紫「捏造はよくないし、ガセ記事と呼ばれるのも嫌よね、文?」
「そうですよね。よくないですよね。」
文「ずびばぜんでじだ…………」
紫さんのお陰であっさりと捕まった文さんは、紫さんにめちゃくちゃ叱られていた
そりゃもうめちゃくちゃに。そのせいで彼女はちょっと可哀想なくらいのカオをしていた
紫「でも、そうね。ああなるまで張り込んでいた根性に免じて、ちゃんとしたネタを提供してあげる」
文「本当ですか!???!?!?!!!??!?」
「声でかっ」
なにかあったんだろうか
なんて、他人事のように構えていたのが間違いだった
紫「今度、萃香と彼の弾幕ごっこの予定を組むわ」
文「本当ですか!???!?!?!!!??!?!??!!!?!?!??!?」
「声デ………は?」
耳を疑った
紫さんは、真意はともかく微笑んでいる
紫「彼、氷雨くんと萃香で弾幕ごっこをしてもらうの。漸く飛べるようになったみたいだし、焔もそろそろ快復したでしょう?」
「あ、そういえば…」
さっきは咄嗟だったので何も考えていなかったが、確かに難無くスペルを発動できていた
─大丈夫だったか?─
『ええ、ええ。心配には及びません。貴方の楽しそうな姿も見られた事ですし、ね?』
ここ数日、対話を試みてすらいなかったけれど無事なようでよかった
さて、それはそれとして、だ
「そも、飛べるというか今回のは吹っ飛んできたって言う方が正しいと思うんですけど…?」
紫「確かに。けれどコツは掴めたでしょう?あと数日あげるから、仕上げて来なさいな」
文「特ダネ!!!特ダネですねぇ!!!!!!!!ありがとうございますありがとうございます!!!!!!!!!!!!!!!!」
「声デッッッカ………耳痛…」
そんなこんなで、萃香さんとの弾幕ごっこの予定が組まれてしまった少し後、俺と紫さんは1人置いてきてしまったパルスィの元に戻ってきたのだった
パル「あれ、おかえり。何事だったの?」
「要約すると、捏造記事にされそうだったのを阻止してきた」
紫「ついでに、彼と萃香の対戦の予定もね」
パル「………ええと、ごめんなさい。ちゃんと説明してもらえる?」
説明を終えると、パルスィはしまったといった様子で額に手を当てていた
パル「あぁ、その、私のせいなのね。ごめんなさい。誤解されるような真似をしてしまって」
「いやいや、俺だって悪かったよ」
紫「言い始めると止まらないでしょうから、区切らせてもらうけれど。」
「「あっはい。」」
紫「というわけで、予定は1週間後。場所は旧都の上空ね」
「旧都…?」
パル「多分、アンタ達が最初に訪れた所。」
「なるほど」
紫「それまでの間に、少し役割は変わってしまったけれど、パルスィ。貴女に飛行の慣らしと“能力”の説明をお願いできるかしら」
パル「分かりました。」
紫「よろしい。じゃあ、1週間後にね」
「はい。また」
ヴオン、と
特徴的な音がして、紫さんがスキマに消える
直後、パルスィが大きなため息をついた
「なんか、色々してもらうことになってゴメン」
「いいのよ。言ったでしょ、アンタと居る時間は好きだって。それにこういう時はゴメンじゃないでしょ」
「うん、ありがとう。改めてよろしく」
「ええ。よろしくね」
パルスィから、手を差し出される
俺は少し驚いて、一拍置いてその手を握った
「手、つめた。」
「離せばいいのに」
「嫌。」
仕方ないので、いつも別れる場所まで手を繋いで歩くことにした
特に会話は無かったけど、不思議と気まずさは感じなかった
「また明日。飛ぶところから始めるからね」
「りょーかいです、センセ。」
「名前。」
「わかったよ、パルスィ」
「よろしい」
手、そんなに冷えてたかな。
なんて思いながら、帰路につく
その日は、寝る直前まで飛ぶ練習を繰り返した
翌日
いつもの待ち合わせ場所に着いた俺は、パルスィの姿を探す
今日は待たれていたらしく、声をかけるとため息をつかれた
「じゃ、行くわよ」
「はーい」
2人揃って浮かび、翔ぶ
ゆっくりと空を散歩しながら、“能力”についての解説が始まった
「ところで、アンタは今までどんな能力を見てきたの?」
「んー、と、そうだな」
思い返して、一つずつ挙げていく
魔理沙の<魔法を使う?能力>
妖夢さんの<剣を扱う?能力>
幽々子さんの<死霊を操る?能力>
紫さんの<スキマを操る?能力>
雀螺の<刀剣を扱う程度の能力>
一鬼さんの<全てを喰らい貯める程度の能力>
パルスィの<嫉妬心を操る程度の能力>
「なるほどね。じゃあまずはその認識から改めていきましょうか」
「…認識から?」
「そう。そもそも、能力ってのはその人にとっては特別なものじゃないのよ」
「そう出来るのが当たり前ってこと?」
「正解。外の世界では"自分だけの現実"(パーソナルリアリティ)なんて呼ばれてるらしいわ」
「分かったような分からないような…」
「まぁ、なんとなくでいいわ。それで、問題はその先。能力の及ぶ領域は、自己の認識とチカラの大きさに依存するって話」
その先の話は、非常に難解だった
まず前提として"自分だけの現実"が有り、その先に個人の認識の壁が有り、更にその先に個人のチカラの壁が有り、最後に現実が有る。らしい
仮に妖力を操る能力があるとする
まず最初に、妖力を操れる自分が確立される
次に、妖力というものの認識が何処までなのか
自身の持つものか、他人のか、あるいは誰のものでもないものもか、そしてどの程度の範囲なのか
そして個人のチカラの壁
これは簡単だった。要するに能力を実現させる為のリソースが有るか否か、だ
それで最後に、上記全てをクリアした結果として妖力を操るという能力が可能な規模で現実に反映されるわけだ
それと、俺が曖昧なまま列挙した能力たちにも訂正が入った
あと俺が認識していなかっただけで、挙げた他の会ったことのある全員が、何らかの能力を持っていることも知らされた
魔理沙のは<魔法を使う程度の能力>
妖夢さんのは<剣術を扱う程度の能力>
幽々子さんのは<死を操る程度の能力>
紫さんのは<境界を操る程度の能力>
前半はともかく、後半の能力の訂正に俺は少なからず驚かされた
なにせ、規模が違い過ぎる
所謂チート能力と呼んで差し支えないだろう
「結構喋ったけれど、理解は追い付いた?」
「……なんとか、多分。もしかしたらまた訊くかも」
「大丈夫。誰も一度で覚えろなんて言ってないわ」
「ありがとう」
「いーえ。」
「で、アンタが次に戦うことになるのは<密と疎を操る程度の能力>を持つ萃香。どんな能力か想像がつく?」
「字面の通りに受け取るなら、あらゆるモノの密度を自在に操れそうだね」
「甘い。密と、疎も。つまり乱数の類いも認識の範囲内なら操れるのよ」
「…………マジか」
「大マジ。だから、互いに弾幕を張りながら着実に体力を削る弾幕ごっこに於いて彼女はかなりの強敵よ。とはいえ、あまり精密なコントロールは彼女の性に合わないでしょうけど」
乱数も操れる。なら見えてる範囲の弾幕の散り具合も操れるだろうし、こちらの弾のマグレ当たりなんかも狙えなさそうだ
…いや待て。そもそも
「そういや俺、弾幕張れなくね?」
「………は?」
そうだった。戦う練習も飛ぶ練習もしてきたけど、弾幕ごっこをするなんて考えたことも無かったのだ
当然弾幕なんて張れるわけがないし、そもそもそんな適性があるかも分からなかった
伝えると、一瞬すごく絶望したような表情をされた
「……それはまた明日。今日は能力の話をしましょう」
「いえっさー…」
その日はその後、別れる時間になるまで如何にして萃香の能力に対応するかの議論をした
答えは出なかったけど、有益な議論になった…と思いたい
そして、帰路につこうとした時にそれは起きた
「氷雨。」
「うん?」
「イヤな気配。気を付けて。」
「わかった。」
パルスィの、聞いた事のないほど緊張した声
俺も、心構えだけはしておこうとゆっくり深呼吸した
手を握られ、無意識に握り返す
いつも別れる分かれ道、その手前に、影がひとつ
「……なんだ、コイツ」
大きく、歪な、それでも辛うじてヒトガタを保っている鬼がそこに居た
「堕鬼、ね。地獄だもの、そんなこともあるわ」
「………そう、か」
言われて思い出す
ここは地獄だった
相対するそれの纏う妖気は、重くて昏い
今まで見た事のない陰惨な色をしていた
「私が処分するわ。アンタは下がってなさい」
「…大丈夫か?」
「失礼ね。私、これでも結構な実力者のつもりなんだけど」
パルスィは繋いだ手を離し、前に出る
大きく息を吸い込んで、空っぽになった手をぐっと握り締めた
───妬符[グリーンアイドモンスター]
彼女から放たれた無数の光弾が、瞬く間に堕鬼を包囲する
「全て棄てて欲望に身を任せるなんて……妬ましいわね」
パルスィの言葉が耳に届くと同時に、彼女の纏う妖力が増大する
微かな胸の痛み、能力の行使に伴うものだろう
やがて光弾は堕鬼を覆い尽くし、音もなく収縮した
残されたのは、微かな血痕と昏い妖気の残りカス
「これも、常識。この幻想郷ではね、ヒトに害を成す妖怪は誰かの手で処分されるの。それは私にであったり、勇儀にであったり、もしかしたら次はアンタかもしれない。」
「……そう、か。」
「そ。だからそうなった時は遠慮せず、躊躇もせず、淡々とこなしなさい。でないとアンタ自身が危うくなるんだからね」
「わかった。…守ってくれてありがとう」
「どういたしまして。」
また明日、と言葉を交わして、改めて帰路につく
彼女は妬ましい、と言った
それは彼女の能力にも繋がる言葉だから、それ自体はおかしくない
けれど
「あんな顔、させたくなかったな」
瞼の裏には、彼女の哀しげな眼差しが焼き付いている
もっと強くなるんだ、と思いを新たにして俺は眠りについた