「さぁ、まずは小手調べといきましょうか!」
言うや否や、パルスィは矢じりのような弾が無数に連なった環状の弾幕を何重にも配置していく
立体的に展開されたそれは瞬く間に彼女の姿を覆い尽くし、やがて動きを止めるとその全てがこちらを向いた
「…マジかよ」
予想はできた、けど避けられる気はしない
「行きなさい!!」
「やっぱり…!」
無数の環が、こちらに最も近い1発を先頭にして僅かに細くなりながら飛来する
幸い、環のひとつひとつは平面だ
だからそれを見極めて避ければいいのだが
「数が多いし、疾い…ッ!」
先頭の1発を認識するとほぼ同時にこちらへの収束が始まる
考えている暇が殆ど無いほどで、最早脊髄反射レベルの回避を強いられた
身体を捩り、時には宙返りをして、或いは咄嗟に身を縮めて回避を繰り返すが辺りは真っ暗
上下の感覚を失いつつあった俺は、放たれた弾幕の先に垣間見えるパルスィの姿を捉えてそれを取り戻す
「よく避ける…でも、これなら!!」
彼女は両の手を大きく広げて、尚弾幕の展開を止めない
やがて再び彼女の姿を覆い隠した真白の弾幕は、立体のまま此方へ飛来した
これでは避けようがない、隙間が見当たらない
けれど、不可避の弾幕なんて使うだろうか
考え始めて間もなく、その答えは出た
こちらへ近づくにつれて、弾同士が数発ずつ収束していく
そうして大きさを増した弾幕は、しかし同時に回避の為の隙間も生み出した
「そういうことなら、ギリギリまで引き付けて、軸だけずらしてやれば…!」
「……冷静ね。少し侮っていたわ」
何層にもわたって展開された弾幕を、何発か掠ったものの直撃は避けきって、一息つく
「やっぱりアンタには才能がある。だから私も、しっかり向き合うわ」
「...望むところだ」
パルスィは覚悟を決めるように言うと、スペルカードを取り出した
とうとう、本物の弾幕ごっこが始まる
妬符[グリーンアイドレディ]───
スペルの起動を確認する
直後妙な妖気の流れを感じて、反射的に眼を切り替えた
「…分…身……?」
全体的に薄く、けれど眼光の鋭さだけが異様に増したパルスィのような姿のモノが現れていた
「あぁ、そう。そういえばアンタにはその眼があったわね」
パルスィは手をかざし、自らも弾幕を放ちながら分身体を操り始める
やがて分身体がこちらに近づくと、白色と緑色の大小様々な弾幕を撒き散らし始めた
「本来なら奇襲に使えるのだけど、アンタ相手じゃ分が悪い、か」
「いや、ンなことないけど!?」
本体からの散発的な弾幕を回避しつつ、分身体もしっかりと捕捉し続けなければならない
ただ、そこで1つ思いつく
─焔、いけるか─
『ええ、何時でも。』
静かに焔に手をかけ、分身体が近付くタイミングを見計らう
「止まった…?なら!」
パルスィはこちらの動きを見て弾幕と分身体を集中させてくる
けど、その方が都合がいい
───[壱式改メ・劫火ノ閃]
「ここだ…ッ!」
勢いよく抜刀し、燃え盛る妖力をその刹那の剣戟に注ぎ込む
一定時間のバフ扱いのスペルを改良し、1コンボで吐ききれるようにしたものだ
これで攻撃を集中させて、迫り来る分身体と弾幕を纏めて斬り捨てる
妖力の密度の差は、そのまま存在する力の差になる
彼女の手から離れた分身体や弾幕は、当然焔よりも軽かった
「…その突破法は、流石に初めてね」
「……よし!」
思った通りに、焔の刃は分身体を斬り裂いた
同時にその妖力が解れ、霧散する
これで一枚目のスペルを突破できた
「次はそうはいかないわ。気を付けることね」
「言われなくても!」
懐符[ある大桜の灰]───
スペルの発動と同時、緑色の大玉が飛んでくる
単発ならちょろい、と思ったのも一瞬。大玉の軌跡に無数の花弁のような弾幕が残っていることに気付く
「さぁ、咲きなさい!」
「マジか…!」
合図の後に、軌跡に残された弾幕が拡散する
その軌道は素直だが、展開されていく花弁の数が尋常じゃない
まるで桜吹雪を全て避けろと言われるようなものだ
物量の暴力にも程がある、けど
「まだ...避けられる!」
「…ほんと、その眼は厄介ね」
徐々に数を増す大玉と、それに比例して倍々に増殖する花弁
俺の眼は、その軌道の全てを正確に捉えていた
しかしそれでも余裕があるわけじゃない
隙間はひと1人分、それも身を屈めてやっとというところだ
大玉を避け、花弁の配置を把握し、安置に飛び込む
視覚情報から処理すべき工程が多すぎて頭が耐えられなくなってきたのか、頭痛を覚える
けど今は知ったことじゃないし、止められるわけもない
「避けてばかりじゃ終わらないわよ?」
「そう、いえば、そう!!」
『であれば、私が。』
半ばヤケになりながら返事をする。
それに応える声と、突然の変化
焔の妖力が唐突に球の形を成し、それが2つほど俺の周りを周遊し始めたのだ
ひとつひとつに込められた妖力は相当なもので、俺の眼には少し眩しく見える
「そんなこともできるのね」
「知らなかったけど!!?」
『言いませんでしたし、ね?』
焔の妖力球から、断続的に攻撃力を持った弾が射出される
俺が回避に専念するなら焔が攻撃をする、ということらしい
回避のさなか、パルスィに注目すると彼女の纏う妖力の壁のようなものが見えた
あれを削りきらないとならないのだろう
「暫く頼む!」
『ええ、ええ。言われずとも。』
そんなやりとりをしていたら、パルスィの放つ弾幕が一定数から増えなくなった
同時展開の頭打ちなのか、先に展開していた分が順に消えていっている
これなら、軌道を読まずとも順番と時間の記憶でなんとかなるかもしれないし、俺自身が攻撃する機会もとれそうだ
────なんて考えていたのが間違い
思考に割いた分だけ、軌道の計算に遅れが出るのは必然だった
「隙あり。」
「や、ばッ…」
弾幕が消える時間を読み違え、いつの間にか湾曲していた花弁の軌道も読み損なった
回避行動の先に待ち受ける弾幕
それを避ける方法は無く、
『気を抜いてはいけませんよ』
「…悪い、助かった」
焔が球の1つを壁にしてくれたから直撃は免れたが、相当なダメージを受けたらしくそれは崩壊してしまった
弾幕の量が尋常じゃないのは知ってたけど、威力もヤバいらしい
残りはひとつ、二度被弾したらアウトだ
「あら残念。まだ墜ちないのね」
「まだまだ!!!」
俺の被弾によって今のスペルは終わりにしたらしく、配置されていた花弁たちは消えていた
「じゃあ次に行きましょう。今度こそ叩き墜としてあげる」
迷符[大きな恋と小さな愛]───
パルスィは新たなスペルを起動する
その瞬間に、彼女の姿が左右にブレて、分かれた
「……どうなってる?」
眼を切り替えても、本体の判別がつかない
分かれた2人はほぼ同質の存在としてそこに居た
「「さてね、どうなってるんでしょう」」
2人とも攻撃しないといけないのかもしれない
「焔、右を頼む!」
『仰せの通りに。』
俺は左のパルスィに"剣閃"で攻撃する
けれど当然、相手も回避するからなかなかヒットしない
何度か攻撃をしていると、急にパルスィ達の纏う妖力が膨れ上がった
「「こっちもそろそろ、手を出させてもらうわよ」」
「来るか…!」
パルスィ達は厚い妖力を纏い、それぞれが大きさの違う弾幕をばら撒き始めた
軌道は素直で、密度もそれほどではない
ただ、その弾速だけが異常に速かった
「!!!」
声にならない声、視界に映っては消えていく無数の弾道と、微かに残る安置と呼んでいいのかすら分からない隙間
彼女の持つスペル、それも3枚目となるとここまでえげつないのかと驚かされる
反射的に、呼吸を止めた
同時に浮遊に回していた妖気を最小限に抑える
全ては回避に可能な限りのリソースを回すためだ
───[参式・朧灯]
「………驚いた。なんて無茶な避け方」
毎秒移り変わる安置へ飛び込みながら、攻撃もする
それを実現するため、結果的に俺は先日試したばかりの高速移動に頼ることになる
自傷しないギリギリの出力で移動し、剣閃を放ってまたすぐに移動、この繰り返しだ
距離をとれば回避に多少の余裕はできるが、剣閃が届かなくなってしまう
それではジリ貧なので、こうするしかなかった
「……ッ…!」
「「じゃあ、もう一手。これならどう?」」
どちらにせよ、長く持続させられるものではなかった
微かに動きが鈍り始め、そこに弾幕の変化を合わせられる
安置が更に狭まり、そこに軌道を変えた弾幕を被せられた
ギリギリの回避を繰り返した故に、逃げ道の確保が出来なかったのだ
「悪い、焔!」
『致し方ありませんね』
焔の妖力の壁で再び護ってもらうことになる
被弾はしてしまったが、それと同時に周囲の弾幕が消え、道が開けた
「もう後がないわね。それにこのスペルは止まらない」
「でも、隙は出来た!」
『良い閃き、ですね』
───[弐式改メ・烈火嵐迅]
居合の構えを取り、必要以上に妖力を高めた烈火を発動する
それは一撃では止まらず、その妖力が尽きるまで繰り返すことが出来る改良型だ
「「きゃあっ!?」」
参式の残滓も利用した突撃で弾幕の隙間を抜け、同時に攻撃することに成功する
2人に分かれているぶん、それらが纏う壁は脆かった
「…突破!」
「……やるわね、そんな隠し技を持ってるとは思わなかったわ」
次はとうとう4枚目、恐らく最後のスペルだ