東方氷焔録   作:ゆーきあいのそんさん

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8章 -幻想郷に於ける常識- 中編

 

 

10日目、いつもの待ち合わせ場所

パルスィは今日も来ていた

 

「そろそろ試してみてもいいんじゃない?」

「んー、そうかな。やってみるか」

 

パルスィは小さく頷いて、すっかり見守る姿勢になる

 

 

以前飛ぶ様子を見せてもらった時の妖力の揺らぎ

それを思い出して、再現を試みる

 

まず始めに妖力を全身に纏い、大気中の妖気と馴染ませていく

 

「ん…むむ……うわっ!」

次にその濃度を調節…するつもりが、加減を誤った結果、足元を掬われたようなかたちで転倒することになった

 

「…ふはっ、マヌケな顔」

「これ無意識って、やっぱ天才じゃない…?」

「アンタが言うなら、まぁ、そうなのかも」

 

始めて彼女の気の抜けた笑顔を見た。気がした。

 

 

「私も一緒に飛んであげる。見ながらのが捗るんじゃない?」

「それすごい助かる。ありがとう」

 

そうしてその日の解散する時間になる頃、パルスィの協力もあって俺は短時間だが浮くことができるようになっていた

 

 

「じゃ、また明日ね。」

「うん。今日もありがとう、またね」

 

ひらひらと手を振る彼女は、今まで見た中で一番楽しそうなカオをしていた

 

 

 

翌日

 

「おはよ。今日は飛べそう?」

「どーかな、頑張りはするけど」

 

集合したのは、昨日より少しだけ早い時間

なんとなく落ち着かなくて早く出てみたら、パルスィも同じく早めに着いていたらしい

 

「ま、浮かんだら飛ぶのなんてすぐでしょ。出来るわよきっと 」

「妙に機嫌良くない?なんかあった?」

「あら。私の機嫌が良いと何か不都合でも? 」

「いや別に……」

 

声も身振りも上向きで、いつになく上機嫌なパルスィに見守られながら、今日も俺は飛ぶ練習をする

 

挑戦する度にほんの少しずつ、秒単位だけど浮いていられる時間が延びていくのが面白かった

 

 

 

「アンタさ、案外ドライよね」

「む?」

 

時間にして2分ほど浮いていられるようになった頃、パルスィは急にそう言った

 

「他人に期待してないでしょ。基本的に何も出来ないと思ってる」

 

「んん、まぁ、確かに」

 

言われてみればそうだ、と思った

だから他人の言動に対して褒めはしても幻滅したりすることは無い

なにせ最初からマイナスで見てるんだから、そこから下がることはないのだ

 

「うん。じゃないとここまで捻くれられないものね」

「…褒めてる?貶してる?」

 

俺の問いに、パルスィは人差し指を口元に当ててうーんと唸ってみせた

いや迷うのかよそこ。

 

「多分、褒めてる。褒めてるし、だから気楽だし、そんなアンタと居る時間は好きよ」

「お、おう」

「出た、日陰者特有の反応。」

「うるさ。」

 

 

そんなこんなで軽口を叩きながら練習を続けて、日が暮れる頃にはさほど集中せずに浮遊状態を5分程度まで維持できるようになっていた

 

「そうそう、飛べるようになったら呼んでって紫様が言ってたのよね」

「ほー。なんかあるのかな」

「多分、ね。じゃあまた明日」

「おー。またね」

 

手を振り合って、別れる

彼女の足取りが軽そうに見えたのは、錯覚じゃなかったと思う

 

 

 

 

 

その次の日、いつもの場所に向かうとそこにはパルスィではなく一鬼さんがいた

 

「よっ。」

「あれ、どうしたんですか?」

「んー、なんか今日は都合が悪かったらしいぞ。そんで俺が代わりに来たわけだ」

「なるほど。じゃあ今日はよろしくお願いします」

「任せとけ!」

 

元気な一鬼さんに笑顔を返しながら、ふと、微かに胸の熱が引く感覚に気付いた

 

参ったな、昨日他人には期待してないって言ったばかりなのに。

 

軽く頭を振って、要らない気を散らす

そういえば一鬼さんって飛べるんだろうか

初対面の時は思いっきり落ちてきてたと思うけど

 

 

「さーて、今日俺が教えるのは飛ぶことじゃなくて空に立つ方法だ」

 

「………はい?」

 

理解が追い付かない。何を言ってるんだろう

 

「んーとな、簡単に言うと空気中の妖気を固めて即席の足場にする方法だ」

「あぁー…なるほど、そういう手も。」

「そうそう。俺は不器用だから飛んだりするのはいつまで経っても出来なくてな、代わりに編み出したのがそれってワケだ」

 

そう考えれば確かに、妖力の調節で飛ぶよりは簡単そうに思える

 

「たしかお前さんは妖気とかが見えるんだよな?よく見ててくれ」

「はーい」

 

言うと一鬼さんは屈んで垂直跳びをした

 

……軽く3mは跳んだ。大して深く屈んだわけでもないのに。

 

直後、彼の足元に超高密度の妖気の塊が生成され、質量を持つ足場になった

 

「えぇ…」

「どうだ?できそうか?」

「んん、と、どうかな………」

「難しいか…?」

 

 

彼は空気中の妖気を、と言ったけど実際には違っていた

恐らくだけど、それに加えて身体に纏う妖力を一点に集中・凝固させている

それを再現するための力のかけ方は確かに単純だけれど、その力そのものが尋常じゃない

 

そもそも気体を圧縮して固体にするようなものだ。簡単だと軽く思ってたけれど、案外これは…

 

「……試してみます」

「おう!頑張れ!」

 

 

 

2時間後、そこには集中力と体力を使い果たして大の字に転がる俺がいた

 

「むーーーーりだぁーーーーーー」

「そんなにしんどいものとは思ってなかった…なんかすまんな」

「いえ、俺の力不足なんで…はい……」

 

そう、単純に圧縮するだけじゃなく、圧し固めるにはその方向性の制御もしなくちゃならなかった

全方位から均等に、且つ圧倒的な力で瞬時に。

 

一朝一夕でできる技ではないことが分かった

けれど、そういう手もあるってことを知れただけでも収穫と言える

 

はずだ。そう思わなきゃやってられない

 

「んーと、一先ず俺が教えるべきことは教えたから、あとは頑張ってくれな!」

 

「はーーーい」

 

一鬼さんは予定が詰まっているらしく、駆け足で去っていった

俺は……疲れたので、手近な木の元に腰を下ろして少し眠ることにした

 

 

 

どのくらい経っただろう

目を覚ますと、右肩に重みを感じた

 

ゆっくり振り向くと、こちらに頭を預けて眠るパルスィの姿があった

 

なんだか可愛く思えて、その頭を撫でてみる

すると

 

\バシャッ/

 

閃光と、シャッターの大きな音

 

文「油断しましたね…氷雨さん!」

 

そこには不敵な笑みを浮かべた文さんがいた

 

「……なにしてるんすか」

パル「うん…?」

文「えっへへ……そりゃあ、もう。ねぇ?」

 

もしかして、と思ったら既に文さんは翔ぶ体勢に入っていた

 

パル「あれ…おはよ…?」

「うん。おはよう、あとゴメン」

 

寝ぼけ眼を擦るパルスィをやさしく退かして、立ち上がる

 

文「ふふん。どうせ追い付けないですよ、諦めてください!!」

「くっそ…!」

 

言うや否や、文さんは飛翔した

俺も追うために浮遊から始める

 

速く飛ぶ方法、机上の空論だったけど、ぶっつけ本番で試すしかない!

 

───[参式・朧火]

 

焔から妖力を放出する

本来はそれを起爆して広範囲を攻撃するスペルなのだが、今回の用途は違った

 

「いやーースクープ!スクープですよお!!!題名はそうですねぇ、"嫉妬姫陥落!?恐るべき包容力を持つ外来人登場!!"とか!!!どうでしょうねえ!!!!」

 

文は上機嫌で帰路を急ぐ

 

が、凄まじい音と共に追ってくる影があった

 

「待ァてコラーーーー!!!!!!!!」

「嘘ォ!?!??!?」

 

それは当然、神凪 氷雨。その人である

 

朧火によって拡散させた妖力、それを空間に馴染ませつつ燃焼させることで推進力に変換する

所謂ジェット噴射みたいなものだ

細やかな動きには向かないが、単一方向に進むだけならこれほど効率よく速度の出るものもない

 

「ありえな!!!私!!!幻想郷最速ですよ!!?!??」

「知るか!!!!大人しく捕まれ!!!!!!!! 」

 

 

 

そうして始まった超高速の鬼ごっこは、文の進路にスキマが開くことで唐突に終わりを迎える

 

 

パル「…なんなのよ、もう。」

 

独り残されたパルスィは"彼"の残滓を無意識に探して、ぼうっと空を見上げるのだった

 

 

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