─パルスィside─
残るスペルは一枚、これを凌ぎ切られたら…
凌ぎ、切られたら……
いや
アイツにとって、私は超えるべき壁でなければならない
だから私はいつも通り、今できる全部をぶつけるんだ
あとは全部、氷雨次第
「さあ!これで最後よ!!」
「来い!!!」
───嫉符[忘れられた丑の刻参り]
スペルカードに込めた妖力を解放する
全方位に楔型の弾幕を展開し、一定距離を進ませたあと氷雨に向けてその軌道を折り曲げる
これは今までの弾幕より、パッと見の展開数は劣る
けれど、当然それだけじゃない
さあ、どう攻略する?
「遅いし、少ない……けど、濃すぎる?」
「…分かったところで、避けられるかは別でしょう?」
そう、この弾幕は時間差で爆発して子弾を撒き散らすタイプのものだ
じりじりとアイツを包囲させて、逃げ道を狭めていく
焦ってる焦ってる。
どうやら込めた妖力が多いほど、アイツの眼には輝いて見えるらしい
だからこの弾幕は、きっと眩しく見えているんだろう
眼を細めて周りを見渡しているようだけど、普段の眼を使わないといけない場面だと思う
ある程度の数を配置して、っと
…もうそろそろいいかな
抜けられるルートを指折り数える程度まで絞り、楔の弾速を引き上げる
「…焔、やれると思うか?」
いつものようにアイツはその得物と対話している
得体の知れない刀の妖怪、そいつと氷雨の間には多分固い絆があって、そこに私の入る隙は無い
…あれ、私は
「よし、やるぞ!」
「……っ!?」
[参式改メ・暴レ朧灯]───
アイツは素早く納刀し、直後勢いよく抜刀する
異常に濃い妖気が迸って、それは瞬く間に私たちの居る空間を満たし、私の弾幕をも呑み込み、息が詰まるような圧と共に本能的な危機を私に感じさせた
まるで、そう、あの時のよう
格の違う妖怪に、狙いを定められた時のように
「爆ぜろ!!!」
氷雨が、大仰に刀を振るう
それを起点に、アイツが放った妖気が急激に燃え上がる
私はというと、一周まわってそれを客観視していて、綺麗だなぁ、なんて考えていた
これはダメだ
どう考えても、勝ち目が無い
「あーあ、どうして、私はこんなに───
その威力は凄まじく、私の弾幕なんて簡単に燃やし尽くしていく
弾幕だけじゃない、この空間そのものを悉く焼き尽くしていく
逃げ場なんて無くて、私はただ守りを固めることしか出来ず
───こんなに、弱くなっちゃったんだろ」
【その、ひたむきな強さが、妬ましい】
私の最後のスペルは、あっさりと氷雨のスペルによって突破されたのだった
─氷雨side─
「爆ぜろ!!!」
参式改メ・暴レ朧灯
改良スペルの3つ目だ
朧灯の出力を瞬間的に引き上げることで本来の用途から先鋭化させたもので、制御が少し難しい代わりにその威力は比べるまでもなく強力になっている
逃げ場の見い出せない弾幕に対しての、俺の出した答えがこれだった
けれど、それを発動した瞬間のパルスィの表情は、今まで見た事がないほど強張っていて
「…パルスィ!!?」
朧灯の誘爆に呑まれたあとの彼女は、信じられないほど弱々しい妖力を放っていた
慌てて近寄り、様子を確かめる
今にも墜ちてしまいそうなほど弱った彼女の手を取り、ゆっくりと高度を下げていく
俯いたまま、反応がない
よく考えてみれば、弾幕ごっこでは決闘舞台のような保護機能が無い
故に思ったよりダメージが入ってしまったのだろうか
「…ぁ、ぅァ」
「パルスィ…?」
何処とも知れぬ地面に着いて、なお立ち尽くすパルスィは呻くだけで言葉を発しない
そう、彼女自身は言葉を発しなかったけれど
【妬ましい】
不意に彼女の放つ妖気が濁り、澱んでいく
【妬ましい】
それは瞬く間に言葉にならないほどおぞましい色へ変わり
【妬ましい】
彼女は俺の手を凄い力で振り解き、独りで飛翔した
「パルスィ!!!」
慌てて俺も飛ぶが、それはあまりにも疾く
『急ぎましょう』
「ああ!!」
───[参式・朧灯]
彼方へ翔び去ろうとする彼女を、俺は必死で追い掛けた
時間にして、恐らく数分も経たないうちに、俺は闇夜の最中で停止した
パルスィが突然進むことをやめたからだ
「あぁ、そう、そうよ。私は妬ましかった。何もかもが妬ましかった!私よりも幸せなヤツが、私よりも不幸なヤツが、私と違う何もかもが妬ましくて許せなかった!!!!」
「どうしたんだ!!何があった!?」
半狂乱で捲し立てるパルスィに、俺は戸惑うことしか出来ない
異常事態なのは火を見るより明らかだった
けれど、何をしたらいいのかは判らなくて
「だからアンタも、アンタは!今度こそは!!私が!!私の思うように…思う………あれ、何を、私……違う、私は!!!そんな...わたし、あ、あぁぁァァアア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!」
「な、んだ、これ…ッ!?」
絶叫するパルスィから、衝撃波と勘違いする程の妖気が迸り、そのあまりの重さに俺は気圧される
なにか打つ手は無いかと眼を切り替えて、そこで気付く
パルスィのうなじのあたりから、眩い光が発せられていた
なんらかの力がそこに働いていることは間違いない
なら、なんとかして再びパルスィに接触する必要がある
「待ってろ…!!」
その手に新たなスペルカードを生成する彼女を見据え、俺は覚悟を決めた
«LastWord»
橋姫[丑の刻参り□日目]───