東方氷焔録   作:ゆーきあいのそんさん

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8章 -幻想郷に於ける常識- 前編

 

 

「…ヒマだ」

 

此処へ来て初めて見た、例の館のうちの一部屋

そこで俺はため息をつく

 

 

俺が立って歩けるようになったのは、勇儀さんとの試合から実に2週間後のことだった

 

八意 永琳(ヤゴコロ エイリン)というヒトが主治医として俺を診てくれることになっていて、以前萃香さんが言ってたえーりんというのが彼女らしい

 

白のスーパーロングヘアをひとつの三つ編みにした髪型と、赤と青の服を縦に割って継ぎ接ぎしたような不思議な色使いの服を着ていて、曰く幻想郷の重傷者の殆どは彼女の手によって救われているとかなんとか

 

あの時の観衆の証言と彼女の診察の結果だが

ほとんど残っていなかった体力を遥かに上回る威力を持つ攻撃─『三歩必殺』をマトモに受けた俺は、焔がその膨大な妖力を体力に直結させて肩代わりすることでなんとか死を免れたらしい

 

それによって焔の妖力の一部を一時的に失い、あの幼い姿になったそうだ

 

 

「まぁ、紫の言うことが確かなら、アレをそこまで心配することもないでしょう。とにかく貴方は私の言う事を聞いて、しっかりと静養して傷を癒してね」

 

「……わかりました。ありがとうございます」

 

倒れ伏す俺を護らんとした小さな焔は、その躰に見合わぬ異様なまでの圧で暫く誰も近寄らせなかったが、やがて力尽きたように倒れて、霞のように消えた。と萃香さんが言っていた

 

今までも何度か呼び掛けたが、意志のカケラのようなものを感じるだけでまだ対話できるほどには回復していないようだった

 

 

 

そして、大人しく指示に従って静養を続けていたある日のこと

 

「ところで氷雨ぇ、あんた決闘舞台の外で戦ったことはあるのかい?」

「んー、思い返してみるとあんまり無いかもです」

 

今日は見舞いに来た萃香さんと話していた

酒の匂いは前より少し濃い気がする

 

「それじゃあ〜あれかい?もしかして空飛んだりするのはまだ出来ないのかなぁ」

 

「……もしかして、出来るのが普通なんですか?」

「勿論。というか、じゃないと弾幕ごっこが成り立たないでしょ〜」

 

言われてみればそうだ。でも何をどうすりゃ空を飛ぶなんて実現できるんだろう

 

「しばらく激しい運動はできないだろうし、丁度いいからそっちの練習をしてみるのもいいんじゃないかなぁ」

 

「それは確かに良さそうなんですけど、何がなにやら全くなので、よければ教えてもらえませんか?」

 

「あ〜〜〜……そういうのは他所に頼む方が良さそうだ。明日にでも適当に連れてくるからさ」

 

「了解です」

 

そいじゃねー、とふらふらした動きで帰る萃香さんを見送って、俺は改めて傍らの白鞘に触れて、微かな反応を認めてから眠ることにした

 

 

 

翌日萃香さんが連れて来たのは、黄色と青を基調とした東欧風?の服を着た女の子だった

深い森のような色の瞳とウェーブのかかった金髪セミロング

例によって美人さんなんだけど……何故かものすっごいじっとりとした視線をこちらに向けている

 

?「……男じゃない。帰っていい?」

萃「だーめ。あんただって紫には借りがあるでしょ?」

?「……………はーぁ。わかったわよ。」

 

態とらしく肩まで使って、嫌そうに、心底嫌そうにため息をつかれた

 

「えっと…はじめまして?」

 

?「………………」

 

じろり、と

 

品定めするような視線を向けられて、思わずたじろぐ

 

 

?「…アンタ、今、楽しい?」

「今、は…退屈ですね。殆ど寝てばっかなので」

?「そりゃそうか。そうじゃないんだけど、まぁいいわ。」

 

呆れた様子と、諦めたような口ぶり

厭世的なものを感じた

少しだけ、ほんのちょっとだけのシンパシーも

 

パル「私の名前は水橋(ミズハシ)パルスィ。<嫉妬心を操る程度の能力>を持ってるわ。よろしく。」

「嫉妬心……俺は神凪 氷雨です。よろしくお願いします」

 

せっかくなのでと握手を求めたが、何を考えてるんだと言いたげな視線で拒否された

 

萃「それじゃあ後はお若いの同士で〜」

パル「はぁ!?アンタはどうするのよ!!」

萃「私は適役じゃないからお暇するよ〜」

 

言うや否や、萃香さんは霧のようなものになってさっさと居なくなってしまった

適役、というのもよく分からないけどそれよりも

 

パル「はぁ………………………………」

 

これ、どうしたらいいんだろう

 

 

 

 

暫くして、死ぬほど気まずい空気に耐え切れず、俺は口を開いた

 

「とりあえず、飛び方?というものを教わるって聞いてたんですけど

「あーあー、その言葉遣い。面倒臭いから普通に喋っていいわよ。その方がラクでしょ、いろいろと」

 

「…わかった。ありがとう」

「…ふん……」

 

やれやれ、といったジェスチャーをするパルスィさん

もしかしてこの人、不器用なだけなのかなと思った

 

「そうね、それで飛び方ってやつだけれど。」

「うん。どうしたらいいのかな」

「正直、意識したこともないのよね。だから何を教えればいいのかも分かってないのよ」

 

「…………マジで。」

 

初手で詰んでるんだが。萃香さん?

 

「でも、そう、聞くところによるとたしかアンタ目がいいんでしょ?それなら私が飛んでるところとか見れば何か分かるんじゃないかしら」

「天才か?」

「…は?イヤミ?」

 

マズった。つい軽口が飛び出してしまった

話しやすいからだろうか。気を付けよう

 

「とりあえずちょっと飛んでみるから、なんか分かったら教えて」

「りょうかーい」

 

言うと、彼女はすぐにふわりと浮かぶ

決闘舞台では腰周りに霊珠を纏っていたから、そこに鍵があるかもしれないと考えてそこに注目した

 

 

 

……断じて、誓って下心は無かった

信じてほしい。神様仏様パルスィ様、私は無実です

 

「あー、えっと、もうちょっと高度と動きを抑えてもらえると助かるんだけど……」

 

「んー?────ッ!?」

 

そう、細かく表現すると、彼女は上が着物?で下が比較的短いスカートといった装いだった

 

まぁそういうことである

 

間もなくして、俺は渾身の平手を貰うことになった

 

 

「どう?何かわかった?」

 

「うん。結構面白いことが起きてるみたい」

 

「ふぅん…面白いこと、ねぇ」

 

結論から言うと、腰周りに注目したのは正解だった

空を飛ぶ、なんて表現すると大きな推力や浮力が要りそうだけど、目の前で起きている現象はそんな激しいものじゃない

 

これは…そう、例えるなら比重の違う液体を同じ容器に入れた時の動きのようなものだった

 

「無意識に身に纏うチカラ…パルスィの場合なら妖気を調節することで飛びたければ薄く、降りたければ濃くして動いてるみたいだ」

 

「上下の動きはそれでわかるけど、その理屈だと進んだり戻ったりは出来なくない?」

 

「そこはまあまあな量の妖気の放出で賄ってるみたい。それも無意識?」

 

「あー、確かに言われてみれば、前に進もうって時は少し力んでたような気もするわ」

 

「多分そんな感じだと思う。見せてくれてありがとうね」

 

「いいわよ、このくらい。最近ヒマだしね」

 

「そうなんだ。とりあえず少し試してみる」

「ん。」

 

 

と、試してみようとして気付く

 

そういえば俺は、焔の力を借りる時以外で妖力を操ったことが無いんだ

 

最初に魔理沙と会った時に少し使った気がするけど、それきりだったはずだ

 

「どうしたのよ。動いてすらいないじゃない」

 

「………長い戦いになりそう」

 

「それってどういう───まさか。」

 

「…………………はい。そういうことです。」

 

 

そうしてその日は、初歩の初歩である妖力の放出の練習から始めることになったのだった

 

 

 

 

4日後、屋外にて

 

「だいぶマシになってきたんじゃない?」

 

「そうかも。先生が優秀だからかな」

「うるさ。」

 

やっと集中する工程を飛ばして妖力の放出が出来るようになった

とはいえその出力がまだまだ不安定なので、飛んだりするにはもう暫くかかりそうだ

 

「というか、連日来てくれてありがとう」

 

「ヒマだ、って言ったでしょ。それにアンタが下手打ってケガでもされたら面倒だし。目付け役の私のせいにされるんだから、気を付けてよね」

 

「…気を付けます」

 

なんやかんやで、彼女はちゃんと練習に付き合ってくれている

面倒臭がりなのに面倒見がいいから、きっと苦労してるだろうなと思った

 

 

 

 

8日目

 

俺は先日退院?をして、長屋を一つ借りていた

 

朝起きて、なんやかんやと身支度をして練習に行く日々

努力の結果、わりと妖力の扱いにも慣れてきた俺には、雑談をする余裕も出てきていた

 

「そういえば、こないだ言ってた能力。あれってどんなもの?」

 

「んー?あぁ、私のは参考にならないと思うけど、聞きたい?」

「是非。」

 

「なんでちょっと食い気味なのよ……いいけどさ」

 

そうして聞けたのは、彼女の<嫉妬心を操る程度の能力>の概要と使用例だった

 

敵味方問わず自在に心に干渉して、その内の嫉妬心にのみ働きかけて煽ったり抑えたりする能力

それによって自らの力を増す事も出来るらしく、敵に回したら厄介だろうなと思った

 

「例えば………ほら、これ。どう?」

 

「すご。揃ったところ初めて見たかも」

 

今日の彼女は手慰みにとルービックキューブを持ってきている

それを喋りながら完成させて、こちらへ見せてきた

 

「でしょ。それで、そのすごいってわりと真っ直ぐな気持ちからでも嫉妬を吸い出したりできるのよ」

 

言いながら、俺を見つめる

すると、胸が微かに痛んで、直後彼女の妖力が目に見えて増大した

 

「…結構えげつない能力じゃ…?」

「知ってる。だから私は嫌われ者なのよ」

 

自慢げだった表情が、その瞬間に暗くなる

以前、萃香さんも似たような顔をしていたことを思い出した

 

「使い方次第だと思うけどなー」

 

「ふん。軽い言葉ね」

 

あしらうような口ぶりだった

けれど、少しだけその声は明るく聞こえて

 

 

直後

 

「こら、集中!!」

 

無意識に緩んだ頬をつねられるのだった

 

 

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