東方氷焔録   作:ゆーきあいのそんさん

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9章 -はじめての ダンマク- 中編

 

 

翌日

弾幕ごっこ予定日まで、残り5日

 

 

 

不思議な妖気の流れを感じて、目が覚める

 

それと同時に違和感

 

両腕の感覚が無い

あとなんか形容し難い、いい匂いがする

 

 

 

目を開けると、その原因が視界に入った

 

「…………何が起きてんだ?」

『あら、あら。罪作り、ですね?』

 

 

仰向けに寝ていた俺の、両腕が枕にされていた

左に長い耳と金髪、右には薄緑色の髪

 

パルスィと……誰だ?

なんて考えていると薄緑が動いてこちらを向いた

 

「起きた、おはよ?」

「…たしか、えっと、こいしさん?」

 

 

こちらを捉える翡翠のような澄んだ瞳

白玉楼で会った時よりもずっと近くで、否応なしに視線が吸い寄せられる

 

彼女は微笑んで、俺の腕に乗せていた頭を微かに持ち上げる

 

 

 

すると右腕に血が巡り、途端に猛烈な痺れが走った

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」

「ふふっ、知ってた。辛いよね」

 

二の腕辺りからじりじりと上がってきて、囁きかけるような位置に来る

 

「こ、れは、なにが、、、?」

 

「んーと、ね。パルスィが、こうしたがってみたい。だからそうさせてあげたの。あとは、私もついでに?」

「ナル、ホド………〜〜!!」

「〜♪」

 

小声でそう説明しながら、痺れる右腕を無為に刺激される

絶対反応見て楽しまれてる。許せねぇ

 

漏れそうになる声を抑えながら、妖力を操って血流の補助に充てる

咄嗟の思い付きだったが、すぐに効果が出た

 

 

痺れが徐々に引き、ほっと一息

 

「…むぅ。無駄に器用。」

「それほどでも。さて…」

 

左腕に僅かに力を入れてみる

けど、全く感覚が戻ってこない

だいぶ長いことこうしていたみたいだ

 

 

「大丈夫。ご飯とか、まだだったから」

「…考える前に先回りされてる…?」

「器用な上に賢いんだ。さすが」

「先読みの能力…いや、

 

目を凝らすと、彼女へ向けて不可解なチカラの流れがあることに気付く

 

……もしかして、思考から掬い上げてる…?」

「惜しい。正解はね、無意識を読み取ってるの」

「無意識…………」

 

あまりにも曖昧だ。想像がつかない

 

「えへへ。そのうちまた、おはなしするね」

「それはいいんだけど………」

 

未だ感覚の戻らない左腕と、妙に心地よさそうに眠るパルスィを見やる

 

 

 

 

彼女が目覚めたのは、昼を少し過ぎてからの事だった

 

「……その、ごめんなさい。朝ここに来て、アンタのあんまりにも無防備な寝顔を見てたら、いつの間にか……」

「大丈夫。気にしてないし、こいしさんのせい?って言ってたから」

 

まだ感覚の鈍い左腕をさすりながら、やたら落ち込んでいるパルスィと相対する

こいしさんは気付くと居なくなっていた

 

「…違うの。あの子はただ、ただヒトの為にしているだけ。思いそのものは操れないのよ」

「そう、なんだ。」

 

バツが悪そうに顔を逸らす彼女

なんだか少し気まずさを覚えて、俺も続く言葉を紡げなくなる

 

 

「こないだ変な噂になりかけたのに、アンタってば嫌な顔ひとつしないんだもん。どうして外来人ってみんなそうなのかしら」

「んー、別に気にならないしなぁ」

「……私の言ったこと、もう忘れたの?」

 

どの事だろう、と思案する

答えはなかなか見つからない

 

 

「私たちが、私が嫌われ者って話よ。そんなのと仲がいいって噂が立ったら絶対後悔する。それも分かっててアンタはあの時射命丸を追ったんでしょ!だから…っ」

 

捲し立てて、言い淀んで、俯いてしまう

一文で矛盾を起こすほど混乱しているようだ

その様子があまりにも痛々しく見えて

 

「誰が何をどう言ったって、それは勝手に言ってるだけ。違う?」

 

彼女が微かに白むほど握り締めた拳、その手を包んで、優しく解く

 

 

「それにね、誤解がひとつ。俺はあの時我が身可愛さに飛び出したわけじゃなくて、寧ろパルスィの迷惑になると思って止めにかかったんだよ」

 

「わたし、の?」

 

「そう。ポっと出の野郎と噂になるとか、失礼だし面倒かなと思ってさ」

「そんなわけ、ない……」

 

 

「そっか。じゃあ俺たち2人とも、なんも気にすることないね」

「ほんと、バカね、アンタは」

 

諦めたような、安堵したような声

やがて、繋いだ手を握り返される

その力の強さが、そのまま絆を示しているように思えた

 

 

 

 

少しして落ち着きを取り戻したパルスィは、晴れやかな笑顔をこちらに向ける

それはだいぶ眩しく見えて、逆に俺がぎこちない笑顔を返すことになったのだった

 

 

「もう夕方ね」

「そうだなぁ」

 

遅い昼食を二人で済ませると、外は既に夕暮れ

思いのほか時間が経っていた

 

「丁度いいから、今日は夜間の飛行を試そっか」

「昼間となんか変わる?」

「多分、アンタからしたらかなり変わると思う」

「…頑張る。」

 

 

暗くなった空に、二人で翔ぶ

 

俺はすぐに違和感を覚えて、原因をすぐに視界に捉えた

 

「これ、もしかして昼間より濃い?」

「そうね。特に妖気は、昼間より夜の方が濃いはず」

 

眼を切り替えて、気を見る

すると、普段うっすらとしか見えない気の流れを今はハッキリと捉えることが出来た

 

「上がるのはラクだけど、下がるのが大変だ」

「うん。頑張って慣らしてみて」

 

いつもよりゆっくりとした空の散歩

あまりに静かで暗い夜、まるで世界に2人だけのようだと思った

 

 

 

そんな時間を、しばらく過ごして

 

「このまま、何処かに行けたらいいのに」

「パルスィ…?」

 

おもむろに口を開いたパルスィは、“なんてね”と小さく笑ってみせた

 

「それも悪くなさそう、って思うのは間違い?」

「大間違いよ、ばーか。」

「大がつくほど?」

「ばーか。」

 

ふわりと寄ってきて、小突かれる

表情は柔らかいが、声音は少し厳しめだった

 

「選ぶにはまだ早いわよ、幻想郷は広いもの。この先アンタは今よりもっとずーっと沢山の人と出会って、その度に色んなカタチで絆を紡ぐはずよ」

 

「そう、なのかなぁ」

 

 

「絶対そう。アンタの性格なら断言出来る。」

「…貶されてる?」

「どっちかといえば、まぁ貶してるわね」

「手厳しいなぁ」

 

「…それに、さ」

 

パルスィは隣から目の前に来ると、前触れもなく抱きついてきた

その背に手をやって、どうしたのかと首を傾げる

 

「……ほら、こうしたってアンタは動じない。ホントに私のことが好きだったら、慌てたりもう少し反応があるはずでしょ?」

「そう……なのか」

「そうよ。私と居て気楽だったり、心地よかったりするのは、ただ仲がいいだけ。それを恋慕と勘違いするのはお互いにとって失礼なのよ」

「そっか……」

 

確かに、そうだと思った

正直なところ、恋ってモノはまだよく分かっていない

失礼なことを言ってしまったな、と後悔した

 

 

 

 

したのだけど

 

「でも、私はね、アンタのことが好き」

「えっ」

「ズルい、ってことは分かってる。けど今更隠しても仕方ないもの」

 

言われたら、意識してしまうのも仕方ないと思う

例に漏れずパルスィだってとびきりの美人だ

 

動揺は妖気の制御にも影響を与え、バランスを崩しかける

けれどそれは、腕の中の彼女によって瞬く間に整えられた

 

「そんなに驚くこと?」

「そりゃあ、まぁ、うん。」

「喜んでおく。」

 

なんて言えばいいのか、何と応えればいいのか

何もわからなくて、俺はただ黙するしかなかった

 

「きっとね、これからのアンタには、氷雨には、氷雨だけの物語が待ってる」

 

「うん」

 

「だから、まずは思う存分この世界を堪能してきなさい」

 

「…うん」

 

「それで、ぜーんぶ終わって、それでもどうしても私のことが忘れられなかったら、私を選んで?」

 

「………それは、なんだか、悪い気がする」

「ばーか。律儀もいき過ぎると考えものね」

 

彼女は離れて、呆れたように溜息をつく

でもその表情は今までで一番柔らかく見えて、やっぱり申し訳なくなった

 

 

だって、彼女が言ってるのは、好意を知りながらそれでも他の誰かを選んでもいいってコトだ

それは、そう、すごくズルいことに思えた

 

 

 

「最初にズルをしたのは私。だから、アンタが気にする事は無いの。と言ってもきっと気に病むんでしょうけど」

 

返す言葉が思いつかない

 

「言ってしまえば刷り込みみたいなもんなの。誰も好いてないアンタに、最初に踏み込んだのが私ってだけ」

 

きっと、それは間違いないんだろう

 

「そう、だったとしても、だって、うーん……」

「そう。そうやってアンタは悩んでしまうし、誰と会っても私のことは忘れられない。だからズルをしたって言ったの」

 

確かにそうだ

言われた通り、その思惑通りに俺はパルスィを想ってしまいそうになっている

 

俺が唸っていると、見かねたように彼女は言う

 

「……はぁ。言い始めといてなんだけど、ラチがあかなそうだから、勝負をしましょう」

「勝負?」

 

言いながら距離をとるパルスィに、俺は首を傾げる

 

「誰かを選ぶっていうのは、物語の終わりを指す。つまり、あんたにとってのゲームオーバーなのよ。だからここで試してあげる」

「ちょ、何を言って、うわっ!?」

 

そして、前触れもなく緑色の光弾を撃ってきた

咄嗟に避けるが、まだ完璧とは言えない夜間の飛行だ

高度を戻すのに少し手間どってしまう

 

「ここでアンタを墜とせたら、私の勝ち!」

 

再び、今度は3発

 

「待てって!」

「ここでアンタが凌ぎきれば、アンタの勝ち!」

 

今度は7発

 

「くっ…!」

 

徐々に数を増す光弾──弾幕を避け続ける

 

「勝った方が好きな道を選ぶ!私が勝ったら、アンタの物語はここで終わりにしてあげる!!」

 

あぁ、そうか

 

強い言葉を使ってはいるが、その声色は硬い

きっとこれは彼女なりのエールなんだ、と思った

 

 

「そういうことなら───

 

彼女はズルをした、と言った

それは確かに間違いなく俺を揺さぶったし、多分彼女が思った以上に効果があったんだろう

 

けれど恐らく、彼女はここで俺が歩みを止めることを良しとしていない

終わりにしてあげる、と言いながらそれを望んでいない

なら、俺が選ぶべきは

 

───勝負だ!!」

 

 

勝って、道の先を切り拓く選択肢だろう

 

決意を胸に、俺は焔を手に取った

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