった

受け止めろってことだろうか

 

そんなことを思ったが、彼は思ってもいない行動をした

 

山ほどのクッションを吐き出したのだ

繰り返すが、山ほどのクッションを吐き出した

 

比喩でなく、実際に山ほどのクッションを吐き出したのだ

 

見事にクッションで女の子を受け止めると、彼女が地面に降りたと同時にその山は姿を消した

 

 

「一鬼さん、その、それは…?」

 

一「あぁ、これは俺の<全てを喰らい貯める程度の能力>だよ。文字通りなんでも食って貯えて、好きな時に出せるんだ」

 

「能力。」

 

?「いや〜助かったよ一鬼、私もぶん投げられちゃってさ〜」

 

一「スイカもか。まあ仕方ないだろ」

 

疑問を抱く俺とは違って、呑気な様子で言うのはスイカと呼ばれた小柄な女の子

白いノースリーブに紫のロングスカートと、橙色のロングヘア

それから腕のように長いツノが、頭の左右に二本

手足に鎖と鉄球までついている

 

…あとデカい瓢箪を持っている。成人…いや成鬼なのか?

 

スイカ「おンやァ?ここらじゃ見ない顔だ。キミはどこの子かなぁ」

 

にこにこと見上げてくる彼女はとても愛らしい

けどそれはそれとしてかなりの酒気を帯びていて、側に居るだけで俺まで酔ってしまいそうな程だった

 

紫「話は後にしたほうが良さそうよ?」

 

紫さんが言うや否や、少し遠くに衝撃音

またなにか落ちてきたのか?と思ったが違うらしい

 

?「すぅーーいーーかァーー!!」

 

走ってきたのは明らかな怒気に身を包んだ、立派な一本角の

 

滅茶苦茶スタイルのいい美人だった

服装は、スイカさんとあまり変わらないように見える

 

?「お前らこの程度で許されると思ったら大間…違、い、、あれ紫サマ、私らになんか用かい?」

 

近付くにつれ速度を落とした彼女は、俺を一瞥すると隣の紫さんに訊ねた

 

紫「久しぶり、ユウギ。今日はこの子を預けに来たのよ」

 

そう言って俺を指す

自己紹介する流れだと思って俺は口を開きかけたが、その前にユウギと呼ばれたヒトが一鬼さんとスイカさんに拳骨を食らわせていた

 

「わぁ…」

 

「「すみませんでした!」」

 

2人揃って土下座している

このユウギって人は相当強くて偉いらしい

 

ユウギ「あぁすまないね、あんたが喋ろうとしたのにコイツらが逃げようとしたもんだからさ。続けていいよ」

 

「え、っと、外来人の神凪 氷雨です。白玉楼で剣術を学んできました」

 

勇儀「うんうん。私は星熊 勇儀(ホシグマ ユウギ)だ。こっちのデカいのが紫動 一鬼で、ちっこいのが伊吹 萃香(イブキ スイカ)な」

 

名前を呼ばれると一鬼さんは頷いて、萃香さんは小さく手を振った

 

「勇儀さんに一鬼さんに萃香さん、よろしくお願いします」

 

「「「よろしく!」」」

 

綺麗に揃った返事に微笑む

とても仲が良いんだろうな、と思った

 

紫「それで、ここですることなのだけど」

 

勇「そう、それが気になってたんだ。私たちに何をさせようってんだい?」

 

紫「彼にね、“能力”の事を教えてあげてほしいのよ」

 

能力。何度か出てきている単語だ

紫さんのスキマを繰るチカラもそうだし、聞いたところによると雀螺の武器適性もそれらしい

 

勇「──そんなところから?」

紫「そう。そんなところから」

 

めちゃくちゃ初歩的な話らしい

知ろうとしなかった俺にも原因はあるが

 

勇「じゃあひとまず、今の実力でも見ておこうか」

 

勇儀さんはこちらを見てにやりと笑った

力試しの方法は聞くまでもない

紫さんが頷くのとほぼ同時に、〔決闘舞台〕が展開された

 

他三名は、いつの間にか離脱している

 

「お手柔らかに…」

勇「さァて、どうだか。それはあんた次第さ」

 

先の暖かみのある微笑みはどこへやら

今の彼女は、正しく鬼と呼ぶに相応しい表情をしていた

 

「…頑張る、しかないか」

 

『ええ、ええ。たかが鬼の一匹如き、貴方の敵ではないでしょう』

 

焔は、呼ばれずとも声を返してくるようになった

それがいい事なのかは、まだ分からない

 

ゆっくりと抜刀して、正面に構える

刀身に纏う妖気は普段より荒れているように見えた

 

勇「いい得物だ。そそられるねェ」

 

彼女も構える

素手だ。けれど、威圧感は正直妖夢さんよりも強かった

肌がヒリつく感覚、こういうのを闘気というんだろうか

 

 

紫「準備はよさそうね。決闘、開始!!」

 

宣言を聞くや否や、勇儀さんが突っ込んでくる

 

「初手からトバし過ぎ、だろ…!」

彼女は尋常じゃない威力の拳を連続で打ち込んでくる

俺は防御の構えをとっているが、それもいつまでもつだろう

 

 

 

さて、白玉楼で鍛錬を積むうちに、決闘舞台の仕様についていろいろと分かったことがあった

 

ひとつ、霊珠を使った防御をする際には適切な構えをとる必要が無いこと

これは霊珠の主な用途であり力で、必要に応じて指向性の結界を張っているかららしい

流石に大まかな方向は合わせないとならないけど、防御に関して考えることが減ったのは大きな収穫だった

 

「耐えるね。じゃあこれはどうだい!!」

 

ラチが開かないと踏んだ彼女は飛び退き、霊珠に力を込めて弾幕を展開した

身体を丸ごと隠すほどの直進する大玉と、それに付随する無数の小玉の弾幕だ

 

それだけ。だから、突破できる

 

 

 

もうひとつ、決闘舞台内でのダッシュ及び霊珠による飛翔中は、弾幕の当たり判定を相殺できること

前述の通り霊珠には主に守護の力が貯えられており、それを適切に引き出せれば移動中にも展開できる

結果として、物理攻撃よりも威力の低い弾幕相手なら無視して駆け抜けられる、ということのようだった

 

…未だ物理攻撃よりも強力な弾幕には試していない

 

「うおおおお!!!」

弾幕の只中を駆け抜け、その先の相手に向かって大きく刃を振り上げる

 

───[壱式・劫火]

燃え盛る紅蓮の刃で大上段から斬り掛かる

 

「なんだそりゃあ!?」

弾幕を抜けてくることも想定していなかったらしい

不意討ち故に、防御の構えも半端だ

 

「甘い…ッ!」

一瞬力を抜き、刃の妖力を繰って上段からの力を下段からの逆袈裟に転換する

 

次の瞬間ガシャン、と派手な音を立てて防御の結界が崩壊した

 

 

 

もうひとつ、霊珠は上手く攻撃を重ねれば破壊することが出来る

本来なら五つの霊珠を順に削っていくことになるが、こうして威力の高い攻撃を、短時間に複数回別方向から防御させることが出来れば段階を飛ばして全て破壊できるのだ

 

 

「…やるじゃないか。思ったよりもずっと楽しめそうだ」

「そりゃどーも。」

 

不利な状況に陥ったはずの彼女は、しかし愉しげに笑っていた

 

 

 

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