東方氷焔録   作:ゆーきあいのそんさん

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9章 -はじめての ダンマク- 前編

 

 

 

 

その日は、よく分からない夢を見た

 

 

鍛冶場で鉄を打つ男と、場に似合わない綺麗な着物の女

 

 

何かを話しているようだが、マトモに聞き取れない

 

 

延々と、その様子だけを眺めさせられる

不思議な夢だった

 

 

 

 

「う、ん…」

 

意識が徐々に覚醒する

布団の中で緩く伸びをして、這い出した

 

居間への襖を開けると、声がひとつ

 

「おはよ。さっさと顔洗ってらっしゃいな」

 

「余計なお、世……わッッッッ!!!!!!」

「アンタ、朝から元気ね…」

「なっなななんでここに!?」

 

何故か家にパルスィが居た。

というか、テーブルに二人分の朝食まで用意してあった

 

「なんでも何も、アンタの私生活が心配だからって紫様に頼まれたのよ。どうせ朝ごはんとか抜きがちでしょ?」

「………いや、まぁ、仰る通りですけど…」

 

勇儀さんとの試合以降、妙に朝に弱くなっていた俺は確かに比較的良くはない生活をしていた

 

けど、だからといって女の子を送り込んでくるのはどうなんだ

……とはいえ、思い返すと殆ど女の子にしか会ってない気もした

 

「わかったら早く。冷めちゃうから」

「はい………」

 

今更だけど、俺は旧都と呼ばれているらしい街の端の長屋を一つ借りて暮らしていた

 

特に近隣住民とかは居ない、というか見たことがない

 

 

「えと、じゃあいただきます」

「いただきます。」

 

白米に味噌汁、玉子焼きと生姜焼きといったラインナップだった

 

「…おいし。」

「そ。」

 

よく考えたらここ最近は自炊していたので、人の作ったご飯を食べるのが久しぶりなことに気付く

 

なんだかいいものだなぁ、なんて思いながら箸を進めた

 

 

「ところで、パルスィの家からは結構距離あったんじゃない?」

「そうだけど、紫様がスキマで繋いでくれたのよ。ここの裏口、使ってないでしょ?」

「…なるほど。その辺は抜かりないんだ」

 

まあ彼女の家なんて知らないんだけど

 

 

「いやでも、」

「手間だ、とかも気にしなくていいわ。一人分も二人分も変わらないし、今日からは体力もしっかり確保しないとならないもの」

「ハイ…」

 

反論の隙が無いので、諦めることにした

 

 

 

 

「ご馳走様でした」

「お粗末様。片付けはしておくから、アンタは身支度を済ませてきなさいな」

「何から何までありがとうね」

「いいえ。」

 

家を出る前に確認すると、食器や調理道具はしっかりと片付けられていた

そんなに時間は無かったはずなんだけど、と手際の良さに少し驚く

 

 

 

家を出ると、パルスィは既に外で待っていた

 

「じゃあ行くわよ」

「はーい」

 

二人、翔んでいつもの場所へ

道中で俺は何度か墜ちそうになった

 

 

というのも、当たり前ではあるのだが場所によって妖気の濃度が違うのだ

その場その場で妖気の濃度を見極めて、その上で自身の纏う妖力の適切な調整をする必要があった

 

 

「とりあえず、はいコレ」

「ん、スキルカード?」

 

到着するなり、パルスィは二枚のスキルカードを渡してきた

 

「紫様から、妖夢の使う“剣閃”と“燐気斬“のカードよ。弾幕の感覚を掴むために、暫くはそれを基準として練習しなさいって」

「なるほどね、助かる。使ってみても?」

「勿論。ただ、空に撃ってね」

「おっけ」

 

 

 

主に決闘舞台で使用することになるスペルカードとスキルカードだが、その外でも使うことは可能だ

というか今までの用途と決闘舞台での用途を兼ね備えているので、ユーザーの多くはわりと喜んでいる。らしい。

 

軽く飛んで、腰の白鞘に手を添える

 

 

─焔?─

『ええ、何時でも。』

 

抜刀して、まずは“剣閃”と呼ばれたカードを発動する

 

焔の纏う妖力に、微かに指向性が付与された

 

「…はっ!」

 

中空に向かって振り抜くと、刀身の通ったあとに妖力が残留した

直後光弾として拡大・拡散して前方へ射出される

何度か試したが、これは主に刀身の軌跡に弾幕を生成して発射するもののようだった

 

 

次に、“燐気斬”と呼ばれたカード

 

これもまた、焔の纏う妖力に何らかの指向性を付与するものだった

 

「…ふっ!」

 

剣閃の事を踏まえて、大きな軌跡を描くようにその刃を振り抜く

 

すると、刀身の軌跡に残留した妖力がその場で回転を始め、一定距離を進んだ後に刀身へ戻ってきた

妖力の消費は殆ど無く、射程はパッと見で10mほどはありそうだ

 

剣戟をブーメランのように射出する技だ。俺はそう認識した

 

 

「どう?ちょっとは掴めた?」

「なんとなく。少しづつ馴染ませていくよ」

「うん。じゃあ今日は飛びながらその弾幕に慣れる日にしましょうか」

「了解!」

 

 

 

なんて、意気込んだのも束の間

 

その日の練習は、思ったよりずっと難航した

というのも、弾幕を放つとその場の妖気がバカみたいに乱れるのだ

 

 

自分が弾幕を放ったにも関わらず、それによって乱れに乱れた妖気に振り回されて浮遊状態の維持すら危うくなる始末

これはなかなか大変そうだ

 

「…まだまだ時間がかかりそうね。実戦ではアンタ自身の弾幕だけじゃなくて、相手が放ってくる弾幕もあるワケだし」

 

「冗談抜きで精神がごりごり磨り減るよ…コレ」

 

 

一鬼さんが独自の手法を編み出すに至ったのもわかる

こんな調子で本当に萃香さんとの試合に間に合うのか、だいぶ不安になった

 

「私も近くで飛んであげるから、根気よく。ね?」

「ありがとう…」

 

 

そうしてしばらくの後

日が暮れる頃、二人揃って帰路につく

 

「弾幕ごっこ、って実際どのくらい続くもんなの?」

「んー、ヒトによるけど、短くても10分くらいは。長引く時は一時間くらい…?」

「マジか……」

 

あんなのを一時間も続けるなんて正気の沙汰じゃない、と思った

飛び続けるのは大前提として、同時に弾幕の展開と照準、更に回避やスペルの読み合いまでこなすとか、とてもできる気がしない

 

「でもアンタはだいぶ筋がいい方だと思う。それに最悪、妖気を感じるんじゃなく視れば何とかなるでしょ」

「何とか…出来たらいいなぁ……」

 

普段の視界から、気を見る視界に適宜切り替える手もないことはない

ただ、これは感覚としてはカメラのピント調節に近いものだ

両方を同時に鮮明に見ることは出来ないので、実は小回りが利きづらかったりする

 

 

家に着いて、パルスィは裏口に

 

行こうとせず、そのまま玄関から入ろうとした

 

「あれ、スキマはこっちじゃなくない?」

「ついでだから晩御飯も。ダメ?」

「いいけど。」

「ん。」

 

朝はパルスィ作、昼は二人で好きなものを詰めたおにぎり、ときていたので夜は俺の番らしい

いやまぁどうせ自分でなにか作るつもりだったけど、自分が食うのと人に出すのでは勝手が違い過ぎる

 

自分用なら味も程々に食えりゃいいものを作るだけだけど

 

 

「なんか希望とかある?」

「無い。というか気にしないでいいわよ、量だけ増やしてくれれば」

「そっすか…………」

 

なんだろう、すごく試されてるような気がしてきた

 

 

結局、肉野菜炒めと漬物、それに白米と味噌汁という飾り気もクソもないメニューに落ち着いた

こっちに来るとか考えてなかったし、当然それに備える時間も無かったので許してほしい

 

「「いただきます」」

 

「あら、案外優しい味付け」

「そうかな、お口には合いますでしょうか」

「結構。なんてね、ふふっ」

 

好感触だった。ほっと一息

もしかして明日以降もこうなのかな

そうだとしたら……もう少し考えないと、と思った

 

 

「ご馳走様。」

「お粗末さまでした」

「それじゃあまた明日ね。さっさと寝るのよ」

「イエッサー」

 

裏口に消えるパルスィを見送って、漸く自分の時間がやってくる

食器類の片付けをして、風呂─の前に、もう少しだけ弾幕の練習をした

 

剣閃はともかく燐気斬の方が問題だった

何せ軌道の制御が難しく、下手をすると自傷しかねない

その上で回転ノコギリみたいな斬撃を射出するため、場の乱され方が単純な弾幕の比じゃないレベルだ

それに応じて飛ぶための妖気の制御もこなさないとなので、当面の課題になりそうだった

 

 

 

暫くして疲労を感じ、切り上げて風呂に入ることにする

 

まったりと湯船に浸かっていると、色々なことが頭を過る

それは回想であったり、誰かへの想いであったり、記憶であったり、日によって様々だ

 

 

『今日はお疲れでしょう。頭も休ませてはいかがですか?』

 

─ありがとう、それもそうだね─

 

 

思考を放り投げて、ぼうっと湯に身体を委ねる

微かに意識が遠退くのを感じて危うさを覚え、風呂から上がることにした

 

布団に入って、目を閉じる

意識を伸ばして、焔と一言

 

 

『お疲れ様でした。よい夢を、主。』

─ああ、おやすみ─

 

暖かく、深く穏やかな眠り

その日は、夢を見ることはなかった

 

 

 

 

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